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初挑戦

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 舞台の練習は週に5回ある。
 その5回とも、全員が集まれるわけではない。
 
 役者一本でやっている人もいるが、そのほとんどは兼業だ。
 圭吾やひめめちゃんみたくアイドルをやっていたり、声優さんだったり、タレントだったりと実に色々な人が参加した舞台になっている。
 
 今回は有名ソーシャルゲーム『レッドレセプション』の舞台化であり、メディア展開目的であることが大きい。
 なので、正直、舞台自体のクォリティは二の次なんだろうと麗香さんが言っていた。
 
とにかく話題性重視。
正直、運営も舞台自体の成功は考えていないのだそうだ。
 
 だから、演技経験のない圭吾でも、今、話題になっているグループのメンバーということで声がかかったのだという。
 そんななかなかないチャンスに麗香さんは飛びついたというわけなのだ。
 
 そういう理由から、各方面から話題の人をかき集めたのが、この舞台というわけらしい。
 この雑多感もソーシャルゲームらしいさが出るとのことだ。
 
 なので、それぞれの役者の活動時間はバラバラ。
 練習も参加できる人だけ、参加するという、なんともサークルに近いような形だ。
 
 顔合わせのときこそ、緊張感のある現場だったけれど、次第に雰囲気が緩くなっていった。
 
「ねえねえ、赤井ちゃんは昼は来ないのー?」
 
 休憩中、ひめめちゃんがペットボトルの水を飲みながら聞いてきた。
 
「はい、昼間は学っ……じゃなくて、色々と他に仕事がありまして」
「へー、そうなんだぁ」
「そ、それにそもそも圭吾も昼は大学で、来れませんから」
「赤井ちゃんだけでも来れるなら来なよー。赤井ちゃんがいないと、なんかつまんなくてさー」
 
 なんだろうなー。
 本当にサークルみたい。
 雰囲気は楽しいんだけど、そんなんで本当にいいのかな?
 
 ちなみに、圭吾の方はこことは別のところでハードな演技トレーニングを積んでいる。
 麗香さんの狙いとしては、圭吾が「演技できるじゃん」と周りに認識されることらしい。
 そのためには今回の舞台で目立たなければならない。
 
 さらに、この舞台はいわゆるにぎやかしであることが、みんなわかっているから役者の人もそこまでこの舞台に力を入れてないのだとか。
 そういう点で見ても、今回は大チャンスだと麗香さんが言っていた。
 
 本当に麗香さんは策士だ。
 若くして、事務所を立ち上げただけある。
 
 私も圭吾の付き添いとして、演技のトレーニングを見に行ってるけど、そこは本当に凄い。
 というかピリピリしている。
 見てるだけの私が怖くなるくらい。
 
 でも、それってみんな、真剣でやっているからであって、上達しようと必死だからなんだと思う。
 そして、思ったことは演技って本当に奥深いってところだ。
 単に台詞を言い、決められた動作をするだけじゃない。
 そこに感情を乗せ、そのキャラクターの、その場面の心情だからこその動き、というものがある、……らしい。
 
 で、演技のトレーニングを見ているうちに、なんだか私も演技に興味を持ち始めたところだ。
 もし、マネージャーをやっていなかったら、学校で演劇部に入るとか言い出していたかもしれない。
 
「はい、じゃあ、休憩終わり―。練習再開するよー」
 
 主人公であるゼクス役の高尾さんが手を叩いて、みんなに向って声を掛ける。
 高尾さんは今、人気急上昇中のタレントだ。
 主人公役をもらったということで、何かと張り切っている。
 
 声がかかり、みんなが中央に集まり始めていく。
 そして、練習が再開される。
 
 大体、15分くらい経った頃だろうか。
 
「あー、ごめん。急な仕事入ったー。今日は上がるねー」
 
 突然そう言い出したのは、サブヒロインの一人であるソフィア役のミーナさん。
 ちなみに、ミーナさんはモデルで、顔とプロポーションがソフィアのキャラに似ているというところから抜擢されたらしい。
 
「おいおい。これからソフィアが出るシーンの練習なのに……」
 
 高尾さんが顔をしかめるが、ミーナさんはケラケラと笑う。
 
「ごめんごめん。今度はちゃんと練習に参加するから」
 
 そう言って、稽古場を出て行ってしまった。
 
 そのことで、現場の空気は一気に冷え込む。
 中には「今日はもう終わりでいいんじゃない?」と言い出す人も出てきた。
 
 だが、そんなとき。
 
「赤井ちゃーん! ちょっと来て―」
 
 いきなりひめめちゃんがこっちに向って手を振ってきた。
 
 なんだろ、急に?
 
 疑問を感じながらも、ひめめちゃんの元へ向かう。
 すると。
 
「はい。台本」
「え?」
「今日は、赤井ちゃんがソフィア役やりまーす」
「ちょ、ちょっと、ひめめちゃん!」
 
 急なことに頭が混乱する。
 確かに演技に興味を持ち始めてはいるけど……。
 突然、ソフィア役をやれって言われても、困る。
 
「大丈夫大丈夫。本番じゃないんだからさー」
「でも……」
「いいんじゃない? やってみてようよ」
 
 そう言って、頭にポンと手を乗せたのは圭吾だった。
 
「いやー、助かる。お願いできるかい?」
 
 高尾さんも話に乗ってきた。
 
 ……まあ、あくまで練習だし。
 
「わ、わかりました……」
「いえーい! じゃあ、練習再開だねー」
 
 ひめめちゃんがニコニコと笑いながらそう言った。
 
 案の定、この日の私の演技はボロボロだった。
 台本を見ながら台詞を言うので必死だったし、台本を見ているのに間違う始末。
 
 でも、それでも。
 楽しかった。
 
 そして、私は高尾さんに頼んで、台本を1冊貰って帰ったのだった。
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