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壁ドン
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それからのインタビューは、記者さんが他愛のない質問をすることで滞りなく終了した。
麗香さんは帰る際、記者さんに何度も頭を下げ、先ほどの問題発言はカットすることを約束してもらう。
「あんたたち、何考えてるの?」
事務所まで帰ってきた瞬間、3人が並ばされて麗香さんに説教されている。
圭吾だけは「なんで俺まで……」と口を尖らせているが、どうやら連帯責任らしい。
「別に……。質問に答えただけだけど」
盛良くんの言葉に、麗香さんが大きくため息をつく。
「あのねぇ。それでなくても、記事なんてどう書かれるかで、まったく印象が変わるものなの。それをわざわざアイドル側から問題発言なんかしたら、喜んで大げさに書かれることなんてわかりきったことでしょ? 前回、それで痛い目見たの忘れたの?」
「……悪かったよ」
「……ごめんなさい」
盛良くんと望亜くんが謝罪の言葉を口にする。
ただ、口では謝っているが、本心からでないことは私でもわかった。
「あんたたちね、もう少し、自分がアイドルだって自覚を持ちなさい。3人とも少し脇が甘いわよ。それに赤井ちゃん」
「は、はい!」
突然、自分にも話が飛んできた。
ビックリして上ずった声になってしまった。
「あなたもマネージャーとして、その分は一番気を使ってちょうだい。ましてや、協力するなんて言語道断だからね」
「はい……。すいません」
盛良くんと由依香さんをくっつけようとしたことを言っているんだろう。
まさか、そこまでバレていたとは……。
まあ、あの事件が起こった時に、由依香さんや警察から状況を聞いたのかもしれない。
麗香さんであれば、あの状況を聞けば、私たちがあの場に何の目的でいたかは予測できるだろう。
「はい。じゃあ、今日は解散。……あ、圭吾は明日、11時に事務所に来てちょうだい」
「え? 俺だけ?」
「あんたに舞台の話が来てるのよ。ちょい役だけど、いい機会だからやってみなさい」
「……舞台か。うん。ちょっと面白そう」
圭吾が舞台かぁ。
演技とかはどうなんだろ?
なんでもソツなくこなすイメージだし、役者も難なくこなすのかな?
「じゃあ、お姉ちゃん帰ろ!」
望亜くんが私の腕に抱き着いてくる。
「あ、うん。そうだね」
望亜くんがぴったりと寄り添ったまま離れてくれそうにないので、そのまま事務所を出ようとしたときだった。
スッと目の前に盛良くんが立ちはだかる。
「待てよ」
「え?」
「今日は俺を送っていけ」
「……最近、盛良がお姉ちゃんを独占してる。今日は僕の番」
「ダメだ。赤井は俺がもらう」
「……お姉ちゃんは絶対に渡さない」
盛良くんと望亜くんがバチバチと視線で火花を散らしている。
うーん。
こういうとき、私はどうすればいいんだろう?
そう悩んでいたら、麗香さんがこめかみに血管を浮き出させて声を荒げる。
「あんたたち、もう1時間、説教聞きたいの?」
「うっ!」
「……っ」
ビクッと肩を震わせ、にらみ合いから視線を逸らす盛良くんと望亜くん。
「赤井ちゃんは盛良の方を送って行って。あと、しばらく、望亜は赤井ちゃんに接近禁止」
「えっ! どうして!?」
「あんた、赤井ちゃんにくっつき過ぎ。ファンに勘違いされたらどうするの!?」
「……別に勘違いじゃ」
「の~あ~? なんか言った?」
「っ。な、なんでもない……」
望亜くんが悲しそうな顔をして、私を見る。
「うう……。バイバイ、お姉ちゃん」
「う、うん。気を付けて帰ってね」
望亜くんが事務所を出て行く。
その後ろ姿がいつもよりさらに小さく見えて、なんだかちょっと可愛そうになってくる。
チワワがきゅーんと鳴いているような感じ。
思わず、後ろから抱きしめたくなる可愛さだ。
「さてと、じゃあ、俺たちも帰ろうぜ」
私は盛良くんと一緒に事務所を出た。
電車の中でも、少しはしゃべれるようになった。
さすがにあれから数日経っているから、少しはショックから立ち直っている。
他愛のない話をしながら、盛良くんの家の前に到着した。
今日もご飯を作れって言ってくるのかな?
そう思って盛良くんに着いていこうとしたが、盛良くんは家のドアの前で立ち止まったまま動かない。
「盛良くん?」
私が声をかけると、盛良くんがこっちに振り返った。
「なに?」
「あ、いや、今日もご飯作っていこうかって思って……」
「あー、いや、ご飯はいいや」
「……もしかして、食欲がないとかですか?」
「今、部屋に入られるのはマズい」
「え? なんでですか?」
すると盛良くんは顔を真っ赤にして、プイッとそっぽを向いた。
「……自信がない」
「え? なんのですか?」
「お前を襲わない自信」
今度は私の方が真っ赤になる番だ。
顔が一瞬にして、ものすごく熱くなる。
「ななななな、なに言ってるんですか!?」
慌てる私の腕を掴み、盛良くんと立ち位置を変えられる。
つまり、私がドアを背にして、その正面に盛良くんが立っているという構図だ。
そして、盛良くんが私の顔のすぐ横に手を置く。
いわゆる壁ドンってやつだ。
「敬語、使うなよ」
「で、でも、私はマネージャーで」
「望亜には使ってねーじゃん」
言われてみれば、望亜くんに対して、いつの間にか私は敬語を使わなくなった。
たぶん、お姉ちゃんって言われてるからだろう。
そう言われ続けることで、無意識に望亜くんのことを弟のように思い始めていたのかもしれない。
……望亜くんの方が年上なのに。
「で、でも……」
「いいから」
「……」
「せめて、2人きりのときだけでも頼む」
「う、うん……。わかった」
私がそう言うと盛良くんはニコリと笑い、「よし」と言って私の頭を撫でる。
もう、さっきから心臓がバクバクだ。
鼻血を吹き出さなかったのは奇跡的とも思える。
「俺、本気だから」
「でででも、なんで急に……?」
「それは……」
盛良くんは私から一歩引いて、一息ついた。
そして、ゆっくりと語り始めたのだった。
麗香さんは帰る際、記者さんに何度も頭を下げ、先ほどの問題発言はカットすることを約束してもらう。
「あんたたち、何考えてるの?」
事務所まで帰ってきた瞬間、3人が並ばされて麗香さんに説教されている。
圭吾だけは「なんで俺まで……」と口を尖らせているが、どうやら連帯責任らしい。
「別に……。質問に答えただけだけど」
盛良くんの言葉に、麗香さんが大きくため息をつく。
「あのねぇ。それでなくても、記事なんてどう書かれるかで、まったく印象が変わるものなの。それをわざわざアイドル側から問題発言なんかしたら、喜んで大げさに書かれることなんてわかりきったことでしょ? 前回、それで痛い目見たの忘れたの?」
「……悪かったよ」
「……ごめんなさい」
盛良くんと望亜くんが謝罪の言葉を口にする。
ただ、口では謝っているが、本心からでないことは私でもわかった。
「あんたたちね、もう少し、自分がアイドルだって自覚を持ちなさい。3人とも少し脇が甘いわよ。それに赤井ちゃん」
「は、はい!」
突然、自分にも話が飛んできた。
ビックリして上ずった声になってしまった。
「あなたもマネージャーとして、その分は一番気を使ってちょうだい。ましてや、協力するなんて言語道断だからね」
「はい……。すいません」
盛良くんと由依香さんをくっつけようとしたことを言っているんだろう。
まさか、そこまでバレていたとは……。
まあ、あの事件が起こった時に、由依香さんや警察から状況を聞いたのかもしれない。
麗香さんであれば、あの状況を聞けば、私たちがあの場に何の目的でいたかは予測できるだろう。
「はい。じゃあ、今日は解散。……あ、圭吾は明日、11時に事務所に来てちょうだい」
「え? 俺だけ?」
「あんたに舞台の話が来てるのよ。ちょい役だけど、いい機会だからやってみなさい」
「……舞台か。うん。ちょっと面白そう」
圭吾が舞台かぁ。
演技とかはどうなんだろ?
なんでもソツなくこなすイメージだし、役者も難なくこなすのかな?
「じゃあ、お姉ちゃん帰ろ!」
望亜くんが私の腕に抱き着いてくる。
「あ、うん。そうだね」
望亜くんがぴったりと寄り添ったまま離れてくれそうにないので、そのまま事務所を出ようとしたときだった。
スッと目の前に盛良くんが立ちはだかる。
「待てよ」
「え?」
「今日は俺を送っていけ」
「……最近、盛良がお姉ちゃんを独占してる。今日は僕の番」
「ダメだ。赤井は俺がもらう」
「……お姉ちゃんは絶対に渡さない」
盛良くんと望亜くんがバチバチと視線で火花を散らしている。
うーん。
こういうとき、私はどうすればいいんだろう?
そう悩んでいたら、麗香さんがこめかみに血管を浮き出させて声を荒げる。
「あんたたち、もう1時間、説教聞きたいの?」
「うっ!」
「……っ」
ビクッと肩を震わせ、にらみ合いから視線を逸らす盛良くんと望亜くん。
「赤井ちゃんは盛良の方を送って行って。あと、しばらく、望亜は赤井ちゃんに接近禁止」
「えっ! どうして!?」
「あんた、赤井ちゃんにくっつき過ぎ。ファンに勘違いされたらどうするの!?」
「……別に勘違いじゃ」
「の~あ~? なんか言った?」
「っ。な、なんでもない……」
望亜くんが悲しそうな顔をして、私を見る。
「うう……。バイバイ、お姉ちゃん」
「う、うん。気を付けて帰ってね」
望亜くんが事務所を出て行く。
その後ろ姿がいつもよりさらに小さく見えて、なんだかちょっと可愛そうになってくる。
チワワがきゅーんと鳴いているような感じ。
思わず、後ろから抱きしめたくなる可愛さだ。
「さてと、じゃあ、俺たちも帰ろうぜ」
私は盛良くんと一緒に事務所を出た。
電車の中でも、少しはしゃべれるようになった。
さすがにあれから数日経っているから、少しはショックから立ち直っている。
他愛のない話をしながら、盛良くんの家の前に到着した。
今日もご飯を作れって言ってくるのかな?
そう思って盛良くんに着いていこうとしたが、盛良くんは家のドアの前で立ち止まったまま動かない。
「盛良くん?」
私が声をかけると、盛良くんがこっちに振り返った。
「なに?」
「あ、いや、今日もご飯作っていこうかって思って……」
「あー、いや、ご飯はいいや」
「……もしかして、食欲がないとかですか?」
「今、部屋に入られるのはマズい」
「え? なんでですか?」
すると盛良くんは顔を真っ赤にして、プイッとそっぽを向いた。
「……自信がない」
「え? なんのですか?」
「お前を襲わない自信」
今度は私の方が真っ赤になる番だ。
顔が一瞬にして、ものすごく熱くなる。
「ななななな、なに言ってるんですか!?」
慌てる私の腕を掴み、盛良くんと立ち位置を変えられる。
つまり、私がドアを背にして、その正面に盛良くんが立っているという構図だ。
そして、盛良くんが私の顔のすぐ横に手を置く。
いわゆる壁ドンってやつだ。
「敬語、使うなよ」
「で、でも、私はマネージャーで」
「望亜には使ってねーじゃん」
言われてみれば、望亜くんに対して、いつの間にか私は敬語を使わなくなった。
たぶん、お姉ちゃんって言われてるからだろう。
そう言われ続けることで、無意識に望亜くんのことを弟のように思い始めていたのかもしれない。
……望亜くんの方が年上なのに。
「で、でも……」
「いいから」
「……」
「せめて、2人きりのときだけでも頼む」
「う、うん……。わかった」
私がそう言うと盛良くんはニコリと笑い、「よし」と言って私の頭を撫でる。
もう、さっきから心臓がバクバクだ。
鼻血を吹き出さなかったのは奇跡的とも思える。
「俺、本気だから」
「でででも、なんで急に……?」
「それは……」
盛良くんは私から一歩引いて、一息ついた。
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