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ファーストキス
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時間が止まった。
それはもちろん、私の中だけなのだけど。
いや、そうじゃない。
これはたぶん、どうしていいのかわからなくて、思考の停止というか状況の理解を拒否してるんだと思う。
だって、ずっと心臓の音だけが、私の耳の奥にまで響いているから。
「実は俺のファーストキス」
照れ臭そうに、おちゃらけるように笑う盛良くん。
――そう。
今、私は盛良くんにキスをされた。
なんで?
どうして、私に?
ずっと混乱しっぱなしだけど、そんなこと言ってられない。
なにかしゃべらなくっちゃ。
とにかく口を動かせば、この状況を打破できるような気がする。
そして、私が口にしたのは……。
「こんなところ、写真に撮られたらどうするんですか」
だった。
あー、そうじゃないでしょ。
キスされた女の子としてのリアクションとしては最低。
……マネージャーとしては100店なのかな?
いや、担当しているアイドルにキスされた時点で、マネージャー失格ものだろう。
もう、せっかく正式にマネージャーになれたのに。
「ぷっ! それがキスされて一番に言う台詞かよ? まあ、お前らしいっちゃお前らしいな」
ポンと頭を撫でられる。
「ほれ、行くぞ」
盛良くんが歩き出そうとするがまだ衝撃で足が動かない。
「動揺し過ぎ」
今度は私の手を取って歩き出す。
固まっていた足が動き出してくれる。
いつの間にか、私と盛良くんは手を繋いで歩いていた。
しかも恋人繋ぎ。
そう言えば、盛良くんと手を繋いだのってこれが初めてかも。
……キスの方が先ってどうなんだろ?
とにかく私の頭の中は真っ白で、電車の中でも口を開くことができなかった。
そんな私の混乱ぶりを見てか、盛良くんが「大丈夫か? 家まで送って行くぞ?」と言ってくれたが、それはギリギリのところで断ることができた。
危ない危ない。
私に家に来れると色々ヤバい。
圭吾と暮らしていることや、圭吾の妹であること、偽名を使ってること、実は高校生だと言うことが一気にバレてしまう。
そうなったらもう、完全に終わりだ。
というか、そう考えると今の私って嘘で固められてるんだなぁって思う。
盛良くんとは駅で別れ、私はフラフラした状態で家へと帰った。
その日はお兄ちゃんにも心配されてしまったが、ちょっと体調を崩しただけだからと言い訳して、早めにベッドの中に入る。
そして、その夜は結局、一睡もできなかった。
それから2日後。
ケモメンに雑誌のインタビューが入り、3人が記者さんと話しているのを見ている。
もちろん、あのときのように喫茶店ではなく、ちゃんとした部屋の中でのインタビューだ。
記者も好意的な質問で、3人の内面を色々な観点で聞き出そうとしている。
「ケモメンは最近、グッと人気が上がって来てますよね。勢いがあるっていうか、一皮むけたというか。なにか3人の中で変わったっていうことはありますか?」
記者さんの質問に圭吾が答える。
「そうですね。やっぱり、一番大きいところっていうのが、望亜の復帰かなって思ってます。望亜の離脱は本当に短い期間だけだったんですけど、物凄い喪失感がありました」
「……なるほど。そして、あの伝説の新曲お披露目に続くわけですね?」
「はい。あのとき、いきなり望亜が出てきて、3人で新曲を歌ったんですけど……なんていうんですかね。今更な気がするんですけど、そのとき初めて3人が一緒になったっていうか、団結したなって感じたんです」
この、圭吾の返答に麗香さんがグッと親指を上げる。
本当に上手い返答だった。
望亜くんが階段から突き落とされ、意識不明鳴るっていう大事件からの、サプライズの復活ライブ。
あれは本当に、伝説的な瞬間だったと思う。
ファンの中にも、あのことは深く胸に刻まれているはずだ。
「望亜くんの方は、何か変わったと感じたことはありますか? やっぱり、活動ができなかったときに思うことってあったりします?」
今度は望亜くんに話が振られる。
以前であれば、ほとんど返答がなく、すかさず圭吾がフォローを入れるという流れだった。
「そうですね。やっぱり、僕の中でアイドル活動というのは原点で、とても大切なものだっていうのが改めて知れました」
そんな望亜くんの返答を聞いて、麗香さんが「成長したわね」とつぶやいて、ハンカチで目頭を拭いていた。
正直、私もビックリした。
こんなに長く、しっかりしたことを望亜くんが話すなんて。
そう思っていた矢先、望亜くんはさらに言葉を続けた。
「でも、一番大きく変わったのは他にもあります」
「え? それはなんですか?」
「……恋をしたことです」
そう言って、望亜くんがチラリと私の方を見た。
私は一瞬で顔が熱くなった。
いやいやいや。
それはマズいんじゃないかな?
記者さんも面食らったのだろう。
ちらりと麗香さんの方を振り返った。
麗香さんフルフルと首を横に振っている。
今のはカットしてほしいという合図だろう。
「じゃあ、盛良くんの方にも話を聞かせてもらおうかな?」
仕切り直すように今度は盛良くんに話を振る記者さん。
「そうっすね。まあ、ほとんど圭吾と望亜が言いたいこと言ったから、俺がしゃべることなんてほとんどないんだけど……」
盛良くんがチラリと望亜くんの方を見た。
そして、真剣な目付きになる。
「もちろん、圭吾と望亜は同じメンバーで仲間だ。けど、負けるつもりは全くねー。アイドルとしても。恋のライバルとしても、だ」
盛良くんが熱い視線を私に向けてきた。
と、同時に、ぶっ、と私の鼻から血が吹き出す。
さっき望亜くんの視線で顔に血が集まったところに止めを刺された感じだ。
私は力が抜けてしまい、すとんとその場に尻もちをついてしまう。
そして、その横では麗香さんは両腕で大きく×を作ったのだった。
それはもちろん、私の中だけなのだけど。
いや、そうじゃない。
これはたぶん、どうしていいのかわからなくて、思考の停止というか状況の理解を拒否してるんだと思う。
だって、ずっと心臓の音だけが、私の耳の奥にまで響いているから。
「実は俺のファーストキス」
照れ臭そうに、おちゃらけるように笑う盛良くん。
――そう。
今、私は盛良くんにキスをされた。
なんで?
どうして、私に?
ずっと混乱しっぱなしだけど、そんなこと言ってられない。
なにかしゃべらなくっちゃ。
とにかく口を動かせば、この状況を打破できるような気がする。
そして、私が口にしたのは……。
「こんなところ、写真に撮られたらどうするんですか」
だった。
あー、そうじゃないでしょ。
キスされた女の子としてのリアクションとしては最低。
……マネージャーとしては100店なのかな?
いや、担当しているアイドルにキスされた時点で、マネージャー失格ものだろう。
もう、せっかく正式にマネージャーになれたのに。
「ぷっ! それがキスされて一番に言う台詞かよ? まあ、お前らしいっちゃお前らしいな」
ポンと頭を撫でられる。
「ほれ、行くぞ」
盛良くんが歩き出そうとするがまだ衝撃で足が動かない。
「動揺し過ぎ」
今度は私の手を取って歩き出す。
固まっていた足が動き出してくれる。
いつの間にか、私と盛良くんは手を繋いで歩いていた。
しかも恋人繋ぎ。
そう言えば、盛良くんと手を繋いだのってこれが初めてかも。
……キスの方が先ってどうなんだろ?
とにかく私の頭の中は真っ白で、電車の中でも口を開くことができなかった。
そんな私の混乱ぶりを見てか、盛良くんが「大丈夫か? 家まで送って行くぞ?」と言ってくれたが、それはギリギリのところで断ることができた。
危ない危ない。
私に家に来れると色々ヤバい。
圭吾と暮らしていることや、圭吾の妹であること、偽名を使ってること、実は高校生だと言うことが一気にバレてしまう。
そうなったらもう、完全に終わりだ。
というか、そう考えると今の私って嘘で固められてるんだなぁって思う。
盛良くんとは駅で別れ、私はフラフラした状態で家へと帰った。
その日はお兄ちゃんにも心配されてしまったが、ちょっと体調を崩しただけだからと言い訳して、早めにベッドの中に入る。
そして、その夜は結局、一睡もできなかった。
それから2日後。
ケモメンに雑誌のインタビューが入り、3人が記者さんと話しているのを見ている。
もちろん、あのときのように喫茶店ではなく、ちゃんとした部屋の中でのインタビューだ。
記者も好意的な質問で、3人の内面を色々な観点で聞き出そうとしている。
「ケモメンは最近、グッと人気が上がって来てますよね。勢いがあるっていうか、一皮むけたというか。なにか3人の中で変わったっていうことはありますか?」
記者さんの質問に圭吾が答える。
「そうですね。やっぱり、一番大きいところっていうのが、望亜の復帰かなって思ってます。望亜の離脱は本当に短い期間だけだったんですけど、物凄い喪失感がありました」
「……なるほど。そして、あの伝説の新曲お披露目に続くわけですね?」
「はい。あのとき、いきなり望亜が出てきて、3人で新曲を歌ったんですけど……なんていうんですかね。今更な気がするんですけど、そのとき初めて3人が一緒になったっていうか、団結したなって感じたんです」
この、圭吾の返答に麗香さんがグッと親指を上げる。
本当に上手い返答だった。
望亜くんが階段から突き落とされ、意識不明鳴るっていう大事件からの、サプライズの復活ライブ。
あれは本当に、伝説的な瞬間だったと思う。
ファンの中にも、あのことは深く胸に刻まれているはずだ。
「望亜くんの方は、何か変わったと感じたことはありますか? やっぱり、活動ができなかったときに思うことってあったりします?」
今度は望亜くんに話が振られる。
以前であれば、ほとんど返答がなく、すかさず圭吾がフォローを入れるという流れだった。
「そうですね。やっぱり、僕の中でアイドル活動というのは原点で、とても大切なものだっていうのが改めて知れました」
そんな望亜くんの返答を聞いて、麗香さんが「成長したわね」とつぶやいて、ハンカチで目頭を拭いていた。
正直、私もビックリした。
こんなに長く、しっかりしたことを望亜くんが話すなんて。
そう思っていた矢先、望亜くんはさらに言葉を続けた。
「でも、一番大きく変わったのは他にもあります」
「え? それはなんですか?」
「……恋をしたことです」
そう言って、望亜くんがチラリと私の方を見た。
私は一瞬で顔が熱くなった。
いやいやいや。
それはマズいんじゃないかな?
記者さんも面食らったのだろう。
ちらりと麗香さんの方を振り返った。
麗香さんフルフルと首を横に振っている。
今のはカットしてほしいという合図だろう。
「じゃあ、盛良くんの方にも話を聞かせてもらおうかな?」
仕切り直すように今度は盛良くんに話を振る記者さん。
「そうっすね。まあ、ほとんど圭吾と望亜が言いたいこと言ったから、俺がしゃべることなんてほとんどないんだけど……」
盛良くんがチラリと望亜くんの方を見た。
そして、真剣な目付きになる。
「もちろん、圭吾と望亜は同じメンバーで仲間だ。けど、負けるつもりは全くねー。アイドルとしても。恋のライバルとしても、だ」
盛良くんが熱い視線を私に向けてきた。
と、同時に、ぶっ、と私の鼻から血が吹き出す。
さっき望亜くんの視線で顔に血が集まったところに止めを刺された感じだ。
私は力が抜けてしまい、すとんとその場に尻もちをついてしまう。
そして、その横では麗香さんは両腕で大きく×を作ったのだった。
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