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犯人の襲撃
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悲鳴が上がった方を見てみると、テラスの店員の人が腕を抑えて後ずさりをしていた。
抑えている腕からは血が流れ落ちている。
近くに座っていた客が悲鳴を上げながら立ち上がり、逃げだしていく。
私は最初、何が起こっているのかわからず、呆然と血を流している店員を見ていた。
事故でもあって怪我をしたのだろうか。
そんなことを考えてたら、盛良くんが立ち上がった。
「あいつ……」
あいつ?
私は盛良くんが驚いて見ている方向に、視線を向ける。
そこにはナイフを持った女性が立っていた。
そのナイフには、店員のものだろうか、血がぺったりと付き、したたり落ちている。
そして、私はナイフを持っている女性の顔を見た。
「あっ!」
忘れもしない。
あの人はケモメンを潰そうとした、あの女性記者だった。
ケモメンを侮辱するようなインタビューをした記者。
そのとき、私は頭に血が上って水を顔にかけてしまった。
そのこともあり、ケモメンはあることないことを雑誌に書かれた。
望亜くんの機転により、事なきを得ることができたわけだけど。
思わず固まってしまった私は、その記者……女と目が合ってしまった。
女は目を見開き、こちらに向って歩き出す。
「え? なに? 2人の知り合い?」
由依香さんが盛良くんと私を交互に見て、おろおろしている。
「逃げるぞ!」
盛良くんの声で私はハッとする。
その間にも女がナイフを持ったまま走ってくる。
周りの人たちは悲鳴を上げてその場から逃げていく。
「由依香さん、ごめん。たぶん、巻き込んじまった」
盛良くんは私と由依香さんの手を取り、走り出す。
「まてえーーーーーーーーー!」
鬼の形相で走ってくる女。
3人で手を繋いで走る私たちより、女の方が早い。
もうすぐそこまで女が来た時だった。
「ちっ!」
盛良くんが近くにあった椅子を蹴る。
その椅子が足に当たり、ひるむ女。
その隙に、大回りをして店の中に入り、そのまま店の入り口から出る。
他の店は閉店後ということでビルの通路にはほとんど人がいない。
テラスがある屋上まではエレベーターで来た。
でも、今からボタンを押して、屋上までエレベーターが来るまで待ってられない。
今も、遠くから女が叫びながらこっちにやってくる声が聞こえる。
「こっちだ」
盛良くんが止まっているエスカレーターを指差す。
私たちは止まっているエスカレーターを駆け下りていく。
そして、既に閉店している店に素早く入り、カウンターの下に隠れる。
しばらくすると、女が奇声を上げて通り過ぎて行った。
「……なんなんだよ、ありゃ?」
「そっか……。望亜くんを突き落としたの、あの人だったんだ」
「は? どういうことだよ?」
「きっと、あの人、私たちのこと、恨んでる」
「……恨んでる? 恨みたいのはこっちだぞ」
「あの記事のことで、エクスは廃刊になってる。だから、その恨み……とか?」
「完全に逆恨みじゃねーか」
でも、本人にしてみたらケモメンに恨みをぶつけるしかなかったのかもしれない。
「……あ、八神さん? 今はTSBビルにいるんだけど……。そうテラスの。そこにナイフを持った女の人が……」
気づくと由依香さんがどこかに電話していた。
そして、由依香さんは最後に「ごめんね」と言って電話を切った。
「どこに電話してたんですか?」
「え? えっと、知り合いに……。こういう時に頼りになる人がいて」
「……警察に電話した方がよかったんじゃ?」
「あ! そっか……。そうだよね」
由依香さんが顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
いつもは落ち着いていて、頼りになる由依香さんの天然なところが見れて、ちょっと嬉しい。
……なんか、可愛いな。
なんて場合じゃないよね。
そう思っていると、盛良くんはカウンターの陰からチラリと外の様子を窺う。
「警察には多分、店にいた誰かが連絡してるはずだから、俺たちはとりあえず逃げるぞ」
「うん」
私たちは音を立てないように店を出て、エスカレーターを降りていく。
なるべく音を立てないようにゆっくりと。
そして、一階までなんとか見つからずに降りて来られた。
もうすぐ出口だ。
そう思うと、どっと疲労がのしかかってくる。
急に体が重くなってくるが、あと少しの辛抱だ。
だけど、そんな私たちの前に人影が現れた。
「ふふふ。賭けは私の勝ちね」
ナイフを持ったあの女だった。
「隠れてるか、出口に向かうか悩んだんだけどね。あんたたちなら出口に向かうかなって思って、ここで張ってたってわけ」
盛良くんが私たちを庇うように前に出る。
「俺たちを恨むのは筋違いだろ。お前が悪いんじゃねーかよ」
「知ってるわよ、それくらい」
「こんなことして、なんの意味があるんだ?」
「意味はないわ。単なる憂さ晴らし」
「……」
女はもて遊ぶようにナイフを振り回す。
「もう少しで、部長になれそうだったのよねー。それが一気に、パア。まあ、あんな人気の雑誌を廃刊に追い込んだんだから仕方ないわよねー」
あはははと自虐的に笑う女。
「会社もクビになっちゃったし、もう人生終わりって感じよ。だからさー、最後に憂さ晴らしくらいしてもいいでしょ? 望亜って言ったっけ? あいつは殺し損ねたからさ。今度はきっちり、自分の手で止めをささなくっちゃね」
狂気に満ちた目で、ブンブンとナイフを振り回す。
話は通じそうにもない。
かといって、こっちは武器になるようなものを何も持っていない。
盛良くんの頬から汗がにじみ出て流れて落ちる。
「できればちゃんと3人とも殺したかったけど、たぶん、今回で警察に捕まるから無理ね。だから、しっかり、あんたたちだけは殺しとかないとね!」
女がナイフを構え、突っ込んできたのだった。
抑えている腕からは血が流れ落ちている。
近くに座っていた客が悲鳴を上げながら立ち上がり、逃げだしていく。
私は最初、何が起こっているのかわからず、呆然と血を流している店員を見ていた。
事故でもあって怪我をしたのだろうか。
そんなことを考えてたら、盛良くんが立ち上がった。
「あいつ……」
あいつ?
私は盛良くんが驚いて見ている方向に、視線を向ける。
そこにはナイフを持った女性が立っていた。
そのナイフには、店員のものだろうか、血がぺったりと付き、したたり落ちている。
そして、私はナイフを持っている女性の顔を見た。
「あっ!」
忘れもしない。
あの人はケモメンを潰そうとした、あの女性記者だった。
ケモメンを侮辱するようなインタビューをした記者。
そのとき、私は頭に血が上って水を顔にかけてしまった。
そのこともあり、ケモメンはあることないことを雑誌に書かれた。
望亜くんの機転により、事なきを得ることができたわけだけど。
思わず固まってしまった私は、その記者……女と目が合ってしまった。
女は目を見開き、こちらに向って歩き出す。
「え? なに? 2人の知り合い?」
由依香さんが盛良くんと私を交互に見て、おろおろしている。
「逃げるぞ!」
盛良くんの声で私はハッとする。
その間にも女がナイフを持ったまま走ってくる。
周りの人たちは悲鳴を上げてその場から逃げていく。
「由依香さん、ごめん。たぶん、巻き込んじまった」
盛良くんは私と由依香さんの手を取り、走り出す。
「まてえーーーーーーーーー!」
鬼の形相で走ってくる女。
3人で手を繋いで走る私たちより、女の方が早い。
もうすぐそこまで女が来た時だった。
「ちっ!」
盛良くんが近くにあった椅子を蹴る。
その椅子が足に当たり、ひるむ女。
その隙に、大回りをして店の中に入り、そのまま店の入り口から出る。
他の店は閉店後ということでビルの通路にはほとんど人がいない。
テラスがある屋上まではエレベーターで来た。
でも、今からボタンを押して、屋上までエレベーターが来るまで待ってられない。
今も、遠くから女が叫びながらこっちにやってくる声が聞こえる。
「こっちだ」
盛良くんが止まっているエスカレーターを指差す。
私たちは止まっているエスカレーターを駆け下りていく。
そして、既に閉店している店に素早く入り、カウンターの下に隠れる。
しばらくすると、女が奇声を上げて通り過ぎて行った。
「……なんなんだよ、ありゃ?」
「そっか……。望亜くんを突き落としたの、あの人だったんだ」
「は? どういうことだよ?」
「きっと、あの人、私たちのこと、恨んでる」
「……恨んでる? 恨みたいのはこっちだぞ」
「あの記事のことで、エクスは廃刊になってる。だから、その恨み……とか?」
「完全に逆恨みじゃねーか」
でも、本人にしてみたらケモメンに恨みをぶつけるしかなかったのかもしれない。
「……あ、八神さん? 今はTSBビルにいるんだけど……。そうテラスの。そこにナイフを持った女の人が……」
気づくと由依香さんがどこかに電話していた。
そして、由依香さんは最後に「ごめんね」と言って電話を切った。
「どこに電話してたんですか?」
「え? えっと、知り合いに……。こういう時に頼りになる人がいて」
「……警察に電話した方がよかったんじゃ?」
「あ! そっか……。そうだよね」
由依香さんが顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
いつもは落ち着いていて、頼りになる由依香さんの天然なところが見れて、ちょっと嬉しい。
……なんか、可愛いな。
なんて場合じゃないよね。
そう思っていると、盛良くんはカウンターの陰からチラリと外の様子を窺う。
「警察には多分、店にいた誰かが連絡してるはずだから、俺たちはとりあえず逃げるぞ」
「うん」
私たちは音を立てないように店を出て、エスカレーターを降りていく。
なるべく音を立てないようにゆっくりと。
そして、一階までなんとか見つからずに降りて来られた。
もうすぐ出口だ。
そう思うと、どっと疲労がのしかかってくる。
急に体が重くなってくるが、あと少しの辛抱だ。
だけど、そんな私たちの前に人影が現れた。
「ふふふ。賭けは私の勝ちね」
ナイフを持ったあの女だった。
「隠れてるか、出口に向かうか悩んだんだけどね。あんたたちなら出口に向かうかなって思って、ここで張ってたってわけ」
盛良くんが私たちを庇うように前に出る。
「俺たちを恨むのは筋違いだろ。お前が悪いんじゃねーかよ」
「知ってるわよ、それくらい」
「こんなことして、なんの意味があるんだ?」
「意味はないわ。単なる憂さ晴らし」
「……」
女はもて遊ぶようにナイフを振り回す。
「もう少しで、部長になれそうだったのよねー。それが一気に、パア。まあ、あんな人気の雑誌を廃刊に追い込んだんだから仕方ないわよねー」
あはははと自虐的に笑う女。
「会社もクビになっちゃったし、もう人生終わりって感じよ。だからさー、最後に憂さ晴らしくらいしてもいいでしょ? 望亜って言ったっけ? あいつは殺し損ねたからさ。今度はきっちり、自分の手で止めをささなくっちゃね」
狂気に満ちた目で、ブンブンとナイフを振り回す。
話は通じそうにもない。
かといって、こっちは武器になるようなものを何も持っていない。
盛良くんの頬から汗がにじみ出て流れて落ちる。
「できればちゃんと3人とも殺したかったけど、たぶん、今回で警察に捕まるから無理ね。だから、しっかり、あんたたちだけは殺しとかないとね!」
女がナイフを構え、突っ込んできたのだった。
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