12 / 46
逆転
しおりを挟む
「望亜、どういうことなの?」
麗香さんが望亜くんの方を向いて、首を傾げる。
「2日、待ってて」
「2日も? でも、すぐに謝罪に行かないと」
「僕を信じて」
「……」
望亜くんがここまで自己主張をするのは珍しい。
だから麗香さんも困惑しているようだった。
「いいんじゃねーの。何か考えがあるんだろ」
「こういう場合、初動は大事なのよ」
「だからだろ」
「え?」
「今、謝りに行けば、負けを認めることになる」
「……」
盛良くんの言葉に、麗香さんが腕を組みながら目を瞑って、考え事をしている。
ここで対応をしくじれば、ケモメンが終わる可能性も高いはず。
「麗香さん。私、訴えられても大丈夫ですから」
後押しするために言ったはずの言葉は震えてしまい、返って不安を感じさせてしまったかもしれない。
そんな私の肩を抱き寄せてくれる圭吾。
こうしてくれるだけで、安心できる。
そして、絶対にケモメンを潰したくない、潰させないという気持ちが高まっていく。
「ダメだったとしても、最初からやり直せばいいよ。時間がかかるかもしれないけど、それでもファンはわかってくれるんじゃないかな」
その圭吾の言葉に後押しされたのか、麗香さんが目を開く。
決意が固まったような目だった。
「望亜、任せたわよ」
「うん」
麗香さんの言葉に、望亜くんが無表情で頷いたのだった。
それから2日間は本当に長く感じた。
SNSやメディア、そしてあの掲示板でさえ、ケモメンを叩き始めた。
そして、その半分くらいがマネージャーである私に向いている。
ケモメンが解散したら、赤井のせいだ。
早く出てきて謝罪しろ。
そもそもこんな非常識がマネージャーをやっているのがおかしい、などなど。
叩かれに叩かれまくった。
炎上するってこういうことなんだと、嫌というほど実感した。
ネット上なのに、悪意を向けられる怖さ。
危害を加えるなんて書かれた日には、本当にやってくるんじゃないかと思って、怖くて家を出られなかった。
もちろん、学校は休んだ。
お兄ちゃんには風邪を引いたと嘘を付いて。
そして、そんな仮病を使う私を必死に看病するお兄ちゃん。
いつもなら、鼻血が出るくらい嬉しいんだろうけど、逆に嫌悪感が2倍になった感じがする。
そして、望亜くんとの約束の日。
望亜くんの言う通り、今回の騒動は沈静化した。
いや、見事に世間の反応がひっくり返ったと言った方が正しいだろう。
「半信半疑だったけど……凄い威力ね」
「やるじゃん、望亜」
「まさか、望亜があんなことしてるなんて、思いもしなかったよ」
望亜くんを囲んで、麗香さんや盛良くん、圭吾が絶賛する。
それもそのはず。
望亜くんが打った一手はまさに起死回生のものだったのだ。
「ありがとう、望亜くん!」
思わず、望亜くんに抱き着いてしまう。
それくらい、嬉しかった。
「……別に」
そう言った望亜くんの頬は少し赤い気がした。
みんなから絶賛されて、気恥ずかしいのかも。
「あー……。望亜だけ、ズルい」
そう言ったのは圭吾だった。
……何の話だろう?
「でも、まさか、録音してたなんてね」
「ホント、ナイスだ、望亜」
そう。望亜くんが打った手というのは、あの日のインタビューのときの声を録音して、それをネットに流したのだ。
世間は一気に手のひら返しをした。
私に対しては、逆に賞賛さえされたくらいだ。
よくやった、と。
あの掲示板では英雄扱いだった。
元々、『excavation』に不満を持っていた読者も少なからずいたみたいだ。
エクスに潰されたアイドルも決して少なくない。
逆に、持ち上げられて売れたアイドルもいるけど、それを面白く思わないアンチも多かったのだろう。
そしてなにより、あの感じ悪いインタビューの内容。
火が付かないわけがなかった。
今も、出版社に抗議の電話がかなりの数がきているらしい。
マスコミもこの流れに乗り、雑誌叩きに舵を切った。
そして、この件によりケモメンの名前も広く知れ渡ることになったのだ。
「ありゃ、明日は二日酔いだな」
横を歩く盛良くんが、肩を震わせて笑いながら言う。
あれから事務所でささやかなお祝いパーティーをした。
さすがにこのタイミングで浮かれて打ち上げをしているとこを雑誌にすっぱ抜かれたら、また状況がひっくり返る可能性もある。
だから、今は粛々と活動を続けるということで、浮かれた行動は慎むという方向性になったのだ。
事務所にピザやオードブルを頼み、パーティーを開いた。
麗香さんはプレッシャーから解放された反動か、お酒をガブガブ飲んでいた。
麗香さん以外は未成年なので、結局麗香さんだけが飲んで、浮かれていた。
「お前は飲まねえの?」
「え? あー、お酒弱いんで」
盛良くんから突っ込まれて、慌ててそう言い訳をした。
そうだった。
私、21歳って言っていたんだった。
あとで麗香さんにも伝えておかないと。
口裏合わせておかないと面倒なことになりそうだ。
1時間もすると麗香さんが潰れてしまい、寝てしまった。
そして、気づくと望亜くんがいなくなっていた。
多分、開始15分くらいで帰ったんだろう。
相変わらず、アイドルとは思えないくらいの影の薄さだ。
圭吾は酔い潰れた麗香さんを介抱するため、事務所に残っている。
そんな中、私は盛良くんに「送ってけ」と言われたというわけだ。
夜の町中を盛良くんと並んで歩く。
最近はよく、この構図になることが多い気がする。
……他の人から見たら、恋人同士に見えるのかな?
ふと、そんな考えが頭を過った。
と、同時に、私はあることを思い出した。
「ねえ、盛良くん」
「ん? なんだ?」
「私に隠し事してませんか?」
私は何気なく、いきなり核心に踏み込む質問をしてしまったのだった。
麗香さんが望亜くんの方を向いて、首を傾げる。
「2日、待ってて」
「2日も? でも、すぐに謝罪に行かないと」
「僕を信じて」
「……」
望亜くんがここまで自己主張をするのは珍しい。
だから麗香さんも困惑しているようだった。
「いいんじゃねーの。何か考えがあるんだろ」
「こういう場合、初動は大事なのよ」
「だからだろ」
「え?」
「今、謝りに行けば、負けを認めることになる」
「……」
盛良くんの言葉に、麗香さんが腕を組みながら目を瞑って、考え事をしている。
ここで対応をしくじれば、ケモメンが終わる可能性も高いはず。
「麗香さん。私、訴えられても大丈夫ですから」
後押しするために言ったはずの言葉は震えてしまい、返って不安を感じさせてしまったかもしれない。
そんな私の肩を抱き寄せてくれる圭吾。
こうしてくれるだけで、安心できる。
そして、絶対にケモメンを潰したくない、潰させないという気持ちが高まっていく。
「ダメだったとしても、最初からやり直せばいいよ。時間がかかるかもしれないけど、それでもファンはわかってくれるんじゃないかな」
その圭吾の言葉に後押しされたのか、麗香さんが目を開く。
決意が固まったような目だった。
「望亜、任せたわよ」
「うん」
麗香さんの言葉に、望亜くんが無表情で頷いたのだった。
それから2日間は本当に長く感じた。
SNSやメディア、そしてあの掲示板でさえ、ケモメンを叩き始めた。
そして、その半分くらいがマネージャーである私に向いている。
ケモメンが解散したら、赤井のせいだ。
早く出てきて謝罪しろ。
そもそもこんな非常識がマネージャーをやっているのがおかしい、などなど。
叩かれに叩かれまくった。
炎上するってこういうことなんだと、嫌というほど実感した。
ネット上なのに、悪意を向けられる怖さ。
危害を加えるなんて書かれた日には、本当にやってくるんじゃないかと思って、怖くて家を出られなかった。
もちろん、学校は休んだ。
お兄ちゃんには風邪を引いたと嘘を付いて。
そして、そんな仮病を使う私を必死に看病するお兄ちゃん。
いつもなら、鼻血が出るくらい嬉しいんだろうけど、逆に嫌悪感が2倍になった感じがする。
そして、望亜くんとの約束の日。
望亜くんの言う通り、今回の騒動は沈静化した。
いや、見事に世間の反応がひっくり返ったと言った方が正しいだろう。
「半信半疑だったけど……凄い威力ね」
「やるじゃん、望亜」
「まさか、望亜があんなことしてるなんて、思いもしなかったよ」
望亜くんを囲んで、麗香さんや盛良くん、圭吾が絶賛する。
それもそのはず。
望亜くんが打った一手はまさに起死回生のものだったのだ。
「ありがとう、望亜くん!」
思わず、望亜くんに抱き着いてしまう。
それくらい、嬉しかった。
「……別に」
そう言った望亜くんの頬は少し赤い気がした。
みんなから絶賛されて、気恥ずかしいのかも。
「あー……。望亜だけ、ズルい」
そう言ったのは圭吾だった。
……何の話だろう?
「でも、まさか、録音してたなんてね」
「ホント、ナイスだ、望亜」
そう。望亜くんが打った手というのは、あの日のインタビューのときの声を録音して、それをネットに流したのだ。
世間は一気に手のひら返しをした。
私に対しては、逆に賞賛さえされたくらいだ。
よくやった、と。
あの掲示板では英雄扱いだった。
元々、『excavation』に不満を持っていた読者も少なからずいたみたいだ。
エクスに潰されたアイドルも決して少なくない。
逆に、持ち上げられて売れたアイドルもいるけど、それを面白く思わないアンチも多かったのだろう。
そしてなにより、あの感じ悪いインタビューの内容。
火が付かないわけがなかった。
今も、出版社に抗議の電話がかなりの数がきているらしい。
マスコミもこの流れに乗り、雑誌叩きに舵を切った。
そして、この件によりケモメンの名前も広く知れ渡ることになったのだ。
「ありゃ、明日は二日酔いだな」
横を歩く盛良くんが、肩を震わせて笑いながら言う。
あれから事務所でささやかなお祝いパーティーをした。
さすがにこのタイミングで浮かれて打ち上げをしているとこを雑誌にすっぱ抜かれたら、また状況がひっくり返る可能性もある。
だから、今は粛々と活動を続けるということで、浮かれた行動は慎むという方向性になったのだ。
事務所にピザやオードブルを頼み、パーティーを開いた。
麗香さんはプレッシャーから解放された反動か、お酒をガブガブ飲んでいた。
麗香さん以外は未成年なので、結局麗香さんだけが飲んで、浮かれていた。
「お前は飲まねえの?」
「え? あー、お酒弱いんで」
盛良くんから突っ込まれて、慌ててそう言い訳をした。
そうだった。
私、21歳って言っていたんだった。
あとで麗香さんにも伝えておかないと。
口裏合わせておかないと面倒なことになりそうだ。
1時間もすると麗香さんが潰れてしまい、寝てしまった。
そして、気づくと望亜くんがいなくなっていた。
多分、開始15分くらいで帰ったんだろう。
相変わらず、アイドルとは思えないくらいの影の薄さだ。
圭吾は酔い潰れた麗香さんを介抱するため、事務所に残っている。
そんな中、私は盛良くんに「送ってけ」と言われたというわけだ。
夜の町中を盛良くんと並んで歩く。
最近はよく、この構図になることが多い気がする。
……他の人から見たら、恋人同士に見えるのかな?
ふと、そんな考えが頭を過った。
と、同時に、私はあることを思い出した。
「ねえ、盛良くん」
「ん? なんだ?」
「私に隠し事してませんか?」
私は何気なく、いきなり核心に踏み込む質問をしてしまったのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」
GOM
キャラ文芸
ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。
そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。
GOMがお送りします地元ファンタジー物語。
アルファポリス初登場です。
イラスト:鷲羽さん
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。
夜乃トバリ
恋愛
シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。
今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。
※他の作品と書き方が違います※
『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる