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SceneM 真弥の動揺

sceneM-1 知らなかった事実

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「なんだ、あれ? 良善さん……いや、達真か?」

 降り注ぐレーザー砲は轟音を響かせ大地を爆ぜさせる。
 地面がえぐられ、根から宙に舞う大木の数々。
 ただ、ここへ最初に降り立った時にルーが教えてくれた通り、そんな木々は次々と光の粉になって消失していく。

 全てを無にする様な破壊の雨。
 悪党が取る行動としてはそれらしい感じではあるが、司の中ではイマイチあの二人の行動として釈然としない。達真なら『自分でやる!』と言いそうなモノだし、良善に至ってはあの無秩序にバラ撒く様な手法が明らかにそぐわない。
 となると……。

「奏……これって、まさか」

「えぇ、私が出る前に菖蒲さんが言っていたわ。〝アクエケス〟が落ちていよいよ未来の本隊が動いた。この側流世界ごと今この世界内にいる〝Answers,Twelve〟のメンバー達を消滅させる〝世界崩壊ワールド・ブロー〟が発令されたのよ。真弥ちゃん……さっきの話は後回し。グズグズしてたら私達用の脱出艦に乗り遅れる。さっさとそのクズを倒してあのレーザーにでも投げ入れましょう。コンビネーションの03ね」

「そんなッ! 待ちなさいよッ! 〝世界崩壊ワールド・ブロー〟はあくまで戦闘中の部隊が崩壊してもう完全に戦えない所まで来た時の最後の手段のはずでしょッ!? 撤収するまでの時間稼ぎに発令していい作戦じゃないッ! 私達の矜持に反するじゃないッ!」

「私達が文句を言う話じゃないでしょ。上は私達を捨て石にするには惜しいと考えてくれて、そのまま時元の塵にせず、脱出艦の手配をしてくれたんだから、寧ろ感謝するべきことじゃない?」

「そ、それは……」

「戦う気が無いなら別にいい。私だけでこいつをやる」

 戦闘棒を構え直す奏。
 明らかに動揺しているが刀を構えはする真弥。
 どうやら上役が新たな作戦に移り、仲違いをしている場合では無くなった様だ。
 しかし、なし崩しに歩調を合わせざるを得なくなった二人に対し、司の苛立ちはいよいよ許容量を超える。

「おい、詳しくは分からないけど、なんとなく今の話で察しは付いたぞ? お前らは自分達の都合で勝手にこんな世界を作っておいて、事情が変わったら今度は一方的にぶっ壊すだと? お前ら……本当に自分達のこの行為が正義だと思ってるのか?」

 理解不能な破壊の雨に、女騎士達は訳が分からず逃げ出している。
 多分、さっき崩壊した城の周辺には他にも多くの女騎士達が居ただろうが、今頃はもうすでにレーザーで跡形も無く消し去られているだろう。

 司はことあるごとに彼女達を〝自称正義〟と糾弾していた。
 この行いは、いよいよそれを否定出来なくするモノではないか?
 背後の真弥からは苦悶の呻きが聞こえた。
 だが、奏の顔に後ろめたさは微塵も無い。

「大して知識も無いくせに知った風な口を利かないで欲しいわね。側流世界はあくまで概念。あの騎士さん達だって本当に命がある訳では無い。本当に命を持つ生命が生きる本流世界で同様なことをしている〝Answers,Twelve〟が偉そうなことを言うんじゃ……無いわよッ!!」

 鋭い気勢の声と共に奏の足元の地面が爆ぜる。
 両手に握られた戦闘棒が唸りを上げ、その打撃部が左右から鋏の様に司の首へと迫る。

「くッ! ――なッ!?」

 切断されそうになる刹那、司は腰を落として左右からの攻撃を躱す。
 だが、しゃがんだその先にはすでに奏の膝蹴りが迫っていた。
 当たれば顎が砕かれるどころか首がへし折れかねない。
 司は回避に回避を重ねる形で身体を捻り奏の膝蹴りをどうにか躱すが、その頃には初撃の戦闘棒が今度は薙ぎ払う形で司に迫り、体勢での回避は間に合わず司は外骨格の黒棒を変化させて鎌の様な形状にすることでどうにか打撃を受け止めるが、体勢が滅茶苦茶で踏ん張りが利かず吹き飛ばされて地面を転がる。

「チッ! 小癪な武器ね……真弥ちゃんどうしたの!? 今のは真弥ちゃんも併せて動く多段攻撃のはずでしょ? 戦えないならもうどっか行っててくれない? 邪魔だから!」

「ぐッ!? わ、分かってるわよッ!」

 刀を構え、全身に紫電を纏う真弥。
 状況には一切納得出来ていない。
 だが、司を倒すという目的は揺るがない。
 今はただその点だけを完遂するべく、気合を入れ直した真弥が地面を焦がしながら疾走して、地面を転がりその勢いで身体を起こしたばかりの司へ追撃を掛ける。

「うぐッ!? く、くそがッ!」

「あッ! チッ!!」

 鎌状態から再び黒鞭へ変質させて牽制。
 先の戦闘で司の能力が接触によるスタン効果があることを知っている真弥は、急制動からの直角軌道の連続で司の後ろへ回り込むが、タイムロスが生じたせいで司の体勢は整い、片手に握る黒鞭の小指側からもバラ鞭が形成されて結局真弥は背中側からも打ち込めずバックステップで距離を取らされる。

「がっかり……戦闘しか能が無いのに、それすら満足に出来ないなら真弥ちゃんに何の価値があるの?」

「ぐッ!? ――あッ! 馬鹿奏ッ!! 不用意に距離詰めるなッ! こいつの能力は――――」

「知らないよ、そんな……でも、関係ない」

 前後に鞭を広げた状態の司。
 真弥がそれを警戒して背後でさっきより大きく距離を取るのに対して、奏は真弥の軌道をたどる様に再び司へ迫り、今度はこちらも迎え撃つ準備が出来ている司は、鞭を蠢かせて突進して来る奏へ放つ……が。

「――シィッ!!」

 ――ダダダダダダダッッ!!

「はぁッ!?」

 両手に握る戦闘棒の輪郭が見えなくなるほどの拳打の連撃。
 無秩序に漂うバラ鞭が一瞬で全て弾き飛ばされ、司の腹部がガラ空きになる。

「死ね」

「ぐッ! ――あッ!?」

 奏が右手を正拳突きに繰り出す。
 まだ数十cmの距離があり、手に握る鞭の柄を盾状に広げれば何とかガードが間に合う。
 そう思ったのだが、奏の持つ戦闘棒の先端が突如火花を散らして弾け、鎖分銅の様にリーチを伸ばして司の鳩尾にめり込む。

「――うぶッ!?」

 食いしばった口から血が溢れる。
 戦闘棒の直撃よりは幾分か威力は落ちただろうが、それでも身体の中で内臓が潰れる音を司は鼓膜の内側から感じた。

(不味いッ! 後ろから真弥が来るッ!?)

 あまりの激痛に目の前が霞み平衡感覚も失う。
 しかし、腹部にめり込む分銅の位置は分かったので、司はそれを掴み強引に奏を背後へ振り回す。

「きゃッ!? こ、のッ!?」

「あッ!!」

 司への一打に気持ちが籠りすぎて拳を開くのが遅れた奏の身体が捻り回る司の上を超えて畳みかけようと切り込んだ真弥の踏み込みを止めさせ、司はたたらを踏みながらもどうにか距離の取り直しとようやく前後挟みの立ち位置を解消する。

「ハァ……ハァ……お、ぇッ!? くそッ!」

 純粋な戦闘経験の差だろうか。
 一度目にした真弥はしっかり警戒し、初見のはずの奏は使用する武器の小回りを活かして完全に対処。
 能力とは違う部分で二人に明確な差を見せ付けられた気がする。
 ただ、それは逆に奏や真弥からも同様なことが言えた。

「くそ、どんどん戦闘勘が冴えて来てるわ。あの様子だと外骨格を扱うイメージ力にも慣れ始めてる。もう並みの【修正者】じゃ、相手にならないかも……」

「確かにね、真弥ちゃんの速度に対応して私の攻撃でも視線が切れない。受けた一撃に耐えて見えてなかったはずの背後の攻撃を想定して対処。あぁ、気持ち悪い……ゴキブリの抵抗力みたいでホントに不快だわ。殺虫剤でも持ってくればよかったかしら?」

「ちょっと、奏……あいつはもう舐めて掛かれない域に来てるのよ。もう少し真面目に……」

「あら? 何、真弥ちゃんひょっとしてビビってるの? あんなクズに怯えるとか、あの雑魚共と同じね……人類史を守護する〝ロータス〟の一員として恥ずかしくないの?」

「え? か、奏……?」

 冷静に分析は出来ているがどこか妙な奏に困惑する真弥。
 司に対する嫌悪は前々からあったが、それにしたって少しふざけの色が強過ぎる。

「……奏、もう撤退しましょう。あんたまだ病み上がりなんだから、これ以上の戦闘は――――」

「綴真弥? あなた何を偉そうに私に命令してるの? 私の方が上位なのに生意気よ?」

 奏の肩へ掛けられれた真弥の手。
 それを強めに払い除けて睨み付けて来る奏。
 おかしい……和成の件で自分に対して対応がトゲトゲしいモノになってはいたが、傷付いて戦えない部下達を〝雑魚共〟と言ったり、自分の身を案じての提案に自身の地位をひけらかして一蹴するその態度はどう考えも真弥の知る天沢奏の性格に合致しない。

「ち、ちょっと待ちなさい、奏! あんた……本当にどうしたの? そんな言い方、あんたらしくないわよッ!?」

「は? 勝手に私に〝らしい〟〝らしくない〟を決め付けないで。もういいホント邪魔、さっさと一人で撤収してなさいよ。あいつは私が一人で仕留める」

「奏ッ!? ――きゃあッ!?」

 地面を蹴り地面をまくり散らして司へ迫る奏。
 溢れる血を拭い迎え撃つ司。
 一人残された真弥もすぐに加勢に加わろうとするが、もう奏の動きは個人戦のリズムを刻み、下手に飛び込めば逆に攻撃のテンポが崩れてしまう。

「おかしい……やっぱりおかしい」

 真弥の知る奏じゃない。
 遠くの森ではさらにレーザー砲の範囲が広がり、脱出のタイムリミットが迫っているのにこんな単独行動に終始する様で小隊副隊長になれはしない。

 情報分析に長けた七緒、前線戦闘に特化した真弥、そして局地的に大技を放つ千紗。
 その間を取り持ちまとめるバランス力を持つのが奏の最大の長所。
 その強みを自分で消す今の奏はもはや別人に見えた。

「くッ! ――はッ!? もしかして悠佳さんが言ってた〝D・E〟の適性! あの子まさかそのせいで!」

 司の血から得た新型ナノマシンの強化。
 奏はずっとその適応が整わず治療カプセルから出られずにいた。
 多分、それがある程度に落ち着いてどうにかカプセルからは出られたが、事後調整も無く飛び出して来ていよいよその不調が表面化して来ているのかもしれない。

「精神的に拒絶しているモノを無理矢理取り込んでおかしくなってる……あの子自分で自分のバランスが崩れているのを分かってないんだわ! 不味いッ!」

 こんなリミットありの状況で飛び出して来ていい状態じゃない。
 その証拠に手負いの司が全く引けを取らず二本の戦闘棒を使った奏の近接戦に対応して、なおかつ段々とその息を整える暇さえ与えてしまっている。

「奏ッ!! 下がりなさいってばッ!」

 四の五の言ってはいられない。
 もはや戦闘のテンポを寸断するのも厭わず、真弥は最高速度で二人の間に割って入り、一旦司を下がらせるべくそちらへ向かって刀を振り下ろす。
 だが……。


「うるさいッッ!!! 邪魔すんじゃないわよぉぉッッッ!!」


「ぐぅッ!?」

 割り込もうとした真弥の脇腹を司へ放った打撃の返しで横薙ぎに振り払う奏。
 司が再び周囲に展開していた黒いバラ鞭には警戒していたが、まさかあえて奏が自分を退けようと腕を振って来るとは思わず、脇下に〝バキッ〟という衝撃が襲う。

「く、ぁあッ!?」

 奏の攻撃をまともに受けてしまった真弥。
 物理的なダメージがあばらを砕き、そこへさらに

「ぐぁあああぁッッ!?」

 全身がバラバラに砕けそうになる痛み。
 身体の中を無数のミミズが這い回る様な強烈な嫌悪感。

(これ……奏、の?)

 天沢奏の固有能力――それは〝感覚同調〟
 自分が感じたモノを他人に感じさせたり、他人が感じたモノを自分も感じるなどといった集団意識をまとめるまさに彼女の万能さを支える能力。
 しかも、この力はある程度理解が進めば〝他人の外骨格の使い方〟も共有することが出来る和成の〝模倣〟にも似た効果がある。
 ただ、今回はその力ではなく、あくまで感覚を共有する部分が真弥へと流れ込んだ。

 それが今感じた激痛と嫌悪感。
 一体いつ、誰が感じたモノなのかは分からないが、それはあばらを砕かされた衝撃以上に意識を刈り取り、一瞬で気を失わせて真弥の身体を地面に叩き付けて〝Arm's〟も解除させて倒れ込ませてしまった…………。







「はぁ? え……何を――がはッ!?」

 目の前で奏が真弥を殴り飛ばした。
 奏の攻撃を寸断する無駄な飛び込みではあったが、こちらも後ろへ下がるしか無い針の孔に糸を通す様な攻撃。
 だが、そこでまさか奏が攻撃を中断せず、仲間である真弥を殴り飛ばしてまで自分の攻撃を優先するとは思わず、一テンポ動きが遅れた司の顎に奏の戦闘棒が叩き込まれて司は仰け反る様に後ろへと殴り飛ばされる。

「ぐぁあッ!? う、うぅぐぅッ!?」

 背中から地面に落ち、一回転して仰向けに地面を滑る司の身体。
 どうにかそれを止めたが、目の前がグチャグチャに歪んでしまい立ち上がることが出来ない。

「く、くそぉ……ッ! しくっ、た……――ぐぁッ!?」

 肘を付いて体を起こすのが精一杯。
 隣では取り落とした黒鞭が粉になって崩れ、外骨格形成も解けてしまっていた。
 そこへ奏の蹴り上げを再び顎に食らい、司の身体が仰向けに倒される。

「ハァ……ハァ……いい気味ね、ゴミカス♪ あんたはそうして地面に倒れている姿が本当に良く似合うわ♡」

 キシシッと嫌味な笑みを浮かべて見下ろして来る奏。
 流石に司も気付いた……この女、意識が少し狂っている。

(本性見せた時よりさらにおかしい……っていうか、仲間ぶん殴ったのか? こいつら、同じ地獄がどうとか言ってたはずなのに……)

 グチャグチャに溶けた視界。
 ただ〝D・E〟が回復を助けているのか、手足に力はまだ入らないが思考は辛うじて繋がる。
 そして、倒れていることで背中に伝わって来る振動。
 あのレーザー砲がいよいよこちらに近付いて来ていた。

「あぁ……流石にそろそろ不味いわね。フフッ、ここであんたの顔面を殴り潰してしまうのもアリなんだけど、それをするとこれから先しばらくあんたの顔面を潰した感触が私の手に残っちゃうわよね? それは嫌……絶対嫌! あんたのことなんてもう二度と思い出したくもない! だからこのままレーザーで焼き殺される死に方を許してあげるわ♪ 私の慈悲に感謝してよね?」

 足で司の顔に土を蹴り付け踵を返す奏。
 するとその視線が遠くで倒れる真弥を一瞬見たが、奏はその姿を鼻で笑いあろうことか助けもせずにその場を飛び立ち、墜落した【アクエケス】の方へと飛んで行ってしまった。

「ペッ、ぺッ! ゲホッ!? はぁ? な、何考えてんだ……あいつ?」

 肘を立て今度は体を起こし切る司。
 信じられない……確かにダメージは受けていたが、常人じゃあるまいし脳震盪に似た状態はすでに脱しつつあって、フラ付きながらも自分は自分の足で立ち上がった。

「なんだ? 本気でこのまましばらく俺が立ち上がれないとでも思ってたのか?」

 迂闊どころではない奏の愚かな行為に去り際の土掛けを苛立つよりも先に呆然が勝つ。
 そして、自分が殴り飛ばして倒した真弥を放置。
 司が歩み寄ると、頬に髪を掛け完全に気を失っている真弥の顔はどう考えてもしばらく起きそうになく、司よりもよっぽど迫るレーザー砲に焼き殺されることが確定していた。

「わ、訳分かんねぇ……一体何がどうなって……――ん?」

 森から聞こえて来るやけに人工物的な音。
 まるでエンジンみたいだと思い司が振り返ると、木々の合間を蛇行して抜けるランプが見え、茂みを突き破りアーミー仕様な大型軍用三輪バイクに跨るルーツィアが現れた。

「閣下ッ! ご無事ですか!?」

「え? ル、ルーツィア!? どうしたんだよ、それ?」

「本当はルーを飛ばしたかったのですが生憎まだ力が回復し切っておらず、で馳せ参じました。お乗り下さいッ! あの攻撃は〝ロータス〟の時元戦艦群の一斉砲撃! このままではこの側流世界が崩壊します!」

「やっぱりそうなのか……くそッ! でも、達真や良善さんは何のアクションもしてないのか? あの二人なら戦艦相手でも全然余裕そうだけど……」

「えぇ、! 無比アニークド様はすでにご就寝……博士様ラーニィドは『カフェインが切れた』とコーヒータイム中です! あのお二方はたとえこの側流世界が崩壊して時元空間に生身で投げ出されても何ともない! しかし、我々が時元空間に投げ出されたら一秒と持たず概念化して塵になってしまう! 早く〝ルシファー〟に戻り退避しなくてはッ!」

「いぃッ!? あぁもうマジかよッ! 〝ルシファー〟までどれくらい掛かるんだ!?」

「私が出来る前に紗々羅に操縦をレクチャーして来ました! 真っ直ぐ飛ばせるくらいは出来るはずです! ――うぐッ!? さぁ、早く後ろにッ!」

 レーザーの衝撃が木々の間を抜けてこちらまで迫って来た。
 爆風に身体を振られながらも司はバイクの後部に飛び乗り、ルーツィアは押すのも一苦労な大型バイクのエンジンを響かせ瞬時にターンを決めてアクセルを吹かす……が。

「あ、ちょっと待ってくれ!」

 慌てて飛び降り駆け出す司。
 その先にいたのは気を失って倒れたままの真弥。

「何をなさっているのですか閣下ッ! お早くッ!」

「悪いッ! こいつも連れてく! 俺の仇だ! ここでしれっと死なれたら一生復讐出来なくなっちまうんだよッ!!」

 服を掴み脇に抱えて持ち上げる。
 腕に胸の感触が触れたが、今はさすがにそのことは不問にしてもらわねば困る。

「くッ! 敵をわざわざ助けるなど……まぁ、閣下の復讐のためには致し方ありません! では、出します! しっかりと掴まっていて下さいッ! 申し訳ありませんがもしそいつを落としたらもう諦めて下さいッ!!」

「あぁ、出してく――れぇあぁぁッ!?」

 爆音を響かせるエンジンと、つい最近覚えた飛行とは比べ物にならないG。
 真弥を落とすというよりも、自分も振り落とされてしまいそうで司は見栄も無くルーツィアの腰にしがみ付く。

「お、おまッ! お前これ本当に私物かよッ!?」

「えぇッ! ネジ一本から全てのパーツを一つ一つ私の能力で自作して組み立てました!」

 私物というから既製品かと思えば、やはり彼女の能力に関係した外骨格の一種。
 新たに外骨格を作る余裕が無いから前々から形にしていたモノを引っ張り出して来たという意味だったらしい。

 だが、既製品では不可能であろう急加速と常軌を逸した走破性で進むバイクは、搭乗者が常人ではないことを前提とした速度でレーザー砲の着弾点から離れてゆき、しばらく走ると頭上にかなりダメージを負った〝ルシファー〟がフラフラと微妙に蛇行しながら滑空して来て、ルーツィアはさらにアクセルを回し、司も掴まっているのがやっとの速度で岩に乗り上げ、跳ね上がり木々の背丈を超えたところで底部ハッチから射出されたアンカーワイヤーを受けてそのまま回収され、離脱のための急上昇に入った…………。
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