アナザー・リバース ~未来への逆襲~

峪房四季

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Scene4 勤勉なる悪党見習い

scene4-5 腐れ正道 前編

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「ほぉ、等々バレてしまったか……名前以外にも色々と痕跡は消しておいたんだが、流石に限界だったみたいだね。もうすでに敵部隊が迫っているのか?」

「は、はい! どうやら何故か今回は〝ロータス〟本部への起源体発見の報告はされていない様子で、未来側からの指示や増援の痕跡は見受けられません。確認出来ているのは、そ、その……を含む三~四個小隊分の人数が展開を始めています。そして、不可解なのが……どうやら民間人のを一人作戦に組み込んでいるらしく、現在はその青年の現地到着を待っている様で――」


「場所はどこだ?」


 良善の前で姿勢を正し報告していた曉燕の前に強引に割り込む司。
 という部分ではギリギリ耐えていたが、そのあとのダメ押しでいよいよ看過出来ず、この場のトップである良善に背中を向ける無礼も承知で、司は吐息もさえ触れる距離に曉燕見開いた狂気的な無表情を向ける。

「なッ!? み、御縁……様?」

 見えなかった訳ではない。
 曉燕には司が自分の前へ割り込んで来る一連の動きがしっかり捉えれていた。
 しかし、それはあくまでデーヴァの動体視力での話。
 常人ならば、きっと司が寝転んだ体勢から一瞬の内に曉燕の前にワープして立ち塞がった様に見えただろう。

 例の部屋で罵声を浴びせられて以来の顔合わせ。
 良善や紗々羅が驚いていた様に、曉燕も司の急速な人外化に驚愕していた。

「こらこら、落ち着きなさい。司」

「無理です……あいつらマジで何なんですか? もう一回、今度は大量に仲間を引き連れて来てでも攻め入って来るならまだ分かる。でも、あいつら性懲りも無く今度は良善さんの起源体を狙ってる。直接戦っても勝てないからって、また俺と同じ様に全然関係ない奴を自分達の都合で殺そうとしてやがるッ!! プライドの欠片もないクズ共じゃねぇか! しかも、しかも今度は……、までッ!!」

 この状況に同伴する民間人の青年。
 司には一人しか思い当たる節が無かった。

「奴らの自己肯定は何も今に始まったことではないだろう? だから落ち着きなさい。その民間人というのは……恐らく如月和成だね。少しは自分でも踏み込む気になったのか、それとも無理矢理巻き込まれただけか。まぁ、別にその点はどうでもいい。敵戦力は【修正者】基準で一個中隊……どうやら作戦としては内密に事を運びたい感じだね……どう見る、紗々羅嬢?」

「あぁ……うん、まぁ……それなりにいけるんじゃない? 流石にソロはまだキツいだろうけど……」

 何故か司を指差しながら隣に座る紗々羅へ見解を問う良善。
 対する紗々羅は、唇に指を当て確信とまではいかないものの何らかのGOサインを出して、それを受けた良善はゆっくりと頷いて立ち上がり司へ歩み寄る。

「いいだろう……司、君に初任務だ。私の起源体を救出に向かってくれないか?」

「えッ? あ……は、はい! それはもちろんいいんですが……でも、俺でいいんですか? そんな重要な役目を俺に任せて……」

 やる気は十分にある。
 任せてくれるというならもちろん全力で取り組む所存だが、自分の命が掛かっているにしてはそのあまりの呆気無さに良善の方へ向き直った司の表情には困惑が隠せていなかった。

「フフッ……驕ってはいない様だね。あぁ、前回より確実に安定したとはいえ、紗々羅が言った通り流石にその数を君一人ではというのはまだ厳しかろう……サポート役が必要だ」

「…………紗々羅さん、お願いします」

 あからさまが過ぎる。
 流石に良善の意図を察した司は一切振り向かずに紗々羅を見るが、当の和服幼女はマヨコーンおにぎりを頬張りつつプイッとそっぽを向く。

「うぐぅ……ッ!」

「はぁ……司?」

 聞き分けの無い子どもを見る様な良善の表情。
 そんな顔をされると流石に居たたまれない。

「あぁぁもうッ! 分かりましたよッ!!」

 クルリと向き直る司。
 そこには司の不本意な顔にビクリと怯え身を縮める曉燕がいた。

「……案内しろ、李曉燕。あと……良善さんの起源体を死なす訳にはいかないから、ヤバくなったら、その……ちょっとサポートしろ」

「――ッ!? は、はいッ!! 命に代えてもッ!!」

 まだ納得出来ていないのか。
 微妙に視線は逸らして命じる司だったが、曉燕はまるで救われた様に目に感涙を滲ませてその場に跪き、司への挺身を誓う。
 そして、二人は連れ立ってすぐに部屋を出て行き、良善はふと苦笑を漏らしてまた紗々羅の隣に腰を下ろす。

「中間管理職ですね~~副首領♪」

「あぁ、全くだ。やれやれ、世の部下を持つサラリーマン達の気苦労が伺い知れるよ」

 紗々羅が差し出す缶コーヒーを受け取る良善は、司が意地を張らず使える駒は使おうという判断が出来たことに安堵する。
 本人にも言ったことだが、良善は一人で暴れ散らかす〝狂戦士バーサーカー〟を観察したい訳では無い。

 単騎の武、他を扱う智。
 折角現時点で想像を越えている良質個体。
 一芸に特化させる判断はまだ早い逸材だった。

「それにして……心外だな。司の奴め、まさかこの私が剥き出しの弱点である自分の起源体に何の対策も取っていないと本気で思っているのか?」

 缶コーヒーを一口啜り苦笑する良善。
 紗々羅も当然事情は知っており、マヨネーズが付いた手をペロペロと舐めて素知らぬ顔。
 すると良善は懐から通信機を出してどこかへ連絡を始める。

「私だ……報告ご苦労。状況はどうだい、大尉ハウプトマン ? …………なるほど承知した。今こちらから担当を派遣し……あぁ、心配するな。人斬り幼女ではないよ。君が楽しみにしていた例の新人君に李曉燕を付けて送り出した。とりあえず、基本的にまずは彼に任せてみてくれ。手を貸すかどうかの判断は一任する。良しなに頼むよ」

 手短に終わる通信。
 そして、機器をコートに仕舞った良善はコーヒーをまた一口啜り……。

「さて、紗々羅嬢……」

「嫌」

「待ちたまえ……まだ何も言ってないではないか?」

 取り付く島もなく立ち上がりその場を去ろうとする紗々羅と、その肩を掴んで強引に座り直させる良善。

「見え見えよ! ど~~せ私に後詰めに行けって話でしょ? お断りだわ。あのがいるんだからどうとでもなるでしょ!」

「雌犬って……もう少し言葉を選びなさい」

 酷い暴言。
 彼女の言うその対象は、もちろんつい先ほど良善が話をしていた大尉と呼ばれていた相手。
 司にも話したが、その相手と紗々羅の相性はすこぶる悪い。
 詰まる所、紗々羅も司と曉燕のことを馬鹿には出来ない気苦労を良善に強いていたのだ。

「行かない! 行かない! 行かない!」

「そう言うな……どの道近日中には招集していたんだから同じことだろ? ……命令だ、新人のサポートに行って来なさい」

「むぅぅ~~~~ッッ!!」

 ジワリと目に朱色を滲ませる良善。
 こうして力業に出ないといけないという点では、司よりもよっぽど面倒臭い部下である。

「…………」

「うぅッ…………んもぉッ! 分かったわよ!」

 やんわり圧が増して来る良善に折れ、コンビニ袋の中からお菓子を取り出し袖にしまってプンプンと部屋を出ていく紗々羅。
 最終的には言う事を聞くなら最初からそうしてくれと項垂れる良善だったが、紗々羅の気配が完全に消えると手にしていた缶コーヒーを軽く揺らして小さくほくそ笑む。

「さぁ……面白くなって来たぞ、これは……くくくッ! 頑張ってくれたまえ……

 一人呟く良善。
 そのどす黒い笑みは、とても組織運営に苦心する管理職の顔ではなく、もっと別の視点から状況を見る他人事な第三者視点をしていた…………。




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