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Scene3 利害の一致
scene3-7 会敵〝真打〟と…… 前編
しおりを挟む「さてさて、私達〝Answers,Twelve〟の暫定住処へようこそお越しになりやがりました。元・奴隷さん達♪ 再雇用をご希望かしら?」
「ぐげぇあッ!?」
足下でバタバタとうるさい雅人を峰打ちで廊下の壁へ叩き付けて目の前を空ける紗々羅が早速の先制ジャブを放ち、対する四人の目は先ほどの雅人との接敵の際とは最早別人の鋭い目付きになっていた。
「雑魚先兵の次がいきなり№Ⅲとはね。随分と人材不足じゃない……〝Answers,Twelve〟」
真弥は軽く上下にステップを刻みながら片手に握った長刀を半身になって身体の後ろへ回し、いつでも斬り掛かれる体勢を維持したまま挑発を返す。
一定のリズムを続ける動きは一見隙がある様に見えるが、それをカバーしているのがすぐ後ろで腰を落として構える奏。
さらにそんな前衛の背後では七緒と千紗が控えており、迂闊に飛び込めば二重三重の迎撃を受けてしまうだろう。
決起してただ物量に任せて突っ込んで来るだけだった最初期から迎え撃っていた紗々羅としては、明らかに〝ロータス〟の中で戦略が成長していると感じた。
そして、それは産まれる前から武人になることが決まっていた紗々羅にとって、実に歓迎するべき進歩だった。
「いいわね……ゾクゾクする♪ ここで私が殺される可能性も決してゼロじゃない。あぁ……もう、堪んないぃッ♡」
腰を落とし、太刀を順手に鞘を逆手に構え頬に赤みを差してうっとりした顔になる紗々羅。
ペロリと唇を舐めるその仕草は如何にも小物的なのに、全身からジワジワと溢れドライアイスのスモークの様に周囲に広がって来る殺気は絶対的な強者の圧。
四人の心はそれぞれ思う……一人だったら間違いなく嬲り殺しにされていた。
だが、同時に思う……これを越えねば、その先にいる者達には永遠に届かないと。
(七緒……一発だけ私にソロでやらせて。今の私達とあいつらの距離を見極める)
それは体内にあるナノマシンの波長を利用した無音会話。
独自の周波数を持っており盗聴の心配は無いものの有効範囲は四m少々しかないが、こういう場面では非常に重宝する。
(危険よ! 真弥ちゃん! いつものコンビネーションでやろう!?)
(そうだよ真弥姉ぇ! 無茶だよ!)
(……勝算はあるの?)
顔には出さず狼狽える奏と千紗。
しかし、隊長である七緒は頭から却下はしなかった。
(ビミョー……でも、ここで逃げちゃダメっしょ?)
真弥はこの四人の中で特に苛烈な実戦教育を受けている。
他の三人とは違い、もし仮に〝Answers,Twelve〟との戦いが終結して【修正者】が解体されたら他に行き場が無いくらいの戦闘特化。
それ故に彼女がここで敵の№Ⅲと戦闘力の差を見極めることには大きな意味がある。
(分かった……でも、あなたを捨て石になんてさせない。奏、半歩下がりなさい。下がったらその半歩を越える自己最速を出すつもりで待機。千紗も奏のフォローに集中よ)
(……了解)
(り、了解……)
戦場では隊長の指示が絶対。
奏は言われた通りに半歩下がり瞬きもせずさらに深く腰を落とす。
そして、七緒の背後を周り千紗が奏側へと寄る。
傍目にはさほど意味を感じさせない微妙な配置換え。
しかし、紗々羅は目ざとくその意図を汲んだ。
「あら? 黄色い子……私とサシでやろうっていうの? 滅茶苦茶キュンなんだけど?」
まるで今から告白されることを察する様な乙女顔で構えを解き、わざわざ太刀を鞘に戻して抜刀の構えを取り直す紗々羅。対する真弥も腰をさらに捻り込み真っ向から迎え撃つ体勢に入る。
「断らないわよね?」
「もちろん……これを受けずに人斬り家業なんてやってられないわ」
紗々羅の同意。
すると真弥の全身にバチバチと空気を焦がす音と共に紫電が走り髪がフワリと浮かび上がる。
真弥の固有能力は生体電流の超加速。
加えて真弥は戦場でもさらに第一線で戦うため、武装やアーマーなど外骨格の形状変化の自在性も極めて高い。
構えていた長刀の刃渡りを一番力が籠る長さに変え、刃の切れ味を高めるべく刃側から見るとも刀身が無くなってしまったかの様に薄くなる。
息苦しいほど張り詰める空気。
心臓が止まっているのではないかと思うほど微動だにしない真弥とジワジワと軸足を前へと擦り出す紗々羅。
いつ出るかも分からぬ合図。
そして、紗々羅の前へ出る足で着物の裾が上がり、白く細い足が露わになったその瞬間。
「「――――――ッッッ!!!!」」
二振りの刃が放つ閃光。
斬撃使い同士の決着は……。
「…………がはぁッ!?」
立ち位置を入れ替え、振り抜いた太刀をしばし止める残心からすでに返り血一滴残っていない刃を下ろして丁寧な所作で納刀する無傷の紗々羅。
対する真弥は肩口から血柱を上げ、粉々に砕かれた愛刀の柄も落して床に倒れ込む。
さらに倒れた衝撃で全身のアーマーも砕け落ち、その下からおびただしい血が溢れ出していく。
斬ったのは間違いなく紗々羅だが、一体どんな剣技を用いれば瞬きする間に数人掛かりで全方位から斬り付けた様にここまで人を八つ裂きに出来るのか?
二人の剣術には如何ともし難い実力差があった。
しかし……。
「真弥ぁッ!!」
七緒が悲鳴を上げる……そこには最悪の誤算があった。
たとえ彼女が斬り負けようとも明らかに戦闘不能な今の状態に追い込むまいと準備をしていたのに、極限の集中が成せた技だったのか、真弥の居合はこれまで共に戦って来た七緒の想像を遥かに超える速度だった。
敵が予想を超えて来るかもしれないということはある程度想定していたが、それに合わせてフォローしようとした身内が想定を超えていたことでサポートが間に合わなかった。
「ふぃぃ……生存本能が足りてないわよ? この私と正面から戦おうとする勇気ある命が限界の一つや二つ越えないはずはないでしょうに♪」
血溜まりに沈み悶える真弥を見下ろしながら前髪を掻き上げニヤリとほくそ笑む紗々羅。
ただ敵を圧倒するだけじゃない。
明確に死を想像させる圧で相手の限界を無理矢理引き上げその上で圧倒するという常軌を逸してみせるという紗々羅の自信に三人は戦慄する。
「フフッ……あんた達は他人に弄ばれるために産まれて来た命。対して私は細胞が一つから二つに分裂する前から他人を殺すために産まれて来た命。戦場における適合性が違うのよ。ただ……良い太刀筋ではあったことは認めてあげる♪」
紗々羅が膝を曲げ、倒れる真弥の上を越えて大きく後ろへ下がる。
立ち位置が入れ替わっていたせいで真弥へ駆け寄れない位置関係だったが、それを紗々羅は自ら明け渡し、意表を突かれた顔になる三人に片手を差し出し「起こしてあげれば?」と小首を傾げた。
「ま、真弥ちゃんッ! しっかりして!」
「真弥姉ぇッ!?」
奏と千紗が瞬時に倒れる真弥を抱え上げて紗々羅を睨み付けたまま立つ七緒の横まで下がって来る。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ! ――ごはッ!? く、くそぉ……ッ!」
傷の度合いはまさに絶命まであと紙切れ一枚ほどギリギリ。
下手に動けばそのまま身体がバラバラに崩れてしまうのではないかと思われたが……。
「ハァ……ハァ……くッ! ま、まだよ……まだ、戦うッ!!」
奏と千紗を押し退け、ズタズタの身体で立ち上がる真弥。
その顔は額からも流れる血で真っ赤に染まっていたが、瞳が放つ眼光は依然塗り潰されてはおらず、全身から蒸気の様なもやが上がり傷口が徐々にだが確実に塞がっていた。
これこそ、デーヴァが人間ではない最たる証明。
他人の欲求を満たす〝もう一人の存在〟となるため、どんなに手荒く扱っても余程の事が無い限り死なない様に備えさせられた耐久性。専用の治療器を用いれば、心停止から最悪四十八時間経過していても蘇生出来る生命維持力。
正に狂気、正に人外。
こんな化物な身体など全く望んでいない。
だからこそ、四人は【修正者】の任務を完遂し、軍籍を外れて専用の治療で体内のナノマシンを除去して貰うまで心から愛する和成と身体を重ねるどころかキスすら戒めている。
尊厳は取り戻した。
あとは、普通の人間の身体。
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その思いで、真弥は倒さなければならない敵に向かい刃を構えた…………。
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