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Scene2 盲目な正義
scene2-6 甘い蜜壷の底 後編
しおりを挟む「くそッ! 七緒ぉッ!? 絵里隊長との連絡はどうなってんのよ!? こんなクソ舐められた宣戦布告、隊長ならすぐに「ブチ殺せ!」って、出撃許可くれるでしょッ!?」
スマホの破片を叩き付け、七緒に怒鳴り散らす真弥。
だが、対する七緒は苛立ちの表情で頭を抱えていた。
「ダメだわ! 時元間通信が封鎖されている! 多分、その子達のデバイスが奪われて本部が警戒しているんだと思う! あぁ、もう! いつも不真面目な隊長がたまに仕事で席を外している時に限ってこんな! 奏!? 菖蒲さんとの連絡は!?」
「そ、それが……この同じの時間軸にいるから端末には繋がるんだけど、特命行動中のアラーム音が鳴ってて応答してくれない!」
「特命行動中……本部からの要請? 何から何まで……くッ! もう私が判断するしかないわね」
指示を仰ぐ直属の上役達と軒並み連絡が取れなくなっている様で、七緒は考え込む時の癖である片手で口元を覆う仕草でしばし沈黙する。
奏も真弥も千紗も……そして、まだ千紗の腰を掴んでいる和成も七緒の言葉を待った。
「……三人とも〝Arm's〟のメンテは怠っていないわね?」
何かを決意した鋭い眼差しで確認する七緒。
その言葉に首を傾げているのは和成だけだった。
「当然ッ! 何時でも行ける!」
「私も問題無いわ!」
「千紗も行けるよ!」
「よろしい……中隊隊長権限で第二十八小隊出撃よ! 行動レベルは威力偵察までとするけど、可能であれば〝御縁司〟の抹殺は承認とします!」
「「「了解ッ!!」」」
「え? えッ!? ち、ちょっと……」
待ってくれ、勝手に話を進めないでくれ。
決意を込めた顔になる四人に対し、ある意味安全圏で置き去りにされる和成はとりあえずまずは自分の身の安全に関して問いたかった。
でも、その声が震える口から出るよりも先に奏が目の前に膝を付く。
「和君、大丈夫……敵は私達がやっつける。和君は何も心配せずここで待っていて?」
両頬を包み優しく微笑んで来る奏。
だが、そんな口先だけではいまいち安心出来ない。
現に視線の端では、七緒と真弥が不法投棄の様に捨て返されて来た四人の仲間らしき少女達に何やら棒状の物体を首筋へ突き立てて眠らせてから部屋の中へ運んでいた。
あの四人もいわば彼女達と同様に未来から悪を討ちに来た戦闘員達だと思われる。
そんな者達が泣きながら「奴隷に戻ります」とまで命乞いするほど敵は強いのではないか?
「あ、あの! いや、まッ! も、もし入れ違いにここへ敵が来たらどうすればッ!?」
四人は今すぐにでも敵の元へ向かおうとしている。
それはあんまりではないか? ここはまず、巻き込まれている身である自分の安全を確保するのが先だろう?
ただ、和成自身もそう口にするのは流石にはばかられて遠回しな訴えになる。
すると、奏はすぐに真面目な思案顔になってくれた。
「そうね……確かにそれは考えておかないといけない。七緒さん? 一応和君の周辺に警護部隊を配置しておきませんか?」
「えぇ、私もそれがいいと思うわ。奏、指示をお願い」
「了解!」
隊長である七緒の快諾を得て奏は立ち上がり、先ほど菖蒲へ連絡を試みていた時と同じく、特に何も機器を付けている訳でも無い片耳に手を添える。
「桜美中隊各員に伝達! こちら中隊副隊長、天沢! これより部隊の配置変更を行います!」
奏のテキパキとした指示で、どうやら他の仲間が自分を守るために来てくれる様で、和成はようやく胸を撫で下ろした。
「あ、あの……和兄ぃ? 手、放して……千紗も色々と準備しないと」
「え? あ、あぁごめん。うん、行っておいで」
「…………うん」
余裕が出来て笑みが戻る和成。
対する千紗はどうにも浮かない顔をしていたが、その表情を見た和成は〝いつもとは違い真剣モードだな〟と思いながら、家の中へ戻りとりあえずソファーに腰を下ろす。
そこから約四~五分。
高層マンションの最上階にあるベランダに上から八つの人影が飛び降りて来た。
「天沢副隊長! 第二十一小隊、到着しました!」
「同じく、第二十三小隊、到着しました!」
ようやく自分のボディーガード達が到着した様だと、和成は麦茶の入ったコップを片手にベランダを覗き込む。
やって来たのは四人一組で一小隊が二隊分。
歳は殆ど和成と同世代。
サイバーチックな戦闘服を着ていてちょっと日曜朝の戦隊モノを思わせるが、その編成に和成は首を傾げる。
(戦い……なんだよね? なんでみんな女の子なんだろう? 男が一人もいない……大丈夫なのかな?)
すっかりVIP気質も戻り、自分の護衛に華奢な少女ばかりでいささか不安げな和成。
ただ、それを迎える奏……そして、隣にやって来た七緒の威厳はやはり別格だった。
「ご苦労、これより我が第二十八小隊は特別任務に入ります。詳細に関しては今はまだ説明出来ないけど、大隊長が戻り次第全隊へ伝達します。あなた達はこれより私達が戻るまで後ろにいる如月統括長の御子息を護衛して貰うわ」
「申し訳ないけど……命懸けでお願いね?」
「「了解ッ!」」
七緒と奏の言葉に八人が背筋を伸ばして覇気の籠った返事をする。
あの雰囲気なら多分大丈夫だろうと、和成はよろしくの意味を込めて八人に片手を振る。
そして……。
「奏、真弥、千紗……行くわよ」
「「「了解ッ!!」」」
「え? ――うぐッ!?」
指示と準備を終えて集まった四人。
すると突如背丈よりも高いフェンスで覆われているはずのベランダに突風が吹き荒れ、さらに目が眩む様な白い閃光が四人を包み込む。
ただ、それはほんの数秒にも満たない一瞬で、和成が思わず顔を隠していた腕を恐る恐る下ろすと、そこには新たにやって来た八人と同じく黒茶色のボディスーツに流線的なアーマーを合わせた嫁予定達の姿があった。
「じゃあ、和成。ちょっと行って来るわね」
青色いアーマーを纏っていた七緒が低く冷たい声で言い放って来るが、八人に背を向けてから小さく笑みを添えて来て、隣に立つ若草色の奏も身体で隠して小さく手を振って来た。
黄色の真弥はすでに戦闘モードの怖い顔だったが、それでも和成に小さくウインクして、薄紫色の千紗は少し不安なのか固い表情のまま一瞬チラリと和成を見るだけ。
そして、四人は和成ならきっと数cm浮く程度であろう軽い蹴り足で高々と宙に舞い、あっという間に夜の闇へと溶け消えて行った。
「ご子息……我々はこれより周囲の警戒に当たります。恐れ入りますが、本日はもう自室でお休みになられて下さい」
「どうかご安心を。あの四人は歴代トップクラスの【修正者】達ですから!」
「え? あ、はい……分かりました」
【修正者】
まるで知っていること前提で語られ内心困る和成だったが、とりあえずあの四人がとても強いことは伝わったので、和成は一応守られている訳だし、言われた通り自室へ戻りベッドに倒れ込む。
「くッ……なんだよッ! 明日で全部終わってたはずなのにッ! くそッ! くそッ! 頼むよみんな……さっさと御縁を殺して帰って来てくれ……」
明日の今頃には自分は未来へタイムトラベルしている。
楽しみにしていたのに、そこへ水を差す事態。
苛立ちに髪を掻き、何度も枕を叩いていた和成だったが、そこでふと司の顔を思い出す。
「まぁ……あんな奴に逆転なんて似合わないよな。やられ顔は大人しくやられてろっての」
頭の中でプロボクサーの様な華麗なステップとパンチで司を袋叩きにしてフィニッシュブローと同時に司は血反吐を撒き散らしてリングアウト。
自分は高々と拳を突き上げ、床に大の字に倒れた司を踏んで駆け寄って来た可愛い嫁予定達に抱き付かれながら大歓声を浴びる。
痛快な妄想で頭の中がじんわり気持ち良くなる。
すると段々眠気も出て来て、起きたら全て終わっていることを願い和成は眠りに付いた…………。
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