アナザー・リバース ~未来への逆襲~

峪房四季

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Scene2 盲目な正義

scene2-3 止め処ない欲 前編

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 複数の女性と交際関係を持つことは不貞な行為?
 そんな言葉を聞いた時、如月和成は「僻むなよ♪」と笑えて仕方なかった。

「真弥ちゃん、出来たわよ。テーブルに運んで!」

「はいよ~!」

「くふふ♪ 七姉ぇ、よわぁ~い♪」

「うぐぐッ! なんで亀の甲羅にあんな推進力があるのよ!? おかしいじゃない!!」

 芸能人やセレブが住んでいる様なコンシェルジュ付きの超高級マンション。
 その最上階にある一番豪華な部屋に海外の有名ブランド家具で統一された広々としたリビング。

 分かりやすいほどのまさに成功者の居室。
 そこで寛ぐ和成は、アイランド型キッチンで愛情たっぷりの手料理を作る奏と真弥、ソファーに座る自分を挟んで〝和成の膝の上に座りイチャイチャする権利〟を賭け、八十インチの大画面テレビでレースゲームをする七緒と千紗……誰もが羨む可愛い四人のと極上のハーレム生活を満喫していた。

「ほら、七緒、千紗、晩御飯出来たわよ~~!」

「あッ! 分かったわ! はい、ゲーム中断! ここまでの成績はリセットね!」

「あぁッ! 七姉ぇズルっこだぁ!!」

 ゲームをリセットして立ち上がる七緒と、あと少しで和成とイチャイチャする権利が掴めそうだった千紗の言い合いを苦笑しつつソファーから立ち上がった和成は、今日は陽が沈んでも蒸し暑いのでリビングに隣接した下界の平民達を見下ろすに最適な広いベランダで夕食を取るべく、自分の為に丹精込めて作られた手料理が並ぶウッドデッキの特等席に腰掛ける。
 すると……。

「よいしょ! はい、和兄ぃ♪ あ~ん!」

 しれっと和成の膝の上に跨り、まだ並べている最中の料理の中から和成が好きなおかずを摘まみ上げて差し出す千紗。

「あ~ん。むぐんぐ……うん、千紗ちゃんに食べさせて貰うともっとおいしくなるね!」

「きゃあ~ん♡」

「あ、こら和君! 摘まみ食いしな……って! 千紗ちゃん何してるのよ!」

「あああぁぁッ!? なんで千紗が和成の膝の上座ってんのよ!?」

「千紗ッ! まだ勝負は付いてないでしょ! 何を勝手に和成とイチャイチャ権利を使っているの!」

「「はぁ!? そんな勝負してたの聞いてない!!」」

 ニヤけ顔が止まらない和成を中心に見ているだけで胸焼けがしそうな空気。
 その後夕食が始まっても四人の美少女達は、皆自分の食事よりも和成に〝あ~ん〟を優先して彼の両脇の争奪戦が始まる。

(あはは……マジ最高! 僕って選ばれた者だよな~♪)

 だらしない本音は内心に隠しつつ、表面ではまるで雛鳥の様に自分の寵愛を求めて来る四人を〝平等に愛する包容力のある男子〟として振舞う和成。

 この至極のハーレムは、和成本人にとっても完全に棚ぼたに手にしたモノであり、事の発端は二年前ほどに遡る。

 当時高校を卒業した和成は、大学進学を機に一人暮らしを始めることになった。
 地元の友達と別れるのは少し寂しかったが、それよりも実家ではなかなか恥ずかしくて大っぴらに出来なかった少しエッチ路線なアイドルの推し活など、本命の学業そっちのけの一人暮らし無双に夢を膨らませて日々を過ごしていた。

 そんなある日、家探しに同行すると言う母親を年相応に鬱陶しがっていた和成だったが、街に着くやまるで宛があるかの様に母親に先導されて、この高級マンションに連れて来られた時は度肝を抜いた。

 和成の父は彼が高校へ上がる前に病死してしまい、女手一つで自分を育ててくれた母親。
 苦労を感じさせられることはなかったが、多分影で母親が頑張ってくれていたのだろうとそれなりに察していた和成だったが、それにしてもこんな上級国民が住む様な世界に顔が利くなんて夢にも思っていなかった。

 そして、実家の一軒家の倍はあろうかという広さの室内に目の色を変えてはしゃぎつつ「流石に持て余すのでは?」と思っていた和成をさらに驚愕させたのが、同居人として紹介された四人の美少女だった。

『初めまして、菖蒲あやめさんの息子さん……あ、あの、よろしく』

 最初に声を掛けて来たのは七緒だった。
 母の名前を呼ぶ当たりそれなりに見知った関係の様だが、当然和成とは初対面ではぎこちなく、千紗、真弥、奏に至っては明らかに和成を警戒していた。

 和成もこんな美少女達との同居とは一体どういうことなのかと母親に尋ねると〝男はどれだけ女に優しく出来るかで器が知れるのよ?〟という何の説明にもなっていない発破を掛けられ、なし崩しにそのまま五人での共同生活はスタートさせられた。

 確かに年頃の男子にとって、可愛い女の子と一つ屋根の下で暮らすなど妄想が現実になった様な出来事だが、流石に最初から喜べた訳ではない。
 隠れドルオタで、地元にいた頃は男友達と馬鹿ばかりして来て彼女など一度も出来たことはなく、話せる女性は母親か地元の幼馴染で口うるさい真面目委員長ちゃんくらいの和成には、一体どうすればいいかも分からぬ手探り状態。

 だが、四人の少女達はどうやら母親に何か恩義あるらしく、その息子である和成にもやけに低姿勢で接して来る。そして、徐々に最初のインパクトが薄れて来ると、和成の中でも次第に自分が推してたアイドルなど足下にも及ばない四人の美しさに鼻の下が伸び始めていく。

 据え膳喰わぬはなんとやら。
 和成はこのチャンスをモノにするべく四人との距離を縮めて行こうとしたが、そうしている内にこの四人が少々特殊であることに気付き始めた。
 それは四人がそれぞれ極度のトラウマ持ちであり、その度合いは日常生活に支障が出るレベルのモノだった。

 普段クールで物腰の落ち着いた四人のリーダー格である七緒は暗闇を極端に嫌った。
 ある日の夜に和成が間違って明かりを消してしまい部屋が真っ暗になると、その瞬間急に錯乱して泣き喚き和成が慌てて明かりを戻すと、七緒は部屋の片隅でガタガタと歯を鳴らしながら泣きじゃくり両手で頭を抱えて震えていた。

 奏は他者との接触を極端に避ける。
 家の中の廊下で和成とすれ違う時にちょっと肩が触れそうになるだけで悲鳴を上げて飛び退いて床に倒れ込み、何度も「ごめんなさい」を繰り返して困惑する和成が手を伸ばそうとするとさらに激しく拒絶して来た。

 千紗は視線の高さに極めて敏感で、彼女の目線が低い状況で隣に立ってしまうと血走った目で襲い掛かられて殴られたり引っ掻かれたりする。
 そして、四人の中では比較的程度は浅い真弥も、圧迫的な空間……身近な所で言えば人ごみに囲まれることなどを頑なに避けて電車もバスも絶対に使わない。

 今まで女性の機微になどまるで読めなかった和成だったが、それでも彼女達が何らかの辛い経験をしてきたのだ察し、この不可解な同居生活をお膳立てした母親は、きっと自分にこの四人と関わることでそのトラウマをどうにか克服させてやって欲しいという意図があるのだと理解した。
 何の興味も無い者が相手なら随分な厄介事だが、こんな美少女達ならば話は別。

 和成は意気揚々と行動を開始するが、そうは言ってもトラウマに心理的なアプローチする術など分かる訳がなく、結果、和成の行動は殆ど体当たりの様な手段になる。

『何……してるの?』

『あ、気にしないで! 最近ハマってるんだよね!』

 見下ろされることを怖がる千紗のために、彼女の周囲ではいつも匍匐前進で過ごした。

『あ、あの……和成……さん?』

『はぁ……はぁ……い、いやぁ……今日は寒いね! ははは……』

 接触を恐れる奏には、力士かと思うほどに服を着込み、何枚も軍手を重ねた手で握手を促した。

『あなた……それは一体何の真似?』

『どう? 綺麗でしょ! ピッカピカでさ! う、うわぁッ!?』

 暗闇を嫌う七緒には、クリスマスツリーのワイヤーランプを全身に巻いて、何度も足を縺れさせ全身痣だらけになった。

『あんた、ホント頭悪いわよね?』

 真弥のトラウマは周囲環境的な物でなかなか対応のしようがなかったが、和成の奇行に彼が自分達のために頑張ろうとしていることを理解して、意外にも真っ先に和成の協力者になってくれた。
 そうして悪戦苦闘しながらも、和成の行動は徐々に四人の心の傷を癒していく。

『え? ど、どうしたの? 千紗ちゃん』

『うっさい……別に、ただそういう気分なだけだもん』

 千紗は家中を這いずり回る和成と視線を合わせる様に一緒に床に寝そべり、恐る恐る和成が先に起き上がってもつぶらな瞳で見上げて来るだけで襲い掛かって来なくなった。

『あはは……握れたね』

『は、はい……あはは……あ、握手……出来ました』

 奏は一枚ずつ軍手を外して、ついに直に和成と握手を交わせた。

『ご、ごめん……頑張って再現しようとはしたんだけど……』

『うぅん、すごく綺麗……ありがと』

 七緒は和成と手を繋ぎ、部屋を真っ暗にして穴を開けた厚紙の筒とランタンで作ったプラネタリウムを見た。

 一人一人がトラウマを克服する度に、まるで自分のことの様に和成ははしゃいだ。
 馬鹿馬鹿しくてくだらない方法の数々。だが、そこには自分のことを本気で思ってくれる彼の優しさが感じた四人は、次第に和成に心を開いて行く様になった…………。
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