49 / 55
49
しおりを挟む
大きく力強い目が、じっと心を見据えた。真っ直ぐで澱みない、静の全てを物語る瞳。
「俺が、どうしたいんか…」
まさか、返されるとは思わなかったのか心がフッと笑った。
心を目の前にして、怯むことなく目を合わせてくる人間はどれくらい居ただろうか。
静は初めからそうだった。心に対して恐怖もなく諂うこともなく。そして、極道と知れば怯むことなく喧嘩上等。
静が他の人間と違うと思ったのは、この折れることも緩むこともない真っ直ぐな芯の強さ。
躊躇いも迷いも恐怖もない。それが吉良 静。
心は少しばかり目を細めると、フッと笑った。
「強制はしたない」
「うん?」
「好きや」
「うん…え?は?」
一瞬、何を言われたのかわからずに、呆ける。言われた言葉を反芻してみて、カッと顔に血が昇った。
「…真っ赤」
ククッと笑われ、スッと伸びて来た指に頬を突かれる。
「う、うるさい」
パシッと手を払い除け、そうしたところで変わらない顔を擦った。
「俺は何かもう、ずっと極道やから。普通が分からん」
珍しくよく喋るなと思いながら、静は首を傾げた。
「…普通」
心の言う、普通とは何だろう?
静の歩んできた今までの長いとは言えない人生は、普通だろうか。いや、きっと普通とは言わないだろう。
では、大学で静と同じ講義を受けている学生はどうだ?
強いて言えば、両親は揃っていないといけないのか?
揃っていても、例えば父親がリストラされてたりしたら?
母親がキッチンドラッカーだったら?不倫していたら?兄弟がグレてたら?
どこからどこまでが普通で、どこからどこまでが普通じゃないのか。
そんなもの、きっと基準もなければ決まりもない。人それぞれの人生がある様に、人それぞれの捉え方があるはずだ。
「そんなの…俺にもわかんねーよ。普通ってなんだよ」
結局、答えが出なくて静は口を尖らした。
「せやな。俺も彪鷹も…成田も他の組員も、極道に関わる家の人間やった。相馬かてそうや…。ああ、崎山はちゃうけど。やから普通が分からん。ただ、普通は極道は忌み嫌われる人種やていうんは分かる。静は特に…嫌がるんは分かる。しかも俺に関わるんはリスクが大きい。強制は出来んし、する気はあらへん」
「…珍しく、よく喋ると思ったら」
普通とはそういう普通か。普通の人は、”極道”には関わらないという”普通”。
傲岸不遜で得手勝手なくせに他人の事を気遣うなんて、明日は槍でも降るのか。
「大多喜組で一度、ボコられてさ。なんだっけ?男が男に身体売る専門の店。そこに売られそうになった」
静の突然の告白に、心の顳かみがピクリと動いた。
「外見はこんなんだけど男だから、殴られたところで痛みが少しあるくらいで」
静は話ながら心の手を取った。前も思ったが、指の長い綺麗な手だ。大きくて、節がゴツゴツしてなくて心の身体同様、すらりとしている。
ところどころ傷があるのが心らしい。そんなことを思いながら、静は話し続けた。
「親父が自殺したばっかで、ちょっと感覚が鈍ってて、痛みにも鈍ってて。痛みで身体が動かないとかの感覚が麻痺してたおかげで、隙を見て逃げれた。それに、逃げるために桟橋から海にジャンプしたこともある」
「…桟橋?」
「俺は、弱くないよ」
ギュッと心の手を握った。
年下なんて嘘だろと思っていたが、時折見せる目がたまに幼い。それに獰猛な瞳の中に一瞬だけ垣間見える、静にしか分からない隙がある。それが可愛いと思う。
可愛いなんてきっと世界一似合わない形容詞だが、可愛いのだ。
静は心の手を握りながら、心の迷いを感じた。
心の言う”厄介な奴”が、恐らく、眞澄や他の組とは度合いが違うのだろう。そして、本気の殺意を持っている相手だ。
ここは年上の俺が汲んでやらないとなと、静はにっこりと微笑んだ。
「…俺も、心が好きだよ」
瞬間、獰猛な猛獣が牙を剥いた。
引き寄せられたと思ったら、床に強かに背中を打ち付けた。
きっと出逢った時に捕まってた。唯我独尊で豪放磊落で、でもやる気がなくて、でも、存在だけで皆を平伏せさせる百獣の王。
ギュッと抱き締められ、喉笛に痛みが出るくらいに吸い付かれる。喰われると錯覚しそうな感覚。
そこもライオンかと笑いそうになった。だが必死だと身体から伝わる。
これ以上、進まないように、心が自分の獰猛な理性と闘ってる。傷つけたくないと、己と闘ってる。
「心…」
広い背中におずおずと手を回す。
欲しがっているのはどっちだ?
「…来いよ」
静が耳元で囁いた。
口づけは静の全てを吸いとるようで、息つく暇さえなかった。歯列を舐めあげられ、驚いて縮こまる舌を絡みとられる。
押し倒され、尚且つ抱き締められれば身動き一つ取れない。その身体の服の下から心の手が入り込む。
大食漢だが平均体重より下。どちらかと言えば痩せすぎ。もちろん、たわわに実った果実のような膨らみのある胸なんてない。
来いと言ったものの、自分の身体の造形に血の気が引いた。
「…っやだ」
無理矢理に顔を背けて拒絶。
来いと言いながら、嫌だとは何事だと思いながらも嫌なものは嫌。無理なものは無理。
「ちょ…ちょっと待って!!」
「…なにが」
静の拒絶に、心は怯むことなく服の下を弄る。
背中に回った手が、天使の羽のような肩甲骨をするりと撫でた。
「ま、待って!待て、待て!!」
犬にでも言う様に言う。それに、ぐぐっと喉を鳴らすところは野獣そのもの。
食べてくださいと腹を見せる草食獣を目の前に、肉食獣が我慢出来るわけもなく。それでも静は精一杯、拒んでみせた。
「お、俺、無理」
「アホか、俺が無理じゃ」
腰を抱いてた方の手が、静の背中に回り腕を掴み後ろ手に回す。
「あっ!?」
力も身体も圧倒的に上。静の身体の自由を奪う事なんて、心にとっては朝飯前だ。
「…ようやく抱けるってなったのんを、無理で止めれるか。俺が今まで我慢した褒美くらい寄越せ」
「褒美って…!俺、男だぞ」
何を今更。来いと言っておいて、俺、男だぞとは支離滅裂だと自分でも思った。
でも、とりあえず、そんな言葉しか浮かばなかった。
「…この、どあほうが」
獣が唸るように言ったかと思えば、拘束された腕が離され一気にシャツを剥ぎ取られる。
暗くもない、どちらかと言えば明るい部屋で開け放たれた窓からは青空。
その青空の見える部屋で上半身を裸にされ、羞恥で身体が赤く染まった。
「諦めろ」
獣が呟いた。
「ちょっ!…あっ」
まるで捕獲した獲物を味見するように、腰をベロリと舐められる。
抵抗する手をそれぞれ心の手に掴まれた、身動きが取れない中、腹に噛みつかれた。
「痛い!!!」
なに!?本気で食べる気か!?ジクジク痛む噛み痕を舐められる。
小さな痛みが走り、腰が逃げた。
下を見れば、もしかして血塗れなんじゃないかと思ったが、まさかそんなことはなかった。
だが、痛みのある場所はじんわり血が滲んでいた。
恨めしそうに見る静の目を見ながら、心が歯で静のジーンズのボタンを外し、チャックを下ろす。
「あ…っ!バカ!」
言っても手は押さえられたまま。お互いが、両手を使えなかった。
ちゅうっと腰骨辺りを吸われる。ガクンと腰が落ちた。
ざわざわと落ち着かない。腰で履いた下着の隙間に舌を入れられ、ゾクッとする。
下着のラインに合わせ、舌を這わされ抑えきれない声が漏れた。
「…し、心っ!!」
臍の下を吸われ、ぐっと息を詰める。心拍数が異常なほど上昇して、呼吸が忙しない。
ふっと自分の姿を思い浮かべて、ぎゅーっと目を瞑った。中途半端。脱がされたのは上の服だけ。下は前を寛げたジーンズをがっちり履いている。
女じゃあるまいし、上半身裸にヤダ!なんて気持ちの悪い悲鳴はあげたりしない。だが、両手を拘束されて臍周りや腰を甘噛みされて、落ち着かない。
「う、あぁ…」
口を開けるとあえかな声が漏れる。
ちゅうっと臍の下を吸われたとき、心の顎が静の下着を持ち上げる熱を刺激して身体が跳ねた。
「し、心!!や!!ここは嫌だ!!」
横を見れば、広大に広がる庭。そよそよと場違いな風まで吹き込んで、居心地の悪さは半端ない。
ばたばたと足をバタつかして暴れ出した静に、心はやれやれとばかりに拘束している手を離した。
瞬間、静は起き上がり服を戻そうとしたのだが、そのまま米俵の様に心に担ぎ上げられた。
「ちょ、ちょっと!!」
「ここは嫌なぁ。まぁ、初めてで床は色気ないよな」
色気があるとかないとか、そ、そんなもの、求めてないよ!!
心は静を担いだまま、廊下をどんどん進む。担がれながら目に入る、小さな中庭。
紅葉の木が一本。それと水琴窟。小さい空間ながら、その醸し出す風情には息を呑む。
「おい!!」
落ち着かない。上半身裸で、心許ないジーンズを何とか履いて肩に担がれて。
何だこれ、どうなんだこれ。
ふっと、廊下の幅が狭くなった。振り返れば、格子が見えた。心は千本格子のそれをカラカラ開けて、まだ中に進む。
木の香りが鼻をくすぐる。何畳あるのか検討もつかない部屋を更に奥に進んでいく。
荷物状態の静は暴れることも何か言うこともなく、次々現れる部屋の素晴らしさに圧倒されていた。
数寄を凝らした和をベースにした部屋。そこだけ段差のついた和室には、天井から伸びた棒が飾り棚をオブジェの様に演出していた。
部屋のどこにも古めかしさはない。だが真新しさもない。古さと新しさを融合させたそこ。
と、急に視界が暗くなった。振り返ると照明の落とされた部屋。
あ…と思った時には、静の身体は宙に舞っていた。
衝撃を全て吸収するベッドに身体が落とされ、慌てて起き上がると心が静の唇を奪った。ちゅっと吸われて、離れたと思ったら唇をペロリと舐められる。
獣が味見をするようなそれを繰り返され、ぎろり睨むと心が笑った。
「あそこであのまま…ヤラれるかと思った」
「それもええけど、やっぱり誰にも見せたくない」
「あ?」
「…例えば、空にも」
そう言って、心は静の肩を緩く押す。それに静が応えるように、身体を倒した。
「俺が、どうしたいんか…」
まさか、返されるとは思わなかったのか心がフッと笑った。
心を目の前にして、怯むことなく目を合わせてくる人間はどれくらい居ただろうか。
静は初めからそうだった。心に対して恐怖もなく諂うこともなく。そして、極道と知れば怯むことなく喧嘩上等。
静が他の人間と違うと思ったのは、この折れることも緩むこともない真っ直ぐな芯の強さ。
躊躇いも迷いも恐怖もない。それが吉良 静。
心は少しばかり目を細めると、フッと笑った。
「強制はしたない」
「うん?」
「好きや」
「うん…え?は?」
一瞬、何を言われたのかわからずに、呆ける。言われた言葉を反芻してみて、カッと顔に血が昇った。
「…真っ赤」
ククッと笑われ、スッと伸びて来た指に頬を突かれる。
「う、うるさい」
パシッと手を払い除け、そうしたところで変わらない顔を擦った。
「俺は何かもう、ずっと極道やから。普通が分からん」
珍しくよく喋るなと思いながら、静は首を傾げた。
「…普通」
心の言う、普通とは何だろう?
静の歩んできた今までの長いとは言えない人生は、普通だろうか。いや、きっと普通とは言わないだろう。
では、大学で静と同じ講義を受けている学生はどうだ?
強いて言えば、両親は揃っていないといけないのか?
揃っていても、例えば父親がリストラされてたりしたら?
母親がキッチンドラッカーだったら?不倫していたら?兄弟がグレてたら?
どこからどこまでが普通で、どこからどこまでが普通じゃないのか。
そんなもの、きっと基準もなければ決まりもない。人それぞれの人生がある様に、人それぞれの捉え方があるはずだ。
「そんなの…俺にもわかんねーよ。普通ってなんだよ」
結局、答えが出なくて静は口を尖らした。
「せやな。俺も彪鷹も…成田も他の組員も、極道に関わる家の人間やった。相馬かてそうや…。ああ、崎山はちゃうけど。やから普通が分からん。ただ、普通は極道は忌み嫌われる人種やていうんは分かる。静は特に…嫌がるんは分かる。しかも俺に関わるんはリスクが大きい。強制は出来んし、する気はあらへん」
「…珍しく、よく喋ると思ったら」
普通とはそういう普通か。普通の人は、”極道”には関わらないという”普通”。
傲岸不遜で得手勝手なくせに他人の事を気遣うなんて、明日は槍でも降るのか。
「大多喜組で一度、ボコられてさ。なんだっけ?男が男に身体売る専門の店。そこに売られそうになった」
静の突然の告白に、心の顳かみがピクリと動いた。
「外見はこんなんだけど男だから、殴られたところで痛みが少しあるくらいで」
静は話ながら心の手を取った。前も思ったが、指の長い綺麗な手だ。大きくて、節がゴツゴツしてなくて心の身体同様、すらりとしている。
ところどころ傷があるのが心らしい。そんなことを思いながら、静は話し続けた。
「親父が自殺したばっかで、ちょっと感覚が鈍ってて、痛みにも鈍ってて。痛みで身体が動かないとかの感覚が麻痺してたおかげで、隙を見て逃げれた。それに、逃げるために桟橋から海にジャンプしたこともある」
「…桟橋?」
「俺は、弱くないよ」
ギュッと心の手を握った。
年下なんて嘘だろと思っていたが、時折見せる目がたまに幼い。それに獰猛な瞳の中に一瞬だけ垣間見える、静にしか分からない隙がある。それが可愛いと思う。
可愛いなんてきっと世界一似合わない形容詞だが、可愛いのだ。
静は心の手を握りながら、心の迷いを感じた。
心の言う”厄介な奴”が、恐らく、眞澄や他の組とは度合いが違うのだろう。そして、本気の殺意を持っている相手だ。
ここは年上の俺が汲んでやらないとなと、静はにっこりと微笑んだ。
「…俺も、心が好きだよ」
瞬間、獰猛な猛獣が牙を剥いた。
引き寄せられたと思ったら、床に強かに背中を打ち付けた。
きっと出逢った時に捕まってた。唯我独尊で豪放磊落で、でもやる気がなくて、でも、存在だけで皆を平伏せさせる百獣の王。
ギュッと抱き締められ、喉笛に痛みが出るくらいに吸い付かれる。喰われると錯覚しそうな感覚。
そこもライオンかと笑いそうになった。だが必死だと身体から伝わる。
これ以上、進まないように、心が自分の獰猛な理性と闘ってる。傷つけたくないと、己と闘ってる。
「心…」
広い背中におずおずと手を回す。
欲しがっているのはどっちだ?
「…来いよ」
静が耳元で囁いた。
口づけは静の全てを吸いとるようで、息つく暇さえなかった。歯列を舐めあげられ、驚いて縮こまる舌を絡みとられる。
押し倒され、尚且つ抱き締められれば身動き一つ取れない。その身体の服の下から心の手が入り込む。
大食漢だが平均体重より下。どちらかと言えば痩せすぎ。もちろん、たわわに実った果実のような膨らみのある胸なんてない。
来いと言ったものの、自分の身体の造形に血の気が引いた。
「…っやだ」
無理矢理に顔を背けて拒絶。
来いと言いながら、嫌だとは何事だと思いながらも嫌なものは嫌。無理なものは無理。
「ちょ…ちょっと待って!!」
「…なにが」
静の拒絶に、心は怯むことなく服の下を弄る。
背中に回った手が、天使の羽のような肩甲骨をするりと撫でた。
「ま、待って!待て、待て!!」
犬にでも言う様に言う。それに、ぐぐっと喉を鳴らすところは野獣そのもの。
食べてくださいと腹を見せる草食獣を目の前に、肉食獣が我慢出来るわけもなく。それでも静は精一杯、拒んでみせた。
「お、俺、無理」
「アホか、俺が無理じゃ」
腰を抱いてた方の手が、静の背中に回り腕を掴み後ろ手に回す。
「あっ!?」
力も身体も圧倒的に上。静の身体の自由を奪う事なんて、心にとっては朝飯前だ。
「…ようやく抱けるってなったのんを、無理で止めれるか。俺が今まで我慢した褒美くらい寄越せ」
「褒美って…!俺、男だぞ」
何を今更。来いと言っておいて、俺、男だぞとは支離滅裂だと自分でも思った。
でも、とりあえず、そんな言葉しか浮かばなかった。
「…この、どあほうが」
獣が唸るように言ったかと思えば、拘束された腕が離され一気にシャツを剥ぎ取られる。
暗くもない、どちらかと言えば明るい部屋で開け放たれた窓からは青空。
その青空の見える部屋で上半身を裸にされ、羞恥で身体が赤く染まった。
「諦めろ」
獣が呟いた。
「ちょっ!…あっ」
まるで捕獲した獲物を味見するように、腰をベロリと舐められる。
抵抗する手をそれぞれ心の手に掴まれた、身動きが取れない中、腹に噛みつかれた。
「痛い!!!」
なに!?本気で食べる気か!?ジクジク痛む噛み痕を舐められる。
小さな痛みが走り、腰が逃げた。
下を見れば、もしかして血塗れなんじゃないかと思ったが、まさかそんなことはなかった。
だが、痛みのある場所はじんわり血が滲んでいた。
恨めしそうに見る静の目を見ながら、心が歯で静のジーンズのボタンを外し、チャックを下ろす。
「あ…っ!バカ!」
言っても手は押さえられたまま。お互いが、両手を使えなかった。
ちゅうっと腰骨辺りを吸われる。ガクンと腰が落ちた。
ざわざわと落ち着かない。腰で履いた下着の隙間に舌を入れられ、ゾクッとする。
下着のラインに合わせ、舌を這わされ抑えきれない声が漏れた。
「…し、心っ!!」
臍の下を吸われ、ぐっと息を詰める。心拍数が異常なほど上昇して、呼吸が忙しない。
ふっと自分の姿を思い浮かべて、ぎゅーっと目を瞑った。中途半端。脱がされたのは上の服だけ。下は前を寛げたジーンズをがっちり履いている。
女じゃあるまいし、上半身裸にヤダ!なんて気持ちの悪い悲鳴はあげたりしない。だが、両手を拘束されて臍周りや腰を甘噛みされて、落ち着かない。
「う、あぁ…」
口を開けるとあえかな声が漏れる。
ちゅうっと臍の下を吸われたとき、心の顎が静の下着を持ち上げる熱を刺激して身体が跳ねた。
「し、心!!や!!ここは嫌だ!!」
横を見れば、広大に広がる庭。そよそよと場違いな風まで吹き込んで、居心地の悪さは半端ない。
ばたばたと足をバタつかして暴れ出した静に、心はやれやれとばかりに拘束している手を離した。
瞬間、静は起き上がり服を戻そうとしたのだが、そのまま米俵の様に心に担ぎ上げられた。
「ちょ、ちょっと!!」
「ここは嫌なぁ。まぁ、初めてで床は色気ないよな」
色気があるとかないとか、そ、そんなもの、求めてないよ!!
心は静を担いだまま、廊下をどんどん進む。担がれながら目に入る、小さな中庭。
紅葉の木が一本。それと水琴窟。小さい空間ながら、その醸し出す風情には息を呑む。
「おい!!」
落ち着かない。上半身裸で、心許ないジーンズを何とか履いて肩に担がれて。
何だこれ、どうなんだこれ。
ふっと、廊下の幅が狭くなった。振り返れば、格子が見えた。心は千本格子のそれをカラカラ開けて、まだ中に進む。
木の香りが鼻をくすぐる。何畳あるのか検討もつかない部屋を更に奥に進んでいく。
荷物状態の静は暴れることも何か言うこともなく、次々現れる部屋の素晴らしさに圧倒されていた。
数寄を凝らした和をベースにした部屋。そこだけ段差のついた和室には、天井から伸びた棒が飾り棚をオブジェの様に演出していた。
部屋のどこにも古めかしさはない。だが真新しさもない。古さと新しさを融合させたそこ。
と、急に視界が暗くなった。振り返ると照明の落とされた部屋。
あ…と思った時には、静の身体は宙に舞っていた。
衝撃を全て吸収するベッドに身体が落とされ、慌てて起き上がると心が静の唇を奪った。ちゅっと吸われて、離れたと思ったら唇をペロリと舐められる。
獣が味見をするようなそれを繰り返され、ぎろり睨むと心が笑った。
「あそこであのまま…ヤラれるかと思った」
「それもええけど、やっぱり誰にも見せたくない」
「あ?」
「…例えば、空にも」
そう言って、心は静の肩を緩く押す。それに静が応えるように、身体を倒した。
1
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
君知る春の宵 ~極道とリーマンが×××!?〜
いつうみ
BL
ある春の朝、誤解からヤクザに拉致された新人サラリーマン桜井 春人(さくらい はると)。
偶然出会った極道の若頭、東藤 龍巳(とうどう たつみ)と互いに惹かれ合いながらも、一歩踏み出せない。
そんな時、春人の会社が不渡を出してしまい……。
ーーーーーーーーーーーー
ヤクザ×リーマン
極道×天然 年上×年下
極道モノBLの王道を目指しました。
※誤字脱字報告、いただけたら助かります!
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
出産は一番の快楽
及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。
とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。
【注意事項】
*受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。
*寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め
*倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意
*軽く出産シーン有り
*ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り
続編)
*近親相姦・母子相姦要素有り
*奇形発言注意
*カニバリズム発言有り
彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた
おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。
それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。
俺の自慢の兄だった。
高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。
「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」
俺は兄にめちゃくちゃにされた。
※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。
※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。
※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。
※こんなタイトルですが、愛はあります。
※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。
※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる