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幕間その4〜決戦・日本シリーズ!オリックス対阪神〜その⑥
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11月3日(金)
《パブリックビューイング 入場無料券》
SMBC日本シリーズ2023
オリックス・バファローズ VS 阪神タイガース
阪神甲子園球場
2023年11月4日(土)
17:30開場 18:30開演
グリーンシート 14段 163番
ローソンの端末で発券されたチケットの券面を眺めた僕は、感慨に浸る。
第5戦の試合終了後に発表された甲子園球場のパブリック・ビューイングの入場券は、発売までの告知時間が12時間程度だったにもかかわらず、わずか15分たらずで完売(という表現は正しいのだろうか?)してしまった。
「38年ぶりの日本一の瞬間を聖地甲子園で見届けたい」
という想いを持ったファンは数多くいたのか、無料入場券でありながら、このチケットは軒並み1席1万円以上の価格でネット上のリセールサイトに出回っていたという。
僕が、プラチナチケット化したこの入場券を手にすることが出来たのは、奈緒美さんのおかげと言って良い。
「オンライン販売でのチケット争奪戦になるなら、PCを利用したほうが良いよ」
という彼女の言葉どおり、自宅からスマホでチケットサイトにアクセスした僕は、何度リロードしても、発売サイトまでたどり着けず、完売の報告を待つしかなかった一方で、奈緒美さんは、発売開始から数分でチケットを確保できたそうだ。
「数々のチケット争奪戦をくぐり抜けて来た私の実力を侮ってもらってわ困るよ、虎太郎くん」
2枚のチケットの発券手続きをしながらドヤ顔で語る彼女に対し、平身低頭して、
「お願いします。ぜひ、一緒に行かせていただけないでしょうか?」
と、懇願すると、彼女は、
「うん、苦しゅうない……ただし、ビールは、虎太郎くんの奢りね」
と言って、クスクスと笑った。
※
11月4日(土)
夕刻の甲子園球場は、独特の雰囲気を醸し出している。
試合が行われないにもかかわらず、球場周辺は、ハッピやレプリカユニフォームを着たファンが数多く見られ、駅前の公式グッズショップには長蛇の列ができ、ショッピングモールの地下にあるスーパーマーケットも食材を求める人たちでゴッタ返していた。
「お昼の試合とは、また違った趣があるんだね」
彼女が口にしたことで、あらためて気づいたのだけど、そう言えば、奈緒美さんとナイトゲームの観戦(と言っても目の前で試合が行われる訳じゃないが……)に来るのは初めてだった。
「昼間のデイ・ゲームも良いけど、僕は、断然ナイトゲームの方が好きかな?」
そう答えると、隣の彼女は、
「そうね! 夜のほうがビールも美味しそうだし」
と言って微笑む。
もちろん、その意見も否定しがたいけれど、僕としてはカクテル光線に美しく照らされる天然芝と土のグラウンドや、暗闇に映えるスコアボードの存在感にも目を向けてもらいたい。
ただ、それは、スタジアムの中に入らないと実感できないものだ。
ショッピングモール地下のスーパーでカツサンドを購入し、ゲン担ぎにも万全を期して、僕たちはスタジアムに向かう。
入場門をくぐり、バックネット裏の観客席に腰を落ち着けると、カクテル光線に照らされた美しい天然芝と黒土のグラウンド、そして、両チームの先発メンバーが記された巨大な電光掲示板という僕にとっては見慣れた光景が目に入ってきた。内野席も、空席はほとんどなく、多くのファンが試合開始を楽しみにしているようだ。
ただ、いつもの光景と異なっているのは、アルプススタンドと外野席、そして、グラウンド内には、人が居ないということだ。
それでも、目の前で試合が行われるわけでもないのに、1万3千人以上ものファンがここに集っていることは、注目に値するだろう。
「パブリック・ビューイングだけで、これだけの人が集まるなんて、スゴいね……」
と、彼女は感嘆の声を漏らす。
「球場までの運賃収入や応援グッズとビールの売り上げを考えると、無料入場でも阪神電鉄グループにとっては、美味しい企画かも知れないよね」
僕が同意すると、奈緒美さんはうなずく。
「映画館で観覧できるライブビューイングでも、1か所で、これだけのお客さんを集めるのは難しいよね……」
「多分、応援の熱量も、ライブビューイングに負けていないと思いますよ」
僕が、普段は内野席ではなく、ライトスタンドに陣取っていそうな周囲のファンの皆さんに敬意を込めて説明すると、その言葉どおり、試合が始まると、1回裏の木浪のファインプレーから、観客席のボルテージは上がり始め、直後の2回表のノイジーの先制ホームランと、続く二死満塁のチャンスで、スタンドの盛り上がりは、最高潮に達した――――――。
【本日の試合結果】
プロ野球日本選手権シリーズ オリックス 対 阪神 第6戦
オリックス 5ー1 阪神
両チームの先発は、第1戦と同じく、バファローズが山本由伸、タイガースは村上頌樹。試合は、早くも2回に動く。
タイガースが、シェルドン・ノイジーのライトポール際に飛び込むソロホームランで先制すると、その裏、バファローズは、若月健矢のタイムリーと中川圭太の犠牲フライで逆転。
さらに、5回裏には、紅林弘太郎の2ランホームラン、8回裏には頓宮裕真のソロホームランで、バファローズがタイガースを突き放す。
投げては、山本由伸が、タイガース打線をのノイジーのホームランによる1失点に抑え、14奪三振で完投勝利。
バファローズが、シリーズ逆王手を掛けた。
◎11月4日終了時点の日本選手権シリーズ成績
阪神タイガース 3勝
オリックスバファローズ 3勝
《パブリックビューイング 入場無料券》
SMBC日本シリーズ2023
オリックス・バファローズ VS 阪神タイガース
阪神甲子園球場
2023年11月4日(土)
17:30開場 18:30開演
グリーンシート 14段 163番
ローソンの端末で発券されたチケットの券面を眺めた僕は、感慨に浸る。
第5戦の試合終了後に発表された甲子園球場のパブリック・ビューイングの入場券は、発売までの告知時間が12時間程度だったにもかかわらず、わずか15分たらずで完売(という表現は正しいのだろうか?)してしまった。
「38年ぶりの日本一の瞬間を聖地甲子園で見届けたい」
という想いを持ったファンは数多くいたのか、無料入場券でありながら、このチケットは軒並み1席1万円以上の価格でネット上のリセールサイトに出回っていたという。
僕が、プラチナチケット化したこの入場券を手にすることが出来たのは、奈緒美さんのおかげと言って良い。
「オンライン販売でのチケット争奪戦になるなら、PCを利用したほうが良いよ」
という彼女の言葉どおり、自宅からスマホでチケットサイトにアクセスした僕は、何度リロードしても、発売サイトまでたどり着けず、完売の報告を待つしかなかった一方で、奈緒美さんは、発売開始から数分でチケットを確保できたそうだ。
「数々のチケット争奪戦をくぐり抜けて来た私の実力を侮ってもらってわ困るよ、虎太郎くん」
2枚のチケットの発券手続きをしながらドヤ顔で語る彼女に対し、平身低頭して、
「お願いします。ぜひ、一緒に行かせていただけないでしょうか?」
と、懇願すると、彼女は、
「うん、苦しゅうない……ただし、ビールは、虎太郎くんの奢りね」
と言って、クスクスと笑った。
※
11月4日(土)
夕刻の甲子園球場は、独特の雰囲気を醸し出している。
試合が行われないにもかかわらず、球場周辺は、ハッピやレプリカユニフォームを着たファンが数多く見られ、駅前の公式グッズショップには長蛇の列ができ、ショッピングモールの地下にあるスーパーマーケットも食材を求める人たちでゴッタ返していた。
「お昼の試合とは、また違った趣があるんだね」
彼女が口にしたことで、あらためて気づいたのだけど、そう言えば、奈緒美さんとナイトゲームの観戦(と言っても目の前で試合が行われる訳じゃないが……)に来るのは初めてだった。
「昼間のデイ・ゲームも良いけど、僕は、断然ナイトゲームの方が好きかな?」
そう答えると、隣の彼女は、
「そうね! 夜のほうがビールも美味しそうだし」
と言って微笑む。
もちろん、その意見も否定しがたいけれど、僕としてはカクテル光線に美しく照らされる天然芝と土のグラウンドや、暗闇に映えるスコアボードの存在感にも目を向けてもらいたい。
ただ、それは、スタジアムの中に入らないと実感できないものだ。
ショッピングモール地下のスーパーでカツサンドを購入し、ゲン担ぎにも万全を期して、僕たちはスタジアムに向かう。
入場門をくぐり、バックネット裏の観客席に腰を落ち着けると、カクテル光線に照らされた美しい天然芝と黒土のグラウンド、そして、両チームの先発メンバーが記された巨大な電光掲示板という僕にとっては見慣れた光景が目に入ってきた。内野席も、空席はほとんどなく、多くのファンが試合開始を楽しみにしているようだ。
ただ、いつもの光景と異なっているのは、アルプススタンドと外野席、そして、グラウンド内には、人が居ないということだ。
それでも、目の前で試合が行われるわけでもないのに、1万3千人以上ものファンがここに集っていることは、注目に値するだろう。
「パブリック・ビューイングだけで、これだけの人が集まるなんて、スゴいね……」
と、彼女は感嘆の声を漏らす。
「球場までの運賃収入や応援グッズとビールの売り上げを考えると、無料入場でも阪神電鉄グループにとっては、美味しい企画かも知れないよね」
僕が同意すると、奈緒美さんはうなずく。
「映画館で観覧できるライブビューイングでも、1か所で、これだけのお客さんを集めるのは難しいよね……」
「多分、応援の熱量も、ライブビューイングに負けていないと思いますよ」
僕が、普段は内野席ではなく、ライトスタンドに陣取っていそうな周囲のファンの皆さんに敬意を込めて説明すると、その言葉どおり、試合が始まると、1回裏の木浪のファインプレーから、観客席のボルテージは上がり始め、直後の2回表のノイジーの先制ホームランと、続く二死満塁のチャンスで、スタンドの盛り上がりは、最高潮に達した――――――。
【本日の試合結果】
プロ野球日本選手権シリーズ オリックス 対 阪神 第6戦
オリックス 5ー1 阪神
両チームの先発は、第1戦と同じく、バファローズが山本由伸、タイガースは村上頌樹。試合は、早くも2回に動く。
タイガースが、シェルドン・ノイジーのライトポール際に飛び込むソロホームランで先制すると、その裏、バファローズは、若月健矢のタイムリーと中川圭太の犠牲フライで逆転。
さらに、5回裏には、紅林弘太郎の2ランホームラン、8回裏には頓宮裕真のソロホームランで、バファローズがタイガースを突き放す。
投げては、山本由伸が、タイガース打線をのノイジーのホームランによる1失点に抑え、14奪三振で完投勝利。
バファローズが、シリーズ逆王手を掛けた。
◎11月4日終了時点の日本選手権シリーズ成績
阪神タイガース 3勝
オリックスバファローズ 3勝
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