僕のペナントライフ

遊馬友仁

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第4幕・ARE(アレ)の章〜⑦〜

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 9月3日(日)

「今年のチームは、ナニかが違う――――――」

 僕の15年に及ぶ観戦歴の中で、そう感じたことは、これまでのシーズンでも、何度かあった。
(そして、その度に、その想いが裏切られてきたことは言うまでもない)

 ただ、8月最後の2連戦に連敗してマジックが消滅したあと、移動日を挟んだ9月1日(金)神宮球場のスワローズ戦では、ルーキー・森下翔太もりしたしょうたの2本のホームランで勝利し、翌日は、眠れる大砲・佐藤輝明さとうてるあきのライトポール直撃のホームランなどで接戦をモノにした二試合を見て、

「やっぱり、今年のチームは、ナニかが違う――――――かも……?」

という想いが強くなる。

 二年前の2021年のシーズンでは、秋の神宮球場での戦いに勝ちきれなかったことが優勝を逃す要因になってしまったけれど、今年のチームは、その重圧をアッサリとはねのけようとしている。
 
 自宅のケーブルテレビの契約内容ではテレビ視聴が不可能なスワローズ戦をインターネットの速報やラジオアプリに耳を傾けて確認する行為には、もどかしくジリジリとした感情を覚える。それでも、アナウンサーの実況をもとに、ボールの行方や選手たちがプレーする様子を想像するラジオ中継ならではの魅力があることも感じられた。

 スワローズ戦での三連勝が掛かったこの日の試合でも、初回に飛び出した佐藤輝明さとうてるあきのホームランの実況に、

「よっしゃ~!!」

と思わず声を挙げて反応する。
 この日の勝利で、金曜日に再点灯したマジックナンバー19は、三試合で4つも減り、残り15となった。

 現時点でのリーグ優勝Xデーは、相変わらず9月20日(水)~9月24日(日)と予想されている。
 今週の半ばに奈緒美さんからもらった連絡によると、東京でのライブイベントは、連休中の9月17日(日)に開催されるという。

 彼女には、

 ==============

 日程、了解しました!
 イベント楽しみにしてます。

 ※もし、別件の予定が入ったら
 すぐに連絡させてもらいます
 
 ==============

と返信をしておいた。
 
 我ながら、誠意に欠ける文面で情けないが、いまは、こんな風に返信するのが精一杯で、あとは、我がチームがリーグ優勝を達成することと、その胴上げの日が17日(日)と被らないことを天に祈るしかなかった。
 
 【本日の試合結果】
 
 ヤクルト 対 阪神 22回戦  ヤクルト 1ー7 阪神

 タイガースは初回、スワローズのエラーで先制点を挙げたあと、佐藤輝明さとうてるあきの3ランホームランが飛び出し、一挙に4点をあげる。2回表にも、中野拓夢なかのたくむとシェルドン・ノイジーの連続タイムリーで2点を追加し、序盤から試合を優位に進める。
 タイガース先発の伊藤将司いとうまさしは、9回を投げて1失点の好投。今季三度目の完投で9勝目をあげる。
 デーゲームで、カープがドラゴンズに敗れていたため、2日前に再点灯したマジックナンバーは、15になった。

 ◎9月3日終了時点の阪神タイガースの成績

 勝敗:70勝42敗 4引き分け 貯金28
 順位:首位(2位と7.5ゲーム差) マジック15

 ※

 9月6日(水)

 優勝決定日とライブ・イベントの日程を交互に確認しながら、カレンダーに視線を送る日々が続く。
 マジックが再点灯してから、選手の調子やモチベーションが上がったのか、我がチームの連勝も続く。

 この日のバンテリンドームでの試合ゲームも、前日、快勝したドラゴンズを相手に接戦をモノにしようとしていた。

 初回に、阪神がルーキー・森下のタイムリーで先制したあとは、バンテリンドームの試合らしく、両チームともランナーは出すものの、なかなか得点を奪うことができない。

(いつものバンテリンドームらしく、胃が痛くなる試合やけど……)
(優勝決定の日程を考えると、そろそろ負けてくれても――――――)

 一度は消えたマジックナンバーだが、前述のように、それが再点灯してから、僕だけでなく、ファンや野球評論家、そして、球団関係者も想定しないスピードで、阪神タイガースは白星を積み重ねている。
 このままのチーム状態が続けば、9月20日(水)~9月24日(日)と予想されている優勝Xデーが、前倒しされることは間違いないだろう。

 現段階で、最短での優勝決定は、14日(木)ということになっている。
 
 ただ、下位に沈むスワローズやドラゴンズと違って、マジック対象チームのカープとクライマックスシリーズの進出が掛かるジャイアンツに対しては、相手チームのモチベーションを考えても、すべての試合で勝利することは難しいと思われる。

 そうなると、優勝決定日は17日(日)前後ということになってしまうのだが――――――。

 我がチームの勝利を願うべきか否かを迷うことなど、15年のプロ野球観戦歴で初めてのことだった。

 他のスポーツの観戦を振り返ってみても、応援する贔屓チームの勝利ではない結果を願うのは、グループリーグでの勝ち点と勝ち上がった際の決勝トーナメントの相手を気にかけることになる、サッカーのワールドカップ以来ではないだろうか?

 To be, or not to be: that is the question:
(「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。」)
 
 おそらく、世界で最も有名な演劇のセリフを直訳が、これほどピッタリと当てはまる状況はない、と考えながら、僕は四大悲劇の主人公のごとく、苦悩する問題に頭を抱えた。

 【本日の試合結果】
 
 中日 対 阪神 22回戦  中日 0ー1 阪神

 タイガースは初回、森下翔太もりしたしょうたのタイムリーで先制点を挙げる。
 先発の才木浩人さいきひろとは、6回を4安打無失点の投球でリードを守ったまま、強力なリリーフ投手陣にあとを託す。
 7回以降は、石井大智いしいだいち島本浩也しまもとひろや桐敷拓馬きりしきたくま岩崎優いわざきすぐると4人の継投で虎の子の1点を守りきって5連勝。
 マジックナンバーは、13になった。

 ◎9月6日終了時点の阪神タイガースの成績

 勝敗:72勝42敗 4引き分け 貯金30
 順位:首位(2位と7.5ゲーム差) マジック13
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