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第4幕・ARE(アレ)の章〜④〜
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8月18日(金)
岡田彰布は激怒した。
必ず、かの理不尽不合理なルールを改正せねばならぬと決意した。
岡田には野球の細かなルールはわからぬ。岡田彰布は、阪神タイガースの監督である。
チームの指揮を引き継ぎ、リーグの首位を快走し、心は穏やかであった。けれども理不尽な規範には、人一倍に敏感であった。
9回表一死一塁から二盗を試みた阪神・熊谷敬宥の判定を一度はセーフと判定しながら、審判団は、ベイスターズのリクエストを経てアウトにジャッジを変更した。
映像ではタイミングは微妙ながらも、遊撃手・京田陽太の左膝から下が二塁ベースをふさぐ形になり、熊谷の足がベースに到達するのを妨害しているように見えた。
岡田は、ベースの前に足を入れて完全にブロックしていた京田のプレーを走塁妨害だと抗議した。
球場は騒然となり、阪神ファンが陣取るレフトスタンドからは、「オカダ」コールが、ベイスターズのファンが多数を占める一塁とライトスタンド側からは、「退場!」の声が飛ぶ。
三塁塁審の敷田直人は試合後に見解を述べている。
「(場内アナウンスで)放送した通り、(京田が)ベースをふさぐような映像になってたから、お客さんを含めて妨害とか、そういう思いがあるのかなと思って、先にマイクで妨害とはしないと。判定はアウトと伝えたところ、岡田監督が放送が聞こえなかったと。それと同じ説明をしたら、岡田監督の意見は妨害、足をあんな形でふさいでたと。我々審判団のリプレー検証の結果は、故意とかいうのはないので、偶然あの形になった。お互い精いっぱいのプレーをしてああいう形になったので、ベースに届かないのはアウトにするしかないというのでアウトという答えを出しました」
本塁での走者と野手の衝突(コリジョン)を防止する観点から導入されたコリジョン・ルールについては、本塁上のプレーにのみ適用されるものだとし、「ワンバウンドを捕るために意識的にそういう場所に足を出したっていうのがあったら(走塁妨害を)考えるんですけど、偶然足が止まる形になった。妨害という風には映らなかった」と改めて語った。
二塁塁審・小林 和公は、
「まず3分を超えたところで『監督、遅延行為で退場になりますよ』と伝えた。監督は納得いかないと。(審判団の)意見も伝えたということで下がってくださいと。自分の時計では4分半だったので『これ以上やったら退場になりますよ』」
と、岡田に事前に通達していたことを明かしている。
抗議は、遅延行為として退場処分になりうる5分ギリギリまで続いた。
岡田には竹馬の友があった。平田勝男である。
今は、一軍のヘッドコーチをしている。今シーズン、内々で一軍監督への就任を打診されたという報道もあるが、平田は、チームを支える役目に徹し、ベンチのムードメーカーとして、そして、監督と選手の橋渡し役という重要な役割に徹している。
試合後の岡田、すぐに関係者入り口から出てきて、待ち受ける報道陣に対し、足を止めることなく「しゃべることないわ。ええよ」とだけ厳しい表情で言い放ち、チームバスへと急いだ。そのハラワタは煮えくりかえっていたのだろう。
その岡田に代わり、平田が監督の言い分を代弁した。
「オレもショートだったから、ああいうハーフバウンドの送球に対しての対応はわかる。明らかに邪魔をしていたよ。故意じゃなかったからという問題ではなく、結果として足が入ってベースを隠しているんだから走塁妨害でしょう」
球団フロントも、試合後に、ただちに岡田から説明を聞き、球団として連盟に抗議の意見書を提出する考えであることを明かした。
現場を仕切る球団幹部は、
「あのプレーが故意じゃないというのであれば、故意か、故意じゃないかの定義はどこにあるのか。現場の審判の判断次第ということなのか。その点について意見書を出す方向で検討したい」
との意向を明かしている。
試合が終わったあと、腸が煮えくり返るような想いをしたのは、僕にとって今シーズン初めての経験だった。
既存のルールに則った判定とは言え、後味の悪さが残る試合だったことだけでなく、優勝争いをしている大事な局面で、こうしたことが起こる理不尽さに、憤懣やる方ない感情が芽生え、手短かに入浴を済ませたあとは、早々に寝ることにした。
ただ、冷静に振り返れば、この日まで、悔しい負け方をした試合が少なかったシーズンとも言えるのだが……。
僕をはじめ、腹立ちが収まらず、
「この試合をキッカケに、チームが失速したらどうしよう……」
という不安に駆られるファンの心配をよそに、翌日からも、我がチームの快進撃は続いた。
【本日の試合結果】
横浜 対 阪神 18回戦 横浜 2ー1 阪神
阪神は、初回にシェルドン・ノイジーのタイムリーで先制するものの、4回裏に宮崎敏郎のホームランで追いつかれる。7回裏には、リリーフの加治屋蓮が山本祐大にタイムリー・ツーベースを打たれ、ベイスターズに勝ち越しを許す。
迎えた最終回、タイガースは一死一塁から熊谷敬宥が二塁への盗塁を試みるも、リプレイ検証で判定がくつがえってアウトとなり、そのまま無得点でゲームセット。
試合後のベイスターズのヒーローインタビューの際には、レフトスタンドから『六甲おろし』が歌われ、グラウンドにもメガホンなどの投げ込みが行われ、後味の悪さが残ったが、カープがジャイアンツに敗れたため、優勝へのマジックナンバーは1つ減って、28となった。
◎8月18日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:61勝39敗 4引き分け 貯金22
順位:首位(2位と7ゲーム差) マジック28
岡田彰布は激怒した。
必ず、かの理不尽不合理なルールを改正せねばならぬと決意した。
岡田には野球の細かなルールはわからぬ。岡田彰布は、阪神タイガースの監督である。
チームの指揮を引き継ぎ、リーグの首位を快走し、心は穏やかであった。けれども理不尽な規範には、人一倍に敏感であった。
9回表一死一塁から二盗を試みた阪神・熊谷敬宥の判定を一度はセーフと判定しながら、審判団は、ベイスターズのリクエストを経てアウトにジャッジを変更した。
映像ではタイミングは微妙ながらも、遊撃手・京田陽太の左膝から下が二塁ベースをふさぐ形になり、熊谷の足がベースに到達するのを妨害しているように見えた。
岡田は、ベースの前に足を入れて完全にブロックしていた京田のプレーを走塁妨害だと抗議した。
球場は騒然となり、阪神ファンが陣取るレフトスタンドからは、「オカダ」コールが、ベイスターズのファンが多数を占める一塁とライトスタンド側からは、「退場!」の声が飛ぶ。
三塁塁審の敷田直人は試合後に見解を述べている。
「(場内アナウンスで)放送した通り、(京田が)ベースをふさぐような映像になってたから、お客さんを含めて妨害とか、そういう思いがあるのかなと思って、先にマイクで妨害とはしないと。判定はアウトと伝えたところ、岡田監督が放送が聞こえなかったと。それと同じ説明をしたら、岡田監督の意見は妨害、足をあんな形でふさいでたと。我々審判団のリプレー検証の結果は、故意とかいうのはないので、偶然あの形になった。お互い精いっぱいのプレーをしてああいう形になったので、ベースに届かないのはアウトにするしかないというのでアウトという答えを出しました」
本塁での走者と野手の衝突(コリジョン)を防止する観点から導入されたコリジョン・ルールについては、本塁上のプレーにのみ適用されるものだとし、「ワンバウンドを捕るために意識的にそういう場所に足を出したっていうのがあったら(走塁妨害を)考えるんですけど、偶然足が止まる形になった。妨害という風には映らなかった」と改めて語った。
二塁塁審・小林 和公は、
「まず3分を超えたところで『監督、遅延行為で退場になりますよ』と伝えた。監督は納得いかないと。(審判団の)意見も伝えたということで下がってくださいと。自分の時計では4分半だったので『これ以上やったら退場になりますよ』」
と、岡田に事前に通達していたことを明かしている。
抗議は、遅延行為として退場処分になりうる5分ギリギリまで続いた。
岡田には竹馬の友があった。平田勝男である。
今は、一軍のヘッドコーチをしている。今シーズン、内々で一軍監督への就任を打診されたという報道もあるが、平田は、チームを支える役目に徹し、ベンチのムードメーカーとして、そして、監督と選手の橋渡し役という重要な役割に徹している。
試合後の岡田、すぐに関係者入り口から出てきて、待ち受ける報道陣に対し、足を止めることなく「しゃべることないわ。ええよ」とだけ厳しい表情で言い放ち、チームバスへと急いだ。そのハラワタは煮えくりかえっていたのだろう。
その岡田に代わり、平田が監督の言い分を代弁した。
「オレもショートだったから、ああいうハーフバウンドの送球に対しての対応はわかる。明らかに邪魔をしていたよ。故意じゃなかったからという問題ではなく、結果として足が入ってベースを隠しているんだから走塁妨害でしょう」
球団フロントも、試合後に、ただちに岡田から説明を聞き、球団として連盟に抗議の意見書を提出する考えであることを明かした。
現場を仕切る球団幹部は、
「あのプレーが故意じゃないというのであれば、故意か、故意じゃないかの定義はどこにあるのか。現場の審判の判断次第ということなのか。その点について意見書を出す方向で検討したい」
との意向を明かしている。
試合が終わったあと、腸が煮えくり返るような想いをしたのは、僕にとって今シーズン初めての経験だった。
既存のルールに則った判定とは言え、後味の悪さが残る試合だったことだけでなく、優勝争いをしている大事な局面で、こうしたことが起こる理不尽さに、憤懣やる方ない感情が芽生え、手短かに入浴を済ませたあとは、早々に寝ることにした。
ただ、冷静に振り返れば、この日まで、悔しい負け方をした試合が少なかったシーズンとも言えるのだが……。
僕をはじめ、腹立ちが収まらず、
「この試合をキッカケに、チームが失速したらどうしよう……」
という不安に駆られるファンの心配をよそに、翌日からも、我がチームの快進撃は続いた。
【本日の試合結果】
横浜 対 阪神 18回戦 横浜 2ー1 阪神
阪神は、初回にシェルドン・ノイジーのタイムリーで先制するものの、4回裏に宮崎敏郎のホームランで追いつかれる。7回裏には、リリーフの加治屋蓮が山本祐大にタイムリー・ツーベースを打たれ、ベイスターズに勝ち越しを許す。
迎えた最終回、タイガースは一死一塁から熊谷敬宥が二塁への盗塁を試みるも、リプレイ検証で判定がくつがえってアウトとなり、そのまま無得点でゲームセット。
試合後のベイスターズのヒーローインタビューの際には、レフトスタンドから『六甲おろし』が歌われ、グラウンドにもメガホンなどの投げ込みが行われ、後味の悪さが残ったが、カープがジャイアンツに敗れたため、優勝へのマジックナンバーは1つ減って、28となった。
◎8月18日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:61勝39敗 4引き分け 貯金22
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