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第3幕・Empowerment(エンパワーメント)の章〜⑧〜
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7月17日(月)
オールスター・ブレイクを前にした7月中旬――――――。
セントラル・リーグ、パシフィック・リーグは、ともに3ゲーム差以内に3チームがひしめき合う混戦の模様を呈している。
セ・リーグは、少し調子を落とし始めたベイスターズに代わり、連勝を重ねるカープが、首位の半身を猛追してきている。
僕は、頭の片隅で、いつも奈緒美さんのことを考えながらも、我がチームの勝敗に一喜一憂する日々が続いていた。
自分自身の悶々とした感情と、混戦を抜け出せない推しの球団の状況に、こころ乱される状態が続く中、海外から、僕の気持ちを少しだけ晴らすようなニュースが入ってくるようになった。
MLBのオークランド・アスレチックスで、先発投手から中継ぎへと配置転換された藤浪晋太郎が、春の終わり頃から好投を見せ始めるようになったのだ。
先発失格となっても、藤浪に登板の機会が与えられている理由は、アスレチックスが、アメリカン・リーグ西地区で、ダントツの最下位という成績に甘んじている上に、中継ぎ投手陣が不足しているという特殊なチーム事情があるそうだ。
阪神時代と同じく、先発ではコントロールの乱れから自滅を繰り返していた藤浪だが、短いイニングで時速100マイル(160km/h)を超える直球を思う存分に投げられる中継ぎは、彼の能力を発揮するのに向いているのではないだろうか、と個人的には考えている。
これは、中継ぎとして登板する機会の多かった阪神時代の2020年シーズンの彼の投球を見て、感じていたことだ。
そして、ここ2ヶ月ほどの投球内容が評価されたのか、藤浪には、同じアメリカン・リーグの東地区で首位争いをしているボルチモア・オリオールズから、移籍のオファーがあるらしい。
(僕自身は、その頃のことを知らないのだが)勝率3割前後と、暗黒時代の阪神タイガースを思わせるほどチームが低迷しているアスレチックスから、優勝争いをしているオリオールズへの移籍は、選手にとってモチベーションが上がることは間違いないだろう。
なにより、首位争いをする痺れる試合の中で、メジャーリーガー相手に剛速球を投げ込む藤浪の姿を見てみたいと思っている野球ファンは、僕だけではないはずだ。
その中で、あらためて、僕は考える。
どうして、自分は、タイガースの選手たちに、ここまで感情移入をするのだろう、と――――――。
僕が、このチームを応援しはじめた小学生の頃、中心選手だった金本や鳥谷は、自分の父親のような年齢だった。
思春期を迎え、中高生になった頃に一軍で活躍し始めた藤浪晋太郎や植田海、大山悠輔は、僕の兄に当たるくらいの年齢だ。
小学生の頃に父と母が離婚し、兄弟もいない僕にとって、いつもテレビや球場で観ることのできるタイガースの選手たちは、あこがれであると同時に、家族のように親しみを持てる歳上の男性像でもあったのだ。
それだけに、一度でも印象に残る活躍や記憶に残る場面を残してくれた選手は、一軍の出場機会が減ったり、チームそのものから離れても、その後の動向が気になるし、その選手の活躍が報じられると嬉しく感じてしまう。
(これは、今年、WBCで日本代表を世界一に導いた大谷翔平が、スポーツニュ―スやワイドショーの話題を独占し、多くの日本人から注目され続けているのと同じ理由なのかも知れない)
そんなわけで、鬱々とした感情が続く中でも、新天地での藤浪の活躍を願わずにはいられない。
こうして、思い悩む僕の気持ちが少しだけ晴れたこととリンクしたわけではないだろうけど、本拠地・甲子園で最下位のドラゴンズ相手に連敗していた我がチームは、オールスター・ゲーム前の最後の試合に、佐藤輝明のホームランで先制して勝利を収め、1ゲームという僅差ながら、首位ターンで後半戦を迎えることになった。
【本日の試合結果】
阪神 対 中日 15回戦 阪神 4ー1 中日
タイガースは、初回に佐藤の3ランホームランで幸先よく3点を先制。続く2回裏にも、先発・西純矢のタイムリーでリードを広げる。
打者としても期待どおりの働きを見せた西純矢は、9安打を打たれながらも、7回1失点の好投。リリーフ陣も無失点で締めて、オールスターゲーム前の最後の試合を白星で飾る。
この結果、チームは前半戦を首位で折り返すことになった。
◎7月17日 前半戦終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:44勝33敗 3引き分け 貯金11
順位:首位(2位と1.0ゲーム差)
※
7月18日(火)
僕が、中学生だった頃からのヒーローだったシンタロウ・フジナミと同じく、タイガースに縁のある、もう一人の「シンタロウ」の名を持つ、元プロ野球選手が、この世を去ったことが報じられたのは、ペナントレースの前半戦が終了した翌日のことだった。
オリオールズへの移籍が決まった藤浪は、アスレチックスでの最後の登板となるこの日、投球練習を終えた後、マウンドに後輩だった選手の名前を書き追悼。心を落ち着かせるように右手を胸に当てた。
マウンドでは、最速100・8マイル(約162・2km/h)の力強い球を投げ込む。一死から安打を許したものの、続く2人の打者を打ち取り、胸をたたいて天を指さした。
◎7月18日終了時点の藤浪晋太郎の成績
勝敗:5勝8敗3ホールド
防御率:8.57
オールスター・ブレイクを前にした7月中旬――――――。
セントラル・リーグ、パシフィック・リーグは、ともに3ゲーム差以内に3チームがひしめき合う混戦の模様を呈している。
セ・リーグは、少し調子を落とし始めたベイスターズに代わり、連勝を重ねるカープが、首位の半身を猛追してきている。
僕は、頭の片隅で、いつも奈緒美さんのことを考えながらも、我がチームの勝敗に一喜一憂する日々が続いていた。
自分自身の悶々とした感情と、混戦を抜け出せない推しの球団の状況に、こころ乱される状態が続く中、海外から、僕の気持ちを少しだけ晴らすようなニュースが入ってくるようになった。
MLBのオークランド・アスレチックスで、先発投手から中継ぎへと配置転換された藤浪晋太郎が、春の終わり頃から好投を見せ始めるようになったのだ。
先発失格となっても、藤浪に登板の機会が与えられている理由は、アスレチックスが、アメリカン・リーグ西地区で、ダントツの最下位という成績に甘んじている上に、中継ぎ投手陣が不足しているという特殊なチーム事情があるそうだ。
阪神時代と同じく、先発ではコントロールの乱れから自滅を繰り返していた藤浪だが、短いイニングで時速100マイル(160km/h)を超える直球を思う存分に投げられる中継ぎは、彼の能力を発揮するのに向いているのではないだろうか、と個人的には考えている。
これは、中継ぎとして登板する機会の多かった阪神時代の2020年シーズンの彼の投球を見て、感じていたことだ。
そして、ここ2ヶ月ほどの投球内容が評価されたのか、藤浪には、同じアメリカン・リーグの東地区で首位争いをしているボルチモア・オリオールズから、移籍のオファーがあるらしい。
(僕自身は、その頃のことを知らないのだが)勝率3割前後と、暗黒時代の阪神タイガースを思わせるほどチームが低迷しているアスレチックスから、優勝争いをしているオリオールズへの移籍は、選手にとってモチベーションが上がることは間違いないだろう。
なにより、首位争いをする痺れる試合の中で、メジャーリーガー相手に剛速球を投げ込む藤浪の姿を見てみたいと思っている野球ファンは、僕だけではないはずだ。
その中で、あらためて、僕は考える。
どうして、自分は、タイガースの選手たちに、ここまで感情移入をするのだろう、と――――――。
僕が、このチームを応援しはじめた小学生の頃、中心選手だった金本や鳥谷は、自分の父親のような年齢だった。
思春期を迎え、中高生になった頃に一軍で活躍し始めた藤浪晋太郎や植田海、大山悠輔は、僕の兄に当たるくらいの年齢だ。
小学生の頃に父と母が離婚し、兄弟もいない僕にとって、いつもテレビや球場で観ることのできるタイガースの選手たちは、あこがれであると同時に、家族のように親しみを持てる歳上の男性像でもあったのだ。
それだけに、一度でも印象に残る活躍や記憶に残る場面を残してくれた選手は、一軍の出場機会が減ったり、チームそのものから離れても、その後の動向が気になるし、その選手の活躍が報じられると嬉しく感じてしまう。
(これは、今年、WBCで日本代表を世界一に導いた大谷翔平が、スポーツニュ―スやワイドショーの話題を独占し、多くの日本人から注目され続けているのと同じ理由なのかも知れない)
そんなわけで、鬱々とした感情が続く中でも、新天地での藤浪の活躍を願わずにはいられない。
こうして、思い悩む僕の気持ちが少しだけ晴れたこととリンクしたわけではないだろうけど、本拠地・甲子園で最下位のドラゴンズ相手に連敗していた我がチームは、オールスター・ゲーム前の最後の試合に、佐藤輝明のホームランで先制して勝利を収め、1ゲームという僅差ながら、首位ターンで後半戦を迎えることになった。
【本日の試合結果】
阪神 対 中日 15回戦 阪神 4ー1 中日
タイガースは、初回に佐藤の3ランホームランで幸先よく3点を先制。続く2回裏にも、先発・西純矢のタイムリーでリードを広げる。
打者としても期待どおりの働きを見せた西純矢は、9安打を打たれながらも、7回1失点の好投。リリーフ陣も無失点で締めて、オールスターゲーム前の最後の試合を白星で飾る。
この結果、チームは前半戦を首位で折り返すことになった。
◎7月17日 前半戦終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:44勝33敗 3引き分け 貯金11
順位:首位(2位と1.0ゲーム差)
※
7月18日(火)
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オリオールズへの移籍が決まった藤浪は、アスレチックスでの最後の登板となるこの日、投球練習を終えた後、マウンドに後輩だった選手の名前を書き追悼。心を落ち着かせるように右手を胸に当てた。
マウンドでは、最速100・8マイル(約162・2km/h)の力強い球を投げ込む。一死から安打を許したものの、続く2人の打者を打ち取り、胸をたたいて天を指さした。
◎7月18日終了時点の藤浪晋太郎の成績
勝敗:5勝8敗3ホールド
防御率:8.57
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