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第2幕・Respect(リスペクト)の章〜⑭〜
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奈緒美さんに連れられて向かった先は、西宮北口の駅の近くのカラオケボックスだった。
関西を中心に、西日本各地で展開しているチェーン店で、阪神タイガースがリーグ優勝すると、半額セールを実施することでも知られている。
僕自身は、その経験がないのだけど、2003年と2005年の阪神優勝時には、優勝の瞬間の前から、中高生が店舗の前に並び始めていたらしい。
ドリンク飲み放題のという嬉しいサービスも付いているのが特長なのだが、僕は自分自身の勘違いぶりに、頭を抱えていた。
(奈緒美さんが、あの時していたポーズは、カラオケのマイクを握る仕草だったのか……)
最初に一緒に入ったお店がショット・バーのような雰囲気だったので、彼女はお酒好きなのだと勝手に思い込んでいたのだ。
「お昼をたくさん食べすぎちゃったので、ご飯よりも、こっちの方が良いかと思って……」
「そ、そうですね……この方が楽しめるかも」
二次会 = お酒を飲みに行くと勘違いしていたことを悟られないように、僕は、いかにもカラオケを楽しみにしていたかのように言葉を続ける。
「さ、さぁ、今日はナニを歌おうかな~? 御子柴さんは、歌う曲を決めてるんですか?」
「はい! 前回はちょっと、お酒が入ってしまったていたので……今日は、ちゃんと、ももクロちゃんや他のアイドルちゃんたちの歌を歌いたいなって!」
「そ、そうですか……」
二ヶ月ほど前のカラオケバーでの出来事を思い出し、彼女には、なるべくアルコール類を取らさせないように気を配りながら、僕たちの二次会が始まった。
※
奈緒美さんは、ももクロを始め、彼女が推すアイドルたちの楽曲を次々に披露してくれた。
一方の僕は、C&Kの『ドラマ』や、ベリーグッドマンの『ハイライト』、ウルフルズの『サムライソウル』、FIELD OF VIEWの『DAN DAN 心魅かれてく』など、甲子園観戦の常連者なら、おなじみの楽曲を歌う。
最後は、奈緒美さんの
「なにか、直接的にタイガースに関連する曲は歌わないんですか?」
というリクエストに応じて、『戦争を知らない子供たち』を選曲した。
♪ 優勝を知らずに 僕らは育った
♪ 胴上げを知らずに 僕らは育った
♪ 岡田になあって 勝ち続ける
♪ 六甲おろしを 口ずさみながら
♪ 猛虎の勝利を 見せて欲しい
♪ 優勝を知らない 子供たちさ
♪ 優勝を信じて 僕らは育った
♪ 期待を裏切り 何度もこけた
♪ 生まれた子供も 成人に育ち
♪ 優勝ビールを 今年も夢見る
♪ ゴーゴータイガース ゆけゆけ阪神
♪ 優勝を知らない 子供たちさ
38年前に関西地区限定で流行したという替え歌に、さらに若干のアレンジを加えて歌う(二番の歌詞は諸事情により割愛した)。
場が盛り上がっていたためか、彼女は、この歌を楽しそうに聞いてくれたように思う。
さらに、一息ついたところで、前回観戦時に約束していた、僕が撮影した球場前の高架下二次会の動画も見てもらった。
その映像は、高校最後の年に、交流戦のイーグルス戦を観戦したときのモノだ。
2017/06/16 阪神対楽天戦 二次会(高架下の勝利の儀式)
https://www.youtube.com/watch?v=B_7Z6ktvamA
僕がスマホで撮影していた映像には、多くの阪神ファンとともに、なぜか、サッカー・ドイツ代表のユニフォームを着た外国人観光客らしき男性たちが混じっており、ヒッティングマーチや『ミッキーマウス・マーチ』のメロディに合わせた真弓ダンス、『六甲おろし』の合唱を楽しんでいる。
「すごい、盛り上がり方ですね? これは、優勝したときの試合なんですか?」
「いえ、ちょうど、今くらいの季節だったと思うので、まだまだ、優勝の行方なんて全然わからない時期です。たしか、カープと首位争いをしていたとは思うんですが……」
苦笑して答える僕に、奈緒美さんは、クスリと笑って答えた。
「アイドルライブで、ガチ勢のトップヲタの人たちばかり集めても、ここまでにはならないんじゃないですかな?」
彼女の一言に、僕も
「たしかに、そうかも知れません」
と、笑いながら、うなずくしかない。
時間を延長して、九時前まで二人で思い切り楽しんだあと、カラオケボックスから徒歩五分ほどの奈緒美さんのマンションまで彼女を送っていく。
マンションのエントランスの前で、振り返った奈緒美さんは、こちらに近づいてきたかと思うと、僕の耳元に顔を寄せ、
「送ってくれて、ありがとう。今日も、とっても楽しかったです。今度は、私の部屋に遊びに来てくださいね、虎太郎くん」
と、ささやいて、ニコリと微笑む。
「は、はい! 僕もめっちゃ楽しかったです! 奈緒美さん」
僕は、上ずった声で、そう答えるのが精一杯だった。
「それじゃ、またね!」
奈緒美さんは、そう言葉を残して、マンションのエントランスに入って行った。
その姿が見えなくなったあとも、僕は、ボンヤリとしたまま、その場を離れることができない。
しばらくしてから、自分の顔が熱を帯びているのに気づいて、ようやく我に返り、もう一度、彼女の言葉を思い出す。
「今度は、私の部屋に遊びに来てくださいね、虎太郎くん」
こ、これは、新しい一歩へのフラグというヤツではないか!?
梅雨も間近の湿り気を含んだ夜風に、身体の火照りを感じながら、
「ヨシッ!」
と、最後のピンチを凌いで完封勝ちを決めた投手のように、右手の拳を握って小さくガッツポーズを決める。
少し心配だった交流戦も、ここまでは3勝2敗と、まずまずの滑り出しを決めているし――――――。
このとき、我がチームの好調ぶりとリンクするように、自分のプライベートも、このまま順風満帆に進むのではないか、と僕は信じて疑うことはなかった。
【本日の試合結果】
阪神 対 千葉ロッテ 2回戦 阪神 2ー0 ロッテ
タイガース・才木、マリーンズ・佐々木の白熱した投手戦は、両チーム無得点で迎えた6回裏に、四球で出塁した中野が、盗塁と暴投で三塁まで進み、大山のタイムリーで阪神が先制。続く7回には、キャッチャー梅野のホームランで追加点を挙げる。
才木浩人は、9回に一打同点のピンチを迎えるも、最後の打者を三振に抑え、3安打完封。貯金は、今シーズン最多タイの18となった。
◎6月4日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:34勝16敗 1引き分け 貯金18
順位:首位(2位と5ゲーム差)
関西を中心に、西日本各地で展開しているチェーン店で、阪神タイガースがリーグ優勝すると、半額セールを実施することでも知られている。
僕自身は、その経験がないのだけど、2003年と2005年の阪神優勝時には、優勝の瞬間の前から、中高生が店舗の前に並び始めていたらしい。
ドリンク飲み放題のという嬉しいサービスも付いているのが特長なのだが、僕は自分自身の勘違いぶりに、頭を抱えていた。
(奈緒美さんが、あの時していたポーズは、カラオケのマイクを握る仕草だったのか……)
最初に一緒に入ったお店がショット・バーのような雰囲気だったので、彼女はお酒好きなのだと勝手に思い込んでいたのだ。
「お昼をたくさん食べすぎちゃったので、ご飯よりも、こっちの方が良いかと思って……」
「そ、そうですね……この方が楽しめるかも」
二次会 = お酒を飲みに行くと勘違いしていたことを悟られないように、僕は、いかにもカラオケを楽しみにしていたかのように言葉を続ける。
「さ、さぁ、今日はナニを歌おうかな~? 御子柴さんは、歌う曲を決めてるんですか?」
「はい! 前回はちょっと、お酒が入ってしまったていたので……今日は、ちゃんと、ももクロちゃんや他のアイドルちゃんたちの歌を歌いたいなって!」
「そ、そうですか……」
二ヶ月ほど前のカラオケバーでの出来事を思い出し、彼女には、なるべくアルコール類を取らさせないように気を配りながら、僕たちの二次会が始まった。
※
奈緒美さんは、ももクロを始め、彼女が推すアイドルたちの楽曲を次々に披露してくれた。
一方の僕は、C&Kの『ドラマ』や、ベリーグッドマンの『ハイライト』、ウルフルズの『サムライソウル』、FIELD OF VIEWの『DAN DAN 心魅かれてく』など、甲子園観戦の常連者なら、おなじみの楽曲を歌う。
最後は、奈緒美さんの
「なにか、直接的にタイガースに関連する曲は歌わないんですか?」
というリクエストに応じて、『戦争を知らない子供たち』を選曲した。
♪ 優勝を知らずに 僕らは育った
♪ 胴上げを知らずに 僕らは育った
♪ 岡田になあって 勝ち続ける
♪ 六甲おろしを 口ずさみながら
♪ 猛虎の勝利を 見せて欲しい
♪ 優勝を知らない 子供たちさ
♪ 優勝を信じて 僕らは育った
♪ 期待を裏切り 何度もこけた
♪ 生まれた子供も 成人に育ち
♪ 優勝ビールを 今年も夢見る
♪ ゴーゴータイガース ゆけゆけ阪神
♪ 優勝を知らない 子供たちさ
38年前に関西地区限定で流行したという替え歌に、さらに若干のアレンジを加えて歌う(二番の歌詞は諸事情により割愛した)。
場が盛り上がっていたためか、彼女は、この歌を楽しそうに聞いてくれたように思う。
さらに、一息ついたところで、前回観戦時に約束していた、僕が撮影した球場前の高架下二次会の動画も見てもらった。
その映像は、高校最後の年に、交流戦のイーグルス戦を観戦したときのモノだ。
2017/06/16 阪神対楽天戦 二次会(高架下の勝利の儀式)
https://www.youtube.com/watch?v=B_7Z6ktvamA
僕がスマホで撮影していた映像には、多くの阪神ファンとともに、なぜか、サッカー・ドイツ代表のユニフォームを着た外国人観光客らしき男性たちが混じっており、ヒッティングマーチや『ミッキーマウス・マーチ』のメロディに合わせた真弓ダンス、『六甲おろし』の合唱を楽しんでいる。
「すごい、盛り上がり方ですね? これは、優勝したときの試合なんですか?」
「いえ、ちょうど、今くらいの季節だったと思うので、まだまだ、優勝の行方なんて全然わからない時期です。たしか、カープと首位争いをしていたとは思うんですが……」
苦笑して答える僕に、奈緒美さんは、クスリと笑って答えた。
「アイドルライブで、ガチ勢のトップヲタの人たちばかり集めても、ここまでにはならないんじゃないですかな?」
彼女の一言に、僕も
「たしかに、そうかも知れません」
と、笑いながら、うなずくしかない。
時間を延長して、九時前まで二人で思い切り楽しんだあと、カラオケボックスから徒歩五分ほどの奈緒美さんのマンションまで彼女を送っていく。
マンションのエントランスの前で、振り返った奈緒美さんは、こちらに近づいてきたかと思うと、僕の耳元に顔を寄せ、
「送ってくれて、ありがとう。今日も、とっても楽しかったです。今度は、私の部屋に遊びに来てくださいね、虎太郎くん」
と、ささやいて、ニコリと微笑む。
「は、はい! 僕もめっちゃ楽しかったです! 奈緒美さん」
僕は、上ずった声で、そう答えるのが精一杯だった。
「それじゃ、またね!」
奈緒美さんは、そう言葉を残して、マンションのエントランスに入って行った。
その姿が見えなくなったあとも、僕は、ボンヤリとしたまま、その場を離れることができない。
しばらくしてから、自分の顔が熱を帯びているのに気づいて、ようやく我に返り、もう一度、彼女の言葉を思い出す。
「今度は、私の部屋に遊びに来てくださいね、虎太郎くん」
こ、これは、新しい一歩へのフラグというヤツではないか!?
梅雨も間近の湿り気を含んだ夜風に、身体の火照りを感じながら、
「ヨシッ!」
と、最後のピンチを凌いで完封勝ちを決めた投手のように、右手の拳を握って小さくガッツポーズを決める。
少し心配だった交流戦も、ここまでは3勝2敗と、まずまずの滑り出しを決めているし――――――。
このとき、我がチームの好調ぶりとリンクするように、自分のプライベートも、このまま順風満帆に進むのではないか、と僕は信じて疑うことはなかった。
【本日の試合結果】
阪神 対 千葉ロッテ 2回戦 阪神 2ー0 ロッテ
タイガース・才木、マリーンズ・佐々木の白熱した投手戦は、両チーム無得点で迎えた6回裏に、四球で出塁した中野が、盗塁と暴投で三塁まで進み、大山のタイムリーで阪神が先制。続く7回には、キャッチャー梅野のホームランで追加点を挙げる。
才木浩人は、9回に一打同点のピンチを迎えるも、最後の打者を三振に抑え、3安打完封。貯金は、今シーズン最多タイの18となった。
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