初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

文字の大きさ
上 下
288 / 307
第四部

第1章〜愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ〜⑬

しおりを挟む
 徒歩で美容室へ向かう途中、オレは、クラスメートに声をかける。

緑川みどりかわ、さっきも言ったけど、これから行く美容室は、白草の紹介だ。お礼を言っておけよ」

 すると、男子生徒が反応するに、シロが口を開く。

「あらためまして……ご紹介にあずかりましたです」

 表情こそ穏やかな笑みをたたえているが、言うまでもなく、その目は笑っていない。
 ある程度、予想はしていたことではあるが、やはり、シロは前日に受けた暴言を簡単に許すつもりはないようだ。
 
「うっ……昨日は、酷いことを言って、すまなかった」

 一瞬、言葉につまりながらも、前日の暴言を詫びた緑川だが、美容室に連れ出されたことに関しては、いまだ納得していないようだ。

「けど、僕なんかが美容室に行ったって、笑われるだけなんじゃないのか……?」

 陰キャラ特有の劣等感まる出しの発言ではあるが、オレも、その気持ちがわからない訳ではない。
 ただ、そんな不安をカリスマ女子は、一蹴する。
 
「お客さん相手なのに、そんなこと思うわけないでしょ? それに、上手くいけばお得意さんになってもらえるんだから……なおさら、最初は丁寧に接客してくれるよ」

 なるほど、客商売の観点からすれば、シロの言うことは、もっともだ。あるいは、それは、ファンとの交流をおろそかにしない、100万人を超えるフォロワーを持つインフルエンサーとしての心構えかも知れないが……。

「そ、そういうモノなのか……」

 シロの言葉に気圧されながら返答する緑川に対して、我らがカリスマ女子は、追撃を加える。

「自分のことを冷静で頭が良いと思い込んでる男子って、自分の狭い価値観で、なんでも、わかったように冷笑するけど……もう少し、ヒトと接してから世間ってモノを知ったほうが良いんじゃない?」

 前日の意趣返しのつもりだろうか、ぐうの音も出ない正論を叩き込むクラスメート女子の言葉を、やんわりと制する。

「シロ……もう、その辺で良いじゃないか。それと、関係ない話しだけど、さっき、緑川にオレの告白失敗のときのエピソードを語ってな……紅野に告白のやり直しをするつもりだったのに、結果としてシロに告白したんだって話しをしたら、こいつは、『、無理もないか』って言ってたぞ」

 オレの言葉が、キッチリと耳に届いたのか、クラスメートの女子は、眉をかすかに動かしたあと、

「なんだ、そうなんだ! 緑川クン、意外に世の中のことわりをわかってるじゃない!」

と言って、同級生男子の背中をパンパンと軽く叩く。どうやら、シロのご機嫌はなおったようだ。
 このひと月ほどの間で、白草四葉という女子が、そのときどきで求めている言葉が、少しずつわかってきたような気がする。
 鼻歌を歌いながら、ズンズンと北祝川通きたしゅくがわどおりの歩道を歩いていく女子生徒の後ろ姿を見ながら、

「僕の発言をいちいち伝える必要はないだろう? 恥ずかしいな……」

という男子生徒に対して、オレは小声で伝える。

「おまえは、白草四葉という女子の恐ろしさを知らないから、そんなことが言えるんだよ。三顧の礼のときの張飛ちょうひの言葉を思い出してみろ」

「いや、張飛は、野球部の佐藤じゃないのか? あいつは、さっき帰ったじゃないか?」

「ナニ言ってるんだ? 義理堅いテルは、間違いなく関羽かんうタイプだよ。張飛は、前を歩いているあの女子だ」

「なんだよ、僕の家に火を付けるとでも言うのか?」
 
「あぁ、そのとおりだ。シロは、昨日の帰り際、おまえの発言にブチギレて、『家の裏庭に回って、火を付けてやろうか』って言ってたぞ」

 オレの言葉に表情を青くした緑川は、しばしの沈黙のあと、こう告げた。

「わかった……今後は、言葉づかいには気をつけるよ」

 クラスメートの賢明な判断にオレは無言でうなずく。
 程なくして到着した美容室は、アプリの掲載されている写真のとおり、洒落た外観と明るい雰囲気の店内ディスプレイが印象的な店舗だった。

『ベルベット』いう看板が掛かるテナントに、勝手知ったるようすで入店したシロは、

「HIKARIさんに予約を入れさせてもらってる緑川みどりかわクンです」

と、クラスメートをスタイリストに紹介し、カットの準備に入ってもらう。

「わたしたち女子のリクエストで、今日は、こんな風にしてもらえますか?」

 髪型シミュレーションのアプリを起動して、ヘアスタイルのオーダーを終えたシロは、

「じゃあ、ここで待たせてもらおうか?」

と、待合席に腰掛けることをうながした。私服のカット客に加えて、制服姿の男女が待合席に座っている光景は、シュールなように感じられ、オレとしては決して居心地が良いわけではないのだが、一方のシロは、ずいぶんと上機嫌だ。

「オシャレをしたり、髪型を変えると気分がアガるし、みんなに見てもらいたくなるもんね! 緑川クンにも、そう感じてもらえると良いんだけど……」

 なるほど……。隣に座るクラスメートが、同世代の女子に支持される理由が、また、ひとつわかったような気がする。動画をバズらせるには、共感・憧れ・問題解決の三要素が重要だと言われるが、白草四葉は、自分はもちろん、周りの人間にもこうして、気分がアガる経験をしてほしい、と心から思っているようだ。彼女のこうした正確が、同世代女子の共感や憧れにつながっているのだろう。
 そして、シロの言うように、今日の経験が問題解決の最初のステップになって、緑川が登校に前向きになってくれると良いのだが――――――。

 そんなことを考えながら待機していると、小一時間ほどで、サッパリとした雰囲気に生まれ変わった男子が、オレたちの目の前にあらわれた。
 伸び放題だった髪は、軽めのマッシュベースに立体感のあるヘアスタイルに仕上がっている。陰気なキャラクター丸出しだった雰囲気は、存在感がある太めのフレームのメガネに合わせて都会的なイメージになり、センターパートの品の良さとウェットヘアによって、グッと大人な雰囲気が高まっていた。

「メガネのフレームに合わせて、眉は細めに仕上げさせてもらったよ」

 というスタイリストのHIKARIさんの言葉どおり、髪型だけでなく、顔の印象もガラリと変わっている。

「うん、イイんじゃない!? これで、そのチェックシャツのボタンを外してインナーを見せるようにすれば、もっと見栄えが良くなるよ!」

 カリスマ女子のアドバイスに従った同級生男子は、鏡に映る自分の姿を

「信じられない……」

というような表情で見入っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

切り裂かれた髪、結ばれた絆

S.H.L
青春
高校の女子野球部のチームメートに嫉妬から髪を短く切られてしまう話

処理中です...