初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

文字の大きさ
279 / 454
第四部

第1章〜愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ〜④

しおりを挟む
 担任の谷崎先生から、新学期から登校していないクラスメートの対応を任された翌日、オレは、クラス委員のパートナーである紅野こうのアザミとともに、その生徒の自宅に向かう。

 オレと紅野が対応を一任された生徒、緑川武志みどりかわたけしが住む家は、オレたちが通う高校から徒歩で30分ほどの場所にあった。ユリちゃん先生から聞いていた住所をGoogleマップで確認すると、自転車なら所要時間12分となっている。

 さすがに、学校から往復1時間の距離を徒歩で行くことは避けたかったので、紅野と二人、自転車で彼の家に向かう。
 この辺り特有の少し起伏のある道を西の方角に進んでいくと、春は多くの花見客が集まる祝川しゅくがわが見えてきて、その川のすぐそばが、目指すべき場所だった。規模の小さなマンションに囲まれたその家は、外から見ても、それなりに大きな敷地を持っているように感じられる。

 表札に『緑川』と書かれているのを確認して、オレは門のそばにあるチャイムを押す。

「はい? どちら様ですか?」

 インターホン越しに聞こえてきた上品な声に、即答する。

「2年A組の黒田と紅野です。担任の谷崎先生から預かったプリントを持ってきました」
 
 いまどき、学校から配布するプリント類は、Googleクラスルームなどのオンラインサービスで確認可能なので、言うまでもなく、「プリントを持ってきた」というのは、ユリちゃん先生から公認された、自宅訪問のための口実だ。

「まあまあ! わざわざ、すみません。いま、玄関を開けますね」

 丁寧な口調の女性の声が途切れると、しばらくして、ガチャリと音がして、門から5メートル程の位置にある玄関のドアが開き、声の印象どおりの上品な雰囲気の女性が姿をあらわした。
 
武志たけしのクラスの方たち? わざわざ、ごめんなさいね」

 オレたちを出迎えながら、インターホンでの応答と同じような言葉を口にする女性に対して、

武志たけしくんのお母さまですか? 僕たちは、A組でクラス委員をしている黒田と紅野です」
 
と、こちらも、再度、自己紹介を行う。
 オレの問いかけに、小さくうなずいたあと、
 
「まあ、あなたたちが……」

そうつぶやく、緑川家の母親に対して、

「お時間があれば、少し、お話しを聞かせてもらえないでしょうか?」

と、かたわらの紅野が切り出す。
 こうした内容を語るのは、品行方正かつ優等生的外見の彼女の方が適任だと思っていたのだが、オレの考えを汲みとってくれたのか、クラス委員の女子生徒は、すかさず、今回の本題に入る。言葉を介さずとも、この辺りのタイミングや間合いがお互いに一致し、息の合った行動を取ってもらえることが、オレが、彼女に信頼を置いている理由だ。

「えぇ、もちろん! 良ければ、上がって行って」

 思っていた以上の歓待を受けたということは、どうやら、緑川の母親も、息子の不登校状態に手を焼いているのだろう……と、オレは推察する。
 上手い具合に話しを切り出してくれたクラス委員のパートナーに感謝しつつ、母親に招かれるまま、オレは紅野とともに、緑川家のリビングに向かう。

 二階建ての住宅は、比較的大きな住宅が多いこの辺りの中でも、一回り大きく感じる。
 
 広いリビングには、少し古めかしいものの、センスの良い家具が揃っていた。そのリビングのソファに腰掛け、しばらくすると、緑川の母が、ティーカップに紅茶を注いで持ってきてくれた。

「どうぞ、遠慮しないで飲んで」

 彼女のお言葉に甘えて、ティーカップを持つと、琥珀色のストレート・ティーからは、ベルガモットの爽やかな香りが漂ってきた。

「あぁ、イイ香りですね。フォートナム・アンド・メイソンのアールグレイかな?」

 オレがつぶやくと、母親は目を丸して、たずねてくる。

「まあ、あなた、紅茶に詳しいの?」

「はい……母親がヨーロッパの家具などを輸入する仕事をしてまして……お土産にあっちの飲み物を買ってくることが多いので……」

「あら、それは素敵ね!」

 緑川の母親は、朗らかな表情で言葉を返してきた。
 場が和んだところで、今度は、オレの方から本題を切り出す。こうして、リビングまで通してくれたということは、緑川母みどりかわははは、オレたちに話しを聞いてもらいたい、という気持ちがあるのだろう、という手応えを掴んでいたからだ。

「武志くんが学校に来られないのは、なにか理由があるんでしょうか?」

 ストレートなオレの問いかけに、右手を頬にあてた母親は困りはてた表情で、つぶやく。

「それが、自分たち親にも、まったくわからなくて……一年生のときは、成績も申し分なかったし、お部屋に引きこもったまま、理由も告げなくて……私も、もう、どうして良いのか……」

「それは、大変ですね……」

 母親の気持ちに寄り添うように、紅野が言葉をかける。
 絶妙なタイミングでの言葉掛けだったのか、緑川の母は、目頭を押さえながら、オレたちに問いかけてきた。

「あなたたちは、あの子に何があったか知りませんか?」

 母親の必死な様子に胸を打たれつつ、オレは、正直に首を横に振る。

「申し訳ありません。一年のときは、武志くんと違うクラスだったので……でも、もし良ければ、これから、武志くんと話しをさせてくれませんか? 同世代なら、わかり合えることもあるかも知れないので」

 オレが、そう申し出ると、母親は口元に手を当てて涙ぐむ。

「えぇ、ぜひ、よろしくお願いします」

 こうして、オレは、ほぼ面識のなかったクラスメート、緑川武志の部屋に向かうことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

処理中です...