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第三部
幕間④〜彼女の想いで〜白草四葉の巻
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~白草四葉の見解~
『PR動画コンテスト』が終わったあとに行われた放送室でのミーティングから帰宅すると、5月から住み始めたワンルームマンションで、わたしは、競走馬もぐっすり眠り込むという、人をダメにするビーズソファーに身体を沈めながら、開放感にひたる。
帰り着いた直後は蒸し暑さしか感じられなかったけど、空調の除湿機能が効いてきたのか、室内は徐々に快適な室温になり、ここ最近、わたしの身に起こったことに関することを整理するのに相応しい環境が整いつつあった。
週末ということもあって、料理をするのも億劫になったので、スマホで適当に近隣のYouber Eats提携店舗を検索し、注文を行い、手足をだらりと伸ばして天井を見上げる。
こうして、ビーズソファーに身体を預けることで、いつも以上にリラックスしていると実感できるということは、自分でも気付かないうちに、今回の企画『PR動画コンテスト』の活動にプレッシャーを感じていたということなのだろう。
5月のオープン・スクールのときとは異なり、残念ながら、今回のコンテストは、すべて自分自身の思惑どおりにコトがすすむ、というわけにはいかなかった。
ダンス部とのコラボ、事前の宣伝活動、肝心のダンスの完成度と本番でのライブステージーーーーーー。
これは、誰にも話すつもりはないことだけど、『Cross Over』という楽曲を選択したのは、わたしがこれまで挑戦してこなかった複数人でのダンスにチャレンジしたかった、という理由以上に、その歌詞の内容が、クロと出会った頃に抱いていた切ない気持ちを思い起こさせるからだ……。
そうして、自分が考えうる限り、最良のパフォーマンスを披露できたつもりだったのに、得票数でトップになれないどころか、クロとク◯生意気な下級生と同じ票数(しかも、自分たちの得票も含めて……)だったということは、少なからず、わたしに動揺を与えた。
クラブ所属の組織票に頼らずとも、帰宅部生徒の浮動票だけで十分トップになれるという、わたしの目論見は脆くも崩れてしまったのだ。
ただ、ほぼ組織票頼みだったと思われるクロたちのVtuberはともかくとして、わたしの票田になるハズだったクラブ無所属の生徒の票の一部が、黄瀬クンたちの作品に流れたことについては、自分でも納得する部分はあった。
彼らのプレゼンテーションが終わったあと、
「わたしも、思わず映像に見入っちゃった……」
と、伝えたことは、わたしの心からの気持ちだ。
広報部の花金先輩は、明言こそしなかったものの、彼女の黄瀬クンと文芸部の活動に対する講評を聞くと、自分たちに足りなかったところが、明確になった。
(協力してくれたダンス部の活動に、もう少し、焦点をあてることができていれば……)
今となっては、わたしのなかに、そんな後悔の気持ちがあるのも事実だ。
それでも――――――。
今回の動画コンテストは、自分にとってマイナスなことばかりではなかった。
わたしたちのプレゼンに対する花金先輩の講評は、ポジティブな内容だったし、彼女から預かったアンケートフォームの一言コメントも、わたしたちとダンス部に対する賞賛の声であふれていた。
(決して、自慢するわけじゃないけど、三つの作品の中で、もっともコメント数が多かったのは、わたしたちのグループだったらしい)
投票数の勝負には勝てなかったけれど、敗れた相手が黄瀬クンたちの作品だったということについては、自分のなかで、どこか納得している部分もあった。
そして、もう一つ、あらためて確認できたことがある。
それは、クロの企画力とプロデューサーとしての手腕だった。
あの生意気な下級生のスキルを活かしつつ、学校の公式キャラクターを目指すという設定でVtuberのキャラクターを立ち上げたことと、美術部やコンピュータクラブをあっという間に誑し込んで(という表現は良くないのかも知れないけど、部外者からすると、そう感じてしまう)、デザインとモーションキャプチャーの技術まで協力をあおぐという交渉の巧みさは、わたしたちの活動に欠けている要素だった。
小学生の頃から、わたしの心を離さない彼の成長した姿を目の当たりにて、
(わたしの活動をクロにプロデュースしてもらえたら……)
という想いが、さらに強くなる。
なにより、今回の活動で、わたしが、鼻うがいの披露という屈辱的行為を課されるかも知れないピンチに陥って、彼にその罰ゲームを任せようとしたところ、最初こそ、「ここは話し合いを……」と渋ったものの、わたしが潤んだ瞳で見つめると、
「ま、まぁ、女子にこんなことさせる訳にもいかないか……わかった……オレがやるよ」
と、頭をかきながら、想いを受け止めてくれた。
その姿が、小学生のころ、スマホを池のほとりに落とし、柵を乗り越えて拾いに行った彼が、わたしの代わりに叱られたあとに見せた、はにかんだような表情と重なる。
(クロ、やっぱりカワイイ……)
あの春休みのときのような胸の高鳴りを覚えたわたしは、寝返りをうって、ビーズソファーに顔をうずめたまま、その心地よい余韻にひたって、Youber Eatsの到着を待つことにした。
その直後、バイブレーション機能をオンにしていたスマホが鳴動し、LANEのメッセージが着信したことを告げる。
手を伸ばし、画面を確認すると、メッセージの送り主は、黄瀬クンだった。
『PR動画コンテスト』が終わったあとに行われた放送室でのミーティングから帰宅すると、5月から住み始めたワンルームマンションで、わたしは、競走馬もぐっすり眠り込むという、人をダメにするビーズソファーに身体を沈めながら、開放感にひたる。
帰り着いた直後は蒸し暑さしか感じられなかったけど、空調の除湿機能が効いてきたのか、室内は徐々に快適な室温になり、ここ最近、わたしの身に起こったことに関することを整理するのに相応しい環境が整いつつあった。
週末ということもあって、料理をするのも億劫になったので、スマホで適当に近隣のYouber Eats提携店舗を検索し、注文を行い、手足をだらりと伸ばして天井を見上げる。
こうして、ビーズソファーに身体を預けることで、いつも以上にリラックスしていると実感できるということは、自分でも気付かないうちに、今回の企画『PR動画コンテスト』の活動にプレッシャーを感じていたということなのだろう。
5月のオープン・スクールのときとは異なり、残念ながら、今回のコンテストは、すべて自分自身の思惑どおりにコトがすすむ、というわけにはいかなかった。
ダンス部とのコラボ、事前の宣伝活動、肝心のダンスの完成度と本番でのライブステージーーーーーー。
これは、誰にも話すつもりはないことだけど、『Cross Over』という楽曲を選択したのは、わたしがこれまで挑戦してこなかった複数人でのダンスにチャレンジしたかった、という理由以上に、その歌詞の内容が、クロと出会った頃に抱いていた切ない気持ちを思い起こさせるからだ……。
そうして、自分が考えうる限り、最良のパフォーマンスを披露できたつもりだったのに、得票数でトップになれないどころか、クロとク◯生意気な下級生と同じ票数(しかも、自分たちの得票も含めて……)だったということは、少なからず、わたしに動揺を与えた。
クラブ所属の組織票に頼らずとも、帰宅部生徒の浮動票だけで十分トップになれるという、わたしの目論見は脆くも崩れてしまったのだ。
ただ、ほぼ組織票頼みだったと思われるクロたちのVtuberはともかくとして、わたしの票田になるハズだったクラブ無所属の生徒の票の一部が、黄瀬クンたちの作品に流れたことについては、自分でも納得する部分はあった。
彼らのプレゼンテーションが終わったあと、
「わたしも、思わず映像に見入っちゃった……」
と、伝えたことは、わたしの心からの気持ちだ。
広報部の花金先輩は、明言こそしなかったものの、彼女の黄瀬クンと文芸部の活動に対する講評を聞くと、自分たちに足りなかったところが、明確になった。
(協力してくれたダンス部の活動に、もう少し、焦点をあてることができていれば……)
今となっては、わたしのなかに、そんな後悔の気持ちがあるのも事実だ。
それでも――――――。
今回の動画コンテストは、自分にとってマイナスなことばかりではなかった。
わたしたちのプレゼンに対する花金先輩の講評は、ポジティブな内容だったし、彼女から預かったアンケートフォームの一言コメントも、わたしたちとダンス部に対する賞賛の声であふれていた。
(決して、自慢するわけじゃないけど、三つの作品の中で、もっともコメント数が多かったのは、わたしたちのグループだったらしい)
投票数の勝負には勝てなかったけれど、敗れた相手が黄瀬クンたちの作品だったということについては、自分のなかで、どこか納得している部分もあった。
そして、もう一つ、あらためて確認できたことがある。
それは、クロの企画力とプロデューサーとしての手腕だった。
あの生意気な下級生のスキルを活かしつつ、学校の公式キャラクターを目指すという設定でVtuberのキャラクターを立ち上げたことと、美術部やコンピュータクラブをあっという間に誑し込んで(という表現は良くないのかも知れないけど、部外者からすると、そう感じてしまう)、デザインとモーションキャプチャーの技術まで協力をあおぐという交渉の巧みさは、わたしたちの活動に欠けている要素だった。
小学生の頃から、わたしの心を離さない彼の成長した姿を目の当たりにて、
(わたしの活動をクロにプロデュースしてもらえたら……)
という想いが、さらに強くなる。
なにより、今回の活動で、わたしが、鼻うがいの披露という屈辱的行為を課されるかも知れないピンチに陥って、彼にその罰ゲームを任せようとしたところ、最初こそ、「ここは話し合いを……」と渋ったものの、わたしが潤んだ瞳で見つめると、
「ま、まぁ、女子にこんなことさせる訳にもいかないか……わかった……オレがやるよ」
と、頭をかきながら、想いを受け止めてくれた。
その姿が、小学生のころ、スマホを池のほとりに落とし、柵を乗り越えて拾いに行った彼が、わたしの代わりに叱られたあとに見せた、はにかんだような表情と重なる。
(クロ、やっぱりカワイイ……)
あの春休みのときのような胸の高鳴りを覚えたわたしは、寝返りをうって、ビーズソファーに顔をうずめたまま、その心地よい余韻にひたって、Youber Eatsの到着を待つことにした。
その直後、バイブレーション機能をオンにしていたスマホが鳴動し、LANEのメッセージが着信したことを告げる。
手を伸ばし、画面を確認すると、メッセージの送り主は、黄瀬クンだった。
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