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第三部
幕間③〜極醸!生徒会〜その3・後編
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香緒里が会計業務に注力する中、『PR動画コンテスト』の情勢分析は、さらに続く。
「ん~、ところでさぁ……ここまで名前が挙がっていないけど、黄瀬くんや天竹さんのグループは、どうなの? 私たち吹奏楽部も協力してるから、がんばってほしいんだけど……やっぱり、白草さんや黒田くんたちに勝つのは難しい感じなの?」
美奈子が、再び鳳花に問いかけた。
生徒会執行部の同志にして、友人である彼女の問いに、副会長はほおに手をあてながら、応じる。
「そうねぇ……黄瀬くんたちの基礎票の見込みは、235票だったかしら? 浮動票を100票近く取り込めれば、得票数トップに立てるわね。今のところ、白草さんや黒田くんのグループと違って、事前の告知がまったくできていないところが気掛かりだけど……私の個人的な見解だけを述べるなら、一番注目しているのは、黄瀬くんたちの作品ね」
「そうなんだ! 吹奏楽部の一員としては嬉しい意見だけど、なにか理由があるの?」
「まず第一に、事前の告知をしていないから、本番当日まで、どんな映像に仕上がっているのか、まったくわからないこと。申し訳ないけれど、ダンスの練習風景を日々アップロードしている白草さんや、芦宮サクラのVtuber動画を投稿し始めた黒田くんのグループは、どんな映像ができあがるのか、ある程度、予想はできているの……」
「なるほど……黄瀬くんと天竹さんたち文芸部のグループは、事前告知をしていないから、その完成品を見るのが楽しみってことか……それじゃ、私たち、黄瀬くんグループの協力者は、前日までに完成した作品を見せてもらう約束をしているから、役得だねぇ」
美奈子は、鳳花に対して、フフンと勝ち誇ったように答える。
「あらまぁ、羨ましいこと……」
と、副会長は、生徒会長の発言を軽く受け流したうえで、「でも、それだけじゃないのよね……」と、付け加える。
「なに、他にどんな理由があるの?」
美奈子が、興味深そうにたずねると、鳳花は、楽しげな表情で持論を語りだした。
「白草さんや黒田くんのアプローチ方法は、自分たちのファンを獲得するための手法なの。もちろん、インフルエンサーやVtuberのキャラクターは、今の時代にとって、視聴者の賛同や共感を得やすい、ということは間違いないんだけど……でも、それだと、固定したファンは得られても、そのファン以外の層には、認知されにくくなっていってしまうのよね。これは、以前に美奈子が感じていた『なんで、素人に毛の生えたような人たちのトークや掛け合いを楽しんでるのかな』って質問をしてくれたことにも、つながってくると思うの」
「ふ~ん……でも、あの時、鳳花は、そのことを肯定的に答えていなかった?」
「たしかに、そうだったわね。それが、現在の現状だから……『ファン = 固定客を如何にして囲い込むか?』が、2020年代のマーケティングの主流なんだろうけど……それだと、あなたが感じていたように、ファン以外のひとには、その魅力がサッパリわからない、ということも有り得る……」
広報部の代表者は、以前に友人が語ったことを肯定しつつ、苦笑しながら語る。
さらに、彼女が、
「熱心なファンを獲得しつつ、より多くの人に魅力を感じてもらえるコンテンツを創るためにナニをするべきなのかは、永遠の課題ね」
と、言い添えると、友人の言葉にうなずきながらも美奈子は、問い返す。
「そっか~。ただ、それでも、白草さんが有利なのは、間違いないんじゃない? 彼女に憧れている生徒は、ウチの学校にも多いと思うし……」
「そのとおりね……でも、クラスの中心にいるような存在に共感する生徒ばかりじゃないと思うから……ピラミッド構造のヒエラルキーは、中位層と下位層の人数が多くないと成立しないでしょう? アメリカ製の学園ドラマや映画で、学内ヒエラルキーのトップ層ではなく、冴えない男女が主人公になることが多いのは、圧倒的に数が多いピラミッドの中位層と下位層に共感してもらうため、という理由があるからなのよね」
そんなふたりの会話を聞くともなしに聞いていた会計担当がつぶやいた。
「ふ~ん、『憧れ』と『共感』の対決か~。たしかに、それは、面白そうだね~。そういうことなら、庶民派のあたしは、黄瀬くんのグループを推したいな~」
すると、香緒里の一言に、書紀担当の茉純が、即座に反応する。
「なるほど……香緒里さんは、黄瀬くん推しですか。データベースによると……彼は、現在、交際中の異性は居ないとのことなので、チャンスかも知れませんよ?」
「そっか~、あたしでもワンチャンあるなら、アプローチしてみるか~、って――――――なんでやねん!! もう……ノリツッコミをさせないでよ」
切れ味鋭いツッコミを繰り出す会計担当に、今度は、生徒会長と副会長も絡みだす。
「え~、取材のときも好感度高かったし、私もこれから黄瀬くんを推そうと思ったのに……まさかの香緒里と担当被りか~」
「ふたりとも……黄瀬くんは、面識のない女子には塩対応が基本だし、ファンサには期待しすぎちゃダメよ」
美奈子と鳳花の悪ノリに、香緒里は、「うにゃ~」と声をあげ、
「だから、そんなんじゃないってば!」
と、机を両手で叩きながら立ち上がる。
ハハハ……という笑い声が生徒会室に響く中、書紀担当によって、自身のデータベースの項目に、
《推しメン:黄瀬壮馬》
という一言が追記されたことに、前田香織里が気づくことはなかった。
「ん~、ところでさぁ……ここまで名前が挙がっていないけど、黄瀬くんや天竹さんのグループは、どうなの? 私たち吹奏楽部も協力してるから、がんばってほしいんだけど……やっぱり、白草さんや黒田くんたちに勝つのは難しい感じなの?」
美奈子が、再び鳳花に問いかけた。
生徒会執行部の同志にして、友人である彼女の問いに、副会長はほおに手をあてながら、応じる。
「そうねぇ……黄瀬くんたちの基礎票の見込みは、235票だったかしら? 浮動票を100票近く取り込めれば、得票数トップに立てるわね。今のところ、白草さんや黒田くんのグループと違って、事前の告知がまったくできていないところが気掛かりだけど……私の個人的な見解だけを述べるなら、一番注目しているのは、黄瀬くんたちの作品ね」
「そうなんだ! 吹奏楽部の一員としては嬉しい意見だけど、なにか理由があるの?」
「まず第一に、事前の告知をしていないから、本番当日まで、どんな映像に仕上がっているのか、まったくわからないこと。申し訳ないけれど、ダンスの練習風景を日々アップロードしている白草さんや、芦宮サクラのVtuber動画を投稿し始めた黒田くんのグループは、どんな映像ができあがるのか、ある程度、予想はできているの……」
「なるほど……黄瀬くんと天竹さんたち文芸部のグループは、事前告知をしていないから、その完成品を見るのが楽しみってことか……それじゃ、私たち、黄瀬くんグループの協力者は、前日までに完成した作品を見せてもらう約束をしているから、役得だねぇ」
美奈子は、鳳花に対して、フフンと勝ち誇ったように答える。
「あらまぁ、羨ましいこと……」
と、副会長は、生徒会長の発言を軽く受け流したうえで、「でも、それだけじゃないのよね……」と、付け加える。
「なに、他にどんな理由があるの?」
美奈子が、興味深そうにたずねると、鳳花は、楽しげな表情で持論を語りだした。
「白草さんや黒田くんのアプローチ方法は、自分たちのファンを獲得するための手法なの。もちろん、インフルエンサーやVtuberのキャラクターは、今の時代にとって、視聴者の賛同や共感を得やすい、ということは間違いないんだけど……でも、それだと、固定したファンは得られても、そのファン以外の層には、認知されにくくなっていってしまうのよね。これは、以前に美奈子が感じていた『なんで、素人に毛の生えたような人たちのトークや掛け合いを楽しんでるのかな』って質問をしてくれたことにも、つながってくると思うの」
「ふ~ん……でも、あの時、鳳花は、そのことを肯定的に答えていなかった?」
「たしかに、そうだったわね。それが、現在の現状だから……『ファン = 固定客を如何にして囲い込むか?』が、2020年代のマーケティングの主流なんだろうけど……それだと、あなたが感じていたように、ファン以外のひとには、その魅力がサッパリわからない、ということも有り得る……」
広報部の代表者は、以前に友人が語ったことを肯定しつつ、苦笑しながら語る。
さらに、彼女が、
「熱心なファンを獲得しつつ、より多くの人に魅力を感じてもらえるコンテンツを創るためにナニをするべきなのかは、永遠の課題ね」
と、言い添えると、友人の言葉にうなずきながらも美奈子は、問い返す。
「そっか~。ただ、それでも、白草さんが有利なのは、間違いないんじゃない? 彼女に憧れている生徒は、ウチの学校にも多いと思うし……」
「そのとおりね……でも、クラスの中心にいるような存在に共感する生徒ばかりじゃないと思うから……ピラミッド構造のヒエラルキーは、中位層と下位層の人数が多くないと成立しないでしょう? アメリカ製の学園ドラマや映画で、学内ヒエラルキーのトップ層ではなく、冴えない男女が主人公になることが多いのは、圧倒的に数が多いピラミッドの中位層と下位層に共感してもらうため、という理由があるからなのよね」
そんなふたりの会話を聞くともなしに聞いていた会計担当がつぶやいた。
「ふ~ん、『憧れ』と『共感』の対決か~。たしかに、それは、面白そうだね~。そういうことなら、庶民派のあたしは、黄瀬くんのグループを推したいな~」
すると、香緒里の一言に、書紀担当の茉純が、即座に反応する。
「なるほど……香緒里さんは、黄瀬くん推しですか。データベースによると……彼は、現在、交際中の異性は居ないとのことなので、チャンスかも知れませんよ?」
「そっか~、あたしでもワンチャンあるなら、アプローチしてみるか~、って――――――なんでやねん!! もう……ノリツッコミをさせないでよ」
切れ味鋭いツッコミを繰り出す会計担当に、今度は、生徒会長と副会長も絡みだす。
「え~、取材のときも好感度高かったし、私もこれから黄瀬くんを推そうと思ったのに……まさかの香緒里と担当被りか~」
「ふたりとも……黄瀬くんは、面識のない女子には塩対応が基本だし、ファンサには期待しすぎちゃダメよ」
美奈子と鳳花の悪ノリに、香緒里は、「うにゃ~」と声をあげ、
「だから、そんなんじゃないってば!」
と、机を両手で叩きながら立ち上がる。
ハハハ……という笑い声が生徒会室に響く中、書紀担当によって、自身のデータベースの項目に、
《推しメン:黄瀬壮馬》
という一言が追記されたことに、前田香織里が気づくことはなかった。
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