初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

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第三部

第3章〜裏切りのサーカス〜⑭

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 6月13日(月)

 天竹あまたけさんのスマホに届いたメッセージは、バドミントン部の西尾部長から送られたものだった。

 ==============

 バドミントン部の西尾です。

 黒田くんたちのVtuberの
 クラブ紹介に参加しようと
 思っていたんだけど・・・
 
 取材するクラブが多いのか、
 なかなか自分たちに順番が
 回ってきません
 
 今さらで申し訳ないんだけど
 天竹さん達に取材をお願い
 することは出来ますか?

 ==============

 三年生の西尾部長が、下級生である天竹さんに送る文面にしては、丁寧さを感じるものではある。

 体育会系クラブのご多分に漏れず、バドミントン部の訪問時も、

「黒田たちと先に約束しちゃったからなぁ……」

と、インタビュー取材を断られたんだけど、どうやら状況が変わって来ているようだ。

 ただ、文芸部の中では、当然のように意見が別れた。

「一度は断っておいて、いまさら、こんな都合の良いこと言われても……って、感じじゃない?」

「そうですよね……もう、他のクラブのインタビューは終わって、次の撮影をする段階ですし……」

「でも、少しでも協力してくれるクラブが増えるのは、プラスになるんじゃない?」

「たしかに、黒田先輩たちのところから、私たちの方に来てくれるっていうのは、ちょっと嬉しいかもですね」

 彼女たちが語った内容は、実益の面でも感情論としても、どちらも、うなずける内容だった。
 部員のみんなの意見を冷静に聞いていた天竹部長は、それぞれの主張を熟考するように受け止めたあと、

「黄瀬くんは、どう思いますか?」

と、話しをボクに振ってきた。
 急に意見を求められたことに、焦りつつも、感じていることを率直に答える。

「う~ん、石沢いしざわさんや高瀬たかせさんに言ったように、もう作成する映像のコンセプトが出来あがった時点で、いまさら言われても……という想いは、ボクにもある。ただ、今村いまむらさんや井戸川いどがわさんが言うように、今からでもバドミントン部と協力するメリットはあるかも知れない……曖昧な答えになって申し訳ないけど、ここは、バドミントン部の部長さんと直接、話した方が良いんじゃないかなぁ?」

 自分でも煮えきらない回答だな、と思っていたんだけど、ボクの予想に反して、天竹さんの表情は、パッと明るくなった。

「そうですね! 実は私も、そう考えていました。バドミントン部は、校内でも珍しい男女混成のクラブで部員数も多いですし……私、部長の西尾さんと、もう一度お話ししてみようと思います」

 代表者の一言に、部員のみんなは納得したのか、石沢さんが、天竹さんに語りかける。

「部長の葵が、そう言うなら良いんじゃない? バドミントン部と話して、私たちにメリットがあるようなら、あらためて協力関係を作れば良いし、逆に無茶な要求をされたり、失礼なことを言われたら、断ってくれて良いから!」

 朗らかな表情で語られたその言葉に、他の部員のみんなも、うんうんとうなずき、賛同の意を示した。

 そんな訳で、月曜日の放課後になり、本来の予定である華道部での撮影取材を他の部員さんたちに任せて、インタビュー取材の責任者である天竹さんと、映像編集の責任者とされているボクは、バドミントン部の活動場所である体育館を訪問している。

 個人的には、ビデオカメラや写真撮影こそ、自分の出番だという気持ちが強いので、その現場に参加できないことに対する、忸怩じくじたる想いはあるけれど、これも、グループ活動の一環なので仕方がない。
 
 部長の西尾先輩は、前回の訪問時と同じように、気さくな対応ながらも、下級生のボクたちに対する気遣いを見せてくれた。

「一度は断ったみたいな感じになったのに、ここまで来てもらって、ゴメンね。黒田たちの取材を受けようと思ったけど、他のクラブの取材日程が立て込んでいるらしくて、来週の週末まで待ってくれ、と言われちゃってさ……今週の日曜日には、一年の新人戦が開催されるんだけど、その日は取材に来てもらえないみたいなんだ」

 なるほど……数日前、竜司たちの活動スケジュールを心配したボクの予測はハズレていなかったようだ。

 そして、クラブ側が見せたい内容と、竜司たちの作ろうとする動画のコンセプトに、ズレが生じているようだ。
 さらに、Vtuberのキャクターが、体育会系クラブの試合を取材して、どうやって映像にまとめるつもりなのか、ボクにとっては謎でもある(と同時に大いに興味がある)。

 そんなことをツラツラと考えながら、西尾部長の話しを伺っていると、天竹さんは、すぐにスケジュール帳を確認し、

「今週の日曜日ですか……この日は、吹奏楽部の撮影予定日ですが、大会の会場が近くで、なおかつ午前中であれば、撮影取材を行うことも可能ですね」

と、ボクの同意を待たずに返答する。

(ちょっ……ちょっと、待ってよ! ボクも、その会場に同行するの?)

 自分たちの意思伝達ができていないことをバドミントン部側に悟られないように、ツッコミたい心をなんとか抑えていると、西尾部長は、天竹さんの言葉に感激したように、言葉を発する。

「ありがとう! 午前中も、試合はあるし、開会式のようすを動画にしてくれたら、とても助かる。実は、新入部員の桃田ももたが、抽選で選手宣誓をすることになったんだ」

 なるほど……バドミントン部の試合の取材にこだわったのは、そういう理由があったのか……。

「卒業した先輩も含めて、オレたちは、感染症の影響で対外試合に出る機会が少なかったから、いまの一年たちには、思いっきり試合に出る喜びを感じて欲しいんだよ……」

 感極まったように、語り続ける西尾部長の表情を見ながら、天竹さんの表情をうかがおうとすると、偶然に視線が重なり、なにかの手応えを感じたのだろうか、彼女はクスリと微笑む。
 そして、感激にひたっているバドミントン部の部長さんに対して、文芸部の部長は、穏やかな声色で語りかけた。
 
「そうだったんですね……そういう事情があるなら、私たちのグループも新人戦の試合の撮影取材をさせてもらいたいと思います。ただ……インタビューについては、すでに、他のクラブを取材を終えていて、編集する映像のコンセプトも出来上がっています。完成した動画は、私たちのこれまでの取材内容に沿った内容になりますが、それでも構いませんか?」

「ああ、もちろんだ! 一度、キミたちの取材依頼を断ったのに、途中から参加させてもらうんだからな。試合や練習のようすを撮影して動画にしてもらえるなら、あとは、そちらの好きなように編集してもらって構わないよ」

 体育会系らしい、と言うと多少の偏見が混じっているかも知れないけど、快活に答えた西尾部長の言葉に、ボクの表情も自然にほころぶ。

 そして、そんな感激屋の上級生の言葉に満足したように微笑んでいた、天竹さんは、瞬時に鋭い視線を相手に送り、

「では、このまま少しだけお時間をいただいて、バドミントン部の代表者と中心選手にインタビューを行いたいんですが、構いませんか?」

と、そのまま取材依頼を申し込んだ。

 双方に良好な関係が築かれたこのタイミングで、取材が断られるということはないだろう。

 天竹さんの申し出は、西尾部長に快諾され、ボクは臨時の取材インタビューに同席することになった。
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