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第三部
第3章〜裏切りのサーカス〜⑫
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==============
遅い時間に申し訳ありません
動画コンテストの活動について
相談したいことがあります
週明け、生徒会室に行かせて
もらっても良いでしょうか?
==============
図書室でのミーティングが終わると、すでに午後7時を大きく回っていた。
にもかかわらず、ボクが鳳花部長に送信したメッセージには、すぐに既読が付いて、白色の謎のマスコットキャラクターが「OK!」と言っているスタンプが返信され、
(部長でも、こんな風に、かわいいスタンプを使うんだ)
なんて思っていると、
==============
まだ、校内に残っているなら
今からでも生徒会室にどうぞ
==============
というメッセージが送られきた。
(この時間でも、まだ校内に残っているなんて、流石というか、なんというか……)
ボクは、自分以上に仕事に没頭する上級生に感謝しつつ、生徒昇降口で、天竹さんたち文芸部のみんなを見送って、新館D棟の最上階にある生徒会室に向かう。
「広報部の黄瀬です。失礼します」
生徒会室のドアをノックして入室すると、部長、いや生徒会副会長は、ひとりで書類の整理を行っていた。
「遅い時間に申し訳ありません、鳳花部長」
と、声をかけると、彼女は穏やかな笑みを浮かべながら返答する。
「それは、お互いさまじゃない? ゴメンね、こんな時間の対応になって。それで、相談ってどんなこと?」
生徒会室を借りているものの、これは、広報部の代表者としての対応だと判断し、ボクは、遠慮なく、いま頭を悩ませていることを打ち明ける。
「取材に協力してくれるクラブへのインタビューは順調に終わったんですけど……映像をまとめるためのコンセプトと言うか、キャッチコピーみたいなモノが、なかなか思いつかなくて……」
ストレートに自分の悩み事をぶつけると、うなずきながら話しを聞いてくれていた上級生は、整った眉根を少し上げ、
「これまで、そういうことは、黒田くんが考えてくれていたってこと?」
と、ボクに問いかける。
「率直に言うと、そういうことです」
自分の不甲斐なさを認めることになることを承知で、その問いに答えると、彼女は、なぜかボクの回答に満足したような表情で語りかける。
「素直に自分の至らない部分を認められるのは、良いことね。そう……私から、具体的にキャッチフレーズを授けるよりも良い方法があるわ。黄瀬くんを……ううん、どんな人でも優秀なコピーライターになるメソッドを伝えさせてもらおうかな?」
「優秀なコピーライターに……? そんな方法があるんですか?」
ボクの疑問に、微笑をたたえながら、「えぇ、そうよ……」と部長は首を小さくたてに振る。
「黄瀬くん、タブレットは持ってる? まずは、古いテレビコマーシャルを見てもらおうと思うの」
さらに、続けてそう言われたので、ボクは慌てて通学カバンから、タブレットPCを取り出して、動画サイトにアクセスする。
そして、部長に言われたとおり、検索欄に風邪薬の商品名を入力すると、四十年近く前のテレビコマーシャルのサムネイル一覧が表示された。
「あったわ! これね」
鳳花部長が指さした動画をクリックすると、1980~90年代に活躍したアイドル歌手が、
「ベン◯エースを買ってください」
という一言を告げる。
「へっ? これだけ……? なんか……シンプル過ぎませんか?」
思わず怪訝な表情になってしまったことを自覚しながらたずねると、ボクの反応が予想どおりのモノだったのだろうか、部長は、少し可笑しそうに笑みを浮かべて、
「フフ……そう感じるわよね……でも、このコマーシャルには、キャッチコピーを創るうえで重要なヒントが隠されているの?」
「重要なヒント、ですか?」
「えぇ……このコマーシャルのコピーは、『コピーライターの神様』と呼ばれた有名クリエイターが考案して、その年の広告賞を受賞したモノなんだけど……制作者曰く、このコピーが生まれたのは、製薬メーカーとの会議で、メーカーの人たちから、『良い商品ができたから、とにかく、ベン◯エースを買ってほしい』という気持ちが伝わって来たから、だそうよ」
こうしたことを語りだすと止まらなくなる鳳花部長の話しを、ボクは興味深く傾聴する。
「このコマーシャルのキャッチコピーが出来た背景のように、黄瀬くんたちも、今回の依頼主であるインタビューを行ったクラブの想いをくみ取ることが重要ね。まずは、みんなで取材した結果から、各クラブで多く話された単語やキーワードをピックアップすること……」
「あっ! それなら、文芸部のみんなとすでにやってます! 天竹さんが、それをまとめてくれていて……」
ボクが、そう返答すると、「あら! それなら、話しが早いわね」と、表情をほころばせた部長は、次の作業をうながす。
「じゃあ、今度は『ロイロノート』を起動してくれる? シンキングツールを使ったキャッチコピーの作り方を伝授するから」
部長に言われるまま、中学生時代から使い慣れた学習支援アプリを起動し、これも授業で良く利用するアイデアや問題を可視化するためのツールを選択する。
こうして、ボクは、頼りがいのある広報部の部長から、即席のコピーライター養成メソッドを授かることになった。
遅い時間に申し訳ありません
動画コンテストの活動について
相談したいことがあります
週明け、生徒会室に行かせて
もらっても良いでしょうか?
==============
図書室でのミーティングが終わると、すでに午後7時を大きく回っていた。
にもかかわらず、ボクが鳳花部長に送信したメッセージには、すぐに既読が付いて、白色の謎のマスコットキャラクターが「OK!」と言っているスタンプが返信され、
(部長でも、こんな風に、かわいいスタンプを使うんだ)
なんて思っていると、
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まだ、校内に残っているなら
今からでも生徒会室にどうぞ
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というメッセージが送られきた。
(この時間でも、まだ校内に残っているなんて、流石というか、なんというか……)
ボクは、自分以上に仕事に没頭する上級生に感謝しつつ、生徒昇降口で、天竹さんたち文芸部のみんなを見送って、新館D棟の最上階にある生徒会室に向かう。
「広報部の黄瀬です。失礼します」
生徒会室のドアをノックして入室すると、部長、いや生徒会副会長は、ひとりで書類の整理を行っていた。
「遅い時間に申し訳ありません、鳳花部長」
と、声をかけると、彼女は穏やかな笑みを浮かべながら返答する。
「それは、お互いさまじゃない? ゴメンね、こんな時間の対応になって。それで、相談ってどんなこと?」
生徒会室を借りているものの、これは、広報部の代表者としての対応だと判断し、ボクは、遠慮なく、いま頭を悩ませていることを打ち明ける。
「取材に協力してくれるクラブへのインタビューは順調に終わったんですけど……映像をまとめるためのコンセプトと言うか、キャッチコピーみたいなモノが、なかなか思いつかなくて……」
ストレートに自分の悩み事をぶつけると、うなずきながら話しを聞いてくれていた上級生は、整った眉根を少し上げ、
「これまで、そういうことは、黒田くんが考えてくれていたってこと?」
と、ボクに問いかける。
「率直に言うと、そういうことです」
自分の不甲斐なさを認めることになることを承知で、その問いに答えると、彼女は、なぜかボクの回答に満足したような表情で語りかける。
「素直に自分の至らない部分を認められるのは、良いことね。そう……私から、具体的にキャッチフレーズを授けるよりも良い方法があるわ。黄瀬くんを……ううん、どんな人でも優秀なコピーライターになるメソッドを伝えさせてもらおうかな?」
「優秀なコピーライターに……? そんな方法があるんですか?」
ボクの疑問に、微笑をたたえながら、「えぇ、そうよ……」と部長は首を小さくたてに振る。
「黄瀬くん、タブレットは持ってる? まずは、古いテレビコマーシャルを見てもらおうと思うの」
さらに、続けてそう言われたので、ボクは慌てて通学カバンから、タブレットPCを取り出して、動画サイトにアクセスする。
そして、部長に言われたとおり、検索欄に風邪薬の商品名を入力すると、四十年近く前のテレビコマーシャルのサムネイル一覧が表示された。
「あったわ! これね」
鳳花部長が指さした動画をクリックすると、1980~90年代に活躍したアイドル歌手が、
「ベン◯エースを買ってください」
という一言を告げる。
「へっ? これだけ……? なんか……シンプル過ぎませんか?」
思わず怪訝な表情になってしまったことを自覚しながらたずねると、ボクの反応が予想どおりのモノだったのだろうか、部長は、少し可笑しそうに笑みを浮かべて、
「フフ……そう感じるわよね……でも、このコマーシャルには、キャッチコピーを創るうえで重要なヒントが隠されているの?」
「重要なヒント、ですか?」
「えぇ……このコマーシャルのコピーは、『コピーライターの神様』と呼ばれた有名クリエイターが考案して、その年の広告賞を受賞したモノなんだけど……制作者曰く、このコピーが生まれたのは、製薬メーカーとの会議で、メーカーの人たちから、『良い商品ができたから、とにかく、ベン◯エースを買ってほしい』という気持ちが伝わって来たから、だそうよ」
こうしたことを語りだすと止まらなくなる鳳花部長の話しを、ボクは興味深く傾聴する。
「このコマーシャルのキャッチコピーが出来た背景のように、黄瀬くんたちも、今回の依頼主であるインタビューを行ったクラブの想いをくみ取ることが重要ね。まずは、みんなで取材した結果から、各クラブで多く話された単語やキーワードをピックアップすること……」
「あっ! それなら、文芸部のみんなとすでにやってます! 天竹さんが、それをまとめてくれていて……」
ボクが、そう返答すると、「あら! それなら、話しが早いわね」と、表情をほころばせた部長は、次の作業をうながす。
「じゃあ、今度は『ロイロノート』を起動してくれる? シンキングツールを使ったキャッチコピーの作り方を伝授するから」
部長に言われるまま、中学生時代から使い慣れた学習支援アプリを起動し、これも授業で良く利用するアイデアや問題を可視化するためのツールを選択する。
こうして、ボクは、頼りがいのある広報部の部長から、即席のコピーライター養成メソッドを授かることになった。
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