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第三部
第3章〜裏切りのサーカス〜①
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6月6日(月)
~黄瀬壮馬の見解~
各クラブへの訪問取材のメドが立ったことで、動画コンテストに参加するボクと文芸部のグループのメンバーは、穏やかな気持で週末を過ごし、月曜日を迎えていた。
先週末は、「日本ダービーを一緒に見よう」と、お互いに暗黙の約束をしていた竜司とともに過ごしていたボクだけど……。
この週末、竜司は佐倉さんと一緒に、動画コンテストの打ち合わせをするという理由で、ボクらが共同で使っている、《竜馬ちゃんねる》の編集スタジオに顔を見せることはなかった。
仕方なく、ボクは過去に自分が編集したクラブ紹介の動画をセルフチェックしながら、今回の活動へのモチベーションアップとインスピレーションの獲得につとめえうことにして過ごしていた。
そうして、週が明けた今日、
(さあ、今週からは、いよいよ各クラブの本格的な取材に入るぞ!)
と、ボクにしては珍しく意気込み高らかに、登校したんだけど……。
所属する二年A組の教室に着くや、困った表情の天竹さんが話しかけてきたことで、その活力に水をさされることになった――――――。
※
「黄瀬くん、ちょっと良いですか? クラブ取材のことで、すぐにお伝えしたいことがあって……」
困惑の表情を浮かべながら、いつものように一緒に登校してきた竜司の顔をチラリと見ながら、天竹さんは、ボクに相談を持ちかけてきた。
彼女が、隣りにいる竜司の表情をうかがっていたことが気になりながらも、ボクは、
「緊急の話しなのかな? わかった、ちょっと、場所を変えようか?」
と、天竹さんに教室の外へと移動するようにうながしながら、友人に
(じゃ、そういうことだから……)
と、無言の視線を送る。
「おう、わかった! じゃ、あとでな」
言葉を交わさずとも、こちらの意志を汲み取った竜司の返事を聞きながら、文芸部の部長さんを連れて、ボクは、朝の喧騒から逃れることのできる廊下の奥に移動した。
「急を要する話みたいだけど、なにかあったの?」
前置きを廃して、ボクがたずねると、天竹さんは、文芸部員から送られてきたと思われるメッセージアプリLANEの画面を見せてくれた。
==============
今朝、登校する途中に美術部の
加納先輩に声をかけられて
約束していたクラブ取材を
断られちゃったんだけど……
私たち、なにかしちゃった?
葵はなにか知ってる?
==============
画面をよく確認すると、LANEのメッセージを送信してきたのは、予想したとおり文芸部の石沢さんだった。
「このメッセージを見たあと、すぐに、はるかに連絡したら、美術部の加納部長からは、『動画コンテストは、他のグループと協力することになったから……』って言われたそうで……黄瀬くんは、なにか知っていますか?」
悲壮とも言っても差し支えない天竹さんの表情を見ながら、自分にとっても寝耳に水の報告に、ボクは無言で首を横に振ることしかできない。
それでも、ショッキングな一報を受けながら、ボクには閃くことがあった。
「正直、想定外のことでショックだけど……冷静に考えてみれば、心当たりがある。ちょっと、教室に戻るね」
相談の主に、ことわりを入れてから、すぐに二年A組の教室に戻り、ボクは、自分の席の後ろに座る友人の元に向かう。竜司の席では、これも、いつものように、というか、座席が離れている白草さんが、絡みに来ていた。
「ねぇねぇ、クロ! 動画コンテストの調子は、どうなのよ? わたし達の方はね……」
そう言いながら、自分たちの活動ぶりを竜司にアピールしようとするクラスメートの横から、声をかける。
いつもなら、竜司に絡もうとする白草さんを制するなんていう、あとで、どんな恨みを買うか分からない愚かな行為に及ぶボクではないけれど、今回ばかりは、緊急を要することなので、彼女の意向に構っている暇はなかった。
「お話しの途中で、ゴメンね白草さん。竜司に、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
念のため、彼女にことわりを入れたあとで、あらためて、問いかける。
「ねぇ、竜司……美術部のことなんだけど……」
ボクが、そう口に出して、すべてを言い終わらないうちに、親友は、
「スマン! 壮馬」
と、両手をパチンと合わせて、そのまま頭を下げた。
機先を制するような、その言動で、ボクはすべてを察して、
(あぁ……やっぱり……)
と、膝のチカラが抜けるような感覚に襲われた。
それでも、なんとか、その場にしゃがみ込みたくなるような衝動に耐えて、
「そっか……」
短く返答する。
そんなボクらのようすを眺めながら、戸惑ったような表情を浮かべつつ、二ヶ月前に転入してきたクラスメートは、提案をしてきた。
「ねぇ……なにがあったの? って聞きたいところだけど、今日の放課後は、『動画コンテスト』の連絡会があるって、雪乃が言ってたから……その場で、わかるように、あのコにも伝えてくれない?」
この場で、自分にも詳しく話しを聞かせなさい、などと駄々をこねるような相手なら、あとで竜司には、友人として
「もう、白草さんのことは忘れて、他の女子に目を向けなよ。その方が竜司のためになると思うよ」
というアドバイスをしていたところだけれど――――――。
本当に肝心なところでは、空気を読む術に長けている彼女は、ボクの感情を害することなく、場を収めてくれた。
~黄瀬壮馬の見解~
各クラブへの訪問取材のメドが立ったことで、動画コンテストに参加するボクと文芸部のグループのメンバーは、穏やかな気持で週末を過ごし、月曜日を迎えていた。
先週末は、「日本ダービーを一緒に見よう」と、お互いに暗黙の約束をしていた竜司とともに過ごしていたボクだけど……。
この週末、竜司は佐倉さんと一緒に、動画コンテストの打ち合わせをするという理由で、ボクらが共同で使っている、《竜馬ちゃんねる》の編集スタジオに顔を見せることはなかった。
仕方なく、ボクは過去に自分が編集したクラブ紹介の動画をセルフチェックしながら、今回の活動へのモチベーションアップとインスピレーションの獲得につとめえうことにして過ごしていた。
そうして、週が明けた今日、
(さあ、今週からは、いよいよ各クラブの本格的な取材に入るぞ!)
と、ボクにしては珍しく意気込み高らかに、登校したんだけど……。
所属する二年A組の教室に着くや、困った表情の天竹さんが話しかけてきたことで、その活力に水をさされることになった――――――。
※
「黄瀬くん、ちょっと良いですか? クラブ取材のことで、すぐにお伝えしたいことがあって……」
困惑の表情を浮かべながら、いつものように一緒に登校してきた竜司の顔をチラリと見ながら、天竹さんは、ボクに相談を持ちかけてきた。
彼女が、隣りにいる竜司の表情をうかがっていたことが気になりながらも、ボクは、
「緊急の話しなのかな? わかった、ちょっと、場所を変えようか?」
と、天竹さんに教室の外へと移動するようにうながしながら、友人に
(じゃ、そういうことだから……)
と、無言の視線を送る。
「おう、わかった! じゃ、あとでな」
言葉を交わさずとも、こちらの意志を汲み取った竜司の返事を聞きながら、文芸部の部長さんを連れて、ボクは、朝の喧騒から逃れることのできる廊下の奥に移動した。
「急を要する話みたいだけど、なにかあったの?」
前置きを廃して、ボクがたずねると、天竹さんは、文芸部員から送られてきたと思われるメッセージアプリLANEの画面を見せてくれた。
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今朝、登校する途中に美術部の
加納先輩に声をかけられて
約束していたクラブ取材を
断られちゃったんだけど……
私たち、なにかしちゃった?
葵はなにか知ってる?
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画面をよく確認すると、LANEのメッセージを送信してきたのは、予想したとおり文芸部の石沢さんだった。
「このメッセージを見たあと、すぐに、はるかに連絡したら、美術部の加納部長からは、『動画コンテストは、他のグループと協力することになったから……』って言われたそうで……黄瀬くんは、なにか知っていますか?」
悲壮とも言っても差し支えない天竹さんの表情を見ながら、自分にとっても寝耳に水の報告に、ボクは無言で首を横に振ることしかできない。
それでも、ショッキングな一報を受けながら、ボクには閃くことがあった。
「正直、想定外のことでショックだけど……冷静に考えてみれば、心当たりがある。ちょっと、教室に戻るね」
相談の主に、ことわりを入れてから、すぐに二年A組の教室に戻り、ボクは、自分の席の後ろに座る友人の元に向かう。竜司の席では、これも、いつものように、というか、座席が離れている白草さんが、絡みに来ていた。
「ねぇねぇ、クロ! 動画コンテストの調子は、どうなのよ? わたし達の方はね……」
そう言いながら、自分たちの活動ぶりを竜司にアピールしようとするクラスメートの横から、声をかける。
いつもなら、竜司に絡もうとする白草さんを制するなんていう、あとで、どんな恨みを買うか分からない愚かな行為に及ぶボクではないけれど、今回ばかりは、緊急を要することなので、彼女の意向に構っている暇はなかった。
「お話しの途中で、ゴメンね白草さん。竜司に、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
念のため、彼女にことわりを入れたあとで、あらためて、問いかける。
「ねぇ、竜司……美術部のことなんだけど……」
ボクが、そう口に出して、すべてを言い終わらないうちに、親友は、
「スマン! 壮馬」
と、両手をパチンと合わせて、そのまま頭を下げた。
機先を制するような、その言動で、ボクはすべてを察して、
(あぁ……やっぱり……)
と、膝のチカラが抜けるような感覚に襲われた。
それでも、なんとか、その場にしゃがみ込みたくなるような衝動に耐えて、
「そっか……」
短く返答する。
そんなボクらのようすを眺めながら、戸惑ったような表情を浮かべつつ、二ヶ月前に転入してきたクラスメートは、提案をしてきた。
「ねぇ……なにがあったの? って聞きたいところだけど、今日の放課後は、『動画コンテスト』の連絡会があるって、雪乃が言ってたから……その場で、わかるように、あのコにも伝えてくれない?」
この場で、自分にも詳しく話しを聞かせなさい、などと駄々をこねるような相手なら、あとで竜司には、友人として
「もう、白草さんのことは忘れて、他の女子に目を向けなよ。その方が竜司のためになると思うよ」
というアドバイスをしていたところだけれど――――――。
本当に肝心なところでは、空気を読む術に長けている彼女は、ボクの感情を害することなく、場を収めてくれた。
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