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第三部
幕間②〜極醸!生徒会〜その2・前編
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広報部と文芸部のメンバー、そして、白草四葉が、各クラブを訪問し、共同作業を始めたころ、生徒会室では、『芦宮高校PR動画コンテスト』の準備が着々と進められていた。
この日は、全体の進捗状況を確認するということで、生徒会長の寿美奈子も、1週間ぶりに生徒会室に顔を出している。
「茉純、会場の予約とオンライン投票の準備はどんな感じ?」
美奈子の問いかけに対して、書紀担当の生野茉純は、眼鏡のツルの部分に手を当てながら、即答する。
「動画コンテストの会場として、すでに大講堂を予約済みです。オンライン投票の投票項目は、Googleフォームで作成していますので、確認をお願いします」
「さっすが、我らが生徒会の事務担当! 仕事が早いねぇ」
生徒会長の称賛の声にも、書紀担当は、
「いえ、これが、仕事ですから……」
と、淡々と応じ、竜司たちをはじめとする動画制作を行う各チームからの要望書に目を通している。
そのようすに満足しながら、美奈子は、月曜日に開催された二回目の連絡会の議事録をながめつつ、感想をもらす。
「いや~、予想していたよりも面白そうな企画が集まったね~。ダンス動画に、Vtuberか~。若い子たちの考えるアイデアは、斬新でイイね~」
「その若い子たちって発言には、『あなたも年齢は変わらないでしょう?』というツッコミ待ちなのかしら?」
感慨深げに語る生徒会長に、茉純が作ったアンケート項目を確認しながら副会長の花金鳳花が、語りかけた。
「まあ、半分はそうだけど……でも、こういう企画が普通に出てくるあたり、やっぱ、今年の一年と二年はスゴいと思うわ……いや、私が、年齢相応の十代のノリについていけてないだけかも知れないけど……」
なかば自虐的な笑みを浮かべながらも、美奈子は感心したように言う。
すると、彼女の意見には、鳳花も感じるところがあったようで、目を細めながら、素直に同意する。
「たしかに、私も、白草さんや佐倉さんなら、なにか面白いアイデアを持ってくるんじゃないかと思っていたけど……想像していた以上に、面白そうで、ハードルの高そうなことに挑戦していて、いまから映像の完成が楽しみだわ」
そんな、下級生たちの活動を心の底から楽しみにしているようすの生徒会副会長兼広報部部長を、会計担当の前田香緒里は、今日も表計算ソフトの予算表と格闘しながら、
(ま~た、自分の部活の後輩に惚気けてるヨ……)
と、あきれ顔で眺めていた。
生徒会役員が各々の職務に励む中、生徒会長の承認印を押す書類が回ってこないため、手持ち無沙汰になった美奈子は、再び各チームの企画書に視線を落としながら、つぶやく。
「ところでさ……YourTuberとかVtuberとかって、なんで人気があるの? 私からすると、同じ動画を見るなら、プロの演奏を見たほうが、はるかに刺激になるんだけど……」
「それは、そもそも、あなたが動画を視聴する目的が、普通の中高生とは違うからじゃないの?」
生徒会長の何気ない一言に、副会長が即座に反応する。
「いや、そりゃ、そうかも知れないけどさ~。こう言っちゃ悪いけど……みんな、なんで、素人に毛の生えたような人たちのトークや掛け合いを楽しんでるのかな、って……」
「美奈子、あんまり多くの人を敵に回すようなことを言っちゃだめよ……」
クスクスと笑いながら、釘を刺す鳳花に対して、付き合いの長い友人は、表情をうかがいながら、
「その顔色は、なにか答えを持ってるんでしょ? 広報部なりの見解をぜひ聞かせてよ」
と、返答する。
美奈子のリクエストに応じた鳳花は、「そうね……」と前置きして、再び笑みを浮かべたあと、ゆっくりと語りだした。
「1960年代に注目を集めた批評家のマーシャル・マクルーハンは、その著書『メディア論』の中で、”メディアはメッセージである”という言葉を残しているわ」
冒頭の言葉を聞いただけで、会計担当の香緒里は、
(わっ……また、難しい話しが始まりそう……眠くならないように、作業に集中しよう)
と、警戒する。
「”メディアはメッセージである”って、どういうこと?」
美奈子の質問に、鳳花は、例え話しで応じた。
「たとえば、『私は、本が好きです』と言われた場合、ほとんどの人は、『どんな物語が好きなの?』って、内容のことを質問したくなるでしょう?」
「たしかに、そうね」
「でも、《本》というモノを考えた場合、文字で記載されている中身だけでなく、その形状やカバーの手触り、紙のニオイだって、重要な要素だと思うの」
「ふんふん」
「ただ、さっきも言ったけど、『本が好き』と言われたときに、多くの人は、本の形状ではなく、中身のことを想像してしまうでしょ? 本そのものから五感を通して感じられる、手触りやニオイのような触覚や嗅覚については、意識を向けないけど、視覚以外から感じられる、そうしたメッセージも、実は、重要な要素なんじゃないか、ということね」
鳳花が、そこまで語り終えると、美奈子は、こめかみに手を添えて、
「う~ん、なんだかわかったような、わからないような感じだな……」
と、苦笑しながら、
「香緒里、あなたはわかった?」
会計担当に話しを振る。
生徒会長の質問に、香緒里が、両手を広げて、サッパリわからん……というジェスチャーを示したのを確認すると、生徒会副会長にして広報部の部長を務める鳳花は、
「それじゃ、もっと、親近感を持ってもらえるような、別の例を出してみましょうか?」
と、さらに踏み込んで、自説を展開しはじめた。
この日は、全体の進捗状況を確認するということで、生徒会長の寿美奈子も、1週間ぶりに生徒会室に顔を出している。
「茉純、会場の予約とオンライン投票の準備はどんな感じ?」
美奈子の問いかけに対して、書紀担当の生野茉純は、眼鏡のツルの部分に手を当てながら、即答する。
「動画コンテストの会場として、すでに大講堂を予約済みです。オンライン投票の投票項目は、Googleフォームで作成していますので、確認をお願いします」
「さっすが、我らが生徒会の事務担当! 仕事が早いねぇ」
生徒会長の称賛の声にも、書紀担当は、
「いえ、これが、仕事ですから……」
と、淡々と応じ、竜司たちをはじめとする動画制作を行う各チームからの要望書に目を通している。
そのようすに満足しながら、美奈子は、月曜日に開催された二回目の連絡会の議事録をながめつつ、感想をもらす。
「いや~、予想していたよりも面白そうな企画が集まったね~。ダンス動画に、Vtuberか~。若い子たちの考えるアイデアは、斬新でイイね~」
「その若い子たちって発言には、『あなたも年齢は変わらないでしょう?』というツッコミ待ちなのかしら?」
感慨深げに語る生徒会長に、茉純が作ったアンケート項目を確認しながら副会長の花金鳳花が、語りかけた。
「まあ、半分はそうだけど……でも、こういう企画が普通に出てくるあたり、やっぱ、今年の一年と二年はスゴいと思うわ……いや、私が、年齢相応の十代のノリについていけてないだけかも知れないけど……」
なかば自虐的な笑みを浮かべながらも、美奈子は感心したように言う。
すると、彼女の意見には、鳳花も感じるところがあったようで、目を細めながら、素直に同意する。
「たしかに、私も、白草さんや佐倉さんなら、なにか面白いアイデアを持ってくるんじゃないかと思っていたけど……想像していた以上に、面白そうで、ハードルの高そうなことに挑戦していて、いまから映像の完成が楽しみだわ」
そんな、下級生たちの活動を心の底から楽しみにしているようすの生徒会副会長兼広報部部長を、会計担当の前田香緒里は、今日も表計算ソフトの予算表と格闘しながら、
(ま~た、自分の部活の後輩に惚気けてるヨ……)
と、あきれ顔で眺めていた。
生徒会役員が各々の職務に励む中、生徒会長の承認印を押す書類が回ってこないため、手持ち無沙汰になった美奈子は、再び各チームの企画書に視線を落としながら、つぶやく。
「ところでさ……YourTuberとかVtuberとかって、なんで人気があるの? 私からすると、同じ動画を見るなら、プロの演奏を見たほうが、はるかに刺激になるんだけど……」
「それは、そもそも、あなたが動画を視聴する目的が、普通の中高生とは違うからじゃないの?」
生徒会長の何気ない一言に、副会長が即座に反応する。
「いや、そりゃ、そうかも知れないけどさ~。こう言っちゃ悪いけど……みんな、なんで、素人に毛の生えたような人たちのトークや掛け合いを楽しんでるのかな、って……」
「美奈子、あんまり多くの人を敵に回すようなことを言っちゃだめよ……」
クスクスと笑いながら、釘を刺す鳳花に対して、付き合いの長い友人は、表情をうかがいながら、
「その顔色は、なにか答えを持ってるんでしょ? 広報部なりの見解をぜひ聞かせてよ」
と、返答する。
美奈子のリクエストに応じた鳳花は、「そうね……」と前置きして、再び笑みを浮かべたあと、ゆっくりと語りだした。
「1960年代に注目を集めた批評家のマーシャル・マクルーハンは、その著書『メディア論』の中で、”メディアはメッセージである”という言葉を残しているわ」
冒頭の言葉を聞いただけで、会計担当の香緒里は、
(わっ……また、難しい話しが始まりそう……眠くならないように、作業に集中しよう)
と、警戒する。
「”メディアはメッセージである”って、どういうこと?」
美奈子の質問に、鳳花は、例え話しで応じた。
「たとえば、『私は、本が好きです』と言われた場合、ほとんどの人は、『どんな物語が好きなの?』って、内容のことを質問したくなるでしょう?」
「たしかに、そうね」
「でも、《本》というモノを考えた場合、文字で記載されている中身だけでなく、その形状やカバーの手触り、紙のニオイだって、重要な要素だと思うの」
「ふんふん」
「ただ、さっきも言ったけど、『本が好き』と言われたときに、多くの人は、本の形状ではなく、中身のことを想像してしまうでしょ? 本そのものから五感を通して感じられる、手触りやニオイのような触覚や嗅覚については、意識を向けないけど、視覚以外から感じられる、そうしたメッセージも、実は、重要な要素なんじゃないか、ということね」
鳳花が、そこまで語り終えると、美奈子は、こめかみに手を添えて、
「う~ん、なんだかわかったような、わからないような感じだな……」
と、苦笑しながら、
「香緒里、あなたはわかった?」
会計担当に話しを振る。
生徒会長の質問に、香緒里が、両手を広げて、サッパリわからん……というジェスチャーを示したのを確認すると、生徒会副会長にして広報部の部長を務める鳳花は、
「それじゃ、もっと、親近感を持ってもらえるような、別の例を出してみましょうか?」
と、さらに踏み込んで、自説を展開しはじめた。
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