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第三部
第2章〜共鳴せよ! 市立芦宮高校文芸部〜⑩
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6月2日(木)
天竹さんのもとには、前日のうちに寿先輩が調査した文化系クラブへの取材訪問の有無の結果が届いたらしい。
ボクたちが想像したとおり、竜司たちの訪問攻勢は、まだ文化系クラブには及んでいなかったようだ。
吹奏楽部や文芸部を除いても、まだ9つのクラブが未訪問だという回答があった。
その情報をもとに、今日の訪問先を決めることにする。
「はるかのペアは、科学部・美術部・家庭科クラブを、なつみのペアは、茶道部・華道部・書道部を訪問してくれないかな? 私たちは、コーラス部と演劇部と箏曲部を訪問してみようと思います」
石沢さんや今村さんに対して、テキパキと指示を出す天竹さん。
「よ~し、昨日のリベンジと行きますか~」
「営業トーク(?)ってやつにも、少し慣れてきたしね」
前日の芳しくない結果にもめげていない同学年のふたりは、なんとも頼もしい。
「「私たちも、がんばります!」」
と、声を揃える下級生の高瀬さんと井戸川さんも、昨日のクラブ訪問後に比べると、元気を取り戻しているようだ。
部員全員のモチベーションが上がっているところで、早速、クラブ訪問を始めることにした。
ボクと天竹さんは、まず、コーラス部に向かう。
部長の浦嶋さんをはじめ、このクラブの数名には、先日のオープン・スクールの際に、竜司がお世話になっている。
浦嶋部長と面識のある竜司に先を越されると、話しを聞いてもらえる機会は、ほぼ無くなってしまうと考えられるので、訪問の優先順位をトップにした。
音楽棟の合唱室で活動するコーラス部を訪問すると、部長の浦嶋さんが、ボクたちふたりを歓待してくれた。
「黒田くんには、オープン・スクールで協力したのに、ツレないねぇ……」
冗談めかして話す浦嶋ユリ部長に、ボクは感謝の気持ちと友人をフォローする言葉を伝える。
「先日は、広報部としてお世話になりました。竜司たちは、人数が少ないので、なかなか、各クラブを回りきれていないんだと思います」
「あなたは、黄瀬くんだっけ? ありがとう……で、今回は、どんな用なの?」
浦嶋先輩の質問には、ボクに代わって、天竹さんが応じた。
「すでに、グループLANEで、生徒会から連絡が入っているかも知れませんが……今回は、広報部と生徒会の合同企画で、芦宮高校のクラブ活動のPR動画を作成して、3つのグループで出来栄えを競うことになりました。私たちとしては、各クラブの今年の活動目標や実績をお話してもらいながら、映像を交えたプロモーションビデオを制作しようと考えています」
文芸部の部長さんは、まるで、販売のセールス・トークを行うように話しかけながら、持ってきたタブレット端末で、ボクが以前に編集したクラブ紹介のPVを再生させる。
「ふんふん……私たちの活動も、こんな風にカッコイイ動画にして、PRしてくれるの?」
コーラス部の部長さんの質問に、文芸部の二年生部長は、「はい!」と力強く答える。
天竹さんの即興のプレゼンは、浦嶋部長の関心を呼んだようで、彼女は、
「みんな、ちょっと集合!」
号令をかけて部員さんたちを集めると、
「もう一度、さっきの動画を再生してもらってイイ?」
と、天竹さんにうながした。
「わかりました」
即答した天竹さんが、再び映像を再生させると、タブレットの画面に見入っているコーラス部十数名の部員から歓声があがる。
「このクオリティの映像で、クラブ活動のPRを行えるのが、私たちの強みです」
ボクは、自信満々に語る天竹さんの口調に、少し気恥ずかしさを覚えたけど、自分の制作した動画が、浦嶋部長だけでなく、コーラス部全体から好評を博しているようすであることには、じんわりと喜びが込み上げてきた。
ただ、すぐに本来の目的を思い出し、自分から会話を切り出す。
「今回は、天竹さんたち文芸部の部員さんが、各クラブの魅力や活動にかける想いを聞き取って、その内容を動画にまとめたいと考えています。良ければ、コーラス部の活動を取材させてもらえないでしょうか?」
ボクが、核心にふれることをたずねると、浦嶋部長は、興味深そうな表情を浮かべながらも、「う~ん」とつぶやいたあと、
「私たちは、感染症の影響で、去年まで存分に歌うことができなかったんだ。だから、今年はこれまで以上に、活動の場を広げていこうと思っててね。自分たちのPRになることは、なんでもやっていくつもりなんだよね。だから、他にも、クラブ訪問をしているチームがあるなら、その話しも聞かせてもらいたいところだしねぇ……あんた達には、いつまでに返事をすればイイ?」
と、条件提示を行った。
彼女の質問に、ボクと天竹さんは、顔を見合わせながら、曖昧に返答してしまう。
「自分たちは、そんなに急ぎませんが……」
「そっか……まあ、あんまり返答を先延ばしにしても迷惑だろうし……今週中に返事をするようにするよ。念のため、連絡先を教えておいてくんない?」
浦嶋部長は、そう言って、ニコッと笑い、
「なかなか楽しそうな動画だったよ。あんた達のチームが、どんな映像を創るのか楽しみにしてる」
そう付け加えてくれた。
取材交渉の訪問において、初めて手応えのある返答をもらったことから、ボクと天竹さんの表情はほころび、
「「ありがとうございます! がんばります!!」」
声を揃えて御礼の言葉を述べる。
「へ~、ふたりとも、仲が良さそうだねぇ」
と、さらに表情を崩す浦嶋部長ほか、コーラス部の部員さんたちに感謝しながら、ボクたちは、次の訪問先に向かうことにした。
天竹さんのもとには、前日のうちに寿先輩が調査した文化系クラブへの取材訪問の有無の結果が届いたらしい。
ボクたちが想像したとおり、竜司たちの訪問攻勢は、まだ文化系クラブには及んでいなかったようだ。
吹奏楽部や文芸部を除いても、まだ9つのクラブが未訪問だという回答があった。
その情報をもとに、今日の訪問先を決めることにする。
「はるかのペアは、科学部・美術部・家庭科クラブを、なつみのペアは、茶道部・華道部・書道部を訪問してくれないかな? 私たちは、コーラス部と演劇部と箏曲部を訪問してみようと思います」
石沢さんや今村さんに対して、テキパキと指示を出す天竹さん。
「よ~し、昨日のリベンジと行きますか~」
「営業トーク(?)ってやつにも、少し慣れてきたしね」
前日の芳しくない結果にもめげていない同学年のふたりは、なんとも頼もしい。
「「私たちも、がんばります!」」
と、声を揃える下級生の高瀬さんと井戸川さんも、昨日のクラブ訪問後に比べると、元気を取り戻しているようだ。
部員全員のモチベーションが上がっているところで、早速、クラブ訪問を始めることにした。
ボクと天竹さんは、まず、コーラス部に向かう。
部長の浦嶋さんをはじめ、このクラブの数名には、先日のオープン・スクールの際に、竜司がお世話になっている。
浦嶋部長と面識のある竜司に先を越されると、話しを聞いてもらえる機会は、ほぼ無くなってしまうと考えられるので、訪問の優先順位をトップにした。
音楽棟の合唱室で活動するコーラス部を訪問すると、部長の浦嶋さんが、ボクたちふたりを歓待してくれた。
「黒田くんには、オープン・スクールで協力したのに、ツレないねぇ……」
冗談めかして話す浦嶋ユリ部長に、ボクは感謝の気持ちと友人をフォローする言葉を伝える。
「先日は、広報部としてお世話になりました。竜司たちは、人数が少ないので、なかなか、各クラブを回りきれていないんだと思います」
「あなたは、黄瀬くんだっけ? ありがとう……で、今回は、どんな用なの?」
浦嶋先輩の質問には、ボクに代わって、天竹さんが応じた。
「すでに、グループLANEで、生徒会から連絡が入っているかも知れませんが……今回は、広報部と生徒会の合同企画で、芦宮高校のクラブ活動のPR動画を作成して、3つのグループで出来栄えを競うことになりました。私たちとしては、各クラブの今年の活動目標や実績をお話してもらいながら、映像を交えたプロモーションビデオを制作しようと考えています」
文芸部の部長さんは、まるで、販売のセールス・トークを行うように話しかけながら、持ってきたタブレット端末で、ボクが以前に編集したクラブ紹介のPVを再生させる。
「ふんふん……私たちの活動も、こんな風にカッコイイ動画にして、PRしてくれるの?」
コーラス部の部長さんの質問に、文芸部の二年生部長は、「はい!」と力強く答える。
天竹さんの即興のプレゼンは、浦嶋部長の関心を呼んだようで、彼女は、
「みんな、ちょっと集合!」
号令をかけて部員さんたちを集めると、
「もう一度、さっきの動画を再生してもらってイイ?」
と、天竹さんにうながした。
「わかりました」
即答した天竹さんが、再び映像を再生させると、タブレットの画面に見入っているコーラス部十数名の部員から歓声があがる。
「このクオリティの映像で、クラブ活動のPRを行えるのが、私たちの強みです」
ボクは、自信満々に語る天竹さんの口調に、少し気恥ずかしさを覚えたけど、自分の制作した動画が、浦嶋部長だけでなく、コーラス部全体から好評を博しているようすであることには、じんわりと喜びが込み上げてきた。
ただ、すぐに本来の目的を思い出し、自分から会話を切り出す。
「今回は、天竹さんたち文芸部の部員さんが、各クラブの魅力や活動にかける想いを聞き取って、その内容を動画にまとめたいと考えています。良ければ、コーラス部の活動を取材させてもらえないでしょうか?」
ボクが、核心にふれることをたずねると、浦嶋部長は、興味深そうな表情を浮かべながらも、「う~ん」とつぶやいたあと、
「私たちは、感染症の影響で、去年まで存分に歌うことができなかったんだ。だから、今年はこれまで以上に、活動の場を広げていこうと思っててね。自分たちのPRになることは、なんでもやっていくつもりなんだよね。だから、他にも、クラブ訪問をしているチームがあるなら、その話しも聞かせてもらいたいところだしねぇ……あんた達には、いつまでに返事をすればイイ?」
と、条件提示を行った。
彼女の質問に、ボクと天竹さんは、顔を見合わせながら、曖昧に返答してしまう。
「自分たちは、そんなに急ぎませんが……」
「そっか……まあ、あんまり返答を先延ばしにしても迷惑だろうし……今週中に返事をするようにするよ。念のため、連絡先を教えておいてくんない?」
浦嶋部長は、そう言って、ニコッと笑い、
「なかなか楽しそうな動画だったよ。あんた達のチームが、どんな映像を創るのか楽しみにしてる」
そう付け加えてくれた。
取材交渉の訪問において、初めて手応えのある返答をもらったことから、ボクと天竹さんの表情はほころび、
「「ありがとうございます! がんばります!!」」
声を揃えて御礼の言葉を述べる。
「へ~、ふたりとも、仲が良さそうだねぇ」
と、さらに表情を崩す浦嶋部長ほか、コーラス部の部員さんたちに感謝しながら、ボクたちは、次の訪問先に向かうことにした。
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