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第三部
第2章〜共鳴せよ! 市立芦宮高校文芸部〜④
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「あら、白草さん……なにか、異存でもあるの?」
鳳花部長が、おっとりした声でたずねると、白草さんは、ホワイトスクリーンのそばの竜司と佐倉さんを見据えるように、問いただす。
「この芦宮サクラって、キャラクターの名前だけど……どうして、中の人の名前がキャラクターに入ってるんですか~? Vtuberなら、声の主の存在は、なるべく隠すべきなんじゃないんですか~?」
わざとらしく、語尾を伸ばす「女子特有の」(と言ったら、昨今の情勢では誤解が生じかねないので「」内の表現は見なかったことにして欲しい)嫌みっぽい言い方で白草さんがたずねると、名指しをされたに等しい下級生は、悪びれるようすもなく、
「あ、なにか、勘違いされてません?」
と、ニマニマした余裕の表情で、返答する。
「芦宮サクラの名前は、芦宮市の花である桜の花にちなんだ名前です。ワタシたちの学校は、市立高校ですから、市の花の名前を名乗らせてもらうのが相応しい、ということで、くろセンパイが考えてくれたんですよ。とっても、可愛くて、『モモカが演じるキャラにぴったり』だって言ってくれたんですよね?」
これ以上ないドヤ顔で語る佐倉さんの答えを耳にして、ボクらのクラスメートである女子のこめかみには、明らかに怒筋(UnicodeでいうところのU+1F4A2。マンガ的表現で良く見るアレだ)が浮いているのがわかる。
白草さんは、なんとか平静さを保とうとしながらも、ドスの効いた低い声で竜司にたずねる。
「クロ……それは、本当なの?」
彼女の尋常でないようすに、さすがの竜司も身の危険を察したのか、
「たしかに、名前を提案したのは、オレだが……後の方の『とっても、可愛くて、モモカが演じるキャラにぴったり』だとか言うのは、完全に捏造だからな! モモカ、これ以上、誤解を与えることを言うんじゃない!」
と、狼狽しながら、佐倉さんをたしなめつつ、白草さんの質問に答える。
「え~、くろセンパイ、ここは、素直になって、本当に思ってることを言っても良いんですよ?」
そう言ってじゃれ合おうとする下級生とクラスメートの姿を目にした白草さんは、ついに怒りのあまり、
バンッ――――――。
と、会議机に両手のひらをつく。
しかし、こんな一触即発の場面でも、ボクたちとは初顔合わせと言って良い生徒会の会計担当の先輩は、
「うひゃ~、これがウワサに聞く修羅場ってヤツか~。リアルでは初めて見たわ~」
と、この状況を楽しんでいるように見えるし、隣りの席に座っている、白草さんと同じチームで彼女を慕っているはずの下級生は、ボクにしか聞こえないで、
「また、ヨツバちゃんのレアな表情をまた拝めたべ……ただでさえ、イラついているところに、イチャついているのを見せられて、怒りが頂点に達したヨツバちゃんの横顔、美しいべ……」
と、意味のわからないことをつぶやいていた。
ただ、さすがに、この収集がつきそうにない事態を収めようと考えたのか、パンパンと大きく手をたたき、鳳花部長が、
「はいはい、仲の良いことも結構だけど、本題と関係ないことは、連絡会が終わってからにしてね。次は、宮野さんと白草さんのチームに説明をお願いしたいんだけど、大丈夫?」
と、まだ、仮入部あつかいの宮野さんにたずねる。
「は、はい! 準備はできてるべ……」
突然の指名に驚きながらも、宮野さんは、発表の準備を始めようとする。
自分たちのチームにプレゼンの順番が回ってきたためか、自分を慕う下級生のためなのか、先ほどまで見せていた激しい感情を抑えるように居住まいを正し、宮野さんに声をかける。
「雪乃、しっかりね……一緒にがんばりましょう」
一転して、優しげな表情を見せたその変貌ぶりにボクは驚いたが、そんなことにはお構いなく、竜司と佐倉さんが席に着いたのを確認して、仮入部あつかいの下級生は、緊張した面持ちで、プレゼンを始めた。
「それでは、わたすたちのチームの動画制作案を説明したいと思いまス」
そう言って宮野さんが操作するスライドの表紙には、
『芦宮高校PR動画企画 高校ダンス部と有志が本気でプロペラ・ダンスを踊ってみた』
と書かれていた。
その文字を目にした竜司が、
「プロペラ・ダンスって、なんだっけ? どこかで聞いたことがある気がするんだがな……」
と、独り言のようにつぶやく。
すると、書紀担当の生野先輩が、竜司の疑問に答えるように解説を行った。
「プロペラ・ダンスは、十年くらい前に超大手のベンチャー企業の社長さんと交際されていたことでも有名な女優さんが披露していたダンスですね。もっとも、アニメのエンディングテーマとしても使われていた『Cross Over』という楽曲で、あるアイドルグループが披露したのが、その元祖だとする説もあるようです」
眼鏡キャラは、説明役というキャスティングに忠実なほどの見事な解説ぶりに感心しながら、ボクは、天竹さんに話しかける。
「生野先輩は、博識だね……さすが、生徒会メンバーだ……」
「えぇ、アイドルやアニメ方面の造詣が深い方が居るとは、さすが生徒会です」
天竹さんも、ボクとは違う意味で、先輩と生徒会をリスペクトしているようだ。
ボクたちの反応を確かめていたのだろうか、プレゼンターの宮野さんは、生徒会室が再び静寂に包まれるのを待って、説明を続ける。
「さすがは、生徒会の皆さんだべ……わたすたちが、選んだ曲は、その『Cross Over』だべさ」
そう言って、宮野さんは、次のスライドのページに埋め込まれた動画を再生させた。
「!」
その楽曲のイントロが流れた瞬間、竜司が反応する。
それは、ボクと竜司が小学生の頃に、視聴していたアニメの楽曲だった。
「あっ、この曲、聞いたことあるぞ! たしか、『スタドラ』のエンディング曲だ! そうだよな、壮馬?」
「うん! 『Star Driver』の曲だよね! 懐かしいな~」
ボクが、竜司と一緒にこのアニメを視聴していた頃のことを思い出しながら、そう言うと、親友も、
「オレ、この曲、好きだったんだよな~」
しみじみと、思い出深そうに語る。
すると、竜司の一言に、さっきまで不機嫌だった女子生徒が反応した――――――。
鳳花部長が、おっとりした声でたずねると、白草さんは、ホワイトスクリーンのそばの竜司と佐倉さんを見据えるように、問いただす。
「この芦宮サクラって、キャラクターの名前だけど……どうして、中の人の名前がキャラクターに入ってるんですか~? Vtuberなら、声の主の存在は、なるべく隠すべきなんじゃないんですか~?」
わざとらしく、語尾を伸ばす「女子特有の」(と言ったら、昨今の情勢では誤解が生じかねないので「」内の表現は見なかったことにして欲しい)嫌みっぽい言い方で白草さんがたずねると、名指しをされたに等しい下級生は、悪びれるようすもなく、
「あ、なにか、勘違いされてません?」
と、ニマニマした余裕の表情で、返答する。
「芦宮サクラの名前は、芦宮市の花である桜の花にちなんだ名前です。ワタシたちの学校は、市立高校ですから、市の花の名前を名乗らせてもらうのが相応しい、ということで、くろセンパイが考えてくれたんですよ。とっても、可愛くて、『モモカが演じるキャラにぴったり』だって言ってくれたんですよね?」
これ以上ないドヤ顔で語る佐倉さんの答えを耳にして、ボクらのクラスメートである女子のこめかみには、明らかに怒筋(UnicodeでいうところのU+1F4A2。マンガ的表現で良く見るアレだ)が浮いているのがわかる。
白草さんは、なんとか平静さを保とうとしながらも、ドスの効いた低い声で竜司にたずねる。
「クロ……それは、本当なの?」
彼女の尋常でないようすに、さすがの竜司も身の危険を察したのか、
「たしかに、名前を提案したのは、オレだが……後の方の『とっても、可愛くて、モモカが演じるキャラにぴったり』だとか言うのは、完全に捏造だからな! モモカ、これ以上、誤解を与えることを言うんじゃない!」
と、狼狽しながら、佐倉さんをたしなめつつ、白草さんの質問に答える。
「え~、くろセンパイ、ここは、素直になって、本当に思ってることを言っても良いんですよ?」
そう言ってじゃれ合おうとする下級生とクラスメートの姿を目にした白草さんは、ついに怒りのあまり、
バンッ――――――。
と、会議机に両手のひらをつく。
しかし、こんな一触即発の場面でも、ボクたちとは初顔合わせと言って良い生徒会の会計担当の先輩は、
「うひゃ~、これがウワサに聞く修羅場ってヤツか~。リアルでは初めて見たわ~」
と、この状況を楽しんでいるように見えるし、隣りの席に座っている、白草さんと同じチームで彼女を慕っているはずの下級生は、ボクにしか聞こえないで、
「また、ヨツバちゃんのレアな表情をまた拝めたべ……ただでさえ、イラついているところに、イチャついているのを見せられて、怒りが頂点に達したヨツバちゃんの横顔、美しいべ……」
と、意味のわからないことをつぶやいていた。
ただ、さすがに、この収集がつきそうにない事態を収めようと考えたのか、パンパンと大きく手をたたき、鳳花部長が、
「はいはい、仲の良いことも結構だけど、本題と関係ないことは、連絡会が終わってからにしてね。次は、宮野さんと白草さんのチームに説明をお願いしたいんだけど、大丈夫?」
と、まだ、仮入部あつかいの宮野さんにたずねる。
「は、はい! 準備はできてるべ……」
突然の指名に驚きながらも、宮野さんは、発表の準備を始めようとする。
自分たちのチームにプレゼンの順番が回ってきたためか、自分を慕う下級生のためなのか、先ほどまで見せていた激しい感情を抑えるように居住まいを正し、宮野さんに声をかける。
「雪乃、しっかりね……一緒にがんばりましょう」
一転して、優しげな表情を見せたその変貌ぶりにボクは驚いたが、そんなことにはお構いなく、竜司と佐倉さんが席に着いたのを確認して、仮入部あつかいの下級生は、緊張した面持ちで、プレゼンを始めた。
「それでは、わたすたちのチームの動画制作案を説明したいと思いまス」
そう言って宮野さんが操作するスライドの表紙には、
『芦宮高校PR動画企画 高校ダンス部と有志が本気でプロペラ・ダンスを踊ってみた』
と書かれていた。
その文字を目にした竜司が、
「プロペラ・ダンスって、なんだっけ? どこかで聞いたことがある気がするんだがな……」
と、独り言のようにつぶやく。
すると、書紀担当の生野先輩が、竜司の疑問に答えるように解説を行った。
「プロペラ・ダンスは、十年くらい前に超大手のベンチャー企業の社長さんと交際されていたことでも有名な女優さんが披露していたダンスですね。もっとも、アニメのエンディングテーマとしても使われていた『Cross Over』という楽曲で、あるアイドルグループが披露したのが、その元祖だとする説もあるようです」
眼鏡キャラは、説明役というキャスティングに忠実なほどの見事な解説ぶりに感心しながら、ボクは、天竹さんに話しかける。
「生野先輩は、博識だね……さすが、生徒会メンバーだ……」
「えぇ、アイドルやアニメ方面の造詣が深い方が居るとは、さすが生徒会です」
天竹さんも、ボクとは違う意味で、先輩と生徒会をリスペクトしているようだ。
ボクたちの反応を確かめていたのだろうか、プレゼンターの宮野さんは、生徒会室が再び静寂に包まれるのを待って、説明を続ける。
「さすがは、生徒会の皆さんだべ……わたすたちが、選んだ曲は、その『Cross Over』だべさ」
そう言って、宮野さんは、次のスライドのページに埋め込まれた動画を再生させた。
「!」
その楽曲のイントロが流れた瞬間、竜司が反応する。
それは、ボクと竜司が小学生の頃に、視聴していたアニメの楽曲だった。
「あっ、この曲、聞いたことあるぞ! たしか、『スタドラ』のエンディング曲だ! そうだよな、壮馬?」
「うん! 『Star Driver』の曲だよね! 懐かしいな~」
ボクが、竜司と一緒にこのアニメを視聴していた頃のことを思い出しながら、そう言うと、親友も、
「オレ、この曲、好きだったんだよな~」
しみじみと、思い出深そうに語る。
すると、竜司の一言に、さっきまで不機嫌だった女子生徒が反応した――――――。
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