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第三部
第1章〜クラス内カーストでアウトサイダーのボクたちが動画投稿で人気配信者を目指す件〜⑤
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「どんな内容なの? その表情からして、どうせ、ロクなことじゃないんでしょうけど……」
興味深そうに、シロがモモカにたずねる。
上級生の挑発的な発言をあえてスルーしたのか、モモカは、自分の経験を語り始めた。
「ワタシ、中学校の卒業直後に、感染症に掛かっちゃって、今月の初めまで登校することができなかったんです」
「そうだったな……療養中は、大変だっただろう? でも、そのことと罰ゲームが、なにか関係あるのか?」
今度は、オレが問いかけると、同じチームとして動画を撮影することになった後輩女子は、澄ました表情で続ける。
「はい! ワタシの場合、病気になった直後も、もちろん大変だったんですけど、その後の後遺症がツラくて……いつまでも続く倦怠感と、鼻づまりに、ノドの違和感……けれど、あるコトを試してみたら……! 鼻づまりとノドの違和感が解消されたんです!」
「モモカ、それは、どんなコトなんだ? すごく気になるぞ!」
下級生の巧みなトークに食い気味に反応したオレが、言葉を発すると、そばから友人が、ツッコミを入れてきた。
「竜司さぁ……ちょっと、食いつき過ぎじゃない? 怪しい通販番組で、わざとらしくリアクションする芸能人じゃないんだから……」
「あっ、スマン……そんなつもりじゃなかったんだが……」
オレと壮馬のいつものやり取りに、苦笑しながらも、モモカは話しを続ける。
「はい、それが、『鼻うがい』なんです! ワタシたちのように、声を使う活動をする人間には、必要なセルフケアだと気づいたんです! で・す・よ・ね、白草センパイ?」
彼女が、最後の部分をわざわざ強調するように語ると、一瞬、たじろぐような表情を見せたシロは、状況を良く飲み込めていないオレの方に視線を向けたあと、取りつくろうようなようすで、
「えぇ、たしかに、そうね……乾燥しやすくて、風邪を引きやすくなる冬場あたりは、特にね……」
と、モモカに返答する。
「そうか……けどさ、『鼻うがい』って聞いたことはあるけど、実際どうやってやるんだ?」
後輩にそうたずねると、彼女は、その問いかけを待ってました、とばかりに満面の笑みで応える。
「くろセンパイ、いい質問ですね~」
まるで、情報バラエティ番組の初老の解説員のように答えたモモカは、
「鳳花部長、ちょっと、パソコンをお借りしますね」
と、部長に断りを入れてから、さっきまでスライドショーを表示させていたウィンドウズPCを操作する。
彼女は、ブラウザを開き、丸みを帯びた赤地に白い正三角形のアイコンをクリックすると、動画サイト《YourTube》で、「鼻うがい」と検索ワードを入力した。
検索結果には、
「鼻うがいやり方 免疫力、嗅覚アップ」
「ツーンとしない! 気持ちいい!! 鼻うがい」
という有効性の高そうなモノから、
「花粉症ひどい人 いますぐ この鼻うがいをやれ」
という、やや怪しげな文言のサムネイル画像まで、さまざまな動画が表示されている。
オレが気になったのは、動画解説を行っている人物の性別が、ほぼ男性に偏っていることだ。
ただ、モモカが、「じゃあ、実際に映像で確認してもらいましょう」と言って、動画を再生させると、その疑問も、すぐに解消した。
鼻の穴に収まるサイズの吸引用突起が着いたボトルを持った男性が、突起を鼻の穴に差し込んでボトルの中の生理食塩水を吸い込むと、反対の鼻の穴からは、食塩水(と、おそらく副鼻腔に溜まっていた液体)がダラダラと流れ出す。
医学的な解説動画なので、当然のことではあるが、医師と思われる男性は、いたって生真面目な表情で、鼻うがいの方法と注意事項について語っている。
しかし――――――。
この姿を思春期の女子が晒すのは、非情に厳しいモノがあるだろう。
実際、クラスメートの天竹の表情をうかがうと、若干、青ざめているように見えるし、壮馬は、オレと同じような想像に至ったのか、明らかにドン引きしている。
それでも、そんなオレたちの反応に構うことなく、モモカは、自説を展開する。
「学校に登校するようになってからは、保健室でお世話になることも多かったんですけど……保健の遠山先生も、鼻うがいの効用を話してくれましたし、クラブ活動だけでなく、校内の委員会活動の広報のお手伝いもできるんじゃないか、って思うんです」
なるほど……。
建前として、キッチリと広報部の活動に結びつけてくるあたり、さすがは、モモカといったところだ。我が部の最高責任者である鳳花部長と付き合いが長いだけはある。
これなら、部長から、注文をつけられることも無いだろう。
誰を説得すれば、自分のアイデアを通しやすいか考え抜いている後輩女子に対して、反論の余地はなかった。
「じゃあ、今回の『第1回芦宮高校PRコンテスト(仮)』で、もっとも投票数の少なかったチームのメンバーに、鼻うがいのやり方を伝える動画に出演してもらう、ってことで良い?」
鳳花部長の言葉に、モモカは満面の笑みで、シロと宮野と紅野は受けて立つと言った気合の入った表情で、そして、天竹と壮馬は不安な面持ちで、うなずく。
「ウチのカワイイ後輩ちゃんに恥をかかせるワケにはいかないからにゃ~。私たち吹奏楽部も本腰を入れないとね!」
寿生徒会長が、紅野を気遣う発言をしてくれたことには安堵したが、オレは、自分たちの活動よりも、壮馬、紅野、天竹のグループの活動のことが気になっていた。
興味深そうに、シロがモモカにたずねる。
上級生の挑発的な発言をあえてスルーしたのか、モモカは、自分の経験を語り始めた。
「ワタシ、中学校の卒業直後に、感染症に掛かっちゃって、今月の初めまで登校することができなかったんです」
「そうだったな……療養中は、大変だっただろう? でも、そのことと罰ゲームが、なにか関係あるのか?」
今度は、オレが問いかけると、同じチームとして動画を撮影することになった後輩女子は、澄ました表情で続ける。
「はい! ワタシの場合、病気になった直後も、もちろん大変だったんですけど、その後の後遺症がツラくて……いつまでも続く倦怠感と、鼻づまりに、ノドの違和感……けれど、あるコトを試してみたら……! 鼻づまりとノドの違和感が解消されたんです!」
「モモカ、それは、どんなコトなんだ? すごく気になるぞ!」
下級生の巧みなトークに食い気味に反応したオレが、言葉を発すると、そばから友人が、ツッコミを入れてきた。
「竜司さぁ……ちょっと、食いつき過ぎじゃない? 怪しい通販番組で、わざとらしくリアクションする芸能人じゃないんだから……」
「あっ、スマン……そんなつもりじゃなかったんだが……」
オレと壮馬のいつものやり取りに、苦笑しながらも、モモカは話しを続ける。
「はい、それが、『鼻うがい』なんです! ワタシたちのように、声を使う活動をする人間には、必要なセルフケアだと気づいたんです! で・す・よ・ね、白草センパイ?」
彼女が、最後の部分をわざわざ強調するように語ると、一瞬、たじろぐような表情を見せたシロは、状況を良く飲み込めていないオレの方に視線を向けたあと、取りつくろうようなようすで、
「えぇ、たしかに、そうね……乾燥しやすくて、風邪を引きやすくなる冬場あたりは、特にね……」
と、モモカに返答する。
「そうか……けどさ、『鼻うがい』って聞いたことはあるけど、実際どうやってやるんだ?」
後輩にそうたずねると、彼女は、その問いかけを待ってました、とばかりに満面の笑みで応える。
「くろセンパイ、いい質問ですね~」
まるで、情報バラエティ番組の初老の解説員のように答えたモモカは、
「鳳花部長、ちょっと、パソコンをお借りしますね」
と、部長に断りを入れてから、さっきまでスライドショーを表示させていたウィンドウズPCを操作する。
彼女は、ブラウザを開き、丸みを帯びた赤地に白い正三角形のアイコンをクリックすると、動画サイト《YourTube》で、「鼻うがい」と検索ワードを入力した。
検索結果には、
「鼻うがいやり方 免疫力、嗅覚アップ」
「ツーンとしない! 気持ちいい!! 鼻うがい」
という有効性の高そうなモノから、
「花粉症ひどい人 いますぐ この鼻うがいをやれ」
という、やや怪しげな文言のサムネイル画像まで、さまざまな動画が表示されている。
オレが気になったのは、動画解説を行っている人物の性別が、ほぼ男性に偏っていることだ。
ただ、モモカが、「じゃあ、実際に映像で確認してもらいましょう」と言って、動画を再生させると、その疑問も、すぐに解消した。
鼻の穴に収まるサイズの吸引用突起が着いたボトルを持った男性が、突起を鼻の穴に差し込んでボトルの中の生理食塩水を吸い込むと、反対の鼻の穴からは、食塩水(と、おそらく副鼻腔に溜まっていた液体)がダラダラと流れ出す。
医学的な解説動画なので、当然のことではあるが、医師と思われる男性は、いたって生真面目な表情で、鼻うがいの方法と注意事項について語っている。
しかし――――――。
この姿を思春期の女子が晒すのは、非情に厳しいモノがあるだろう。
実際、クラスメートの天竹の表情をうかがうと、若干、青ざめているように見えるし、壮馬は、オレと同じような想像に至ったのか、明らかにドン引きしている。
それでも、そんなオレたちの反応に構うことなく、モモカは、自説を展開する。
「学校に登校するようになってからは、保健室でお世話になることも多かったんですけど……保健の遠山先生も、鼻うがいの効用を話してくれましたし、クラブ活動だけでなく、校内の委員会活動の広報のお手伝いもできるんじゃないか、って思うんです」
なるほど……。
建前として、キッチリと広報部の活動に結びつけてくるあたり、さすがは、モモカといったところだ。我が部の最高責任者である鳳花部長と付き合いが長いだけはある。
これなら、部長から、注文をつけられることも無いだろう。
誰を説得すれば、自分のアイデアを通しやすいか考え抜いている後輩女子に対して、反論の余地はなかった。
「じゃあ、今回の『第1回芦宮高校PRコンテスト(仮)』で、もっとも投票数の少なかったチームのメンバーに、鼻うがいのやり方を伝える動画に出演してもらう、ってことで良い?」
鳳花部長の言葉に、モモカは満面の笑みで、シロと宮野と紅野は受けて立つと言った気合の入った表情で、そして、天竹と壮馬は不安な面持ちで、うなずく。
「ウチのカワイイ後輩ちゃんに恥をかかせるワケにはいかないからにゃ~。私たち吹奏楽部も本腰を入れないとね!」
寿生徒会長が、紅野を気遣う発言をしてくれたことには安堵したが、オレは、自分たちの活動よりも、壮馬、紅野、天竹のグループの活動のことが気になっていた。
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