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第二部
エピローグ〜幼なじみや後輩とはラブコメにならない〜破
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編集スタジオ内のデスクトップPCや各自のスマホを利用して、他の学校のSNSでの情報発信に関する調査を行う作業は、和気あいあいとした雰囲気のなかで、順調に進んだ。
ボク自身も含めて、もともとネットを使った情報発信に興味を持っているメンバーが集まっているわけだし、白草さんと宮野さんという《チックタック》や《ミンスタグラム》《トゥイッター》などを熱心に利用しているユーザーが加わっているのだから、盛り上がるのは当たり前かも知れないけど、彼女たちから得られる情報は新鮮だったし、色々な学校の活動を見るのは、何より楽しかった。
スマホや学校から支給されたばかりのタブレットなどを活用する動画撮影について、そそいて、広報部の今後の活動の可能性について、想いをはせていたボクが、現実に引き戻されたのは、遅めの昼食が終わって、歓迎会を兼ねた午後のティータイムの準備に入るときだった。
「宮野とモモカは、今日の主役だから、ここで待機しておいてくれ。壮馬、ちょっと、手伝ってくれるか?」
竜司は、そう言ってボクを彼の部屋に誘う。
佐倉さんの手土産と白草さん自身による手作りのクッキーの準備を彼女に任せ、竜司の部屋に移動したボクが、用意されていたホールのチーズケーキを切り分けたものを持って、編集スタジオに戻ると、これまで和やかだった室内の空気が、一変していた。
スタジオの玄関フロアから、リビングに戻る途中、最初に聞こえてきたのは、佐倉さんの声だった。
「手作りのクッキーですか……白草センパイは、こういうことしないタイプだと思ってたんですけど、女子力アピールお疲れさまです」
「なんのことかな? わたしは、いつも《ミンスタ》や《トゥイッター》をフォローしてくれている雪乃に感謝を込めて、手作りのものを食べてもらいたかっただけなんだけど?」
「ハァ……白々しい……ちゃっかり、くろセンパイ用に、小包装のクッキーを用意しているのに? ホントは、そっちの目的がメインだったんじゃないですか?」
「だとしたら、どうだって言うの? 焼き菓子をお店で買ってくることしかできなかった悔しさをわたしにぶつけないでくれる?」
「――――――やっぱり、本音がでましたね? 白草センパイは、もう、くろセンパイの告白を断ったんですから、思わせぶりな態度を取るのは感心しない、とワタシは言っているんです」
これまで、いつか言おうと考えていたことなのだろうか、キッパリと断言した佐倉さんは、「言いたいこと言ってやった」とスッキリとした表情で、白草さんを見据えている。
しかし、これまで、下級生に言われっぱなしだった印象のあるボクらのクラスメートは、竜司を軽々と論破していた、ひと月前と同じような、余裕の表情で、
「だから、ナニ? わたしと黒田クンの関係が、佐倉サンに、なにか関係あるの?」
と、挑発的に返答したあと、
「でも、あなたが、わ《・》た《・》し《・》と《・》ク《・》ロ《・》の《・》こ《・》と《・》が気になっちゃうのも仕方ないか……中学校の時のあなたとクロの校内放送を聞かせてもらったんだけど……女《・》子《・》と《・》し《・》て《・》、も《・》う《・》少《・》し《・》、彼《・》へ《・》の《・》好《・》意《・》をアピールできていれば、良かったのにね? アレじゃ、クロが可哀想。わたしが、癒してあげなくちゃ」
わざとらしく、竜司を気遣うような口調で言い切った。
すると、いままで、上級生に対しても決して臆さず、口論でも相手を圧倒していた佐倉さんは、余裕を失くした表情で、声を張り上げた。
「そんなこと、アナタに頼んでいません!」
「別に、佐倉さんに許可を取るようなことではないし……賢いあなたなら、それくらい、当然わかっているでしょう?」
まるで、相手を憐れんでいるようにも感じられる、その視線は、下級生から冷静さを失わせるには、十分だったのだろう。
佐倉さんは、まったく関係のない方面から、反撃を試みた。
「ちょっと、小さい頃のくろセンパイと思い出があるからって、調子に乗らないでくれませんか? 幼なじみキャラは、ラブコメのヒロインレースで、負け組の常連だってことに気づいていないんですかね?」
「あら……いま、流行っている五つ子姉妹とのラブコメマンガは、幼い頃の主人公と出会っている四女が、彼を射止めたんじゃなかったっけ? あっ、そういえば! わたし、あのコと同じ名前だった~」
明後日の方向に向けて放たれ、的外れだった感のある下級生のあおり文句を、白草さんは、正面から受け止め、彼女は、反論になっているのかいないのか良くわからない言葉を返す。
しかし、もはや、余裕を失っているのか、佐倉さんは、反ばくにすらなっていない言葉で応酬した。
「クッ……それなら、ワタシだって、あの四女の中の人と、同じ名字です!」
(いや、それこそ、『だから、ナニ?』だよ……)
そう思ったのは、ボクだけではないだろう。今日の歓迎会の主賓である宮野さんも、呆けたような表情で、白草さんと佐倉さんの不毛なやり取りを眺めている。
「泥棒ネコが、慣れないネコを被って大人しくしていると思ったら……クロが、いなくなった途端に、コレだもん。佐倉さんは、きっと、SNSの裏アカで毒を吐くタイプね。クロにも、あなたの二面性には、注意するよう言っておかないと……」
(二面性に注意って、それは、どっちかと言えば、白草さん自身のことだろう……)
と感じつつも、これ以上、二人の暴言の応酬がエスカレートしないよう、クギをさしておくべきだと感じたボクは、
「白草さんも、佐倉さんも、いったん落ち着こう。今日は、一年生の歓迎会だし……なにより、白草さんの熱心なフォロワーさんの前だからね……」
と、彼女たちを諌めるように、割って入る。
しかし、ここで、さっきまで、呆然と白草さんたちの無益な会話を眺めているだけだと思っていた宮野さんのようすが、少しおかしいことに、ボクは、ようやく気づいた。
編集スタジオ内のデスクトップPCや各自のスマホを利用して、他の学校のSNSでの情報発信に関する調査を行う作業は、和気あいあいとした雰囲気のなかで、順調に進んだ。
ボク自身も含めて、もともとネットを使った情報発信に興味を持っているメンバーが集まっているわけだし、白草さんと宮野さんという《チックタック》や《ミンスタグラム》《トゥイッター》などを熱心に利用しているユーザーが加わっているのだから、盛り上がるのは当たり前かも知れないけど、彼女たちから得られる情報は新鮮だったし、色々な学校の活動を見るのは、何より楽しかった。
スマホや学校から支給されたばかりのタブレットなどを活用する動画撮影について、そそいて、広報部の今後の活動の可能性について、想いをはせていたボクが、現実に引き戻されたのは、遅めの昼食が終わって、歓迎会を兼ねた午後のティータイムの準備に入るときだった。
「宮野とモモカは、今日の主役だから、ここで待機しておいてくれ。壮馬、ちょっと、手伝ってくれるか?」
竜司は、そう言ってボクを彼の部屋に誘う。
佐倉さんの手土産と白草さん自身による手作りのクッキーの準備を彼女に任せ、竜司の部屋に移動したボクが、用意されていたホールのチーズケーキを切り分けたものを持って、編集スタジオに戻ると、これまで和やかだった室内の空気が、一変していた。
スタジオの玄関フロアから、リビングに戻る途中、最初に聞こえてきたのは、佐倉さんの声だった。
「手作りのクッキーですか……白草センパイは、こういうことしないタイプだと思ってたんですけど、女子力アピールお疲れさまです」
「なんのことかな? わたしは、いつも《ミンスタ》や《トゥイッター》をフォローしてくれている雪乃に感謝を込めて、手作りのものを食べてもらいたかっただけなんだけど?」
「ハァ……白々しい……ちゃっかり、くろセンパイ用に、小包装のクッキーを用意しているのに? ホントは、そっちの目的がメインだったんじゃないですか?」
「だとしたら、どうだって言うの? 焼き菓子をお店で買ってくることしかできなかった悔しさをわたしにぶつけないでくれる?」
「――――――やっぱり、本音がでましたね? 白草センパイは、もう、くろセンパイの告白を断ったんですから、思わせぶりな態度を取るのは感心しない、とワタシは言っているんです」
これまで、いつか言おうと考えていたことなのだろうか、キッパリと断言した佐倉さんは、「言いたいこと言ってやった」とスッキリとした表情で、白草さんを見据えている。
しかし、これまで、下級生に言われっぱなしだった印象のあるボクらのクラスメートは、竜司を軽々と論破していた、ひと月前と同じような、余裕の表情で、
「だから、ナニ? わたしと黒田クンの関係が、佐倉サンに、なにか関係あるの?」
と、挑発的に返答したあと、
「でも、あなたが、わ《・》た《・》し《・》と《・》ク《・》ロ《・》の《・》こ《・》と《・》が気になっちゃうのも仕方ないか……中学校の時のあなたとクロの校内放送を聞かせてもらったんだけど……女《・》子《・》と《・》し《・》て《・》、も《・》う《・》少《・》し《・》、彼《・》へ《・》の《・》好《・》意《・》をアピールできていれば、良かったのにね? アレじゃ、クロが可哀想。わたしが、癒してあげなくちゃ」
わざとらしく、竜司を気遣うような口調で言い切った。
すると、いままで、上級生に対しても決して臆さず、口論でも相手を圧倒していた佐倉さんは、余裕を失くした表情で、声を張り上げた。
「そんなこと、アナタに頼んでいません!」
「別に、佐倉さんに許可を取るようなことではないし……賢いあなたなら、それくらい、当然わかっているでしょう?」
まるで、相手を憐れんでいるようにも感じられる、その視線は、下級生から冷静さを失わせるには、十分だったのだろう。
佐倉さんは、まったく関係のない方面から、反撃を試みた。
「ちょっと、小さい頃のくろセンパイと思い出があるからって、調子に乗らないでくれませんか? 幼なじみキャラは、ラブコメのヒロインレースで、負け組の常連だってことに気づいていないんですかね?」
「あら……いま、流行っている五つ子姉妹とのラブコメマンガは、幼い頃の主人公と出会っている四女が、彼を射止めたんじゃなかったっけ? あっ、そういえば! わたし、あのコと同じ名前だった~」
明後日の方向に向けて放たれ、的外れだった感のある下級生のあおり文句を、白草さんは、正面から受け止め、彼女は、反論になっているのかいないのか良くわからない言葉を返す。
しかし、もはや、余裕を失っているのか、佐倉さんは、反ばくにすらなっていない言葉で応酬した。
「クッ……それなら、ワタシだって、あの四女の中の人と、同じ名字です!」
(いや、それこそ、『だから、ナニ?』だよ……)
そう思ったのは、ボクだけではないだろう。今日の歓迎会の主賓である宮野さんも、呆けたような表情で、白草さんと佐倉さんの不毛なやり取りを眺めている。
「泥棒ネコが、慣れないネコを被って大人しくしていると思ったら……クロが、いなくなった途端に、コレだもん。佐倉さんは、きっと、SNSの裏アカで毒を吐くタイプね。クロにも、あなたの二面性には、注意するよう言っておかないと……」
(二面性に注意って、それは、どっちかと言えば、白草さん自身のことだろう……)
と感じつつも、これ以上、二人の暴言の応酬がエスカレートしないよう、クギをさしておくべきだと感じたボクは、
「白草さんも、佐倉さんも、いったん落ち着こう。今日は、一年生の歓迎会だし……なにより、白草さんの熱心なフォロワーさんの前だからね……」
と、彼女たちを諌めるように、割って入る。
しかし、ここで、さっきまで、呆然と白草さんたちの無益な会話を眺めているだけだと思っていた宮野さんのようすが、少しおかしいことに、ボクは、ようやく気づいた。
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