初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

文字の大きさ
上 下
162 / 295
第二部

幕間〜黄色と黒は勇気のしるし〜後編

しおりを挟む
 スピンクス1号・2号と名乗る少年たちが、動画を通じて犯行予告をしながら大人たちを手玉に取る、というストーリーに刺激を受けたボクらは、二人で動画配信者になるときは、この作品を参考にしようと考えていた。

「スピンクスと同じくらいカッコいい名前にしたいよな~。壮馬、何か良いアイデアはないか?」

「う~ん……でも、ボクは、神話とか伝説とか、そんなに詳しいわけじゃないからな~。ボクたち二人の名前から、参考にするとか?」

「壮馬との名前か~。あっ、オレたち二人とも名字に色の漢字が入ってるよな!」

 竜司の言葉にボクもつぶやく。

「黄色と黒だね! たしか、この二つの色の組み合わせは、警告色とか警戒色とか言うんだ。踏切の遮断器は注意をうながすためだし、生物なら、トラやスズメバチは、外敵を威嚇するために、この色をまとっているなんて言われてるよ」

 小さい頃から生物図鑑を見るのが好きだったボクは、遠慮なく知識を披露させてもらった。
 ふんふん、とうなずきながら聞いていた竜司は、

「トラとスズメバチか~。トラは、あの野球チームを思い出させるからな~」

と、苦笑しながら、

「スズメバチは、英語でなんて言うんだっけ?」

と、たずねてくる。

「スズメバチは、ホーネットだね。複数形なら、ホーネッツだ」

「ホーネッツか……たしか、アメリカに、そんな名前のバスケチームがあったよな~。いいんじゃないか!?」

 スポーツ全般に興味のないボクと違って、自分で身体を動かすのも観戦するのも大好きな竜司は、そう返事をしてきた。

「なら、決まりだ! ボクらは、ホーネッツ1号・ホーネッツ2号を名乗ろう。『残響のテロル』なら、ツエルブの方が好きだから、ボクは、ホーネッツ2号が良いな。あっ、でも、初代『仮面ライダー』にならえば、『技の1号、力の2号か』……リ竜司は、どっちが良い?」

「初代『ライダー』って、また昭和ネタかよ……」

「いいじゃないか! 昭和のリバイバル・ブームだって起きてるんだし! 庵野監督が『ゴジラ』を撮影したんだから、『仮面ライダー』だって、『ウルトラマン』だって、何年かしたら、リメイクされるかも知れないよ?」

「わかった! わかったから……まあ、ホーネッツとして活動するときは、壮馬が撮影担当になることが多いと思うから、オレが1号になる方が良いんじゃないか? 1号ナシで2号だけ映像に映ってる場面が多いってのも、ちょっと変な話しだろ?」

 ボクの持論に対して、面倒くさそうに対応しながらも、竜司は的確かつ説得力のある案を提示してくれた。

「うん! それもそうだね、じゃあ、やっぱり、ボクが、ホーネッツ2号ってことで……あらためて、ヨロシク! ホーネッツ1号!」

「ああ、ヨロシクな、ホーネッツ2号!」

 竜司とボクは、あらためてお互いを呼び合いながら、グータッチを交わす。
 そして、議題の一つが終わったことを確認した彼は、こんな質問をしてきた。

「ところで、ユニット名は決まったとして、動画登録のチャンネル名はどうするよ? そのままホーネッツ・チャンネルとかにするか?」

 竜司の問いに、ボクは、「フッフッフッ」と、笑みを浮かべながら答えることにする。

「それについては、ちょっと考えていたことがあるんだよね~」

「ん? なんだ、『その質問を待ってました』みたいな顔して……ナニか、良いアイデアがあるのか?」

「そうだよ! 竜司の『竜』と壮馬の『馬』の字を取って、チャンネル名は、『竜馬ちゃんねる』ってのは、どうだい?」

 ボクが、自信満々に返答すると、相棒は、

「竜馬ちゃんねる、か……」

と、つぶやいたあと、

「うん! 坂本龍馬っぽくて、良いんじゃないか!?」

満面の笑みで、親指を立て、アイデアに賛同の意志を示してくれた。
 親友が、無条件で自分のアイデアに賛成してくれたことに喜びを覚えつつ、ボクは照れ隠しに、

「まあ、坂本龍馬は、実際の功績が少なかったとかで、もうすぐ歴史の教科書に出てこなくなるらしいけど……」

と、付け加えてから、《YourTube》のチャンネル登録の準備に入ることにする。
 こうして、小学五年生の春に、ボクらが動画を投稿する『竜馬チャンネル』は誕生した。

 ちなみに――――――。

 一番最初に撮影した動画は、おなじみの「メン◯ス・コーラ」だったんだけど、用意していた2リットルのペットボトルに、シュガーコーティングされたソフトキャンディを落とすと、盛大に泡が吹き出し、撮影場所だった竜司の家のリビングは、コーラまみれになってしまった。
 そして、たまたま仕事を早く終えて帰宅したつかささん(竜司のお母さんは、ボクに対して、そう呼ぶように約束させていた)に、二人して、こっぴどく叱られたことは、ボクらの中で黒歴史になっている。
 それでも、そのあと、司さんの焼いてくれたアップルパイの美味しさとともに、この日の出来事は、ボクにとって忘れられない思い出だ。
 なんとか、コップ二杯ぶんだけ残ったコーラと一緒に、アップルパイを頬張るボクたちを眺めながら、司さんが、

「ハァ……せっかくのアップルパイをコーラと一緒に食べるなんて……これだから、男の子ってヤツは……また、シロちゃんが来てくれたら、マリアージュ・フレールの紅茶を出してくるのに……」

と、ポツリとつぶやいたことが、最近まで頭の片隅に残っていたのも、きっと、そんなことが理由なんだろう――――――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

通り道のお仕置き

おしり丸
青春
お尻真っ赤

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...