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第二部
第4章〜推しが尊すぎてしんどいのに表現力がなさすぎてしんどい〜⑳
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鳳花部長を見送ったあと、
「企画会議をするなら、タブレットを持ってくるよ!」
と、嬉しそうに言った壮馬は、教室に保管しているタブレットPCを取りに行き、五分ほどで、放送室に戻ってきた。
普段はキビキビと動くタイプではない親友だが、広報部の活動に関係する作業などに関し
ては、恐ろしいほどのスピードや処理能力を見せる。社会人になったら、社用車で移動するときには、法定速度ギリギリまでスピードを上げて運転するタイプだろう。
「早かったな、壮馬」
自分たちのもとに帰ってきた友人に声をかけると、
「二台あった方がイイと思って、竜司のも持って来たよ!」
と、壮馬は、学校から貸し出されているタブレットをオレに手渡してきた。
相変わらず、こういうときの手際が良いことには感心する。
放送室の機材などが並ぶ中、小規模なミーティングを行うために置かれている学習机の前に置かれた椅子に座ったオレは、クロームブックを開き、ログイン画面でパスワードを打ち込みながら、壮馬にたずねる。
「で、オレはナニをすれば良いんだ?」
「まずは、他の学校では、どんな風にSNSを使っているか調べてみない? 最近、ボクが気になっているのは、『チックタック強豪校』っていうパワーワードなんだけど……」
壮馬は、なぜか苦笑しながら答える。
「なんだ? 《チックタック》にも、野球の大◯桐蔭みたいな強豪校が存在するのか?」
壮馬の発言は、オレも気になったので、ブラウザのトップ画面から、検索ワードを打ち込むと、
「『チックタック強豪校』は、どれも神奈川県の高校だべ」
「あ~、たしかに、そんなイメージあるよね~」
と、宮野とシロは、オレが検索に使っているタブレットPCを覗き込みながら、声を弾ませて会話に加わってきた。
打ち込んだワードは、すぐに、検索結果が表示され、
・チックタック強豪校をまとめてみた
というサイトが見つかった。記事に目を通すため、サイトにアクセスすると、宮野の言うとおり、紹介されている三つの高校は、どれも関東地方にある学校のようだ。
サイトの記事は、こんな風にまとめられていた。
・チックタック強豪校は県立高校であることが多い。
・チックタック強豪校の制服は可愛く、JKも可愛い比率が高い。制服・顔面偏差値の高さがブランド化されている理由だと考える。
・学力における偏差値は…………ギャルが多く存在する。
・チックタックで学校がブランド化されると、華のJKになりたいという女子中学生はチックタック強豪校に入学するようになる。結果としてますますチックタック強豪校になるという循環が生まれる。これは野球部の強豪校に野球が上手い子が集まる理屈と同じである。
・JKはブランド化されるが男子高校生はブランド化されることはない。
記事の内容とサイト内に貼られたサムネイルの画像を眺めながら、
「ふ~ん、たしかに、顔も制服も可愛いコが、多いか……」
と、何気なくつぶやくと、ガツン! と右足のかかとあたりに衝撃が走る。
「ギャッ!」
と、声が漏れると同時に、かかとに感じた痛みの条件反射で反応した右足の膝小僧が、タブレットPCを置いている学習机の引き出しに激突し、さらなる痛みに襲われた。
「く~……痛ってぇ……!」
涙目になりながら声を上げ、下半身に衝撃を受けた右手側に目を向けると、氷のような視線で上からこちらを見下ろすクラスメートが、
「さすが、『非モテに優しいギャル』が大好きな黒田クンね……鼻の下を伸ばして、みっともない」
と、吐き捨てるようにつぶやく。
その目つきの鋭さと冷たさに悪寒を感じ、救いを求めるように、このところ、オレをかばってくれることの多い左手前に座っている下級生に目を向けると、口元こそ微笑んでいるように見えるものの、目は笑っておらず、
「へ~、くろセンパイの好みのタイプは、『非モテに優しいギャル』ですか……? そんなものこの世に実在しないと、義務教育課程で学ぶはずなのですが……くろセンパイ、もう一度、小学校から、やり直しますか?」
などと、言葉のナイフをこちらに向けてくる。それは、中学時代の校内放送を思い出させるものだった。
「珍しく意見があったわね、佐倉サン」
シロが、桃華に目を向けて語りかけると、彼女も薄い笑みを浮かべながら、断言する。
「えぇ、非モテのくろセンパイには、どんなタイプの女の子が相応しいのか、キッチリと教えてあげないといけませんから」
そんな二人のようすを
(一言、感想を漏らしただけで、なぜ、こんな理不尽な目に合わないといけないのか……)
と世の中の不条理さと同時に、えも言われぬ恐怖を感じながら眺めていると、オレのかたわらでは、体験入部を希望している下級生が、何やらブツブツとつぶやいているのが聞こえてきた。
そして、話しの輪には加わらず、オレたち四人の会話を眺めていた壮馬は、
「せっかく、アイデアを出し合うブレインストーミングの準備をしようと思ったのに……これじゃ、今日は本格的なミーティングを進める雰囲気になりそうにないね」
と、ため息をついたあと、少しでも前向きになるべきだと考えたのか、こんな提案をしてきた。
「今日の活動方針は情報収集に切り替えて、時間が合えば、また週末にでも、このメンバーで集まろう」
こうして、オレたち五人は、広報部のSNS活動に関するミーティングを行うため、再び週末に集う約束をしたあと、タブレットやスマホで、他校のSNS活動の情報を集めて(と言っても宮野やシロのオススメ動画を眺めていただけだが)、解散することになった。
「企画会議をするなら、タブレットを持ってくるよ!」
と、嬉しそうに言った壮馬は、教室に保管しているタブレットPCを取りに行き、五分ほどで、放送室に戻ってきた。
普段はキビキビと動くタイプではない親友だが、広報部の活動に関係する作業などに関し
ては、恐ろしいほどのスピードや処理能力を見せる。社会人になったら、社用車で移動するときには、法定速度ギリギリまでスピードを上げて運転するタイプだろう。
「早かったな、壮馬」
自分たちのもとに帰ってきた友人に声をかけると、
「二台あった方がイイと思って、竜司のも持って来たよ!」
と、壮馬は、学校から貸し出されているタブレットをオレに手渡してきた。
相変わらず、こういうときの手際が良いことには感心する。
放送室の機材などが並ぶ中、小規模なミーティングを行うために置かれている学習机の前に置かれた椅子に座ったオレは、クロームブックを開き、ログイン画面でパスワードを打ち込みながら、壮馬にたずねる。
「で、オレはナニをすれば良いんだ?」
「まずは、他の学校では、どんな風にSNSを使っているか調べてみない? 最近、ボクが気になっているのは、『チックタック強豪校』っていうパワーワードなんだけど……」
壮馬は、なぜか苦笑しながら答える。
「なんだ? 《チックタック》にも、野球の大◯桐蔭みたいな強豪校が存在するのか?」
壮馬の発言は、オレも気になったので、ブラウザのトップ画面から、検索ワードを打ち込むと、
「『チックタック強豪校』は、どれも神奈川県の高校だべ」
「あ~、たしかに、そんなイメージあるよね~」
と、宮野とシロは、オレが検索に使っているタブレットPCを覗き込みながら、声を弾ませて会話に加わってきた。
打ち込んだワードは、すぐに、検索結果が表示され、
・チックタック強豪校をまとめてみた
というサイトが見つかった。記事に目を通すため、サイトにアクセスすると、宮野の言うとおり、紹介されている三つの高校は、どれも関東地方にある学校のようだ。
サイトの記事は、こんな風にまとめられていた。
・チックタック強豪校は県立高校であることが多い。
・チックタック強豪校の制服は可愛く、JKも可愛い比率が高い。制服・顔面偏差値の高さがブランド化されている理由だと考える。
・学力における偏差値は…………ギャルが多く存在する。
・チックタックで学校がブランド化されると、華のJKになりたいという女子中学生はチックタック強豪校に入学するようになる。結果としてますますチックタック強豪校になるという循環が生まれる。これは野球部の強豪校に野球が上手い子が集まる理屈と同じである。
・JKはブランド化されるが男子高校生はブランド化されることはない。
記事の内容とサイト内に貼られたサムネイルの画像を眺めながら、
「ふ~ん、たしかに、顔も制服も可愛いコが、多いか……」
と、何気なくつぶやくと、ガツン! と右足のかかとあたりに衝撃が走る。
「ギャッ!」
と、声が漏れると同時に、かかとに感じた痛みの条件反射で反応した右足の膝小僧が、タブレットPCを置いている学習机の引き出しに激突し、さらなる痛みに襲われた。
「く~……痛ってぇ……!」
涙目になりながら声を上げ、下半身に衝撃を受けた右手側に目を向けると、氷のような視線で上からこちらを見下ろすクラスメートが、
「さすが、『非モテに優しいギャル』が大好きな黒田クンね……鼻の下を伸ばして、みっともない」
と、吐き捨てるようにつぶやく。
その目つきの鋭さと冷たさに悪寒を感じ、救いを求めるように、このところ、オレをかばってくれることの多い左手前に座っている下級生に目を向けると、口元こそ微笑んでいるように見えるものの、目は笑っておらず、
「へ~、くろセンパイの好みのタイプは、『非モテに優しいギャル』ですか……? そんなものこの世に実在しないと、義務教育課程で学ぶはずなのですが……くろセンパイ、もう一度、小学校から、やり直しますか?」
などと、言葉のナイフをこちらに向けてくる。それは、中学時代の校内放送を思い出させるものだった。
「珍しく意見があったわね、佐倉サン」
シロが、桃華に目を向けて語りかけると、彼女も薄い笑みを浮かべながら、断言する。
「えぇ、非モテのくろセンパイには、どんなタイプの女の子が相応しいのか、キッチリと教えてあげないといけませんから」
そんな二人のようすを
(一言、感想を漏らしただけで、なぜ、こんな理不尽な目に合わないといけないのか……)
と世の中の不条理さと同時に、えも言われぬ恐怖を感じながら眺めていると、オレのかたわらでは、体験入部を希望している下級生が、何やらブツブツとつぶやいているのが聞こえてきた。
そして、話しの輪には加わらず、オレたち四人の会話を眺めていた壮馬は、
「せっかく、アイデアを出し合うブレインストーミングの準備をしようと思ったのに……これじゃ、今日は本格的なミーティングを進める雰囲気になりそうにないね」
と、ため息をついたあと、少しでも前向きになるべきだと考えたのか、こんな提案をしてきた。
「今日の活動方針は情報収集に切り替えて、時間が合えば、また週末にでも、このメンバーで集まろう」
こうして、オレたち五人は、広報部のSNS活動に関するミーティングを行うため、再び週末に集う約束をしたあと、タブレットやスマホで、他校のSNS活動の情報を集めて(と言っても宮野やシロのオススメ動画を眺めていただけだが)、解散することになった。
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