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第二部
第4章〜推しが尊すぎてしんどいのに表現力がなさすぎてしんどい〜⑫
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「ありがとうございます。まだ、自分のなかで考えがまとまっていないことがあるので……ちょっと、時間をもらっていいですか?」
お言葉に甘えて、そうたずねると、彼女は「えぇ、わかったわ」と、穏やかに微笑みながら答えてくれた。
そこで、ワタシは、自分自身に関するメリットやデメリットなどの損得以外に、気になっていることをたずねてみることにする。
「あの紅野センパイのことについても聞かせてもらって良いですか? 同《・》担《・》拒《・》否《・》をしたいワタシとしては、ライベルが減るのはありがたいことなんですけど……これって、紅野センパイには話していないことですよね? 天竹センパイがお友だちのことを考えた結果とは言え、恋愛感情みたいな個人的事情に積極的に関わって、大丈夫なんですか?」
他人の心配などせずに、自分が有利になることだけを考えればイイ――――――という考え方もあるだろうが……。
くろセンパイの告白を阻止するために、(告白は彼女に対してするものだと思い込んでいたので)オープン・スクールのステージ前から紅野センパイを引き離そうと計画していた自分のために保健室まで同行し、親身になって介抱をしようとしてくれていた上級生を困らせるようなことはなるべくしたくない、と考えているワタシとしては、やはり、そのことが、気にかかる。
しかし、そんな心配をよそに、友だち思い(と言っていいのだろうか?)の文芸部の部長さんは、キッパリとした口調で、
「そのことなら、大丈夫ですよ。ノアには、より相応しい相手が居ると考えていますから」
と、断言する。
そのあまりにも自信にあふれた言葉に、思いがけず、頭に浮かんだ疑問が、そのまま口をついて出てしまった。
「紅野センパイに相応しい相手、ですか……? 誰です? ワタシの知ってる人ですか?」
すると、またも、穏やかな笑みで、「えぇ、そうね」とうなずいた彼女は、
「私が、ノアに相応しい相手だと考えているのは、私たちと同じクラスであり、あなたの部活動の先輩にあたる黄瀬くんです」
と、断言するように言い切った。
「へっ!? き、きぃセンパイですか?」
まったく予想していなかったうえに、ワタシ自身の(くろセンパイの次くらいには)良く知っている上級生の名前が上げられたことで、驚いて声を上げると、
(私、ナニか、おかしなことを言ったかしら?)
という表情のまま、天竹センパイは、今日、何度目かとなる持論を展開した。
「はい。あなたの前で、黒田くんのことをアレコレ言うのは気が退けるのですが……落ち着きに欠けるところがある彼に比べて、黄瀬くんは、おっとりした性格と冷静な判断力を持ち合わせていて、ノアの性格とは相性が、とても良いと思うんです」
「はぁ……『おっとりした性格』と『冷静な判断力』ですか……?」
まぁ、たしかに、きぃセンパイに、そうした面がないわけではないけど……。
ワタシは、疑問に感じることを次々に口に出す。
「でも、あのヒト、普段は女子に興味なさそうな雰囲気を出しすぎですよ?」
「問題ありません。色《・》ん《・》な《・》女《・》子《・》に《・》目《・》移《・》り《・》す《・》る《・》よ《・》う《・》な《・》男《・》子《・》よりは、よっぽどイイです!」
色《・》ん《・》な《・》女《・》子《・》に《・》目《・》移《・》り《・》す《・》る《・》男《・》子《・》が、誰のことを指しているのかはわからないけど、なぜか、くろセンパイをディスられた気がしたワタシは、少しカチンとしながら、聞いてみる。
「きぃセンパイは、見た目ほど優しくないですよ? 中学の頃は、ワタシたち後輩にも塩対応のことが多かったですし……」
「それも、問題にするようなことではないと思いますよ? 大切にするべき存在にだけ、そうすれば、良いのですから?」
「あと、ワタシが言うのもナンですけど……メチャクチャ毒舌と言うか、口が悪いところもありますよ? 女子を相手にするときは、隠そうとしてますケド……」
「女子の尊厳を傷つけるような言動がないのであれば、気にすることではないですね」
ああ言えば、こう言う……。
中学校時代の数年とはいえ、ワタシなりに、女子の視点で、きぃセンパイと仲を深めようとする際に気になることをあげたつもりだが、友人のためを思ってのことだろうか、こちら側が懸念するようなことは、天竹センパイには、いまひとつ伝わらないようだ。
お言葉に甘えて、そうたずねると、彼女は「えぇ、わかったわ」と、穏やかに微笑みながら答えてくれた。
そこで、ワタシは、自分自身に関するメリットやデメリットなどの損得以外に、気になっていることをたずねてみることにする。
「あの紅野センパイのことについても聞かせてもらって良いですか? 同《・》担《・》拒《・》否《・》をしたいワタシとしては、ライベルが減るのはありがたいことなんですけど……これって、紅野センパイには話していないことですよね? 天竹センパイがお友だちのことを考えた結果とは言え、恋愛感情みたいな個人的事情に積極的に関わって、大丈夫なんですか?」
他人の心配などせずに、自分が有利になることだけを考えればイイ――――――という考え方もあるだろうが……。
くろセンパイの告白を阻止するために、(告白は彼女に対してするものだと思い込んでいたので)オープン・スクールのステージ前から紅野センパイを引き離そうと計画していた自分のために保健室まで同行し、親身になって介抱をしようとしてくれていた上級生を困らせるようなことはなるべくしたくない、と考えているワタシとしては、やはり、そのことが、気にかかる。
しかし、そんな心配をよそに、友だち思い(と言っていいのだろうか?)の文芸部の部長さんは、キッパリとした口調で、
「そのことなら、大丈夫ですよ。ノアには、より相応しい相手が居ると考えていますから」
と、断言する。
そのあまりにも自信にあふれた言葉に、思いがけず、頭に浮かんだ疑問が、そのまま口をついて出てしまった。
「紅野センパイに相応しい相手、ですか……? 誰です? ワタシの知ってる人ですか?」
すると、またも、穏やかな笑みで、「えぇ、そうね」とうなずいた彼女は、
「私が、ノアに相応しい相手だと考えているのは、私たちと同じクラスであり、あなたの部活動の先輩にあたる黄瀬くんです」
と、断言するように言い切った。
「へっ!? き、きぃセンパイですか?」
まったく予想していなかったうえに、ワタシ自身の(くろセンパイの次くらいには)良く知っている上級生の名前が上げられたことで、驚いて声を上げると、
(私、ナニか、おかしなことを言ったかしら?)
という表情のまま、天竹センパイは、今日、何度目かとなる持論を展開した。
「はい。あなたの前で、黒田くんのことをアレコレ言うのは気が退けるのですが……落ち着きに欠けるところがある彼に比べて、黄瀬くんは、おっとりした性格と冷静な判断力を持ち合わせていて、ノアの性格とは相性が、とても良いと思うんです」
「はぁ……『おっとりした性格』と『冷静な判断力』ですか……?」
まぁ、たしかに、きぃセンパイに、そうした面がないわけではないけど……。
ワタシは、疑問に感じることを次々に口に出す。
「でも、あのヒト、普段は女子に興味なさそうな雰囲気を出しすぎですよ?」
「問題ありません。色《・》ん《・》な《・》女《・》子《・》に《・》目《・》移《・》り《・》す《・》る《・》よ《・》う《・》な《・》男《・》子《・》よりは、よっぽどイイです!」
色《・》ん《・》な《・》女《・》子《・》に《・》目《・》移《・》り《・》す《・》る《・》男《・》子《・》が、誰のことを指しているのかはわからないけど、なぜか、くろセンパイをディスられた気がしたワタシは、少しカチンとしながら、聞いてみる。
「きぃセンパイは、見た目ほど優しくないですよ? 中学の頃は、ワタシたち後輩にも塩対応のことが多かったですし……」
「それも、問題にするようなことではないと思いますよ? 大切にするべき存在にだけ、そうすれば、良いのですから?」
「あと、ワタシが言うのもナンですけど……メチャクチャ毒舌と言うか、口が悪いところもありますよ? 女子を相手にするときは、隠そうとしてますケド……」
「女子の尊厳を傷つけるような言動がないのであれば、気にすることではないですね」
ああ言えば、こう言う……。
中学校時代の数年とはいえ、ワタシなりに、女子の視点で、きぃセンパイと仲を深めようとする際に気になることをあげたつもりだが、友人のためを思ってのことだろうか、こちら側が懸念するようなことは、天竹センパイには、いまひとつ伝わらないようだ。
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