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第二部
第4章〜推しが尊すぎてしんどいのに表現力がなさすぎてしんどい〜④
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「それは、心理学で言うところの『ラベリング効果』、もしくは『スティグマ』と言われる理論で説明できるわ。スティグマが、焼印のこと、というのは美奈子も知っていると思うけど、ネガティブなレッテルが貼られることを心理学ではそう言うらしいの。中学生の時、彼が佐倉さんが担当していた校内放送では、下級生の彼女から、さんざん『モテない男子』と言われ続けていたし、それに、放送開始前の企画段階で、私が彼に、そ《・》う《・》い《・》う《・》キ《・》ャ《・》ラ《・》ク《・》タ《・》ー《・》を求めてしまったこともあったから……これは、私の反省点でもあり、黒田くんに謝らなくちゃいけないことね」
自らの非を認める、鳳花の少し長い告白をだまって聞いていた美奈子は、ふんふん、とうなずきながら苦笑した。
「は~、なるほどね……黒田くんは、鳳花たち放送部に、文字通り『非モテ』の烙印を押された、ってわけか……それは、ちょっと同情するな~」
自身の言葉を受けて、しおらしく反省する態度をみせる鳳花に対し、美奈子はさらに言葉を続けた。
「まぁ、鳳花の無慈悲ぶりはいつものこととして……佐倉さんも、自分が憎からず想っている相手に対する発言としては、なかなか強烈だねぇ」
ニヤニヤと笑いながら語る友人の言葉を受け、自分自身に対する言及については、あえて避けながら、鳳花は肩をすくめて語る。
「佐倉さんが、そんな風だから、黒田くんは、彼女の想いにまったく無自覚だったみたいね。結果として、学校内の女子からネガティブなイメージを持たれたまま中学を卒業したから、佐倉さんにとしては、自分が積極的にアプローチをしなくても、彼が他の女子と交際するような結果を避けることができたんでしょうけど……」
「そっか、そっか……鳳花と佐倉さん、二人から強烈なデ《・》バ《・》フ《・》をかけられていたとは……黒田くんも、ご愁傷さま」
両の手のひらを合わせ、合掌のポーズを取る美奈子に、
「私も反省しているんだから、もう、この辺りで勘弁して」
と、鳳花は神妙な面持ちで要求する。
「それは、私じゃなくて、黒田くんに伝えるべきことでしょ?」
いつもは、泰然自若として動揺を見せることのない友人の珍しい姿におかしさを覚えつつ、美奈子は言葉を続けた。
「でも、そういうことなら、私は、俄然、ウチの可愛い後輩と黒田くんの仲を応援したいな~。ふたりとも、結構お似合いだと思うし、公私の別はつけてもらうにしても、生徒会のメンバーとしては、うってつけの人材だと思うんだよね~」
「私としては、黒田くんの色恋沙汰に巻き込まれるのは避けたいところだけど……紅野さんと黒田くんが、生徒会役員として活躍するところを見てみたい、という点に関しては、アナタに同意するわ」
「ありがとう! 広報部からも公認を得たとなれば、私としても動きやすいしね。では、早速、後継者の育成準備に取り掛かりますか」
自身の後任人事を思うように進められるメドが立ったことが嬉しいのだろうか、ウキウキとした表情で語る美奈子に対し、一方の鳳花は、思案顔だ。
「ん? どうしたの? なにか、心配事でもある?」
友人の顔色を察した生徒会長が副会長にたずねる。その問いかけに、鳳花は素直に応じた。
「黒田くんが、生徒会役員になると、いま以上に広報部の活動を広げようとするのは難しくなりそうかな、と考えていてね……さっき、広報部の活動の主軸として、外部との交渉、動画の撮影・編集、放送やイベントの司会進行という役割がある、と言ったけど……美奈子の手元にある、その本にも書かれていない、いまの時代に必要な要素にも、チカラを入きたいと思案しているんだけど……」
さきほどのしおらしい態度と同様に、めずらしく人前で考え込む顔を見せる鳳花の表情を眺めながら、美奈子は推察する。
「ふ~ん……この本の書かれた二十世紀に存在していなくて、いまの時代の宣伝に必要なモノと言えば――――――あっ、SNSか!」
「察しの良い相手と会話をするのは楽しいわね。そのとおりよ。黒田くんと黄瀬くんも、広報部黙認で、動画配信やSNSの発信を行っているけど、いまの時点では、まだ彼らの発信力は趣味の域から出ていないし、大きな成果にも結びついてはいないわ」
下級生の活動に対して、冷静に現状の見解を述べる広報部の部長に対して、部外者の美奈子は、意外に感じたことを口にする。
「それなら、どうして、白草さんの入部を断ったりしたの? あのコは、《ミンスタ》や《チックタック》で、大勢のフォロワーを抱えてるSNSの達人でしょう?」
白草四葉の存在を知っている人間なら、誰もが疑問に感じる問いかけに、
「たしかに、彼女は、インフルエンサーとしても大きな影響力を持っているけど……」
と、美奈子の想いを肯定しながらも、鳳花は自身の見解を披露する。
「白草さんが最も輝く舞台は、やっぱりステージの上だと私は感じているの。これは、伴奏者として、オープン・スクールのステージに立った人間としての実感ね。広報部としても、ひとりの観客としても、白草さんには、舞台の上で、彼女自身の魅力を発信してほしい――――――。私は、心の底から、そう感じているのよ。そこに、サポートとして、SNSで情報発信をできるヒトが居てくれたら良いんだけど……」
広報部の部長として、そして、同じ舞台に立った経験のある表現者としての意見を述べた花金鳳花の言葉を聞きながら、寿美奈子が、その意味を噛み締めたあとで、返答しようと口を開きかけると、
コンコン――――――
と、入り口を開け放っていた生徒会室のドアを叩く音がした。
自らの非を認める、鳳花の少し長い告白をだまって聞いていた美奈子は、ふんふん、とうなずきながら苦笑した。
「は~、なるほどね……黒田くんは、鳳花たち放送部に、文字通り『非モテ』の烙印を押された、ってわけか……それは、ちょっと同情するな~」
自身の言葉を受けて、しおらしく反省する態度をみせる鳳花に対し、美奈子はさらに言葉を続けた。
「まぁ、鳳花の無慈悲ぶりはいつものこととして……佐倉さんも、自分が憎からず想っている相手に対する発言としては、なかなか強烈だねぇ」
ニヤニヤと笑いながら語る友人の言葉を受け、自分自身に対する言及については、あえて避けながら、鳳花は肩をすくめて語る。
「佐倉さんが、そんな風だから、黒田くんは、彼女の想いにまったく無自覚だったみたいね。結果として、学校内の女子からネガティブなイメージを持たれたまま中学を卒業したから、佐倉さんにとしては、自分が積極的にアプローチをしなくても、彼が他の女子と交際するような結果を避けることができたんでしょうけど……」
「そっか、そっか……鳳花と佐倉さん、二人から強烈なデ《・》バ《・》フ《・》をかけられていたとは……黒田くんも、ご愁傷さま」
両の手のひらを合わせ、合掌のポーズを取る美奈子に、
「私も反省しているんだから、もう、この辺りで勘弁して」
と、鳳花は神妙な面持ちで要求する。
「それは、私じゃなくて、黒田くんに伝えるべきことでしょ?」
いつもは、泰然自若として動揺を見せることのない友人の珍しい姿におかしさを覚えつつ、美奈子は言葉を続けた。
「でも、そういうことなら、私は、俄然、ウチの可愛い後輩と黒田くんの仲を応援したいな~。ふたりとも、結構お似合いだと思うし、公私の別はつけてもらうにしても、生徒会のメンバーとしては、うってつけの人材だと思うんだよね~」
「私としては、黒田くんの色恋沙汰に巻き込まれるのは避けたいところだけど……紅野さんと黒田くんが、生徒会役員として活躍するところを見てみたい、という点に関しては、アナタに同意するわ」
「ありがとう! 広報部からも公認を得たとなれば、私としても動きやすいしね。では、早速、後継者の育成準備に取り掛かりますか」
自身の後任人事を思うように進められるメドが立ったことが嬉しいのだろうか、ウキウキとした表情で語る美奈子に対し、一方の鳳花は、思案顔だ。
「ん? どうしたの? なにか、心配事でもある?」
友人の顔色を察した生徒会長が副会長にたずねる。その問いかけに、鳳花は素直に応じた。
「黒田くんが、生徒会役員になると、いま以上に広報部の活動を広げようとするのは難しくなりそうかな、と考えていてね……さっき、広報部の活動の主軸として、外部との交渉、動画の撮影・編集、放送やイベントの司会進行という役割がある、と言ったけど……美奈子の手元にある、その本にも書かれていない、いまの時代に必要な要素にも、チカラを入きたいと思案しているんだけど……」
さきほどのしおらしい態度と同様に、めずらしく人前で考え込む顔を見せる鳳花の表情を眺めながら、美奈子は推察する。
「ふ~ん……この本の書かれた二十世紀に存在していなくて、いまの時代の宣伝に必要なモノと言えば――――――あっ、SNSか!」
「察しの良い相手と会話をするのは楽しいわね。そのとおりよ。黒田くんと黄瀬くんも、広報部黙認で、動画配信やSNSの発信を行っているけど、いまの時点では、まだ彼らの発信力は趣味の域から出ていないし、大きな成果にも結びついてはいないわ」
下級生の活動に対して、冷静に現状の見解を述べる広報部の部長に対して、部外者の美奈子は、意外に感じたことを口にする。
「それなら、どうして、白草さんの入部を断ったりしたの? あのコは、《ミンスタ》や《チックタック》で、大勢のフォロワーを抱えてるSNSの達人でしょう?」
白草四葉の存在を知っている人間なら、誰もが疑問に感じる問いかけに、
「たしかに、彼女は、インフルエンサーとしても大きな影響力を持っているけど……」
と、美奈子の想いを肯定しながらも、鳳花は自身の見解を披露する。
「白草さんが最も輝く舞台は、やっぱりステージの上だと私は感じているの。これは、伴奏者として、オープン・スクールのステージに立った人間としての実感ね。広報部としても、ひとりの観客としても、白草さんには、舞台の上で、彼女自身の魅力を発信してほしい――――――。私は、心の底から、そう感じているのよ。そこに、サポートとして、SNSで情報発信をできるヒトが居てくれたら良いんだけど……」
広報部の部長として、そして、同じ舞台に立った経験のある表現者としての意見を述べた花金鳳花の言葉を聞きながら、寿美奈子が、その意味を噛み締めたあとで、返答しようと口を開きかけると、
コンコン――――――
と、入り口を開け放っていた生徒会室のドアを叩く音がした。
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