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第二部
第4章〜推しが尊すぎてしんどいのに表現力がなさすぎてしんどい〜①
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5月13日(金)
竜司たちが自室のマンションで、それぞれに思い出話しを懐かしんでいた頃、生徒会役員を務める寿美奈子と花金鳳花は、特別棟の四階にある生徒会室で、会議に使用した書類の後かたづけをしながら、雑談を楽しんでいた。
「美奈子、今年の吹奏楽部の勧誘状況は、どうなの?」
生徒会副会長の鳳花がたずねると、生徒会長は、ホクホク顔で応じる。
「フフッ……お陰さまで、今年も十分な人数が確保できそう! これも、クラブ紹介のために私たちの演奏を映像にまとめてくれた、広報部のおかげね。ご協力、感謝感謝」
「それは良かったわ。 そう言ってもらえると、撮影や編集に関わった黄瀬くんや黒田くんも、喜ぶでしょうね」
美奈子の言葉に、鳳花が返答すると、生徒会長と吹奏楽部の副部長を兼務する女子生徒は、冗談めかした口調で、
「もっとも、紗織じゃなくて、私が舞台に上がっていたら、入部希望者は、もっと増えていたかも、だけど……」
と、いたずらっぽい表情で微笑む。
「相変わらず自信家ね……これ以上、目立ってどうするの?」
苦笑しながら副会長が言葉を返すと、一転して、あきれたような表情になった美奈子が問い返す。
「なに言ってるの? クラブ紹介では、私たち吹奏楽部よりも目立つことをしておいて……で、広報部の新入部員は、どうなのよ?」
「遅ればせながら、佐倉さんが入部してくれたのは心強いけど……人数的には、サッパリね」
両手を広げて、お手上げの仕草をする広報部の部長に、ため息をつきながら、吹奏楽部の副部長は問いかける。
「どんな活動をしているのか良くわからない上に、部員に求められるスキルのハードルが高すぎるのよ、広報部は……鳳花、あんたは、部員にナニを求めているの?」
その言葉に、花金鳳花は、細い目をいっそう細くして、口元の辺りに、人差し指をあてながら、「う~ん、そうね~」と、つぶやいたあと、「美奈子になら、話してもいいかな?」と、自分自身を納得させるような独り言を発して、スクールバッグから、一冊の文庫本を取り出した。
「これは、私が、この学校に入学して、広報部を立ち上げる時に、参考にした本なんだけど……その初心を忘れないために、持ち歩くようにしているの」
鳳花は、そう言って、文庫本を雑談の相手に手渡す。
美奈子が受け取った本には、大手広告代理店の社名が記されていた。
「ストレートなタイトルね」
微苦笑を浮かべた彼女は、最後のページを開いて、奥付で、著者と発行日を確認すると、
「この本を書いた人って、テレビの討論番組の司会やってる人だよね? 出版されたのは……一九八四年!? 四十年も前なの! 私たちの両親が生まれた頃じゃない?」
と、声をあげる。
「この企業について書かれた本は、少ないながらも、何冊かはあるんだけど……四十年近く前に出版されたこの本が、もっとも本質に迫っているように感じるの」
美奈子の反応に、淡々と応じる鳳花は、言葉を続ける。
「この組織のあり方について、『その内実は個人商会の集まり』と、本には書かれているわ」
自分が発した言葉に、「どういうこと?」と、疑問を隠せないようすの生徒会長に、副会長は、
「しおりを挟んでいるページを読んでてみて」
と、うながした。
高校に入学して以来、気のおけない仲になった鳳花の言葉につられるように、美奈子は、西洋絵画がデザインされたしおりの挟まれたページを開き、文字を追う。
「え~と、なになに……『個人商会が、それゆえに、きわめて恣意的に連結し、まるでアメーバーのようにふくれあがり、たとえば万国博や海洋博を演出する巨大プロジェクトにもなる。そして、スポーツでも、葬儀でも、むろん政治でも、なんでも商売にしてしまう。この柔軟性、伸縮自在さ、一人から五千三百四十人までが、いかようにもつながり、また、いかようにも切り離せる。これが電通の特徴でもあり、強みであり、それゆえに外部から正体不明だと不気味がられもするのだというわけだ。』と――――――」
(朝日文庫 田原総一朗『電通』P.106より引用)
声に出して該当箇所を読んだ生徒会長は、「ふ~ん」と、一言、発したあと、
「今まで広告代理店と呼ばれる会社が、ナニをしている組織なのか、わからなかったけど、この文章で、なんとなく、わかったような気がするわ。それに、広報部の部長が、部員にナニを求めているのか、もね……」
と言って、薄く微笑む。
話し相手の表情から、自分の意図をくみ取ってくれたことを察した鳳花は、
「私は、黒田くん達に、いつも、こう伝えているの。『我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在しない。あるとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ』ってね」
と、付け加えた。
竜司たちが自室のマンションで、それぞれに思い出話しを懐かしんでいた頃、生徒会役員を務める寿美奈子と花金鳳花は、特別棟の四階にある生徒会室で、会議に使用した書類の後かたづけをしながら、雑談を楽しんでいた。
「美奈子、今年の吹奏楽部の勧誘状況は、どうなの?」
生徒会副会長の鳳花がたずねると、生徒会長は、ホクホク顔で応じる。
「フフッ……お陰さまで、今年も十分な人数が確保できそう! これも、クラブ紹介のために私たちの演奏を映像にまとめてくれた、広報部のおかげね。ご協力、感謝感謝」
「それは良かったわ。 そう言ってもらえると、撮影や編集に関わった黄瀬くんや黒田くんも、喜ぶでしょうね」
美奈子の言葉に、鳳花が返答すると、生徒会長と吹奏楽部の副部長を兼務する女子生徒は、冗談めかした口調で、
「もっとも、紗織じゃなくて、私が舞台に上がっていたら、入部希望者は、もっと増えていたかも、だけど……」
と、いたずらっぽい表情で微笑む。
「相変わらず自信家ね……これ以上、目立ってどうするの?」
苦笑しながら副会長が言葉を返すと、一転して、あきれたような表情になった美奈子が問い返す。
「なに言ってるの? クラブ紹介では、私たち吹奏楽部よりも目立つことをしておいて……で、広報部の新入部員は、どうなのよ?」
「遅ればせながら、佐倉さんが入部してくれたのは心強いけど……人数的には、サッパリね」
両手を広げて、お手上げの仕草をする広報部の部長に、ため息をつきながら、吹奏楽部の副部長は問いかける。
「どんな活動をしているのか良くわからない上に、部員に求められるスキルのハードルが高すぎるのよ、広報部は……鳳花、あんたは、部員にナニを求めているの?」
その言葉に、花金鳳花は、細い目をいっそう細くして、口元の辺りに、人差し指をあてながら、「う~ん、そうね~」と、つぶやいたあと、「美奈子になら、話してもいいかな?」と、自分自身を納得させるような独り言を発して、スクールバッグから、一冊の文庫本を取り出した。
「これは、私が、この学校に入学して、広報部を立ち上げる時に、参考にした本なんだけど……その初心を忘れないために、持ち歩くようにしているの」
鳳花は、そう言って、文庫本を雑談の相手に手渡す。
美奈子が受け取った本には、大手広告代理店の社名が記されていた。
「ストレートなタイトルね」
微苦笑を浮かべた彼女は、最後のページを開いて、奥付で、著者と発行日を確認すると、
「この本を書いた人って、テレビの討論番組の司会やってる人だよね? 出版されたのは……一九八四年!? 四十年も前なの! 私たちの両親が生まれた頃じゃない?」
と、声をあげる。
「この企業について書かれた本は、少ないながらも、何冊かはあるんだけど……四十年近く前に出版されたこの本が、もっとも本質に迫っているように感じるの」
美奈子の反応に、淡々と応じる鳳花は、言葉を続ける。
「この組織のあり方について、『その内実は個人商会の集まり』と、本には書かれているわ」
自分が発した言葉に、「どういうこと?」と、疑問を隠せないようすの生徒会長に、副会長は、
「しおりを挟んでいるページを読んでてみて」
と、うながした。
高校に入学して以来、気のおけない仲になった鳳花の言葉につられるように、美奈子は、西洋絵画がデザインされたしおりの挟まれたページを開き、文字を追う。
「え~と、なになに……『個人商会が、それゆえに、きわめて恣意的に連結し、まるでアメーバーのようにふくれあがり、たとえば万国博や海洋博を演出する巨大プロジェクトにもなる。そして、スポーツでも、葬儀でも、むろん政治でも、なんでも商売にしてしまう。この柔軟性、伸縮自在さ、一人から五千三百四十人までが、いかようにもつながり、また、いかようにも切り離せる。これが電通の特徴でもあり、強みであり、それゆえに外部から正体不明だと不気味がられもするのだというわけだ。』と――――――」
(朝日文庫 田原総一朗『電通』P.106より引用)
声に出して該当箇所を読んだ生徒会長は、「ふ~ん」と、一言、発したあと、
「今まで広告代理店と呼ばれる会社が、ナニをしている組織なのか、わからなかったけど、この文章で、なんとなく、わかったような気がするわ。それに、広報部の部長が、部員にナニを求めているのか、もね……」
と言って、薄く微笑む。
話し相手の表情から、自分の意図をくみ取ってくれたことを察した鳳花は、
「私は、黒田くん達に、いつも、こう伝えているの。『我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在しない。あるとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ』ってね」
と、付け加えた。
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