176 / 331
第二部
第3章〜カワイくてゴメン〜⑭
しおりを挟む
~佐倉桃華の見解~
「なんでもわかる訳じゃないですよ……センパイのこと、だけです」
中学生の頃から、ワタシを見守ってくれていたことへの感謝と、そのセンパイの気持ちが年上の女子に向いている淋しさ、そして、
(年上の男子は、こういう言い回しに弱いだろう)
という若干の期待を込めて、彼に自分の想いを伝える。
ワタシが言い終わると、くろセンパイは、再び「そっか……」と言って、少しだけ表情を崩した。
しかし、
「二人の女子に想いを寄せるなんて……浮気者」
と、思い切り低く作った声で、つぶやくと、「うっ……」と、声を上げて、センパイは気まずそうに顔をそらす。
その仕草に、こころの中で苦笑しながら、
「な~んて、無慈悲なコトは言いませんから、安心してください。だいたい、センパイは、どちらとも付き合ってる訳じゃないんですから、そんなこと、気にする必要ないです」
と、できる限り穏やかな表情を作って、ワタシは付け加える。
「そ、そうなのかな……」
「はい! 交際前、タイプの違う複数の異性にときめく、なんてことは、きぃセンパイが、こっそり楽しんでる少女マンガでも、良くある話しじゃないですか」
今度は、ニコッと笑って答えると、くろセンパイは真顔で返す。
「モモカ、それは壮馬に言わないでおけよ! あいつ、少女マンガのことをイジると、露骨に機嫌が悪くなるからな……」
「えぇ、わかってますよ! これは、くろセンパイとワタシの共通の秘密ってことにしておきましょう。あと、もちろん、誰かと付き合ってから、他の女子に目移りすることがあったら、極刑が待ってますけどね」
中学校時代から変わらない会話の雰囲気に、ワタシは、懐かしさと愛おしさを感じる。
それでも、くろセンパイは、思い悩みながら、次の言葉を言い淀んでいるようだ。
「センパイ、高校でも、同じクラブで活動できるようになりましたし……中学の時にお世話になったお返しに、くろセンパイが聞きたいこと、なんでも、相談にのりますよ!」
つとめて明るく聞こえる口調で語りかけると、彼は、「そうか……」と、つぶやいたあと、意を決したように、ワタシにたずねてきた。
「シロ……クサからは、『友だちでいたい』と言われたから、自分の中で折り合いをつけるとして……紅野に対しては、どんなふうに接したら良いと思う?」
くろセンパイが口にした「『友だちでいたい』と言われたから、自分の中で折り合いをつける」という言葉を耳にしたとき、ワタシは、
「ヨシッ!!」
と、思わず声に出して、拳を握りそうになる衝動を抑えるのに苦労した。期待した通りの言葉に、ニヤリと口角が上がりそうになるのを我慢しながら、冷静な口調で答える。
「そうですね……白《・》草《・》セ《・》ン《・》パ《・》イ《・》のことは、その判断で問題ないと思います。紅野センパイについては……なるべく、今までと変わらない態度で接するようにしておけば良いんじゃないでしょうか? 紅野センパイに申し訳ない、という想いがあるなら、誠意を持って、クラス委員の仕事を一緒に進めるのが良いと思いますよ」
ワタシの言葉ひとつひとつに、上級生は、真剣な眼差しで、うんうん、とうなずく。
実際のところ、くろセンパイと紅野センパイを破局させたければ、罪悪感に囚われている彼に、彼女に対する誠意を示すため
「白草センパイの恋愛アドバイスを実践しようとしたが、直前で心変わりしてしまった」
と、紅野センパイに告げるよう助言すれば良いのだろうけど……。
我ながら、甘い性格だと思うが、二人の性格の良さを目の当たりにしているワタシは、その手段を取ることに、ためらいがあった。
感染症の影響で入院が長引き、ワタシが登校できない間に進められたセンパイたちのサプライズ企画の存在に気がついたのは、オープン・スクールの前日のことだ。
そして、オープン・スクールの当日、くろセンパイの告白を止めようとしたワタシに対して、献身的に接してくれた優しさにふれ、自分が憧れている男子が、彼女に惹かれた理由が理解できた。
(このヒトが、相手なら仕方ないか……)
素直にそう思えるくらい、紅野センパイへの告白を阻止しようと試みたことに対して、ワタシは罪悪感を覚えていることに気づいた。
そう……それだけで済んでいれば、まだ良かったんだけど――――――。
「なんでもわかる訳じゃないですよ……センパイのこと、だけです」
中学生の頃から、ワタシを見守ってくれていたことへの感謝と、そのセンパイの気持ちが年上の女子に向いている淋しさ、そして、
(年上の男子は、こういう言い回しに弱いだろう)
という若干の期待を込めて、彼に自分の想いを伝える。
ワタシが言い終わると、くろセンパイは、再び「そっか……」と言って、少しだけ表情を崩した。
しかし、
「二人の女子に想いを寄せるなんて……浮気者」
と、思い切り低く作った声で、つぶやくと、「うっ……」と、声を上げて、センパイは気まずそうに顔をそらす。
その仕草に、こころの中で苦笑しながら、
「な~んて、無慈悲なコトは言いませんから、安心してください。だいたい、センパイは、どちらとも付き合ってる訳じゃないんですから、そんなこと、気にする必要ないです」
と、できる限り穏やかな表情を作って、ワタシは付け加える。
「そ、そうなのかな……」
「はい! 交際前、タイプの違う複数の異性にときめく、なんてことは、きぃセンパイが、こっそり楽しんでる少女マンガでも、良くある話しじゃないですか」
今度は、ニコッと笑って答えると、くろセンパイは真顔で返す。
「モモカ、それは壮馬に言わないでおけよ! あいつ、少女マンガのことをイジると、露骨に機嫌が悪くなるからな……」
「えぇ、わかってますよ! これは、くろセンパイとワタシの共通の秘密ってことにしておきましょう。あと、もちろん、誰かと付き合ってから、他の女子に目移りすることがあったら、極刑が待ってますけどね」
中学校時代から変わらない会話の雰囲気に、ワタシは、懐かしさと愛おしさを感じる。
それでも、くろセンパイは、思い悩みながら、次の言葉を言い淀んでいるようだ。
「センパイ、高校でも、同じクラブで活動できるようになりましたし……中学の時にお世話になったお返しに、くろセンパイが聞きたいこと、なんでも、相談にのりますよ!」
つとめて明るく聞こえる口調で語りかけると、彼は、「そうか……」と、つぶやいたあと、意を決したように、ワタシにたずねてきた。
「シロ……クサからは、『友だちでいたい』と言われたから、自分の中で折り合いをつけるとして……紅野に対しては、どんなふうに接したら良いと思う?」
くろセンパイが口にした「『友だちでいたい』と言われたから、自分の中で折り合いをつける」という言葉を耳にしたとき、ワタシは、
「ヨシッ!!」
と、思わず声に出して、拳を握りそうになる衝動を抑えるのに苦労した。期待した通りの言葉に、ニヤリと口角が上がりそうになるのを我慢しながら、冷静な口調で答える。
「そうですね……白《・》草《・》セ《・》ン《・》パ《・》イ《・》のことは、その判断で問題ないと思います。紅野センパイについては……なるべく、今までと変わらない態度で接するようにしておけば良いんじゃないでしょうか? 紅野センパイに申し訳ない、という想いがあるなら、誠意を持って、クラス委員の仕事を一緒に進めるのが良いと思いますよ」
ワタシの言葉ひとつひとつに、上級生は、真剣な眼差しで、うんうん、とうなずく。
実際のところ、くろセンパイと紅野センパイを破局させたければ、罪悪感に囚われている彼に、彼女に対する誠意を示すため
「白草センパイの恋愛アドバイスを実践しようとしたが、直前で心変わりしてしまった」
と、紅野センパイに告げるよう助言すれば良いのだろうけど……。
我ながら、甘い性格だと思うが、二人の性格の良さを目の当たりにしているワタシは、その手段を取ることに、ためらいがあった。
感染症の影響で入院が長引き、ワタシが登校できない間に進められたセンパイたちのサプライズ企画の存在に気がついたのは、オープン・スクールの前日のことだ。
そして、オープン・スクールの当日、くろセンパイの告白を止めようとしたワタシに対して、献身的に接してくれた優しさにふれ、自分が憧れている男子が、彼女に惹かれた理由が理解できた。
(このヒトが、相手なら仕方ないか……)
素直にそう思えるくらい、紅野センパイへの告白を阻止しようと試みたことに対して、ワタシは罪悪感を覚えていることに気づいた。
そう……それだけで済んでいれば、まだ良かったんだけど――――――。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる