175 / 297
第二部
第3章〜カワイくてゴメン〜⑬
しおりを挟む
5月13日(金)
~黒田竜司の見解~
「『いまなら、周りには誰もいないし、本音をぶちまけても大丈夫だぞ』もう、三年も前になりますけど……あの時、くろセンパイは、ワタシにそう言ってくれましたよね?」
目の前に座る下級生は、過去の思い出にひたるような表情で、オレに語りかける。
「そ、そうだったかな?」
桃華のように、一字一句を覚えているわけではないが……。
彼女が、三人の同級生と対峙しているのを確認し、鳳花センパイのアドバイスのおかげで女子生徒たちが立ち去ったあと、オレは、桃華に、そんな言葉をかけた気がする。
「そうですよ! それで、ワタシが思い切り、そのときの気持ちを叫んだら、くろセンパイが、『面白いヤツだな』って言ってきて――――――って、ワタシの話しは、イイんです!」
桃華は、そう断言したあと、優しく笑みを浮かべながら、語りかけてきた。
「あのときは、くろセンパイに助けてもらいましたから……今度は、ワタシが、センパイの悩みを聞く番です! さぁ、くろセンパイ、い《・》ま《・》な《・》ら《・》、周《・》り《・》に《・》は《・》誰《・》も《・》い《・》な《・》い《・》し《・》、本《・》音《・》を《・》ぶ《・》ち《・》ま《・》け《・》て《・》も《・》大《・》丈《・》夫《・》だ《・》ゾ」
彼女の突然の申し出に困惑しながら、
「――――――いや、急に本音を吐き出せ、と言われてもだな……」
と、答えると、やや不満げな表情を浮かべながらも、
「むぅ……たしかに、それもそうかもですね……ワタシの場合と違って、くろセンパイの場合、怒りを溜め込んでいる、というわけではなさそうですし……」
そう言って、口元に人差し指をあてて、考え込むような仕草をしたあと、
「じゃあ、ワタシが、センパイの思っていることを当ててあげます」
と、大胆な提案をしてきた。
「オレの思ってること……?」
桃華の意図がわからず、いぶかしく思いながら、問い返すと、彼女は「はい……」と、うなずき、ドラマやマンガなどで、探偵役が自分の推理を披露するように言い放った。
「いまのくろセンパイは、白草センパイにフラれたことを引きずっている。だけど……それ以上に、白草センパイの恋愛アドバイスの影響で振り回してしまった紅野センパイに対して、申し訳なさを感じて、ヘコんでいる――――――違いますか?」
「……………………」
断言するように放たれた、その物言いに、オレは言葉を発することができなかった。
「その表情は、図星ですね……」
予想したとおり――――――、という表情で語る桃華の言葉には、チカラなくうなずくことしかできない。
「…………」
「…………」
しばらく、二人の沈黙が続いたあと、こちらに視線を向けたままの桃華にたずねる。
「どうして、わかったんだ……?」
「ワタシが、学校に来れなかった間のことを、少しだけ、きぃセンパイに聞かせてもらいましたから」
澄ました表情で彼女は、言う。
「そうか……桃華は、なんでも、わかるんだな……」
苦笑しながら、つぶやくようにオレが言うと、
「なんでもわかる訳じゃないですよ……センパイのこと、だけです」
彼女は、そう言って、微笑む。――――――それは、慈愛に満ちたような、それでいて、どこか寂しさを感じさせるような、そんな不思議な表情だった。
~黒田竜司の見解~
「『いまなら、周りには誰もいないし、本音をぶちまけても大丈夫だぞ』もう、三年も前になりますけど……あの時、くろセンパイは、ワタシにそう言ってくれましたよね?」
目の前に座る下級生は、過去の思い出にひたるような表情で、オレに語りかける。
「そ、そうだったかな?」
桃華のように、一字一句を覚えているわけではないが……。
彼女が、三人の同級生と対峙しているのを確認し、鳳花センパイのアドバイスのおかげで女子生徒たちが立ち去ったあと、オレは、桃華に、そんな言葉をかけた気がする。
「そうですよ! それで、ワタシが思い切り、そのときの気持ちを叫んだら、くろセンパイが、『面白いヤツだな』って言ってきて――――――って、ワタシの話しは、イイんです!」
桃華は、そう断言したあと、優しく笑みを浮かべながら、語りかけてきた。
「あのときは、くろセンパイに助けてもらいましたから……今度は、ワタシが、センパイの悩みを聞く番です! さぁ、くろセンパイ、い《・》ま《・》な《・》ら《・》、周《・》り《・》に《・》は《・》誰《・》も《・》い《・》な《・》い《・》し《・》、本《・》音《・》を《・》ぶ《・》ち《・》ま《・》け《・》て《・》も《・》大《・》丈《・》夫《・》だ《・》ゾ」
彼女の突然の申し出に困惑しながら、
「――――――いや、急に本音を吐き出せ、と言われてもだな……」
と、答えると、やや不満げな表情を浮かべながらも、
「むぅ……たしかに、それもそうかもですね……ワタシの場合と違って、くろセンパイの場合、怒りを溜め込んでいる、というわけではなさそうですし……」
そう言って、口元に人差し指をあてて、考え込むような仕草をしたあと、
「じゃあ、ワタシが、センパイの思っていることを当ててあげます」
と、大胆な提案をしてきた。
「オレの思ってること……?」
桃華の意図がわからず、いぶかしく思いながら、問い返すと、彼女は「はい……」と、うなずき、ドラマやマンガなどで、探偵役が自分の推理を披露するように言い放った。
「いまのくろセンパイは、白草センパイにフラれたことを引きずっている。だけど……それ以上に、白草センパイの恋愛アドバイスの影響で振り回してしまった紅野センパイに対して、申し訳なさを感じて、ヘコんでいる――――――違いますか?」
「……………………」
断言するように放たれた、その物言いに、オレは言葉を発することができなかった。
「その表情は、図星ですね……」
予想したとおり――――――、という表情で語る桃華の言葉には、チカラなくうなずくことしかできない。
「…………」
「…………」
しばらく、二人の沈黙が続いたあと、こちらに視線を向けたままの桃華にたずねる。
「どうして、わかったんだ……?」
「ワタシが、学校に来れなかった間のことを、少しだけ、きぃセンパイに聞かせてもらいましたから」
澄ました表情で彼女は、言う。
「そうか……桃華は、なんでも、わかるんだな……」
苦笑しながら、つぶやくようにオレが言うと、
「なんでもわかる訳じゃないですよ……センパイのこと、だけです」
彼女は、そう言って、微笑む。――――――それは、慈愛に満ちたような、それでいて、どこか寂しさを感じさせるような、そんな不思議な表情だった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる