174 / 331
第二部
第3章〜カワイくてゴメン〜⑫
しおりを挟む
「うおっ! 誰かと思ったら、モモカか……」
驚いたようすのくろセンパイは、動画に撮っておきたいほど良いリアクションを示したあと、「最後の日まで、女子に『キモい』って言われた……」と、落ち込む仕草を見せる。
こんな憎まれ口をたたきながらも……。
ワタシは、前日の夜まで、ずっと悩んでいたことがあった。
それは、
「くろセンパイに自分の想いを告げるべきか――――――?」
ということだ。
二年前の春の日以来、ワタシの、くろセンパイに対する想いは変わらない……どころか、大きくなっていくばかりだった。
あの日、ワタシに向けてくれた笑顔を思い出すだけで、切なく甘酸っぱい感情で胸がいっぱいになる。
ただ、その一方で、彼と放送番組でコンビを組んで気づいたことがあった。
(くろセンパイは、体面を考えて、番組で一緒に話す間柄の女子とは、決して交際しないだろうな……)
本人に直接、確認を取ったわけではないが、普段のセンパイの言動から、そのことはヒシヒシと感じ取ることができた。
そのため、くろセンパイが放送番組のパーソナリティを務めていた二学期の終わりまで、ワタシは、彼と心理的距離を縮める手段を持てなかった(その腹いせに、番組では、センパイを非モテキャラとしてイジり倒し、他の女子が遠さかるようなデ《・》バ《・》フ《・》を精一杯かけさせてもらったけど……)。
そして、三年生が部活を離れた二学期末から卒業を迎える今日この日までの日数は、自分にとってあまりに短すぎた。
クリスマスも、年末年始も、二月十四日も、それっぽいイベントの日を迎えるたびに、
(センパイに、なにかアピールでもしておこうかな……でも、受験で忙しそうだし……)
と、ウジウジと悩んでは機会を逃し続けて、この日まで来てしまった。
あの春の終わりに、鳳花センパイにオススメしてもらった、clover_fieldのアカウント主は、動画サイトにも進出して、女子のための恋愛講座を公開して人気を得ているらしく、自分も参考にすればよかった、と少しだけ後悔している。
(こうなったら、いっそ、思い切って、一発逆転を狙っての告白をしてみようか……)
とも考えたけど……。
それでは、中学生活が始まったばかりの頃に、こちらの都合も考えずに告白し、玉砕していった男子どもと、まったく同じだ。
くろセンパイの困ったような表情を見るのはキライではないけど……。
もちろん、自分の短絡的な行動で、彼の表情を曇らせたいわけでない。
ただ、この立場になって、初めてわかるのは、こちらからすれば迷惑でしかなかったあの場面に至るまで、彼らもワタシと同じように悩み、ついに、我慢できなくなったゆえの行動だったのだろう、ということだ。
そう考えると、
(告白を断るにしても、もう少し、優しくしてあげても良かったか……)
と、申し訳なく思う気持ちがわかないでもないが、それも、いまとなっては、どうしようもないことだった。
そんな自分にできることは――――――。
少し早く新しい舞台に立つセンパイに追いついて、あの日、ワタシを助けてくれたように、彼が悩んだり、迷ったりすることがあれば、今度は、自分が手を差し伸べることだ。
だから、きぃセンパイとともに、志望校に合格した、くろセンパイにワタシが言えることは、ひとつだけだった。
「くろセンパイ、きぃセンパイ、ワタシも芦宮高校に合格してみせますから、絶対、待っていてくださいね!」
ワタシが、そう言うと、
「おう! モモカ、また鳳花先輩たちと一緒に活動しようぜ!」
「待ってるからね! 佐倉さん」
二人のセンパイたちは、さっきまでの会話とはうって変わって、快く、さわやかな笑顔で返答してくれた。
この人たちの行く場所に、はやく自分も追いつかないと――――――
かたい決意を胸に秘めた、春のはじめのできごとだった。
驚いたようすのくろセンパイは、動画に撮っておきたいほど良いリアクションを示したあと、「最後の日まで、女子に『キモい』って言われた……」と、落ち込む仕草を見せる。
こんな憎まれ口をたたきながらも……。
ワタシは、前日の夜まで、ずっと悩んでいたことがあった。
それは、
「くろセンパイに自分の想いを告げるべきか――――――?」
ということだ。
二年前の春の日以来、ワタシの、くろセンパイに対する想いは変わらない……どころか、大きくなっていくばかりだった。
あの日、ワタシに向けてくれた笑顔を思い出すだけで、切なく甘酸っぱい感情で胸がいっぱいになる。
ただ、その一方で、彼と放送番組でコンビを組んで気づいたことがあった。
(くろセンパイは、体面を考えて、番組で一緒に話す間柄の女子とは、決して交際しないだろうな……)
本人に直接、確認を取ったわけではないが、普段のセンパイの言動から、そのことはヒシヒシと感じ取ることができた。
そのため、くろセンパイが放送番組のパーソナリティを務めていた二学期の終わりまで、ワタシは、彼と心理的距離を縮める手段を持てなかった(その腹いせに、番組では、センパイを非モテキャラとしてイジり倒し、他の女子が遠さかるようなデ《・》バ《・》フ《・》を精一杯かけさせてもらったけど……)。
そして、三年生が部活を離れた二学期末から卒業を迎える今日この日までの日数は、自分にとってあまりに短すぎた。
クリスマスも、年末年始も、二月十四日も、それっぽいイベントの日を迎えるたびに、
(センパイに、なにかアピールでもしておこうかな……でも、受験で忙しそうだし……)
と、ウジウジと悩んでは機会を逃し続けて、この日まで来てしまった。
あの春の終わりに、鳳花センパイにオススメしてもらった、clover_fieldのアカウント主は、動画サイトにも進出して、女子のための恋愛講座を公開して人気を得ているらしく、自分も参考にすればよかった、と少しだけ後悔している。
(こうなったら、いっそ、思い切って、一発逆転を狙っての告白をしてみようか……)
とも考えたけど……。
それでは、中学生活が始まったばかりの頃に、こちらの都合も考えずに告白し、玉砕していった男子どもと、まったく同じだ。
くろセンパイの困ったような表情を見るのはキライではないけど……。
もちろん、自分の短絡的な行動で、彼の表情を曇らせたいわけでない。
ただ、この立場になって、初めてわかるのは、こちらからすれば迷惑でしかなかったあの場面に至るまで、彼らもワタシと同じように悩み、ついに、我慢できなくなったゆえの行動だったのだろう、ということだ。
そう考えると、
(告白を断るにしても、もう少し、優しくしてあげても良かったか……)
と、申し訳なく思う気持ちがわかないでもないが、それも、いまとなっては、どうしようもないことだった。
そんな自分にできることは――――――。
少し早く新しい舞台に立つセンパイに追いついて、あの日、ワタシを助けてくれたように、彼が悩んだり、迷ったりすることがあれば、今度は、自分が手を差し伸べることだ。
だから、きぃセンパイとともに、志望校に合格した、くろセンパイにワタシが言えることは、ひとつだけだった。
「くろセンパイ、きぃセンパイ、ワタシも芦宮高校に合格してみせますから、絶対、待っていてくださいね!」
ワタシが、そう言うと、
「おう! モモカ、また鳳花先輩たちと一緒に活動しようぜ!」
「待ってるからね! 佐倉さん」
二人のセンパイたちは、さっきまでの会話とはうって変わって、快く、さわやかな笑顔で返答してくれた。
この人たちの行く場所に、はやく自分も追いつかないと――――――
かたい決意を胸に秘めた、春のはじめのできごとだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説


セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる