初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

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第二部

第3章〜カワイくてゴメン〜⑩

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「ふ、ふ~ん……そうなんですね! けれど、黒田センパイ……ワタシの口の悪さを自覚しながら、その矛先を自分にだけ向けさせようとするとか、性癖が特殊すぎませんか? 後輩女子から罵られたい願望があるなんて……センパイ、ひょっとして、ドMですか?」

「な、なに言ってんだよ佐倉!? ド、ド、ド、ドMとちゃうわ!」

「はいはい……Mのヒトは、みんな、そう言うんですよ……わかりました! そこまで言うなら、センパイのご要望にお応えして、今週の収録からは、キッチリとセンパイをイジってあげますね! 覚悟しておいて、いえ、楽しみにしておいてくださいね! くろセンパイ!」

 ちょっとした照れ隠しのつもりだったのだけど――――――。
 ひと度、発言してしまった言葉をワタシは、止めることができなかった。

(しまった――――――言いすぎた……)

 ワタシを心配して助けに来てくれた上級生に向ける言葉にしては、あまりに辛辣な内容の言葉を吐いてしまった、というバツの悪さを感じながら、おそるおそる、相手の顔色をうかがうと……。
 少し、真顔になったあと、

「ハッハッハッハッ!」

と、くろセンパイは、豪快に笑いだした。

「恩を売るつもりはないけど、自分を心配して駆けつけた先輩に、ふつう、そこまで言うか? やっぱ、佐倉は、おもしれ~わ!」

「だから、そんなに面白いことなんて、言ってないですって……」

 反論しながらも、ワタシは、くろセンパイが、気分を害したわけではなさそうなことを感じ取って、心の底から安心していた。

(よかった……センパイ、気を悪くしたわけではなさそう……)

 くろセンパイと視線を合わせるのが、なんとなく気まずくてうつむきながら、そんなことを考えていると、センパイは、ワタシに声をかけてきた。

「まぁ、本音は吐き出せたかも知れないけど、オトコのオレには、言いにくいこともあるだろ? 鳳花部長なら、色々と話しを聞いてくれると思うから、女子同士でしかできない話しは、部長に聞いてもらってくれ」

 くろセンパイは、そう言ってから、「じゃ、放送室に戻ろうか?」と、付け加えて、また、ニコッと笑う。
 その笑顔を見せられると、なぜか、心があたたかくなると同時に、胸が苦しくなる不思議な感覚を覚える。
 そんな想いを抱えつつ、放送室に向かうくろセンパイと肩を並べて歩きながら、考える。
 いままで、(向こうから勝手に)告白してきた男子は、こっちの都合も考えず、一方的に自分たちの気持ちを押し付けてくるばかりで、ワタシの好みや性格など、いっさい考慮して
いないように感じられた。
 そんな状態で、ワタシと親しくなったとしても、こちらの口の悪さに気分を害して、すぐに、「こんなヤツと思わなかった……」と、彼らが離れていくことは、簡単に予想できた。 
 だけど――――――。

 くろセンパイには、ワタシ自身が、いま一番楽しみにしていることを、あっさりと言い当てられてしまった。
 そのうえ、ワタシに好意を持った男子を迷惑がり、嫌がらせをしてきた女子を罵倒しただけでなく、ワタシのことを心配してくれていた彼自身にまで酷い言葉を投げつけた自分の口の悪さを『面白い』と言い、そんなワタシと放送で話すのが楽しい、と言っている。

(ほんと、変なセンパイ……)

 そう思いながらも、いつの間にか、気恥ずかしさから、まともに目線を合わせられなくなってしまったワタシにはお構いなしに、

「それにしても、いまどき、いやがらせで、教科書に落書きしたり、体育でボールをぶつけたりするヤツらがいるとは思わなかったわ……」

などと、勝手に話している。
 ワタシも、「そうですね……」などと、相槌を打ってはいるが、自分自身の思考がまとまらず、くろセンパイの言葉は、ほとんど頭に入ってこない。
 それでも、ひとつだけ、ハッキリとワタシの心の中から湧き上がって来る想いがあることに気づいた。

(くろセンパイだけ、ワタシのことをわかっているみたいに話してズルい……ワタシも、くろセンパイの思っていること、感じていることをもっと知りたい!)

 知り合ってから、まだ一ヶ月ほどしか経っていない上級生に、そんな感情が芽生えるのは、自分でも不思議だったけど……。
 とにかく、週末から始まる放送で、トークのパートナーとなるからには、くろセンパイの趣味や好みを把握しておくのは、悪いことではないと思う。
 自分自身のそんな気持ちを確認していると、いつの間にか、放送室に戻って来ていた。
 ノックをしたあと、室内に入ると、ワタシの姿を目にした放送部の部長さんが、すぐさま駆け寄って来て、

「佐倉さん……なんともなかった?」

と、言葉をかけながら、ギュッと身体を抱きしめてくれた。
 すぐに、くろセンパイが駆けつけてくれて大きな問題にはならなかったことを伝え、鳳花センパイをはじめ、放送部のメンバーに心配と迷惑を掛けてしまったことを謝ると、優しくて頼りになる部長さんからは、

「ううん……こっちこそ、余計なプレッシャーを掛けた上に、佐倉さんが悩んでいることに気づけなくて、ゴメンね」

と、少し前に聞いたような謝罪の言葉をいただき、かえって、こっちが恐縮してしまう。
 後日、三人のうちの誰か、もしくは、三人が共同で弁償したのか、担任を通じて、落書きされた教科書の交換品がワタシに手渡されたのも、きっと、彼女が手を回してくれたのだろう。
 さらに、その後、しばらくして、鳳花センパイから、

「女子ウケを狙うなら、いま、同世代のコたちの注目を集めてる《ミンスタ》のこのアカウントをフォローして、参考にしてみたら?」

というアドバイスとともに、clover_fieldというアカウントを教えてもらったのだけど、

「くろセンパイにほめてもらった自分の感性を大事にしたい――――――」

と思ったワタシ(参考にするなら、小学生の頃から好きだったHoneyWorksの歌詞の世界観にしようと考えていた)は、部長さんの助言を聞き流してしまった。
 
 それでも――――――。

 このとき、ワタシは、この放送部のメンバーが、本当に自分を受け入れてくれるのだ、と実感し、自分の居場所を提供してくれていることをあらためて感じることができた。
 自分の中学校生活が思い出深いものになったのは、間違いなく、この人たちのおかげなのだ。
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