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第二部
第3章〜カワイくてゴメン〜①
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5月13日(金)
~佐倉桃華の見解~
八畳より少し大きな間取りのワン・ルーム。
部屋の真ん中に置かれたロー・テーブルの前には、くろセンパイが座っている。
お茶を注いだグラスを二つテーブルに置くと、センパイは、「おう! ありがとう、桃華」と言い、少し間をおいてから、言葉を続けた。
「――――――で、話したいことって、なんなんだ? 広報部のことなら、オレよりも、鳳花先輩に相談した方が……」
センパイなりに気を使っているのかも知れないけど、後輩女子からの話しを持ちかけられて、この反応……。
これでは、いままで特定の女子との仲が進展しなかったのも無理はない。
ただ、くろセンパイが、これまで女子との交際に縁がなかった理由の半分くらいは、ワタシにも原因があるかも知れないのだけれど……。
そんなことを考えながら、「ハア……」と、ため息をつき、ワタシは返答する。
「ワタシは、くろセンパイに話しがあるんです!」
「オレに……? なんだ? いまさら、あらたまって……」
「はい……高校でも、こうして、部活動のセンパイと後輩になれたので……せっかくだから、くろセンパイのプライベートなお話しを聞いてみたいな、って」
プライベート、という言葉に、明らかに動揺したセンパイは、
「な、なんだよ、プライベートな話しって……オ、オレの話しなんて、聞いても面白いことは、ナニもないぞ!」
と、しどろもどろになりながら、返答する。
(こういうトコロも可愛いんだけど……)
ワタシは、中学生の時と、あまり変わっていない彼の反応を少し嬉しく思いながら、自分も中学生の時と同じようなノリで言葉を返す。
「いやいや、失恋動画に、告白失敗のライブ配信……高校生にとって、これ以上、面白いプライベートな話しって、あとは、トゥイッターでバカやって炎上するくらいしかないんじゃないですか? あっ、申し訳ありません。『笑える』って意味では、バカッターより、はるかにセンスは上でしたね……」
クスクスと笑いながら返答すると、「何……だと……?」と、死神代行の高校生のような言葉を発したセンパイは、「ハァ……」と、ため息をついたあと、
「まったく、桃華は相変わらず容赦がねぇな……」
と、少しだけ口もとを緩めた。
「これでも、毒を吐くのは、我慢してた方なんですよ……去年……中学三年のときは、放送部のイメージを守らなくちゃ、でしたし……」
ワタシが反論すると、今度は、意外そうな表情で、少しだけ目を丸くしたあと、センパイは、
「ふ~ん、あの桃華が、そこまで考え発言するようになるとはな……三年前に比べたら、丸くなったもんだ」
と言って、目を細めるようにして、中学生の頃を懐かしんでいるようだ。
「去年は、放送部の部長だったんですから……当然です!」
ドヤ顔で、胸を張るように言うと、「そうだったな……」と、ひとつ歳上の彼は、少しだけ笑みをこぼす。
センパイのその表情は、ワタシが、世界でいちばん好きなモノだ。
不意に見ることになってしまった彼の笑顔に、今度は、ワタシが、ドギマギしながら、
「で、でも、鳳花センパイや、くろセンパイ、きぃセンパイがいなかったら、ワタシは、放送部での活動を続けていなかったかも知れませんから……く、くろセンパイが、落ち込んでいるなら、ワタシがチカラになりますよ!」
今日、いちばん伝えなければいけないことを、なんとか言葉にすることに成功した。
ワタシの言葉に、センパイは、少し驚いたような表情で、「桃華……」と、口にしたあと、
「後輩にまで、心配されるとは……先輩失格だな……」
そう言って、渋い顔をしながら、頭をかいた。
その表情と仕草に、胸が少し苦しくなる。
(ワタシが大切にしたいと思う、この人を苦しませているのは……)
そのことを考えると、胸が痛み、息苦しささえ感じてしまうけれど――――――。
いまは、自分にできることをしなくちゃいけない。
くろセンパイのために……そして、いまは、まだ下級生と上級生でしかない、ワタシたちの関係を進めるために……。
そう決意した、ワタシは、高校に入学しても、自分を受け入れてくれた尊敬する鳳花センパイと、きぃセンパイ、そして、くろセンパイと出会った中学生の頃のことを思い出さずにはいられなかった。
~佐倉桃華の見解~
八畳より少し大きな間取りのワン・ルーム。
部屋の真ん中に置かれたロー・テーブルの前には、くろセンパイが座っている。
お茶を注いだグラスを二つテーブルに置くと、センパイは、「おう! ありがとう、桃華」と言い、少し間をおいてから、言葉を続けた。
「――――――で、話したいことって、なんなんだ? 広報部のことなら、オレよりも、鳳花先輩に相談した方が……」
センパイなりに気を使っているのかも知れないけど、後輩女子からの話しを持ちかけられて、この反応……。
これでは、いままで特定の女子との仲が進展しなかったのも無理はない。
ただ、くろセンパイが、これまで女子との交際に縁がなかった理由の半分くらいは、ワタシにも原因があるかも知れないのだけれど……。
そんなことを考えながら、「ハア……」と、ため息をつき、ワタシは返答する。
「ワタシは、くろセンパイに話しがあるんです!」
「オレに……? なんだ? いまさら、あらたまって……」
「はい……高校でも、こうして、部活動のセンパイと後輩になれたので……せっかくだから、くろセンパイのプライベートなお話しを聞いてみたいな、って」
プライベート、という言葉に、明らかに動揺したセンパイは、
「な、なんだよ、プライベートな話しって……オ、オレの話しなんて、聞いても面白いことは、ナニもないぞ!」
と、しどろもどろになりながら、返答する。
(こういうトコロも可愛いんだけど……)
ワタシは、中学生の時と、あまり変わっていない彼の反応を少し嬉しく思いながら、自分も中学生の時と同じようなノリで言葉を返す。
「いやいや、失恋動画に、告白失敗のライブ配信……高校生にとって、これ以上、面白いプライベートな話しって、あとは、トゥイッターでバカやって炎上するくらいしかないんじゃないですか? あっ、申し訳ありません。『笑える』って意味では、バカッターより、はるかにセンスは上でしたね……」
クスクスと笑いながら返答すると、「何……だと……?」と、死神代行の高校生のような言葉を発したセンパイは、「ハァ……」と、ため息をついたあと、
「まったく、桃華は相変わらず容赦がねぇな……」
と、少しだけ口もとを緩めた。
「これでも、毒を吐くのは、我慢してた方なんですよ……去年……中学三年のときは、放送部のイメージを守らなくちゃ、でしたし……」
ワタシが反論すると、今度は、意外そうな表情で、少しだけ目を丸くしたあと、センパイは、
「ふ~ん、あの桃華が、そこまで考え発言するようになるとはな……三年前に比べたら、丸くなったもんだ」
と言って、目を細めるようにして、中学生の頃を懐かしんでいるようだ。
「去年は、放送部の部長だったんですから……当然です!」
ドヤ顔で、胸を張るように言うと、「そうだったな……」と、ひとつ歳上の彼は、少しだけ笑みをこぼす。
センパイのその表情は、ワタシが、世界でいちばん好きなモノだ。
不意に見ることになってしまった彼の笑顔に、今度は、ワタシが、ドギマギしながら、
「で、でも、鳳花センパイや、くろセンパイ、きぃセンパイがいなかったら、ワタシは、放送部での活動を続けていなかったかも知れませんから……く、くろセンパイが、落ち込んでいるなら、ワタシがチカラになりますよ!」
今日、いちばん伝えなければいけないことを、なんとか言葉にすることに成功した。
ワタシの言葉に、センパイは、少し驚いたような表情で、「桃華……」と、口にしたあと、
「後輩にまで、心配されるとは……先輩失格だな……」
そう言って、渋い顔をしながら、頭をかいた。
その表情と仕草に、胸が少し苦しくなる。
(ワタシが大切にしたいと思う、この人を苦しませているのは……)
そのことを考えると、胸が痛み、息苦しささえ感じてしまうけれど――――――。
いまは、自分にできることをしなくちゃいけない。
くろセンパイのために……そして、いまは、まだ下級生と上級生でしかない、ワタシたちの関係を進めるために……。
そう決意した、ワタシは、高校に入学しても、自分を受け入れてくれた尊敬する鳳花センパイと、きぃセンパイ、そして、くろセンパイと出会った中学生の頃のことを思い出さずにはいられなかった。
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