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第二部
第2章〜黒と黄の詩〜⑭
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5月13日(金)
「ボクと竜司が出会った頃の話しは、こんな感じ……とくに、面白い話しでもなかったと思うけど――――――」
ボクが、言い終わらないうちに、対面の位置から反応があった。
「いいえ! 黄瀬くん、とても興味深いお話しでした! 他のお話しも、ぜひ聞かせてください」
普段は、口数の少ない文芸部の部長が、真っ先に口を開くと、ボクの右手側からも、
「私も、二人が小学生の頃、どんな男の子だったのか聞けて、楽しかったな」
と、クラス委員さんも穏やかな笑みで同意する。
そして、ボクの左手側に座るクラスメートは、
「ふ~ん、やっぱり、クロ……ううん、黒田クンは、その頃から変わってないんだね~」
そう言って、まるで、「わたしは、知っていたけど……」と、勝ち誇るかのように、フフンと笑みを浮かべる。
(それは、誰に対して、マウントを取ってるんだよ……!?)
そんなボクの心の中のツッコミをよそに、白草さんは、フ~ッと息をついたあと、「ところで、黄瀬クン……」と、言葉を続けた。
「いまのお話しに出てきた、小野サンと幸田サンだっけ……? そのコたちは、いま、どうしているの? SNSのアカウントとか持ってる?」
先ほどまでとは声色を一変させ、冷たい表情で、ボクにたずねてくる。
そのようすに、本能的恐怖を感じながら、質問を返してみた。
「あの……一応、聞いておくけど、白草さんは、二人のアカウントとかを聞いて、どうするつもりなの?」
「別に……『ミンスタ』や『トゥイッター』の投稿をチェックして、まだ、おイタをしているようなら、フォロワーさんたちと連携して、チョットね……」
一◯◯万人のフォロワーを擁するインフルエンサーは、スマホを触りながら、さらりと恐ろしいことを言う。
「ナニをするつもりか知らないけど、フォロワー使って、一般人にカラんでいくとか、有名人が一番やっちゃいけないことだよ!?」
慌てて、クギを差すと、彼女は少し不貞腐れたような表情で、視線をそらす。
そのようすをみて、ボクは言葉を続けた。
「彼女たちも、悪気があって発言した訳じゃないだろうし、普段は悪い子たちじゃない。第一、竜司も、そんなこと望んでないよ! あと、もう学校も別々になってるんだから、滅多なことはしないでよ、白草さん」
「わかってる……冗談だって……」
そう言いながら、スマホをテーブルに置いた彼女の仕草に安心し、「それより……」と、話題を変えることにする。
「竜司にナニか用事があったんじゃないの? ボクたちより先に学校を出たはずなんだけど、まだ、隣の部屋に戻って来てなかった?」
マンションの前で白草さんと遭遇したときから疑問に思っていたことをたずねてみると、当初の目的を思い出したのか、つい先ほどまで、不穏なオーラを発していた彼女は、
「そうだった! わたしは、広報部に入部することができなかったから――――――彼……黒田クンと『Benly』で、位置情報を共有するようにしてたんだよね~」
わざとらしく、後半部分を強調し、目の前のクラス委員に対して、何かを誇るように発言する。
しかし、白草さんの言葉に反応したのは、彼女の正面に座る紅野さんではなく、左手側にいる天竹さんが、口を開いた。
「あれ? 白草さんは、先週、黒田くんの告白を断ったはずじゃ……? 告白を断った相手とスマホで位置情報を共有するとか、気持ち悪くないんですか?」
念のため、確認しておくと、ボクたち広報部の情報操作……もとい、世論形成の影響で、竜司の告白は、校内の多くの生徒にとって、
《イベントとしてのデモンストレーション=フェイク告白》
だった、という認識になっている。
オープン・スクール前後に起こった一連の出来事をボクとともに見守った天竹さんが、そのことを知らないはずはないのだが……。
思ってもみない方向から、不意打ちをくらったためか、白草さんは、
「そ、それは……ほら、この前の告白イベントは、広報部の今後の企画のためのデモンストレーションだったから……黒田クンは、転校してきたわたしに、『困ったことがあったら、なんでも相談してくれ』って、言ってくれてたし!」
と、若干しどろもどろになりつつも、自分自身にとって譲れない真実より、あえて、校内公式の虚構に乗っかったようだ。
そんなクラスメートと親友の会話を聞きながら、竜司と一緒にクラス委員を務める紅野さんは、表情を変えることなく、「そっか……黒田くんらしいね……」と相づちを打ちつつ、白草さんにたずねる。
「それで……黒田くんは、いまドコに居るかわからないの?」
その問いかけに、自身が感じていた疑問を振り返るように、
「そうそう! 『Benly』じゃ、このマンションに居るはずなんだけど……さっき、彼の部屋に行ってチャイムを押したんだけど、返事はなかったんだよね……スマホを置いたまま、どこかに買い物にでも行ったのかな?」
と、つぶやく。
(なるほど、それで、ボクのLANEも未読スルーで返信がなかったのか……)
そう思いつつ、ボクもスマホを取り出し、『Benly』のアプリを起動してみたのだが――――――。
「げっ!? マジかよ」
アプリに表示されたアイコンを目にして、思わず漏れる声を抑えることができなかった。
ボクの『Benly』の画面には、自分たちが居る編集室のマンションの上に、炎マークのアイコンが表示され、そこには、竜司だけでなく、佐倉さんのアイコンも記されていた。
(注:利用しているヒトたちには説明の必要もないだろうが――――――。このアプリは、複数の知人・友人が近い場所に居ると炎のアイコンが表示されるようになっている。つまり、アプリを利用している友人たちには、利用者の交友関係がリアルタイムに筒抜けなのだ)
こちらの狼狽ぶりに気がついたのか、考えうる限り、もっとも、この画面を目にしてはいけない人物が、ボクのスマホをのぞきこむ。
ボクは、左手側にビリビリと殺気のようなモノを感じ、おそるおそる、その方向に目を向ける。
「ど、どういうことよ! これは~~~~~!?」
バンッと、両手でテーブルを叩く音とともに、白草さんの絶叫が、十畳ほどの編集室に響き渡った。
「ボクと竜司が出会った頃の話しは、こんな感じ……とくに、面白い話しでもなかったと思うけど――――――」
ボクが、言い終わらないうちに、対面の位置から反応があった。
「いいえ! 黄瀬くん、とても興味深いお話しでした! 他のお話しも、ぜひ聞かせてください」
普段は、口数の少ない文芸部の部長が、真っ先に口を開くと、ボクの右手側からも、
「私も、二人が小学生の頃、どんな男の子だったのか聞けて、楽しかったな」
と、クラス委員さんも穏やかな笑みで同意する。
そして、ボクの左手側に座るクラスメートは、
「ふ~ん、やっぱり、クロ……ううん、黒田クンは、その頃から変わってないんだね~」
そう言って、まるで、「わたしは、知っていたけど……」と、勝ち誇るかのように、フフンと笑みを浮かべる。
(それは、誰に対して、マウントを取ってるんだよ……!?)
そんなボクの心の中のツッコミをよそに、白草さんは、フ~ッと息をついたあと、「ところで、黄瀬クン……」と、言葉を続けた。
「いまのお話しに出てきた、小野サンと幸田サンだっけ……? そのコたちは、いま、どうしているの? SNSのアカウントとか持ってる?」
先ほどまでとは声色を一変させ、冷たい表情で、ボクにたずねてくる。
そのようすに、本能的恐怖を感じながら、質問を返してみた。
「あの……一応、聞いておくけど、白草さんは、二人のアカウントとかを聞いて、どうするつもりなの?」
「別に……『ミンスタ』や『トゥイッター』の投稿をチェックして、まだ、おイタをしているようなら、フォロワーさんたちと連携して、チョットね……」
一◯◯万人のフォロワーを擁するインフルエンサーは、スマホを触りながら、さらりと恐ろしいことを言う。
「ナニをするつもりか知らないけど、フォロワー使って、一般人にカラんでいくとか、有名人が一番やっちゃいけないことだよ!?」
慌てて、クギを差すと、彼女は少し不貞腐れたような表情で、視線をそらす。
そのようすをみて、ボクは言葉を続けた。
「彼女たちも、悪気があって発言した訳じゃないだろうし、普段は悪い子たちじゃない。第一、竜司も、そんなこと望んでないよ! あと、もう学校も別々になってるんだから、滅多なことはしないでよ、白草さん」
「わかってる……冗談だって……」
そう言いながら、スマホをテーブルに置いた彼女の仕草に安心し、「それより……」と、話題を変えることにする。
「竜司にナニか用事があったんじゃないの? ボクたちより先に学校を出たはずなんだけど、まだ、隣の部屋に戻って来てなかった?」
マンションの前で白草さんと遭遇したときから疑問に思っていたことをたずねてみると、当初の目的を思い出したのか、つい先ほどまで、不穏なオーラを発していた彼女は、
「そうだった! わたしは、広報部に入部することができなかったから――――――彼……黒田クンと『Benly』で、位置情報を共有するようにしてたんだよね~」
わざとらしく、後半部分を強調し、目の前のクラス委員に対して、何かを誇るように発言する。
しかし、白草さんの言葉に反応したのは、彼女の正面に座る紅野さんではなく、左手側にいる天竹さんが、口を開いた。
「あれ? 白草さんは、先週、黒田くんの告白を断ったはずじゃ……? 告白を断った相手とスマホで位置情報を共有するとか、気持ち悪くないんですか?」
念のため、確認しておくと、ボクたち広報部の情報操作……もとい、世論形成の影響で、竜司の告白は、校内の多くの生徒にとって、
《イベントとしてのデモンストレーション=フェイク告白》
だった、という認識になっている。
オープン・スクール前後に起こった一連の出来事をボクとともに見守った天竹さんが、そのことを知らないはずはないのだが……。
思ってもみない方向から、不意打ちをくらったためか、白草さんは、
「そ、それは……ほら、この前の告白イベントは、広報部の今後の企画のためのデモンストレーションだったから……黒田クンは、転校してきたわたしに、『困ったことがあったら、なんでも相談してくれ』って、言ってくれてたし!」
と、若干しどろもどろになりつつも、自分自身にとって譲れない真実より、あえて、校内公式の虚構に乗っかったようだ。
そんなクラスメートと親友の会話を聞きながら、竜司と一緒にクラス委員を務める紅野さんは、表情を変えることなく、「そっか……黒田くんらしいね……」と相づちを打ちつつ、白草さんにたずねる。
「それで……黒田くんは、いまドコに居るかわからないの?」
その問いかけに、自身が感じていた疑問を振り返るように、
「そうそう! 『Benly』じゃ、このマンションに居るはずなんだけど……さっき、彼の部屋に行ってチャイムを押したんだけど、返事はなかったんだよね……スマホを置いたまま、どこかに買い物にでも行ったのかな?」
と、つぶやく。
(なるほど、それで、ボクのLANEも未読スルーで返信がなかったのか……)
そう思いつつ、ボクもスマホを取り出し、『Benly』のアプリを起動してみたのだが――――――。
「げっ!? マジかよ」
アプリに表示されたアイコンを目にして、思わず漏れる声を抑えることができなかった。
ボクの『Benly』の画面には、自分たちが居る編集室のマンションの上に、炎マークのアイコンが表示され、そこには、竜司だけでなく、佐倉さんのアイコンも記されていた。
(注:利用しているヒトたちには説明の必要もないだろうが――――――。このアプリは、複数の知人・友人が近い場所に居ると炎のアイコンが表示されるようになっている。つまり、アプリを利用している友人たちには、利用者の交友関係がリアルタイムに筒抜けなのだ)
こちらの狼狽ぶりに気がついたのか、考えうる限り、もっとも、この画面を目にしてはいけない人物が、ボクのスマホをのぞきこむ。
ボクは、左手側にビリビリと殺気のようなモノを感じ、おそるおそる、その方向に目を向ける。
「ど、どういうことよ! これは~~~~~!?」
バンッと、両手でテーブルを叩く音とともに、白草さんの絶叫が、十畳ほどの編集室に響き渡った。
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