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第二部
第2章〜黒と黄の詩〜④
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「私も、そう考えています……白草さんが、ノアにフラレた直後の黒田くんに対して、二度目の告白を促すために色々とレクチャーをしたのは、大勢の生徒の前で、彼の告白を断っても、もう一度、自分に告白してくるように仕向けている……私は、そんな風に想像しています」
ミステリー小説も好んで読むことが多いと言っていた彼女の読書傾向の影響なのか、独自の推理を披露した文芸部の部長さんは、そこまで言ったあと、さらに、言葉を続けた。
「ただ…………佐倉さんが、黒田くんの前にあらわれて、いまはまた、大きく状況が変わったのではないか――――――? そう感じるんです」
(なるほど……)
佐倉さんが、どこまで本気で竜司のことを想っているのか(あるいは、単純に白草さんを妨害したいだけなのか……)はわからないが、いずれにしても、ボクたち二年A組の教室から放送室へと戦線をひろげて行われた下級生と同級生の不毛な争いを観察するに、わずか数日の間に、白草四葉絶対有利の情勢から、戦況……いや、状況が大きく変化しているのは間違いなさそうだ。
ひと月ほど前、白草さんから、異性へのアプローチ方法に関するレクチャーを受けた竜司とボクは、彼女から、『ぬいぐるみペ◯ス・ショック』という、ボクたち男子にとっては、ショッキングなワードを聞かされた。
『それまで、恋愛的ムードになることなく、恋の対象でなかった男性から、急に告白をされてショックを受ける女性心理』
を指す言葉らしいが……。
逆の立場から言えば、一般的見解として、それなりに親しい女子から、モーションを仕掛けられて(←死語か?)、迷惑に感じる男子は、ほとんど居ないんじゃないだろうか?
「況んや、佐倉さんのような可愛いらしい後輩においてをや……」
失恋のショックで堪えているところに、彼女のような下級生からアプローチがあれば、
「絶対にその相手に心を動かされない」
と、断言できるオトコなど、この世に居ないんじゃないかとさえ、思う。
(これ、白草さんには、結構あぶない状況なんじゃ……?)
週の初めまでと異なり、ボク自身の竜司を巡る相関図に対する見解は、大いに揺らぎかけている。
ただ――――――。
ここまで、鋭い分析を披露する文芸部の部長さんの話しを聞かせてもらって、ひとつだけ疑問に感じることがあった。
「そっか……天竹さんの想像は、ボクにも理解できる気がする……ただ、天竹さんは、どうして、竜司と白草さん、それに、下級生の佐倉さんのことをそんなに気にかけてるの?」
ボクが極端に他人のプライバシーや色恋沙汰に興味を持たないタイプだからかも知れないが、友人といえど、竜司が白草さん(もしくは佐倉さん)と交際を始めたところで、皮肉交じりにお祝いの言葉のひとつくらいはかけてあげるかも知れないが、それ以上、関心を示すことはないと思う(それよりも、相手との交際がキッカケで、広報部の活動に支障を来さないか、そのことの方が、ボクたちにとっては、重要だ)。
そして、これまでの天竹さんとの会話を通じて、彼女は、周囲の色恋沙汰に《気ぶり》反応を示すタイプではないと感じていたが、それは、自分の思い違いだったのだろうか?
彼女の真意を確かめるべく、ボクは続けて問いかけた。
「天竹さん、もしかして、クラスや周りの生徒に対して、《カプ推し》とかあるの?」
自分の認識しているとおりの意味で、天竹さんにネットスラングが通用するかどうかわからなかったが、こちらの問いかけに、彼女は、驚いた表情のあと、
「《カプ推し》ですか……まさか、黄瀬くんから、その言葉を聞けるとは思いませんでしたが……たしかに、私は、《カプ推し》をしようとしているかも知れませんね。ただ、黒田くんと白草さんの二人がどうなるかは、主題ではありません」
そう断言したあと、クツクツと笑いながら、とんでもないことを口にした。
「もっとも、黒田くんと黄瀬くんのカップルなら、《推す》ことをためらいませんが……」
彼女の一言に、中堅以下のキャリアのひな壇芸人のような素早さで立ち上がりながら、
「ちょっと、冗談でもそんなことを言うのはヤメてよ!」
と、声をあげると、文芸部の部長さんは、楽し気な表情で、「申し訳ありません。ちょっと、調子に乗ってしまいました」と、謝罪したあと、「図書室では、お静かにおねがいしますね」と、注意喚起を行う。
そして、無言で席に着くボクに、こんな提案をしてきた。
「聞いてもらいたいお話しの方は、今日はここまでにさせてください。このあと、早めに部活の終わるノアが、合流してくれるそうなんですが……そこで、黄瀬くんに聞かせてもらいたいお話しがあるんです」
「ボクに聞きたいことって、なに?」
なるべく、不機嫌さが表に出ないように聞き返すと、彼女は、タイム・ループかと耳を疑う一言を口にした。
「私が聞かせてもらいたい、と思っているのは、黄瀬くんと黒田くんの関係についてです」
ミステリー小説も好んで読むことが多いと言っていた彼女の読書傾向の影響なのか、独自の推理を披露した文芸部の部長さんは、そこまで言ったあと、さらに、言葉を続けた。
「ただ…………佐倉さんが、黒田くんの前にあらわれて、いまはまた、大きく状況が変わったのではないか――――――? そう感じるんです」
(なるほど……)
佐倉さんが、どこまで本気で竜司のことを想っているのか(あるいは、単純に白草さんを妨害したいだけなのか……)はわからないが、いずれにしても、ボクたち二年A組の教室から放送室へと戦線をひろげて行われた下級生と同級生の不毛な争いを観察するに、わずか数日の間に、白草四葉絶対有利の情勢から、戦況……いや、状況が大きく変化しているのは間違いなさそうだ。
ひと月ほど前、白草さんから、異性へのアプローチ方法に関するレクチャーを受けた竜司とボクは、彼女から、『ぬいぐるみペ◯ス・ショック』という、ボクたち男子にとっては、ショッキングなワードを聞かされた。
『それまで、恋愛的ムードになることなく、恋の対象でなかった男性から、急に告白をされてショックを受ける女性心理』
を指す言葉らしいが……。
逆の立場から言えば、一般的見解として、それなりに親しい女子から、モーションを仕掛けられて(←死語か?)、迷惑に感じる男子は、ほとんど居ないんじゃないだろうか?
「況んや、佐倉さんのような可愛いらしい後輩においてをや……」
失恋のショックで堪えているところに、彼女のような下級生からアプローチがあれば、
「絶対にその相手に心を動かされない」
と、断言できるオトコなど、この世に居ないんじゃないかとさえ、思う。
(これ、白草さんには、結構あぶない状況なんじゃ……?)
週の初めまでと異なり、ボク自身の竜司を巡る相関図に対する見解は、大いに揺らぎかけている。
ただ――――――。
ここまで、鋭い分析を披露する文芸部の部長さんの話しを聞かせてもらって、ひとつだけ疑問に感じることがあった。
「そっか……天竹さんの想像は、ボクにも理解できる気がする……ただ、天竹さんは、どうして、竜司と白草さん、それに、下級生の佐倉さんのことをそんなに気にかけてるの?」
ボクが極端に他人のプライバシーや色恋沙汰に興味を持たないタイプだからかも知れないが、友人といえど、竜司が白草さん(もしくは佐倉さん)と交際を始めたところで、皮肉交じりにお祝いの言葉のひとつくらいはかけてあげるかも知れないが、それ以上、関心を示すことはないと思う(それよりも、相手との交際がキッカケで、広報部の活動に支障を来さないか、そのことの方が、ボクたちにとっては、重要だ)。
そして、これまでの天竹さんとの会話を通じて、彼女は、周囲の色恋沙汰に《気ぶり》反応を示すタイプではないと感じていたが、それは、自分の思い違いだったのだろうか?
彼女の真意を確かめるべく、ボクは続けて問いかけた。
「天竹さん、もしかして、クラスや周りの生徒に対して、《カプ推し》とかあるの?」
自分の認識しているとおりの意味で、天竹さんにネットスラングが通用するかどうかわからなかったが、こちらの問いかけに、彼女は、驚いた表情のあと、
「《カプ推し》ですか……まさか、黄瀬くんから、その言葉を聞けるとは思いませんでしたが……たしかに、私は、《カプ推し》をしようとしているかも知れませんね。ただ、黒田くんと白草さんの二人がどうなるかは、主題ではありません」
そう断言したあと、クツクツと笑いながら、とんでもないことを口にした。
「もっとも、黒田くんと黄瀬くんのカップルなら、《推す》ことをためらいませんが……」
彼女の一言に、中堅以下のキャリアのひな壇芸人のような素早さで立ち上がりながら、
「ちょっと、冗談でもそんなことを言うのはヤメてよ!」
と、声をあげると、文芸部の部長さんは、楽し気な表情で、「申し訳ありません。ちょっと、調子に乗ってしまいました」と、謝罪したあと、「図書室では、お静かにおねがいしますね」と、注意喚起を行う。
そして、無言で席に着くボクに、こんな提案をしてきた。
「聞いてもらいたいお話しの方は、今日はここまでにさせてください。このあと、早めに部活の終わるノアが、合流してくれるそうなんですが……そこで、黄瀬くんに聞かせてもらいたいお話しがあるんです」
「ボクに聞きたいことって、なに?」
なるべく、不機嫌さが表に出ないように聞き返すと、彼女は、タイム・ループかと耳を疑う一言を口にした。
「私が聞かせてもらいたい、と思っているのは、黄瀬くんと黒田くんの関係についてです」
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