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第二部
第1章〜幼なじみは絶対に勝てないラブコメ〜⑨
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シロが取り出したモノは、黒色のハイソックスだった。
「廊下を走っていたわたしが悪いんだけど……さっき、下級生の子とぶつかりそうになったときに、彼女が抱えてたバケツから水が掛かっちゃったみたい……」
彼女は、「あ~、気持ちワル~い」と言いながら、椅子に腰掛けたまま、左足のソックスを脱ごうとする。
ひざまずいた体勢だったオレは、すぐさま立ち上がり、目をそらす。
理由は言うまでもなく、さっきの姿勢のまま視線を前に向けたりすると、色々な意味でマズい事態が発生することを悟ったからだ。
あくまで紳士的な態度で、
「自分は、ナニも気にしていませんよ?」
と、素っ気なさをよそおうが、放課後の静かな教室内では、スルスルというソックスを下ろすかすかな音が耳に入った。
その魅惑的な音に反応してしまい、一瞬、ほんの一瞬だけ、特長的な色が印象に残るシロの爪先から徐々に視線を上に向けると――――――。
なぜか、こちらに顔を向けていた白草四葉と目があった。
彼女は、薄い笑みを浮かべ、澄ましたようすで聞いてくる。
「あれ? なんだか足元に視線を感じるんだけど――――――クロ、わたしの脚が、そんなに気になるの?」
それは、まるで、
「計画通り――――――」
と、死神のノートを手にした高校生のようで……彼女のココロの声まで聞こえてきそうな表情だった。
『白草四葉のご機嫌をうかがいつつ、彼女と広報部の友好的な関係性を維持する』
という部長命令は、すでに完遂している。これからは、純粋に、オレとシロ、二人の関係性の問題だ。
オレにも、プライドというものがある――――――。
いつまでも、彼女の手玉に取られたままというわけにはいかないのだ。
ここは、男の沽券にかけても、状況に流されないよう、断固、決意して返答する。
「なんのことだ? オレの視線がどうしたって!?」
シロの目をじっくりと見据えて、答えると、彼女は少しだけすねたような口調で言葉を返してきた。
「ツメの先から膝のあたりに、クロの熱い視線を感じたから、興味があるのかなって、思ったんだけど……ピンクのネイルが男の子にどんな風に見てもらえるか、教えてほしかったんだけどな~」
「えっ!? ピンク? いや、爪先のネイルの色は、薄い水色で……」
疑問に思ったことを口にした途端、シロの口角があがるのがわかった。
「ありがとう! そんなに熱心にわたしの爪先を見てくれてたんだ」
心の底から満ち足りた表情を浮かべる白草四葉。
確認のため、再び爪の先に目を向けると、オレの視線を感じたのか、彼女は、左足の指をクイクイと動かした。
あらためて、その爪先を見てみると、最初にチラリと見た記憶と相違なく、彼女の足先には、アクマリン・ブルー色のネイルが施されていた。
「これは、十代のネイル初心者向けに『良かったら使ってください』って、お母さんの知り合いの会社からもらったシールタイプのモノなんだけど……男の子にも、この商品の魅力が伝わったみたいで良かった! 男子は、ネイルの話しとか、あまり興味を示さないと思っていたから……」
シロは、どう聞いても企業案件であろう露骨なマーケティング商法に関わることを、一人で悦に入ったように語っているが、その言葉を聞き流しながら、オレの中には、別の感情が芽生えてきていた。
地域内で進学率が高いことを除けば、一般的な公立校である芦宮高校では、華のある生徒が集う私立高校と違い、手指のネイルなどの装飾は、(校則を細かく確認したわけではないが)問答無用で生徒指導の対象になる。
同世代のインフルエンサーとして人気を誇っている白草四葉と言えど、もちろん例外ではなく、誰もが目にする彼女の両手の指はキレイに整えられているものの、派手なカラーリングが施されているわけではない。
しかし――――――。
通常は、黒のハイソックスに包まれている彼女のその足先は、誰もが目にできるモノではない。
普段は、黒のベールに包まれた禁断の領域――――――。
それは、もはや、禁じられた聖域と言っても過言ではないだろう。
オレは、いま、その聖域を目にしている――――――。
午後四時を少し回った春の終わりの陽射しを背に受け、彼女の姿は、より神々しいモノに見える。
その事実が、ひどく自分の脳内神経を刺激し、己の小さなプライドや、体面を保とうという理性は、はるか彼方へと吹き飛んだ。
「廊下を走っていたわたしが悪いんだけど……さっき、下級生の子とぶつかりそうになったときに、彼女が抱えてたバケツから水が掛かっちゃったみたい……」
彼女は、「あ~、気持ちワル~い」と言いながら、椅子に腰掛けたまま、左足のソックスを脱ごうとする。
ひざまずいた体勢だったオレは、すぐさま立ち上がり、目をそらす。
理由は言うまでもなく、さっきの姿勢のまま視線を前に向けたりすると、色々な意味でマズい事態が発生することを悟ったからだ。
あくまで紳士的な態度で、
「自分は、ナニも気にしていませんよ?」
と、素っ気なさをよそおうが、放課後の静かな教室内では、スルスルというソックスを下ろすかすかな音が耳に入った。
その魅惑的な音に反応してしまい、一瞬、ほんの一瞬だけ、特長的な色が印象に残るシロの爪先から徐々に視線を上に向けると――――――。
なぜか、こちらに顔を向けていた白草四葉と目があった。
彼女は、薄い笑みを浮かべ、澄ましたようすで聞いてくる。
「あれ? なんだか足元に視線を感じるんだけど――――――クロ、わたしの脚が、そんなに気になるの?」
それは、まるで、
「計画通り――――――」
と、死神のノートを手にした高校生のようで……彼女のココロの声まで聞こえてきそうな表情だった。
『白草四葉のご機嫌をうかがいつつ、彼女と広報部の友好的な関係性を維持する』
という部長命令は、すでに完遂している。これからは、純粋に、オレとシロ、二人の関係性の問題だ。
オレにも、プライドというものがある――――――。
いつまでも、彼女の手玉に取られたままというわけにはいかないのだ。
ここは、男の沽券にかけても、状況に流されないよう、断固、決意して返答する。
「なんのことだ? オレの視線がどうしたって!?」
シロの目をじっくりと見据えて、答えると、彼女は少しだけすねたような口調で言葉を返してきた。
「ツメの先から膝のあたりに、クロの熱い視線を感じたから、興味があるのかなって、思ったんだけど……ピンクのネイルが男の子にどんな風に見てもらえるか、教えてほしかったんだけどな~」
「えっ!? ピンク? いや、爪先のネイルの色は、薄い水色で……」
疑問に思ったことを口にした途端、シロの口角があがるのがわかった。
「ありがとう! そんなに熱心にわたしの爪先を見てくれてたんだ」
心の底から満ち足りた表情を浮かべる白草四葉。
確認のため、再び爪の先に目を向けると、オレの視線を感じたのか、彼女は、左足の指をクイクイと動かした。
あらためて、その爪先を見てみると、最初にチラリと見た記憶と相違なく、彼女の足先には、アクマリン・ブルー色のネイルが施されていた。
「これは、十代のネイル初心者向けに『良かったら使ってください』って、お母さんの知り合いの会社からもらったシールタイプのモノなんだけど……男の子にも、この商品の魅力が伝わったみたいで良かった! 男子は、ネイルの話しとか、あまり興味を示さないと思っていたから……」
シロは、どう聞いても企業案件であろう露骨なマーケティング商法に関わることを、一人で悦に入ったように語っているが、その言葉を聞き流しながら、オレの中には、別の感情が芽生えてきていた。
地域内で進学率が高いことを除けば、一般的な公立校である芦宮高校では、華のある生徒が集う私立高校と違い、手指のネイルなどの装飾は、(校則を細かく確認したわけではないが)問答無用で生徒指導の対象になる。
同世代のインフルエンサーとして人気を誇っている白草四葉と言えど、もちろん例外ではなく、誰もが目にする彼女の両手の指はキレイに整えられているものの、派手なカラーリングが施されているわけではない。
しかし――――――。
通常は、黒のハイソックスに包まれている彼女のその足先は、誰もが目にできるモノではない。
普段は、黒のベールに包まれた禁断の領域――――――。
それは、もはや、禁じられた聖域と言っても過言ではないだろう。
オレは、いま、その聖域を目にしている――――――。
午後四時を少し回った春の終わりの陽射しを背に受け、彼女の姿は、より神々しいモノに見える。
その事実が、ひどく自分の脳内神経を刺激し、己の小さなプライドや、体面を保とうという理性は、はるか彼方へと吹き飛んだ。
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