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第二部
序章〜センパイ。少し先に生まれた人が少し先に恋をしてしまった〜
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3月23日(水)
『ryouma_channelがストーリーズにコンテンツを追加しました』
見慣れた通知が視界に入ったので、ワタシは、スマホの通知画面をタップして『ストーリーズを見る』のボタンに指を置く。
画面には、
『ホーネッツ1号 人生で初めて失恋しました』
というテロップがあらわれ、すぐに、ワタシたちの世代の耳に馴染んだ失恋ソングが流れ始めた。
多くのメディアで『平成最後のラブソング』と紹介されるあの有名曲だ。
「恋した相手の運命のヒトは自分ではない」
という意味の、一度聞くと忘れられない印象的なサビのフレーズに、ギュッと心臓を掴まれたような息苦しさを感じながら、スマホを見つめていると、フローリングに置かれた机の前には、ワタシのよく知る制服姿の男子高校生が座っている。
そして、すぐにスマホの画面には、字幕が表示された。
――――――ねぇ、なんだか落ち込んでるみたいだけど、どうしたの?
「……………………」
しばらく経ってから、動画の中の彼は、うつむきながら、小さくつぶやく。
「クラスの女子に告ってフラれた」
唐突な失恋の報告に、カメラを持つ手(おそらく、この撮影者もワタシのよく知っているヒトだ)が震えたのか、ほんの一瞬だけ手ブレが起きたような気がするけれど、何事もなかったように映像は流れ続ける。
――――――そっか……その女子は、どんなコなの?
「同じクラスで席が近くて話すようになって、親しくなった」
――――――そのコのどんなところが好きだったの?
「誰にでも優しくできる子で、何でも一生懸命がんばる子なんだ」
――――――そうなんだ……どうして、そのコのことが好きになったの?
「クラスの仕事を一緒にするようになって……」
「《LANE》で、メッセージを交換するのが楽しくなって……」
「より相手を意識するようになって……」
「気付けば恋愛感情が芽生えていた……」
独り言をつぶやきように放たれた言葉からは、告白した相手が誰であるのかよく理解らなかったけど、カメラに映り続けるセンパイの傷みが伝わってくる。
そして、楽曲はクライマックスを迎え、BGMとして流れていたこの曲の最も有名なフレーズが歌い上げられた。
「君は綺麗だ」
その言葉は、まるで、画面の中心にいる彼が、その、想う相手の女子に告げた言葉のように聞こえて、スマホを見つめる自分の胸に痛みが走るのを感じた。
十五秒ごとに区切りが入るストーリーズの動画は、開始から、ちょうど六十秒が経過したところで楽曲の盛り上がりとともに、プツリと終了してしまった。
しばらく、呆然としながら、ワタシは、画面をタップする自分の指が震えていることに気がついた。
少し先に生まれた彼は、他のヒトに恋をしてしまった――――――。
同じクラスで、席が近くて話す仲なんて、ワタシが一番あこがれるシチュエーションなのに……。
でも、彼と生まれた年が違う自分には、それは叶わない願いなのだ。
その事実をあらためて認識すると、胸にチクリとした痛みを感じる。
そして、
「くろセンパイの裏切り者……」
と、つぶやくと同時に、動悸は早くなり、息苦しさを覚え始めた。
さらには、喉に痛みを感じ、全身を倦怠感がおそう。
もしかして、画面越しの先輩の痛みが、ワタシにも感染したのだろうか?
いや、これは――――――。
自分の身体の変調が、全世界で猛威を振るった感染症の初期症状だと、理解したワタシは、全身の悪寒と倦怠感と戦いながら、リビングに移動して、両親が購入していた抗原検査キットを使用する。
十五分後――――――。
朦朧とした意識の中で『陽性』の反応を確認したワタシは、それから一ヶ月以上の期間を病院のベッドで過ごすことになった。
『ryouma_channelがストーリーズにコンテンツを追加しました』
見慣れた通知が視界に入ったので、ワタシは、スマホの通知画面をタップして『ストーリーズを見る』のボタンに指を置く。
画面には、
『ホーネッツ1号 人生で初めて失恋しました』
というテロップがあらわれ、すぐに、ワタシたちの世代の耳に馴染んだ失恋ソングが流れ始めた。
多くのメディアで『平成最後のラブソング』と紹介されるあの有名曲だ。
「恋した相手の運命のヒトは自分ではない」
という意味の、一度聞くと忘れられない印象的なサビのフレーズに、ギュッと心臓を掴まれたような息苦しさを感じながら、スマホを見つめていると、フローリングに置かれた机の前には、ワタシのよく知る制服姿の男子高校生が座っている。
そして、すぐにスマホの画面には、字幕が表示された。
――――――ねぇ、なんだか落ち込んでるみたいだけど、どうしたの?
「……………………」
しばらく経ってから、動画の中の彼は、うつむきながら、小さくつぶやく。
「クラスの女子に告ってフラれた」
唐突な失恋の報告に、カメラを持つ手(おそらく、この撮影者もワタシのよく知っているヒトだ)が震えたのか、ほんの一瞬だけ手ブレが起きたような気がするけれど、何事もなかったように映像は流れ続ける。
――――――そっか……その女子は、どんなコなの?
「同じクラスで席が近くて話すようになって、親しくなった」
――――――そのコのどんなところが好きだったの?
「誰にでも優しくできる子で、何でも一生懸命がんばる子なんだ」
――――――そうなんだ……どうして、そのコのことが好きになったの?
「クラスの仕事を一緒にするようになって……」
「《LANE》で、メッセージを交換するのが楽しくなって……」
「より相手を意識するようになって……」
「気付けば恋愛感情が芽生えていた……」
独り言をつぶやきように放たれた言葉からは、告白した相手が誰であるのかよく理解らなかったけど、カメラに映り続けるセンパイの傷みが伝わってくる。
そして、楽曲はクライマックスを迎え、BGMとして流れていたこの曲の最も有名なフレーズが歌い上げられた。
「君は綺麗だ」
その言葉は、まるで、画面の中心にいる彼が、その、想う相手の女子に告げた言葉のように聞こえて、スマホを見つめる自分の胸に痛みが走るのを感じた。
十五秒ごとに区切りが入るストーリーズの動画は、開始から、ちょうど六十秒が経過したところで楽曲の盛り上がりとともに、プツリと終了してしまった。
しばらく、呆然としながら、ワタシは、画面をタップする自分の指が震えていることに気がついた。
少し先に生まれた彼は、他のヒトに恋をしてしまった――――――。
同じクラスで、席が近くて話す仲なんて、ワタシが一番あこがれるシチュエーションなのに……。
でも、彼と生まれた年が違う自分には、それは叶わない願いなのだ。
その事実をあらためて認識すると、胸にチクリとした痛みを感じる。
そして、
「くろセンパイの裏切り者……」
と、つぶやくと同時に、動悸は早くなり、息苦しさを覚え始めた。
さらには、喉に痛みを感じ、全身を倦怠感がおそう。
もしかして、画面越しの先輩の痛みが、ワタシにも感染したのだろうか?
いや、これは――――――。
自分の身体の変調が、全世界で猛威を振るった感染症の初期症状だと、理解したワタシは、全身の悪寒と倦怠感と戦いながら、リビングに移動して、両親が購入していた抗原検査キットを使用する。
十五分後――――――。
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