初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

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第10章〜どらドラ!〜⑥

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「佐倉さんね。クラスは何組? 一応、職員室に行って、担任の先生に、佐倉さんが保健室にいることを伝えてくるから……」

 思いやりと責任感にあふれたアザミが、桃華にたずねると、

「はい、一年B組で、担任は大林先生です」

と、間髪入れずに、ハキハキと返事をする。
 どうやら、顔色だけでなく、体調も戻りつつあるようだ。

「どうやら、快復しつつあるようね」

 遠山教諭の一言に、これまで、心配そうに桃華のようすを見つめていた葵からも、

「良かった……」

と、言葉が漏れる。

「紅野さん、いま言ってくれていたみたいに、念のため、佐倉さんが保健室に来る前の状況と、今のようすを大林先生に伝えて来てくれない?」

 養護教諭が伝えると、アザミは、「はい、わかりました」と答え、

「佐倉さん、ゆっくり身体を休めてね」

と、桃華に声を掛けてから、保健室を出て行った。
 そのようすを確認した桃華は、心の底から安堵したように、

「センパイたちのおかげで、涼める場所に来ることができたので、もう大丈夫だと思います。ありがとうございました」

と、ベッドのそばの折りたたみ椅子に腰掛ける葵に告げる。
 室内のスピーカーからは、ステージに立つ同級生を紹介する黒田竜司の声が聞こえていた。 



 ステージ上で、白草四葉――――――いや、シロの紹介を行ったオレの声に反応し、彼女はゆっくりとお辞儀をしたあと、

「みんな~、ありがとう~~~~!」

と、手を振って応える。もちろん、シロは、ミンスタライブの中継を行っているカメラに目線を送ることも忘れていない。
 六年ぶりに目にする彼女のそんな姿に、

(舞台上で物怖じしないのも、カメラ慣れしてるのも、相変わらずだな)

と感慨に浸りつつ、進行役としての役目に戻ることを意識して、ステージ上の歌姫に問いかける。

「今日も素晴らしい歌声を聞かせてくれてありがとう、白草さん。先月の新入生向けクラブ紹介でも圧巻のパフォーマンスを見せてくれたけど、今日は、オープン・スクールの見学者や在校生に加えて、ネット中継まであったけど、緊張しなかった?」

「ううん……ステージの前のお客さんの笑顔を間近で見たり、いつも、わたしを応援してくれるミンスタのみんなの反応を想像したら、自然とチカラが湧いてくるから……」

 コチラの問いに、アーティストとしては、百点満点の回答で応じるシロ。
 彼女は、さらに言葉を続け、

「それに、テレビ番組で、何度も歌ってきた二曲目の歌の内容は、特に想いを込めて、届けたいヒトがいたからね」

と言ってから、コチラに向かって意味深に微笑んだ。

(シロが、セリーヌ・ディオンの歌を届けたい相手って、だれなんだ?)

そんな想いにとらわれながらも、戸惑いが顔に出ないように注意しながら、進行を続ける。

「さすが、小学生の頃から、ステージ慣れしてるだけはあるなぁ~。ところで、白草さんは、転校してきて、まだ一ヶ月くらいだけど、もうウチの学校には慣れた?」

 オレは、ここで、転入生でありながら、はやくも学内の注目人物になりつつある彼女に、あらためてインタビュー形式でたずねてみる。
 コチラの問いかけに、彼女は、

「その質問に答える前に……さっきから気になってたんだけど、『白草さん』って呼び方は、他人行儀じゃない黒田クン? みんな、わたしのことは、『四葉チャン』って呼んでくれているし……あるいは――――――もっと、親しみを込めた言い方で呼んでくれても良いんだよ、クロ……」

と、質問には答えず、自分の言いたいことを言って、オレの目を見ながら、なまめかしく微笑む。
 そんな彼女の言動に、ステージ前からは、

「「「おっ!? おおっ!?」」」

というどよめきが起こる。
 スマホやタブレットを持っていない自分には確認できないが、シロの主催するミンスタライブでも、

======================

なんか二人とも距離近くない?

えっ!? 何やら妖しい雰囲気

四葉チャンと黒田クン?
もしかして付き合ってとか?

待つべ! 四葉チャンは今まで
彼氏のこと公表してないべ?

======================

などという書き込みがあふれているに違いない。
 そんな想像をしつつ、思わず吸い込まれてしまいそうになる、彼女の妖艶な視線を受けたオレは、一瞬、言葉を失いながらも気持ちを立て直し、

「それじゃ、みんなに合わせて、ここでは、『四葉チャン』と呼ばせてもらうとして――――――転校してきてから一ヶ月たらずで、周りの人たちに親しまれるようになったのは、何か秘訣でもあるのかな?」

と、無難な進行を心がけて、シロ……いや、ヨツバチャンに質問する。
 すると、彼女は、

「それは――――――やっぱり、クラス委員として、黒田クンが校内案内をしてくれたりして、わたしが早く学校に馴染めるように色々と手助けしてくれたからじゃない?」

 今度もオレに視線を向けながら、優艶な笑みを浮かべて言ったあと、

「そのあと、広報部のみなさんのおかげで、クラブ紹介や今日のステージで歌わせてもらったことも大きかったけどね」

いつものようにさわやかな笑みで答え、ステージ前の客席と中継用のカメラに向かって、

「今日のライブの準備に協力してくれたみなさんと、舞台を盛り上げてくれたみんなには、本当に感謝しています。あらためて、ありがとうございます」

と、言葉を結んだ。
 彼女の一言に、会場のステージ前からは、大きな拍手が鳴り響く。
 会場全体から、この日のライブやパレードを楽しんでくれたことが伝わってきて、自分の方も嬉しくなってくる。
 あとは、ショーを盛り上げてくれた全員に感謝すべく、

「それでは、今日のステージを盛り上げてくれたみんなに感謝を込めて――――――」

 もう一度、拍手! を、とうながそうとした瞬間、

「チョイ、チョイ、チョイ! 大事なヒトの紹介を忘れてるでしょ!?」

と、ステージの後ろの方から、吹奏楽部の寿副部長が舞台中央に飛び出してきた。
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