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回想④〜黒田竜司と白草四葉の場合〜肆
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~白草四葉の回想~
母と伯父夫婦との昼食会を終えて駅に着くと、時刻は午後二時三十分を回っていた。
それでも、新幹線の出発時間までは、まだ四十分近くある。
「せっかくだから、色々とお土産を見てみよっか?」
という母の言葉に誘われ、一年前に出来たばかりだという在来線のホームの上に設置された駅ナカ施設で、色々な商品に目を向けながらも、わたしは、前日に黒田家のポストに投函したメモのことばかりが気になっていた。
(クロは、あのメモを読んでくれたかな?)
(今日は、駅まで来てくれるかな……?)
丸一日以上の時間が経過しても、同じ事柄が、わたしの頭の中を、ずっとグルグルと駆け巡る。
心ここにあらずの状態で、ショップを回っていると、
「四葉、本かマンガを買っておかない? 新幹線の中では、スマホもずっと使えるわけじゃないわよ」
お土産品の物色に飽きたのか、母が、そんな提案をしてきた。
特に気になる商品があったわけではないわたしも、黙って母について行くことにする。
書店コーナーに入っていった母は、コミックのコーナーに進み、女性向け作品が並んでいる一角でお目当ての作品を探しているようだ。
これまでも、母は、少女マンガ作品を好んで読んでいた。
一方、この時期に、特に連載を楽しみにしているコミック作品がなかったわたしは、なにか面白い作品が出ていないかと、新規開拓をすることにした。
母とは違い、少年向け・青年向けのコーナーで平積みにされているコミックに目を向けると、赤い表紙の真ん中に、切れ長の瞳と黒髪が印象的な少女が描かれている。
どうやら、第一巻が発売されたばかりだったようで、これから読み始めるのには、ちょうど良いかも知れない――――――。
そう判断したわたしは、迷わず、その赤いカバーのコミックを手に取り、母の元へ戻った。
「これにする」
それだけ告げて、母にコミックを手渡すと、
「あなたも決まったの? お母さんは、このマンガの続きを読むのを楽しみにしてたの!」
そう言って手に取っていたコミックをわたしに見せてくれた。『逃げるは恥だが役に立つ』とタイトルが書かれた作品を指し、「すごく面白い作品なのよ」と付け加える。
レジで二冊のコミックの会計を済ませた母は、
「私たちの乗る列車が、ホームに来る頃かも知れないし……伯父さんたちにお礼を言って、そろそろ行こうか?」
と言って、スイーツコーナーでタルトやチーズケーキの品定めをしている伯父夫婦に声を掛けに歩いて行った。
~黒田竜司の回想~
「一度、家に戻って昼ごはんを食べてから駅に行くわよ」
という母親の言葉に従って、いったん自宅に戻ったオレたちは、昼食をとって、午後一時すぎに再び家を出て、駅へと向かった。
「高速を使った方が早いけど、シロちゃんたちの乗る新幹線が出発する時間までには、まだ余裕がありそうね」
そう判断した母親は、一般道を使い自宅から四十五分ほどで目的の駅に到着した。
駐車場にクルマを置き、駅の構内に入ると、時刻は、午後二時を少し回ったところで、母親の言ったとおり、シロたちが乗る新幹線の出発時刻までは、まだ一時間以上の余裕があった。
「さて、どうしようか? 時間に余裕があるから、シロちゃん達がこの時間に駅に居たとしても、まだ、ホームには上がっていないだろうし……」
「東京に買えるんだし、土産物とか見たりするんじゃないかな?」
母親のつぶやきに、オレが返事をすると、
「そうね……去年、駅ナカのショップがリニューアルされたばかりだし、あそこで、お土産を買う可能性は高いわね」
と、同意する言葉が返ってくる。
「新幹線のホームに行くのは、二時半を過ぎてからにしよっか? その前にエキマルシェの方を探してみよう!」
オレたちは、入場券を購入して、在来線ホームの真上にある土産物やスイーツのショップが並ぶ場所へと急いだ。
しかし――――――。
残念ながら、それらのショップの方でシロ達を見つけることはできなかった。
平日の昼間のため、混雑をしているというほどではないが、やはりいくつもの店が並ぶ広いフロアの中から、人を探すのは難しい。
首筋に手を当てながら、うなじのあたりをさすっている母は、腕時計に目を落とし、
「そろそろ新幹線のホームの方に行ってみる? あっちにも、お土産を売ってる場所があるし、休憩できるベンチもあるから、そこで時間をつぶしているかも知れないしね」
と話し掛けてきた。
オレは、「わかった」とだけ答えて、母親に従い、乗り換えの改札口から新幹線乗り場へと向かった。
母と伯父夫婦との昼食会を終えて駅に着くと、時刻は午後二時三十分を回っていた。
それでも、新幹線の出発時間までは、まだ四十分近くある。
「せっかくだから、色々とお土産を見てみよっか?」
という母の言葉に誘われ、一年前に出来たばかりだという在来線のホームの上に設置された駅ナカ施設で、色々な商品に目を向けながらも、わたしは、前日に黒田家のポストに投函したメモのことばかりが気になっていた。
(クロは、あのメモを読んでくれたかな?)
(今日は、駅まで来てくれるかな……?)
丸一日以上の時間が経過しても、同じ事柄が、わたしの頭の中を、ずっとグルグルと駆け巡る。
心ここにあらずの状態で、ショップを回っていると、
「四葉、本かマンガを買っておかない? 新幹線の中では、スマホもずっと使えるわけじゃないわよ」
お土産品の物色に飽きたのか、母が、そんな提案をしてきた。
特に気になる商品があったわけではないわたしも、黙って母について行くことにする。
書店コーナーに入っていった母は、コミックのコーナーに進み、女性向け作品が並んでいる一角でお目当ての作品を探しているようだ。
これまでも、母は、少女マンガ作品を好んで読んでいた。
一方、この時期に、特に連載を楽しみにしているコミック作品がなかったわたしは、なにか面白い作品が出ていないかと、新規開拓をすることにした。
母とは違い、少年向け・青年向けのコーナーで平積みにされているコミックに目を向けると、赤い表紙の真ん中に、切れ長の瞳と黒髪が印象的な少女が描かれている。
どうやら、第一巻が発売されたばかりだったようで、これから読み始めるのには、ちょうど良いかも知れない――――――。
そう判断したわたしは、迷わず、その赤いカバーのコミックを手に取り、母の元へ戻った。
「これにする」
それだけ告げて、母にコミックを手渡すと、
「あなたも決まったの? お母さんは、このマンガの続きを読むのを楽しみにしてたの!」
そう言って手に取っていたコミックをわたしに見せてくれた。『逃げるは恥だが役に立つ』とタイトルが書かれた作品を指し、「すごく面白い作品なのよ」と付け加える。
レジで二冊のコミックの会計を済ませた母は、
「私たちの乗る列車が、ホームに来る頃かも知れないし……伯父さんたちにお礼を言って、そろそろ行こうか?」
と言って、スイーツコーナーでタルトやチーズケーキの品定めをしている伯父夫婦に声を掛けに歩いて行った。
~黒田竜司の回想~
「一度、家に戻って昼ごはんを食べてから駅に行くわよ」
という母親の言葉に従って、いったん自宅に戻ったオレたちは、昼食をとって、午後一時すぎに再び家を出て、駅へと向かった。
「高速を使った方が早いけど、シロちゃんたちの乗る新幹線が出発する時間までには、まだ余裕がありそうね」
そう判断した母親は、一般道を使い自宅から四十五分ほどで目的の駅に到着した。
駐車場にクルマを置き、駅の構内に入ると、時刻は、午後二時を少し回ったところで、母親の言ったとおり、シロたちが乗る新幹線の出発時刻までは、まだ一時間以上の余裕があった。
「さて、どうしようか? 時間に余裕があるから、シロちゃん達がこの時間に駅に居たとしても、まだ、ホームには上がっていないだろうし……」
「東京に買えるんだし、土産物とか見たりするんじゃないかな?」
母親のつぶやきに、オレが返事をすると、
「そうね……去年、駅ナカのショップがリニューアルされたばかりだし、あそこで、お土産を買う可能性は高いわね」
と、同意する言葉が返ってくる。
「新幹線のホームに行くのは、二時半を過ぎてからにしよっか? その前にエキマルシェの方を探してみよう!」
オレたちは、入場券を購入して、在来線ホームの真上にある土産物やスイーツのショップが並ぶ場所へと急いだ。
しかし――――――。
残念ながら、それらのショップの方でシロ達を見つけることはできなかった。
平日の昼間のため、混雑をしているというほどではないが、やはりいくつもの店が並ぶ広いフロアの中から、人を探すのは難しい。
首筋に手を当てながら、うなじのあたりをさすっている母は、腕時計に目を落とし、
「そろそろ新幹線のホームの方に行ってみる? あっちにも、お土産を売ってる場所があるし、休憩できるベンチもあるから、そこで時間をつぶしているかも知れないしね」
と話し掛けてきた。
オレは、「わかった」とだけ答えて、母親に従い、乗り換えの改札口から新幹線乗り場へと向かった。
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