64 / 307
回想②〜白草四葉の場合その1〜陸
しおりを挟む
3月28日(月)
前日は、遅くまで《トゥイッター》のアカウント作成や投稿を行っていたので、目が覚めると、午前十時近くになっていた。
遅く目覚めたことを伯母に申し訳なく思いつつ、中途半端な時間に起きてしまったため、朝食と昼食を兼ねた食事をとったあとは、スマホを触りながら正午過ぎまで伯父夫婦宅で過ごしてから、午後一時の集合に間に合うように家を出た。
約束した集合時間より少し早く児童公園に着くと、すでにクロは、遊歩道のベンチに座って待っていた。
声を掛けようと自転車を押しながら近づくと、彼もこちらに気付いて、
「シロ!」
と、声をあげて大きく手を振った。
「クロ、早かったんだね……待たせちゃって、ゴメンね」
彼のそばに歩いて行きながら、そう言うと、
「家で待ちきれなくて、ちょっと早めに出てしまってさ……」
クロは、へへへ……という感じで笑いながら答えた。
(自分と同じように、クロも今日の待ち合わせを楽しみにしてたのかな?)
そんな想像をすると、なんだか嬉しい気持ちがこみ上げてきて、
「そうなんだ……」
と、彼の言葉に応じながら、自然と笑みがこぼれた。
そんな風に、クロと無事に待ち合わせができたことを喜んでいると、
「今日は、どうする? シロ、どこか行きたい場所はあるか?」
と、彼がたずねてきた。
クロの問いかけに「う~ん、そうだな~」と、考えていると、
「良かったら、北高の方に行ってみねぇ? 山道で、ちょっと大変かもだけど……」
彼は、そんな提案をしてきた。
「北高? 行ってみたい!!」
わたしは、即答したものの、すぐに「山道で、ちょっと大変かも」というクロの言葉が気になった。
アニメを観た人なら、みんな知っているとは思うけれど、主人公のキョンが通う高校は、『登山』と称されるくらいのキツい登り坂なのだ。
そのことを思い出して、サッと表情が曇り、
「でも、大丈夫かな……」
不安になるわたしに、クロは、少し気落ちしたような表情で、
「そっか……シロが心配ならやめるけど……」
と、答えた。
その寂しげな表情を見て、彼をガッカリさせたくない、という気持ちになり、
「ううん! やっぱり行ってみたい!」
と、返答する。
わたしの一言に、クロは、また嬉しそうに笑って答えた。
「そっか! 疲れたら、自転車を押しながら、ゆっくり行こうぜ!」
結論から言うと、自転車を伴っての北高への道のりは、小学四年生の修了式を終えたばかりの児童にとって『登山』という言葉でも生ぬるい苦行だった。
同じく四年生の遠足で高尾山に登ったときの方が、まだマシだったのではないかと感じたほどだ。
この巡礼を行った時期が、春先ではなく真夏だったら、間違いなく途中棄権をしていたことだろう。
実際に、この場所を紹介している個人サイトなどでは、北高への『巡礼』は、バスを利用することを推奨しているところが多い。
それでも――――――。
目的地に向かう先で、クロが十分に気を使ってくれたことと、なにより、北高に到着してから登ってきた坂道(通称ハルヒ坂)を振り返った時に視界に飛び込んできた街並みの美しさに、それまでの疲れが一気に吹き飛んだ。
車道を走る車に気をつけながら、自転車を停めて、景色に見入っているわたしに、
「な? 結構スゴいだろう!?」
クロが、誇らしげにたずねてきた。
そんな彼の無邪気な表情につられて、自分も笑顔になり、「うん!!」と、大きく返事をしたあと、
「クロは、前にもココまで来たことがあったの?」
と、彼にたずねてみた。
「あぁ、去年の秋にソウマと一緒に来たんだ。あの時は、道を間違えたりして大変だったんだ……」
そう言って、クロは苦笑いをする。
普段から、一緒に行動する友人が居るクロと、クロの話しに度々出てくるソウマという友だちのことを、わたしは、少し羨ましく感じた。
「ふ~ん。そうなんだ……」
少し気のない返事になってしまったが、クロは、特に気にしたようすもなく、こんなことを言ってきた。
「金曜にシロと会う約束をしたあとさ、この景色をシロと一緒に見れたらイイな、って思ってたんだ――――――」
その一言に、思わず彼の方に目を向けると、クロは、なぜか照れたように、そっぽを向いていた。
彼のその仕草につられて、わたしも思わず視線をそらしてしまう。
(いまのは、どういう意味なんだろう?)
そんなことを考えながら、再び街の景色の方に視線を向けると、クロは、何かを取り繕うように、たずねてきた。
「つ、次は、どこに行こうか?」
今度の質問には、やや慎重に、
「う~ん、できればココから遠くない場所がイイかな~」
と、つぶやいて、
「あと、もう山登りをしなくて済むところ!」
と、強調して答えることにした。
北高への巡礼を終えたわたしたちは、自動車の交通量が多い県道を避け、登ってきた道とは違うルートを使って、次の目的地に向かうことにした。
最初は急角度だった下り坂も、しばらくしてバス通りに出ると、ゆるやかな傾斜になり、北高に向かった道のりと違って、その坂道を自転車でゆっくりと下り降りて行くのは、とても気持ちが良かった。
この日、二つ目の目的地である市民プールは、そのバス通り沿いにあったが、春先の季節ということで、当然、営業はしておらず、残念ながらプールサイドでの撮影は出来なかった。
前日は、遅くまで《トゥイッター》のアカウント作成や投稿を行っていたので、目が覚めると、午前十時近くになっていた。
遅く目覚めたことを伯母に申し訳なく思いつつ、中途半端な時間に起きてしまったため、朝食と昼食を兼ねた食事をとったあとは、スマホを触りながら正午過ぎまで伯父夫婦宅で過ごしてから、午後一時の集合に間に合うように家を出た。
約束した集合時間より少し早く児童公園に着くと、すでにクロは、遊歩道のベンチに座って待っていた。
声を掛けようと自転車を押しながら近づくと、彼もこちらに気付いて、
「シロ!」
と、声をあげて大きく手を振った。
「クロ、早かったんだね……待たせちゃって、ゴメンね」
彼のそばに歩いて行きながら、そう言うと、
「家で待ちきれなくて、ちょっと早めに出てしまってさ……」
クロは、へへへ……という感じで笑いながら答えた。
(自分と同じように、クロも今日の待ち合わせを楽しみにしてたのかな?)
そんな想像をすると、なんだか嬉しい気持ちがこみ上げてきて、
「そうなんだ……」
と、彼の言葉に応じながら、自然と笑みがこぼれた。
そんな風に、クロと無事に待ち合わせができたことを喜んでいると、
「今日は、どうする? シロ、どこか行きたい場所はあるか?」
と、彼がたずねてきた。
クロの問いかけに「う~ん、そうだな~」と、考えていると、
「良かったら、北高の方に行ってみねぇ? 山道で、ちょっと大変かもだけど……」
彼は、そんな提案をしてきた。
「北高? 行ってみたい!!」
わたしは、即答したものの、すぐに「山道で、ちょっと大変かも」というクロの言葉が気になった。
アニメを観た人なら、みんな知っているとは思うけれど、主人公のキョンが通う高校は、『登山』と称されるくらいのキツい登り坂なのだ。
そのことを思い出して、サッと表情が曇り、
「でも、大丈夫かな……」
不安になるわたしに、クロは、少し気落ちしたような表情で、
「そっか……シロが心配ならやめるけど……」
と、答えた。
その寂しげな表情を見て、彼をガッカリさせたくない、という気持ちになり、
「ううん! やっぱり行ってみたい!」
と、返答する。
わたしの一言に、クロは、また嬉しそうに笑って答えた。
「そっか! 疲れたら、自転車を押しながら、ゆっくり行こうぜ!」
結論から言うと、自転車を伴っての北高への道のりは、小学四年生の修了式を終えたばかりの児童にとって『登山』という言葉でも生ぬるい苦行だった。
同じく四年生の遠足で高尾山に登ったときの方が、まだマシだったのではないかと感じたほどだ。
この巡礼を行った時期が、春先ではなく真夏だったら、間違いなく途中棄権をしていたことだろう。
実際に、この場所を紹介している個人サイトなどでは、北高への『巡礼』は、バスを利用することを推奨しているところが多い。
それでも――――――。
目的地に向かう先で、クロが十分に気を使ってくれたことと、なにより、北高に到着してから登ってきた坂道(通称ハルヒ坂)を振り返った時に視界に飛び込んできた街並みの美しさに、それまでの疲れが一気に吹き飛んだ。
車道を走る車に気をつけながら、自転車を停めて、景色に見入っているわたしに、
「な? 結構スゴいだろう!?」
クロが、誇らしげにたずねてきた。
そんな彼の無邪気な表情につられて、自分も笑顔になり、「うん!!」と、大きく返事をしたあと、
「クロは、前にもココまで来たことがあったの?」
と、彼にたずねてみた。
「あぁ、去年の秋にソウマと一緒に来たんだ。あの時は、道を間違えたりして大変だったんだ……」
そう言って、クロは苦笑いをする。
普段から、一緒に行動する友人が居るクロと、クロの話しに度々出てくるソウマという友だちのことを、わたしは、少し羨ましく感じた。
「ふ~ん。そうなんだ……」
少し気のない返事になってしまったが、クロは、特に気にしたようすもなく、こんなことを言ってきた。
「金曜にシロと会う約束をしたあとさ、この景色をシロと一緒に見れたらイイな、って思ってたんだ――――――」
その一言に、思わず彼の方に目を向けると、クロは、なぜか照れたように、そっぽを向いていた。
彼のその仕草につられて、わたしも思わず視線をそらしてしまう。
(いまのは、どういう意味なんだろう?)
そんなことを考えながら、再び街の景色の方に視線を向けると、クロは、何かを取り繕うように、たずねてきた。
「つ、次は、どこに行こうか?」
今度の質問には、やや慎重に、
「う~ん、できればココから遠くない場所がイイかな~」
と、つぶやいて、
「あと、もう山登りをしなくて済むところ!」
と、強調して答えることにした。
北高への巡礼を終えたわたしたちは、自動車の交通量が多い県道を避け、登ってきた道とは違うルートを使って、次の目的地に向かうことにした。
最初は急角度だった下り坂も、しばらくしてバス通りに出ると、ゆるやかな傾斜になり、北高に向かった道のりと違って、その坂道を自転車でゆっくりと下り降りて行くのは、とても気持ちが良かった。
この日、二つ目の目的地である市民プールは、そのバス通り沿いにあったが、春先の季節ということで、当然、営業はしておらず、残念ながらプールサイドでの撮影は出来なかった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる