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回想②〜白草四葉の場合その1〜肆
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その日、伯父の家に帰り着いて、お風呂に入って、夕飯を食べ、わたしのために伯父夫婦が用意してくれた寝室でベッドに入っても、わたしは、なかなか寝付けなかったことを覚えている。
一人で過ごすことになるハズだった退屈な春休みに、とつぜん、ともに時間を過ごす仲間が出来たからだ。
《みくる池》を離れたあと、わたしたちは、神社、スーパー、野球場など(さすがに、小学生だけでファミレスには入れなかった)を巡り、iPhoneで写真を撮りながら、『聖地』の探訪を楽しんだ。
そして、その日の最後の訪問場所となった野球場をあとにしようとすると、陽が傾き始めていることに気づいたクロが、「今日は、ここまでにしよっか……」と、声を掛けてきた。
「暗くなるまでに帰る」と、お世話になっている伯父夫婦と約束している手前、自分も、遅くまで外出することは出来なかった。
クロとは、もう会えないのか――――――と、名残惜しい気持ちで、「そうだね……」と答えると、彼は、また意外なことを提案してきた。
「なぁ、シロ……月曜日は、何か予定あるか? オレ、春休みの間、土曜と日曜以外は、ず~っと、ヒマなんだ……良かったら、また、一緒に遊ばね?」
照れながらなのだろうか、右手の人差し指で、ほおを掻きつつ、少しだけ視線を斜め下に向けながら、彼は、そう言った。
この楽しい時間も一日だけで終わってしまうのか…………そう思っていたわたしにとって、クロの申し出は、この上なく嬉しいものだった。
思わず、両手で彼の左の手のひらをにぎり、
「月曜日も、その先も、ず~っと予定はない!」
と、答える。
わたしの突然の行動に驚いたのか、クロは、動揺し、顔を紅潮させながらも、
「そ、そっか……! 良かった! なら、また月曜の昼の一時にこの公園に集合にしよう!」
と、応じた。
「うん! 月曜日のお昼一時だね!」
大きな声で、待ち合わせの時間を確認し、わたしたちは、お互いに帰途に着いた。
帰宅して、お風呂と夕飯を済ませたあと、電気を消して、暗くなった伯父宅の一室で、ベッドの布団にくるまり、スマホを触りながら、わたしは、この日の午後の出来事を思い返していた。
・ミクル池を目にしたその時、アニメと同じ光景が広がっていることに感動したこと
・スマホを溜め池の淵に落とした時の落胆ぶりと救世主の様にクロがあらわれたこと
・クロに誘われ、お菓子を食べながら、お互いの理不尽な家庭環境を語り合ったこと
・クロと二人で巡り、さまざまなロケ地で作品内での再現性が高いことに驚いたこと
そして、はにかんだように、月曜日のお誘いをしてきた時のクロの表情――――――。
彼は、「女子と話すことは苦手だ」と言っていたが、わたし自身も、小学校のクラスの男子と話すことは得意な方ではなかった。
理由は自分自身でも良くわからなかったが、そんなわたしが、見知らぬ異性である男の子と緊張することなく、長い時間、話すことができた。
それだけでなく、最後にわたしに向かって、「また、一緒に遊ばね?」と言って来た時の表情を(この年齢の男の子にとっては、嬉しくないのかも知れないけれど……)、カワイイ――――――とすら思ってしまった。
同じく理由はわからないけれど、クロのその時の表情を思い出すと、何故か自分自身のほおが緩んでしまうことを感じずにはいられなかった。
この頃、まだ、スマホを使い始めたばかりだった自分は知る由もなかったけれど――――――。
少しあとになって、インターネット上で、特定の人物やキャラクターに対して、『尊い』と言う言葉が使われていることを知った時、その夜、自分が感じていた感情の正体が、おぼろげながら理解できたような気がした。
どちらにしても、金曜日の夕方にクロと別れてから、月曜日の午後のことが待ち遠しくて仕方がない、と思うようになったことだけは、間違いなかった。
一人で過ごすことになるハズだった退屈な春休みに、とつぜん、ともに時間を過ごす仲間が出来たからだ。
《みくる池》を離れたあと、わたしたちは、神社、スーパー、野球場など(さすがに、小学生だけでファミレスには入れなかった)を巡り、iPhoneで写真を撮りながら、『聖地』の探訪を楽しんだ。
そして、その日の最後の訪問場所となった野球場をあとにしようとすると、陽が傾き始めていることに気づいたクロが、「今日は、ここまでにしよっか……」と、声を掛けてきた。
「暗くなるまでに帰る」と、お世話になっている伯父夫婦と約束している手前、自分も、遅くまで外出することは出来なかった。
クロとは、もう会えないのか――――――と、名残惜しい気持ちで、「そうだね……」と答えると、彼は、また意外なことを提案してきた。
「なぁ、シロ……月曜日は、何か予定あるか? オレ、春休みの間、土曜と日曜以外は、ず~っと、ヒマなんだ……良かったら、また、一緒に遊ばね?」
照れながらなのだろうか、右手の人差し指で、ほおを掻きつつ、少しだけ視線を斜め下に向けながら、彼は、そう言った。
この楽しい時間も一日だけで終わってしまうのか…………そう思っていたわたしにとって、クロの申し出は、この上なく嬉しいものだった。
思わず、両手で彼の左の手のひらをにぎり、
「月曜日も、その先も、ず~っと予定はない!」
と、答える。
わたしの突然の行動に驚いたのか、クロは、動揺し、顔を紅潮させながらも、
「そ、そっか……! 良かった! なら、また月曜の昼の一時にこの公園に集合にしよう!」
と、応じた。
「うん! 月曜日のお昼一時だね!」
大きな声で、待ち合わせの時間を確認し、わたしたちは、お互いに帰途に着いた。
帰宅して、お風呂と夕飯を済ませたあと、電気を消して、暗くなった伯父宅の一室で、ベッドの布団にくるまり、スマホを触りながら、わたしは、この日の午後の出来事を思い返していた。
・ミクル池を目にしたその時、アニメと同じ光景が広がっていることに感動したこと
・スマホを溜め池の淵に落とした時の落胆ぶりと救世主の様にクロがあらわれたこと
・クロに誘われ、お菓子を食べながら、お互いの理不尽な家庭環境を語り合ったこと
・クロと二人で巡り、さまざまなロケ地で作品内での再現性が高いことに驚いたこと
そして、はにかんだように、月曜日のお誘いをしてきた時のクロの表情――――――。
彼は、「女子と話すことは苦手だ」と言っていたが、わたし自身も、小学校のクラスの男子と話すことは得意な方ではなかった。
理由は自分自身でも良くわからなかったが、そんなわたしが、見知らぬ異性である男の子と緊張することなく、長い時間、話すことができた。
それだけでなく、最後にわたしに向かって、「また、一緒に遊ばね?」と言って来た時の表情を(この年齢の男の子にとっては、嬉しくないのかも知れないけれど……)、カワイイ――――――とすら思ってしまった。
同じく理由はわからないけれど、クロのその時の表情を思い出すと、何故か自分自身のほおが緩んでしまうことを感じずにはいられなかった。
この頃、まだ、スマホを使い始めたばかりだった自分は知る由もなかったけれど――――――。
少しあとになって、インターネット上で、特定の人物やキャラクターに対して、『尊い』と言う言葉が使われていることを知った時、その夜、自分が感じていた感情の正体が、おぼろげながら理解できたような気がした。
どちらにしても、金曜日の夕方にクロと別れてから、月曜日の午後のことが待ち遠しくて仕方がない、と思うようになったことだけは、間違いなかった。
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