62 / 295
回想②〜白草四葉の場合その1〜肆
しおりを挟む
その日、伯父の家に帰り着いて、お風呂に入って、夕飯を食べ、わたしのために伯父夫婦が用意してくれた寝室でベッドに入っても、わたしは、なかなか寝付けなかったことを覚えている。
一人で過ごすことになるハズだった退屈な春休みに、とつぜん、ともに時間を過ごす仲間が出来たからだ。
《みくる池》を離れたあと、わたしたちは、神社、スーパー、野球場など(さすがに、小学生だけでファミレスには入れなかった)を巡り、iPhoneで写真を撮りながら、『聖地』の探訪を楽しんだ。
そして、その日の最後の訪問場所となった野球場をあとにしようとすると、陽が傾き始めていることに気づいたクロが、「今日は、ここまでにしよっか……」と、声を掛けてきた。
「暗くなるまでに帰る」と、お世話になっている伯父夫婦と約束している手前、自分も、遅くまで外出することは出来なかった。
クロとは、もう会えないのか――――――と、名残惜しい気持ちで、「そうだね……」と答えると、彼は、また意外なことを提案してきた。
「なぁ、シロ……月曜日は、何か予定あるか? オレ、春休みの間、土曜と日曜以外は、ず~っと、ヒマなんだ……良かったら、また、一緒に遊ばね?」
照れながらなのだろうか、右手の人差し指で、ほおを掻きつつ、少しだけ視線を斜め下に向けながら、彼は、そう言った。
この楽しい時間も一日だけで終わってしまうのか…………そう思っていたわたしにとって、クロの申し出は、この上なく嬉しいものだった。
思わず、両手で彼の左の手のひらをにぎり、
「月曜日も、その先も、ず~っと予定はない!」
と、答える。
わたしの突然の行動に驚いたのか、クロは、動揺し、顔を紅潮させながらも、
「そ、そっか……! 良かった! なら、また月曜の昼の一時にこの公園に集合にしよう!」
と、応じた。
「うん! 月曜日のお昼一時だね!」
大きな声で、待ち合わせの時間を確認し、わたしたちは、お互いに帰途に着いた。
帰宅して、お風呂と夕飯を済ませたあと、電気を消して、暗くなった伯父宅の一室で、ベッドの布団にくるまり、スマホを触りながら、わたしは、この日の午後の出来事を思い返していた。
・ミクル池を目にしたその時、アニメと同じ光景が広がっていることに感動したこと
・スマホを溜め池の淵に落とした時の落胆ぶりと救世主の様にクロがあらわれたこと
・クロに誘われ、お菓子を食べながら、お互いの理不尽な家庭環境を語り合ったこと
・クロと二人で巡り、さまざまなロケ地で作品内での再現性が高いことに驚いたこと
そして、はにかんだように、月曜日のお誘いをしてきた時のクロの表情――――――。
彼は、「女子と話すことは苦手だ」と言っていたが、わたし自身も、小学校のクラスの男子と話すことは得意な方ではなかった。
理由は自分自身でも良くわからなかったが、そんなわたしが、見知らぬ異性である男の子と緊張することなく、長い時間、話すことができた。
それだけでなく、最後にわたしに向かって、「また、一緒に遊ばね?」と言って来た時の表情を(この年齢の男の子にとっては、嬉しくないのかも知れないけれど……)、カワイイ――――――とすら思ってしまった。
同じく理由はわからないけれど、クロのその時の表情を思い出すと、何故か自分自身のほおが緩んでしまうことを感じずにはいられなかった。
この頃、まだ、スマホを使い始めたばかりだった自分は知る由もなかったけれど――――――。
少しあとになって、インターネット上で、特定の人物やキャラクターに対して、『尊い』と言う言葉が使われていることを知った時、その夜、自分が感じていた感情の正体が、おぼろげながら理解できたような気がした。
どちらにしても、金曜日の夕方にクロと別れてから、月曜日の午後のことが待ち遠しくて仕方がない、と思うようになったことだけは、間違いなかった。
一人で過ごすことになるハズだった退屈な春休みに、とつぜん、ともに時間を過ごす仲間が出来たからだ。
《みくる池》を離れたあと、わたしたちは、神社、スーパー、野球場など(さすがに、小学生だけでファミレスには入れなかった)を巡り、iPhoneで写真を撮りながら、『聖地』の探訪を楽しんだ。
そして、その日の最後の訪問場所となった野球場をあとにしようとすると、陽が傾き始めていることに気づいたクロが、「今日は、ここまでにしよっか……」と、声を掛けてきた。
「暗くなるまでに帰る」と、お世話になっている伯父夫婦と約束している手前、自分も、遅くまで外出することは出来なかった。
クロとは、もう会えないのか――――――と、名残惜しい気持ちで、「そうだね……」と答えると、彼は、また意外なことを提案してきた。
「なぁ、シロ……月曜日は、何か予定あるか? オレ、春休みの間、土曜と日曜以外は、ず~っと、ヒマなんだ……良かったら、また、一緒に遊ばね?」
照れながらなのだろうか、右手の人差し指で、ほおを掻きつつ、少しだけ視線を斜め下に向けながら、彼は、そう言った。
この楽しい時間も一日だけで終わってしまうのか…………そう思っていたわたしにとって、クロの申し出は、この上なく嬉しいものだった。
思わず、両手で彼の左の手のひらをにぎり、
「月曜日も、その先も、ず~っと予定はない!」
と、答える。
わたしの突然の行動に驚いたのか、クロは、動揺し、顔を紅潮させながらも、
「そ、そっか……! 良かった! なら、また月曜の昼の一時にこの公園に集合にしよう!」
と、応じた。
「うん! 月曜日のお昼一時だね!」
大きな声で、待ち合わせの時間を確認し、わたしたちは、お互いに帰途に着いた。
帰宅して、お風呂と夕飯を済ませたあと、電気を消して、暗くなった伯父宅の一室で、ベッドの布団にくるまり、スマホを触りながら、わたしは、この日の午後の出来事を思い返していた。
・ミクル池を目にしたその時、アニメと同じ光景が広がっていることに感動したこと
・スマホを溜め池の淵に落とした時の落胆ぶりと救世主の様にクロがあらわれたこと
・クロに誘われ、お菓子を食べながら、お互いの理不尽な家庭環境を語り合ったこと
・クロと二人で巡り、さまざまなロケ地で作品内での再現性が高いことに驚いたこと
そして、はにかんだように、月曜日のお誘いをしてきた時のクロの表情――――――。
彼は、「女子と話すことは苦手だ」と言っていたが、わたし自身も、小学校のクラスの男子と話すことは得意な方ではなかった。
理由は自分自身でも良くわからなかったが、そんなわたしが、見知らぬ異性である男の子と緊張することなく、長い時間、話すことができた。
それだけでなく、最後にわたしに向かって、「また、一緒に遊ばね?」と言って来た時の表情を(この年齢の男の子にとっては、嬉しくないのかも知れないけれど……)、カワイイ――――――とすら思ってしまった。
同じく理由はわからないけれど、クロのその時の表情を思い出すと、何故か自分自身のほおが緩んでしまうことを感じずにはいられなかった。
この頃、まだ、スマホを使い始めたばかりだった自分は知る由もなかったけれど――――――。
少しあとになって、インターネット上で、特定の人物やキャラクターに対して、『尊い』と言う言葉が使われていることを知った時、その夜、自分が感じていた感情の正体が、おぼろげながら理解できたような気がした。
どちらにしても、金曜日の夕方にクロと別れてから、月曜日の午後のことが待ち遠しくて仕方がない、と思うようになったことだけは、間違いなかった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる