61 / 331
回想②〜白草四葉の場合その1〜参
しおりを挟む
自分の名前のことを細かく追及されなかったことに安心したわたしが、もう一度、「うん」と、うなずいたあと、
「わかった……よろしくね、クロ。わたしのことも、シロって呼んで!」
そう返事をすると、「おう、わかった!」と快活に応じるクロ。
ただ、彼は、そのあと、これまでとは異なる口調で、少しためらいがちに、
「――――――なぁ、シロは、女子なのか?」
と、唐突にデリケートな質問をしてきた。
今の自分なら、
「こんな美少女を男子と勘違いするとか、あり得ないんですけど!?」
と、憤慨しつつ、デリカシーに欠ける黒田竜司の発言に対して、どう復讐してやろうか――――――と思案するところだが、この時のわたしは、短く切り揃えた髪に、ロンTとパンツスタイルという小学生男子のような服装だったので、最初に彼が、わたしのことを男子と見間違えたのも仕方のないことだと納得していた。
その問いに、無言でコクリ、とうなずくと、彼は、
「そっか、こんなこと聞いて、ゴメンな……オレ、女子と話すのは苦手なんだけど、シロは話しやすくて良かった」
と言って、また、ニコッと笑った。
ただ、クロの言葉に、どう反応して良いものか戸惑い、無言のままでいると、彼は続けて、
「それにしても、スマホも人間も池に落ちなくて良かったぜ! この池に落ちてしまったら、それこそ『ハルヒ』と同じじゃん」
そう言って、ケラケラと笑う。
その言葉に、すぐに反応したわたしは、
「池に落ちたのは、ハルヒじゃなくて、みくるちゃんでしょ?」
と、返答する。
すると、
「あぁ、あと、谷口と国木田な!――――――って、それより、シロ、『ハルヒ』観てるのか!?」
彼は、目を丸くして、たずね返してきた。
わたしは、クロの質問に、「うん!」と、大きくうなずき、
「スマホで調べたら、ここが、『朝比奈ミクルの冒険』のロケ地だって、出てきたから……それで、伯父さんの家からは、ちょっと遠かったけど、ここまで見に来たんだ!」
と、返事をする。
わたしの返答に、クロは、さっきより、さらに目を大きく見開き、
「マジか!? オレも、家のパソコンで調べて来たんだよ!」
大きな声でそう言って、嬉しそうな顔で笑った。
その笑顔に、自分もつられて、
「ホントに!?」
と答え、微笑んでいることに気づいた。
そんなわたしの表情を見ながら、「おう!」と、うなずいたあと、クロは
「そうだ! シロ、このあと、時間あるか? 良かったら、近くのスーパーでジュースと菓子を買ってきて、ベンチで一緒に食わねえ?」
と、魅力的な提案をしてきた。
彼の言葉には、気持ちを惹かれるモノがあったが、財布を持っていなかったわたしは、声のトーンが下がる。
「楽しそうだけど……わたし、お金持ってない……」
けれど、クロは、ニカッとさわやかに笑い、
「大丈夫! 今日は、母ちゃんに昼メシ代としてもらってる千円を使ってないから! 節約するために、昼は家でラーメン作って食べてきたんだ! 一緒に行こうぜ!」
と、誘ってきた。
「ホントに、いいの?」
おずおず、とたずねるわたしに、クロは
「あぁ、行こうぜ!」
と答えて、自分の自転車の方に歩いて行った。
《みくる池》から、自転車で数分の場所にあるスーパーマーケットで、お菓子や飲み物を買い込んだクロとわたしは、再び溜め池に併設された児童公園に戻り、ベンチに腰掛け、色々なことを語り合った。
クロは、自身自身のことについて、さまざまなことを話してくれた。
・お父さんが、数年前に病気で亡くなったこと
・お母さんは、お父さんの会社を継いで働いていること
・四年生から仲良くなった友だち(ソウマと呼んでいた)のこと
・その友だちと一緒に色々な映画やアニメを観ていること…….etc
「春休みも、ソウマと一緒に映画とかを観れると思ってたんだけどな~。毎日、習い事に行くことになって忙しいんだってさ……」
「そうなんだ……お友だちも大変だね……」
「いや! 春休み中の習い事を毎日休まずに行ったら、スマホを買ってもらう約束をしてるらしい! あいつは、オレとの友情よりスマホを取ったんだよ」
クロは、半分笑いながら答えていたが、その表情には、寂しさがにじんでいたことが、わたしにはわかった。
そのことで、「そっか……」と、つぶやいたあと、言葉に詰まってしまったわたしに気づいたのか、
「それでも、一人で出掛けるのも悪くないかもな! こうして、シロと会えて、話せたし! ホントは、『子供だけで校区外に行ってはいけません』って学校で言われてるんだけど……」
と、イタズラっぽい顔で言いながら、再び笑う。
そして、彼は、こちらに質問を向けてきた。
「シロは、どこに住んでるんだ? いまは、伯父さんの家に居てる、って言ってたけど……」
ついに、こっちの話しになってしまったか――――――と感じながら、
「住んでるのは、東京……」
とだけ、小さな声で答える。
すると、クロは、「そっか~、東京か~。遠いよな~」と言ったあと、
「シロも、大変なんだな……」
と、何かを察したように、つぶやいて、
「もし、シロが話したいと思うことがあったら、なんでも、話してくれ」
そう言って、優しく微笑んだ。
彼の言葉に、わたしは、「うん」と、小さくうなずく。
気がつくと、ドリンクとともに、二人で買い込んだ菓子類は、ほとんどがなくなっていた。
「二人で食べると、すぐなくなってしまうな……」
クロは笑って言ったあと、
「なぁ、シロ! まだ時間があるなら、他にも《聖地》に行ってみないか? たしか、この近くには、他にもSOS団が活動してた場所があるハズなんだ!」
と、新たな提案をしてきた。
彼の申し出に乗って、
「調べてみる?」
スマホを差し出して、彼にたずねると、
「いや! シロが調べてみてくれ……」
クロは、あくまでスマホの操作を断るつもりだったみたいなので、
『涼宮ハルヒ 聖地 みくる池周辺』
のワードで検索してみる。
すると、クロの言うとおり、通称《みくる池》の周辺には、神社、スーパーマーケット(買い物したのとは別の店舗)、野球場、ファミレスなど、アニメの舞台になった場所が点在していた。
「『涼宮ハルヒの溜息』と『エンドレスエイト』で、出てきた場所が多いみたいだね」
後者の単語に、
「『エンドレスエイト』かぁ……」
と、つぶやいて苦笑するクロに、わたしもつられて、
「え~と……」
と、微苦笑を返す。
お互いに、顔を見合わせながら、「プッ」と、吹き出すと、彼は、
「まぁ、せっかくだし、行ってみようぜ!」
声をあげて腰を上げた。
その声に合わせて、
「そうだね!」
と、わたしも、ベンチから立ち上がる。
こうして、わたしとクロの二人の春休みの聖地巡礼の旅が始まった――――――。
「わかった……よろしくね、クロ。わたしのことも、シロって呼んで!」
そう返事をすると、「おう、わかった!」と快活に応じるクロ。
ただ、彼は、そのあと、これまでとは異なる口調で、少しためらいがちに、
「――――――なぁ、シロは、女子なのか?」
と、唐突にデリケートな質問をしてきた。
今の自分なら、
「こんな美少女を男子と勘違いするとか、あり得ないんですけど!?」
と、憤慨しつつ、デリカシーに欠ける黒田竜司の発言に対して、どう復讐してやろうか――――――と思案するところだが、この時のわたしは、短く切り揃えた髪に、ロンTとパンツスタイルという小学生男子のような服装だったので、最初に彼が、わたしのことを男子と見間違えたのも仕方のないことだと納得していた。
その問いに、無言でコクリ、とうなずくと、彼は、
「そっか、こんなこと聞いて、ゴメンな……オレ、女子と話すのは苦手なんだけど、シロは話しやすくて良かった」
と言って、また、ニコッと笑った。
ただ、クロの言葉に、どう反応して良いものか戸惑い、無言のままでいると、彼は続けて、
「それにしても、スマホも人間も池に落ちなくて良かったぜ! この池に落ちてしまったら、それこそ『ハルヒ』と同じじゃん」
そう言って、ケラケラと笑う。
その言葉に、すぐに反応したわたしは、
「池に落ちたのは、ハルヒじゃなくて、みくるちゃんでしょ?」
と、返答する。
すると、
「あぁ、あと、谷口と国木田な!――――――って、それより、シロ、『ハルヒ』観てるのか!?」
彼は、目を丸くして、たずね返してきた。
わたしは、クロの質問に、「うん!」と、大きくうなずき、
「スマホで調べたら、ここが、『朝比奈ミクルの冒険』のロケ地だって、出てきたから……それで、伯父さんの家からは、ちょっと遠かったけど、ここまで見に来たんだ!」
と、返事をする。
わたしの返答に、クロは、さっきより、さらに目を大きく見開き、
「マジか!? オレも、家のパソコンで調べて来たんだよ!」
大きな声でそう言って、嬉しそうな顔で笑った。
その笑顔に、自分もつられて、
「ホントに!?」
と答え、微笑んでいることに気づいた。
そんなわたしの表情を見ながら、「おう!」と、うなずいたあと、クロは
「そうだ! シロ、このあと、時間あるか? 良かったら、近くのスーパーでジュースと菓子を買ってきて、ベンチで一緒に食わねえ?」
と、魅力的な提案をしてきた。
彼の言葉には、気持ちを惹かれるモノがあったが、財布を持っていなかったわたしは、声のトーンが下がる。
「楽しそうだけど……わたし、お金持ってない……」
けれど、クロは、ニカッとさわやかに笑い、
「大丈夫! 今日は、母ちゃんに昼メシ代としてもらってる千円を使ってないから! 節約するために、昼は家でラーメン作って食べてきたんだ! 一緒に行こうぜ!」
と、誘ってきた。
「ホントに、いいの?」
おずおず、とたずねるわたしに、クロは
「あぁ、行こうぜ!」
と答えて、自分の自転車の方に歩いて行った。
《みくる池》から、自転車で数分の場所にあるスーパーマーケットで、お菓子や飲み物を買い込んだクロとわたしは、再び溜め池に併設された児童公園に戻り、ベンチに腰掛け、色々なことを語り合った。
クロは、自身自身のことについて、さまざまなことを話してくれた。
・お父さんが、数年前に病気で亡くなったこと
・お母さんは、お父さんの会社を継いで働いていること
・四年生から仲良くなった友だち(ソウマと呼んでいた)のこと
・その友だちと一緒に色々な映画やアニメを観ていること…….etc
「春休みも、ソウマと一緒に映画とかを観れると思ってたんだけどな~。毎日、習い事に行くことになって忙しいんだってさ……」
「そうなんだ……お友だちも大変だね……」
「いや! 春休み中の習い事を毎日休まずに行ったら、スマホを買ってもらう約束をしてるらしい! あいつは、オレとの友情よりスマホを取ったんだよ」
クロは、半分笑いながら答えていたが、その表情には、寂しさがにじんでいたことが、わたしにはわかった。
そのことで、「そっか……」と、つぶやいたあと、言葉に詰まってしまったわたしに気づいたのか、
「それでも、一人で出掛けるのも悪くないかもな! こうして、シロと会えて、話せたし! ホントは、『子供だけで校区外に行ってはいけません』って学校で言われてるんだけど……」
と、イタズラっぽい顔で言いながら、再び笑う。
そして、彼は、こちらに質問を向けてきた。
「シロは、どこに住んでるんだ? いまは、伯父さんの家に居てる、って言ってたけど……」
ついに、こっちの話しになってしまったか――――――と感じながら、
「住んでるのは、東京……」
とだけ、小さな声で答える。
すると、クロは、「そっか~、東京か~。遠いよな~」と言ったあと、
「シロも、大変なんだな……」
と、何かを察したように、つぶやいて、
「もし、シロが話したいと思うことがあったら、なんでも、話してくれ」
そう言って、優しく微笑んだ。
彼の言葉に、わたしは、「うん」と、小さくうなずく。
気がつくと、ドリンクとともに、二人で買い込んだ菓子類は、ほとんどがなくなっていた。
「二人で食べると、すぐなくなってしまうな……」
クロは笑って言ったあと、
「なぁ、シロ! まだ時間があるなら、他にも《聖地》に行ってみないか? たしか、この近くには、他にもSOS団が活動してた場所があるハズなんだ!」
と、新たな提案をしてきた。
彼の申し出に乗って、
「調べてみる?」
スマホを差し出して、彼にたずねると、
「いや! シロが調べてみてくれ……」
クロは、あくまでスマホの操作を断るつもりだったみたいなので、
『涼宮ハルヒ 聖地 みくる池周辺』
のワードで検索してみる。
すると、クロの言うとおり、通称《みくる池》の周辺には、神社、スーパーマーケット(買い物したのとは別の店舗)、野球場、ファミレスなど、アニメの舞台になった場所が点在していた。
「『涼宮ハルヒの溜息』と『エンドレスエイト』で、出てきた場所が多いみたいだね」
後者の単語に、
「『エンドレスエイト』かぁ……」
と、つぶやいて苦笑するクロに、わたしもつられて、
「え~と……」
と、微苦笑を返す。
お互いに、顔を見合わせながら、「プッ」と、吹き出すと、彼は、
「まぁ、せっかくだし、行ってみようぜ!」
声をあげて腰を上げた。
その声に合わせて、
「そうだね!」
と、わたしも、ベンチから立ち上がる。
こうして、わたしとクロの二人の春休みの聖地巡礼の旅が始まった――――――。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる