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第7章〜ライブがはねたら〜⑦
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紅野自身に、心理的なショックを与えたのは、白草四葉であることは否定できないだろうが、それも、オレがアドバイスを受けて取り入れた
『(世界一)カワイイ女の子のアプローチを見せつけて、彼女に意識させよう作戦』
の一環であることから、役割を担ってくれただけの白草を責めるわけにはいかない。
むしろ、白草……いや、かつて、短い期間ながらも、『心の通じ合った大切な存在』と思っていた《シロ》に対して、損な役回りをさせてしまったことについても、忸怩たる思いが湧いてくる。
そもそもが、今日の午後のような状況を招いてしまった責任は、オレ自身にあるのだ。
(自分は、はたして、素直で周囲にも気を配れる紅野に相応しい存在なのか?)
(かつて、ココロを通わせてくれたシロに対し、何もしないままで良いのか?)
そんな想いが、アタマの中を駆け巡り、オレは落ち着かない気持ちのまま、撤収作業を続ける。
クラブ紹介に参加した部の男子部員が、総出で参加したおかげもあり、講堂での機材その他の撤収作業は、小一時間程度で終了となった。
「黒田! 今年は、広報部がやってくれたらしいな! あんな隠し球を出して来るとか反則だろ!?」
「一年たちはみんな……白草さんだっけ? あのコのパフォーマンスの話しばかりしてるぞ!!」
作業中も、先輩や同級生から、次々と声を掛けられたが、オレ自身も知らされていなかったサプライズ企画だっただけに、どう返答して良いものかわからいままま、
「はぁ、すんません……」
「オレたちの部も部員不足で活動がカツカツだからな……」
と、当たり障りのない言葉を返しておいた。
前日、壮馬とともに放課後遅くまで吹奏楽部のクラブ紹介映像の編集をしていたこともあり、鳳花部長から広報部の活動を免除されたオレは、帰り支度をしていたその友人に別れを告げ、彼女との待ち合わせ場所に向かう。
白草四葉が待ち合わせに指定したのは、我らが母校の敷地の南側に広がる、ため池に併設された児童公園だった――――――。
公園の南側に植えられた、一際大きな桜の木の方へ歩いて行くと、その近くにあるベンチに腰掛ける女子生徒の姿が目に入った。
「白草……いや、シロ……! 待たせて、ゴメンな……」
彼女が、同じクラスへの転入生、というだけでなく、かつて、この場所を中心にして、親しく遊んだ相手だということがわかり、相手に対する言葉づかいも、自然と当時のモノに近くなる。
すると、白草……いや、シロは、こちらの語りかけた言葉に、小さく首を振り、
「待ち合わせ時間には遅れてないよ!」
と、さわやかな笑顔で言ったあと、
「まぁ、『クロは、いつ、わたしのことに気付くんだろう?』ってことに関して言えば、一週間も待ったけどね……」
そう言って、いつものようにニヤニヤとした笑みを見せる。
「スマン……面目ない」
オレは、素直に謝罪し、頭を下げた。
「別にイイよ、謝らなくても! こっちも、『いつ、気付くかな~?』って思いながら、クロのようすを楽しませてもらったし」
彼女は、そう言って、またも、さわやかな笑みを浮かべる。
言い訳がましくなるが、当時、《シロ》と名乗った彼女は、髪を短く切り揃えていて、どちらかと言うと、少年っぽい見た目だった。
いま以上に女子と話すことに慣れていなかった小学生当時の自分が、臆せずにシロと話せたのは、彼女の見た目も大きな理由だ。
「あの時とは、雰囲気も変わりすぎだし、そこは勘弁してくれよ……」
苦笑しながら、そう答えると、
「なになに? あの頃とは、見違えるようにキレイになったって? 素直に感想を言ってイイんだよ、クロ」
彼女は、いつも通り、臆面もなく、自己評価高めの自信に溢れた言葉を返してくる。
オレは、小さくため息をつき、
「そういうところだよ! あの時のシロは、そんなに自信過剰な発言はしてなかったゾ!? どっちかって言うと、もっと、謙虚で大人しめの発言が多かったって言うか……」
当時のシロのことを思い出しながら、現在の白草四葉に反論する。
すると、彼女は、「フッ」と自嘲するような笑みを見せて、
「そっか……そうだったね」
と、つぶやき、
「ゴメンね……クロにとっては、キレイな思い出だったのを汚しちゃったかな? それに、さっきの紅野サンとのことも――――――」
と、言葉を区切ったあと、
「わたし、イヤなコだよね……」
そう言って、うつむいてしまった。
珍しく――――――いや、彼女と再会してからは、初めて見るような落ち込んだようすに、
「いや、それは違う!!」
オレは思わず声をあげてしまった。
「紅野にツラくあたったのは、今回の計画のためだろう? 白草のアイデアとは言え、オレのために、損な役目をさせてしまって……本当に済まない」
そう言って、今度は、さっきより深く頭を下げる。
ほんの少しの間、沈黙の時が流れたあと、顔を上げると、彼女は、クスクスと笑って、
「クロ……黒田クンは、そう言うところ、全然変わってないよね……」
白草四葉の意外な返答に、怪訝な表情で応じると、
「ぶっきらぼうだけど、優しいところは、あの時と同じだな、ってこと――――――」
そう言いながら、彼女は、当時のことを思い出したのだろうか、右手で軽くにぎった拳を整った形のあごにあて、物思いにふけるような仕草をとった。
『(世界一)カワイイ女の子のアプローチを見せつけて、彼女に意識させよう作戦』
の一環であることから、役割を担ってくれただけの白草を責めるわけにはいかない。
むしろ、白草……いや、かつて、短い期間ながらも、『心の通じ合った大切な存在』と思っていた《シロ》に対して、損な役回りをさせてしまったことについても、忸怩たる思いが湧いてくる。
そもそもが、今日の午後のような状況を招いてしまった責任は、オレ自身にあるのだ。
(自分は、はたして、素直で周囲にも気を配れる紅野に相応しい存在なのか?)
(かつて、ココロを通わせてくれたシロに対し、何もしないままで良いのか?)
そんな想いが、アタマの中を駆け巡り、オレは落ち着かない気持ちのまま、撤収作業を続ける。
クラブ紹介に参加した部の男子部員が、総出で参加したおかげもあり、講堂での機材その他の撤収作業は、小一時間程度で終了となった。
「黒田! 今年は、広報部がやってくれたらしいな! あんな隠し球を出して来るとか反則だろ!?」
「一年たちはみんな……白草さんだっけ? あのコのパフォーマンスの話しばかりしてるぞ!!」
作業中も、先輩や同級生から、次々と声を掛けられたが、オレ自身も知らされていなかったサプライズ企画だっただけに、どう返答して良いものかわからいままま、
「はぁ、すんません……」
「オレたちの部も部員不足で活動がカツカツだからな……」
と、当たり障りのない言葉を返しておいた。
前日、壮馬とともに放課後遅くまで吹奏楽部のクラブ紹介映像の編集をしていたこともあり、鳳花部長から広報部の活動を免除されたオレは、帰り支度をしていたその友人に別れを告げ、彼女との待ち合わせ場所に向かう。
白草四葉が待ち合わせに指定したのは、我らが母校の敷地の南側に広がる、ため池に併設された児童公園だった――――――。
公園の南側に植えられた、一際大きな桜の木の方へ歩いて行くと、その近くにあるベンチに腰掛ける女子生徒の姿が目に入った。
「白草……いや、シロ……! 待たせて、ゴメンな……」
彼女が、同じクラスへの転入生、というだけでなく、かつて、この場所を中心にして、親しく遊んだ相手だということがわかり、相手に対する言葉づかいも、自然と当時のモノに近くなる。
すると、白草……いや、シロは、こちらの語りかけた言葉に、小さく首を振り、
「待ち合わせ時間には遅れてないよ!」
と、さわやかな笑顔で言ったあと、
「まぁ、『クロは、いつ、わたしのことに気付くんだろう?』ってことに関して言えば、一週間も待ったけどね……」
そう言って、いつものようにニヤニヤとした笑みを見せる。
「スマン……面目ない」
オレは、素直に謝罪し、頭を下げた。
「別にイイよ、謝らなくても! こっちも、『いつ、気付くかな~?』って思いながら、クロのようすを楽しませてもらったし」
彼女は、そう言って、またも、さわやかな笑みを浮かべる。
言い訳がましくなるが、当時、《シロ》と名乗った彼女は、髪を短く切り揃えていて、どちらかと言うと、少年っぽい見た目だった。
いま以上に女子と話すことに慣れていなかった小学生当時の自分が、臆せずにシロと話せたのは、彼女の見た目も大きな理由だ。
「あの時とは、雰囲気も変わりすぎだし、そこは勘弁してくれよ……」
苦笑しながら、そう答えると、
「なになに? あの頃とは、見違えるようにキレイになったって? 素直に感想を言ってイイんだよ、クロ」
彼女は、いつも通り、臆面もなく、自己評価高めの自信に溢れた言葉を返してくる。
オレは、小さくため息をつき、
「そういうところだよ! あの時のシロは、そんなに自信過剰な発言はしてなかったゾ!? どっちかって言うと、もっと、謙虚で大人しめの発言が多かったって言うか……」
当時のシロのことを思い出しながら、現在の白草四葉に反論する。
すると、彼女は、「フッ」と自嘲するような笑みを見せて、
「そっか……そうだったね」
と、つぶやき、
「ゴメンね……クロにとっては、キレイな思い出だったのを汚しちゃったかな? それに、さっきの紅野サンとのことも――――――」
と、言葉を区切ったあと、
「わたし、イヤなコだよね……」
そう言って、うつむいてしまった。
珍しく――――――いや、彼女と再会してからは、初めて見るような落ち込んだようすに、
「いや、それは違う!!」
オレは思わず声をあげてしまった。
「紅野にツラくあたったのは、今回の計画のためだろう? 白草のアイデアとは言え、オレのために、損な役目をさせてしまって……本当に済まない」
そう言って、今度は、さっきより深く頭を下げる。
ほんの少しの間、沈黙の時が流れたあと、顔を上げると、彼女は、クスクスと笑って、
「クロ……黒田クンは、そう言うところ、全然変わってないよね……」
白草四葉の意外な返答に、怪訝な表情で応じると、
「ぶっきらぼうだけど、優しいところは、あの時と同じだな、ってこと――――――」
そう言いながら、彼女は、当時のことを思い出したのだろうか、右手で軽くにぎった拳を整った形のあごにあて、物思いにふけるような仕草をとった。
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