53 / 307
第7章〜ライブがはねたら〜⑤
しおりを挟む
その声に振り返ると、吹奏楽部の次期エースとして、見事にソロ・パートを務めあげた紅野アザミの姿があった。
「紅野……」
と、返事をすると、女子クラス委員は、穏やかな表情で、講堂に来訪した理由を告げた。
「そろそろ、クラブ紹介が終わる時間だから、放課後のSHRまでには戻ってくるように、って谷崎先生が……」
「あぁ、ありがとう。ちょうど、すべてのクラブ紹介が終わったところだ」
返事をすると、司会の生徒自治会からの閉会のあいさつが終わり、解散となったのか、階下のフロアが騒がしくなり、新入生が講堂の後方にある扉の方に歩いてくるようすが見えた。
自分たち広報部の活動も、これにて終了となる。
あとは、放課後に音響や映像機材の片付けを手伝うだけだ。
一仕事を終えて肩の荷が降りたためか、不意に「フ~」と息を漏らしてしまった。
「お疲れさま……昨日も遅くまで残って、私たちの演奏の映像を編集してくれてたんだね……ありがとう……」
紅野は、そんな風に感謝の言葉を口にし、続けて、少し不安げな面持ちでたずねる。
「それで、私たちの演奏は、どうだったかな……?一年生の子たちは、どんな反応だった?」
「あぁ、バッチリ新入生にアピールできていたと思うぜ! 特に、紅野のソロ・パートが終わった時は、客席から拍手が起こっていたからな!」
講堂全体からすれば、さほど大きな音ではなかったが、確実に彼女の演奏に心打たれたであろう新入生がいたことを伝えるために、吹奏楽部のクラブ紹介時のようすをそのように伝える。
「そっか……そうなんだ……良かった……」
はにかみながらも、嬉しそうな表情で答える彼女の姿を目にして、自分の鼓動が高鳴るのを感じる。
「あぁ、紅野の演奏のスゴさは、確実に一年の連中に伝わっていたと思うぞ……」
彼女の声に応じて、そう返答し、そして、「練習の成果が出て、良かったな……」と、紅野アザミに伝えようとしたとき、
「クロ~~~~~!!」
小学生時代のオレのあだ名を呼ぶ声がした。
今度の声の主は、確認するまでもない――――――。
今の時点で、オレの名前をそう呼ぶ人間に、心当たりは一人しかいない。
「あっ、白草さん……」
二階にあるテラス席の階段を登ってきた白草の姿を確認した紅野が、声を掛ける。
「あぁ、紅野サン……」
声を掛けられた白草は、そう返答したあと、「なんだ、あなたも居たの?」と、意外そうな表情を見せ、挑発的な態度で、問い掛ける。
「クラス委員の紅野サンが、どうして講堂に? クロ……じゃなかった、黒田クンのことが気になって、ここまで来たとか?」
「あ、あの……そうじゃなくて……そろそろ、クラブ紹介が終わる時間だから、谷崎先生が教室に戻って来てって……」
「そっかそっか……それは、ご親切に。あっ、紅野サンの吹奏楽の演奏、ホントに良かったよ! 一年生の子たちからも、拍手が起こってたし」
白草は、こちらの方に歩み寄りながら、見事にソロを務めあげた紅野の演奏を称賛したあと、
「さすが、委員の仕事を黒田クンに押し付けて練習してただけはあるね」
などと、笑みをたたえながら、とんでもないことを言い放った。
「えっ!?」
「おいっ!!」
紅野とオレの声が重なる。
「あの……私、そんなつもりじゃ……」
「いや、気にするな紅野! もともとは、オレが言い出したことだから……白草も、余計なことを言わなくてイイから!」
なんとか紅野をフォローしようと声を掛け、白草をたしなめるべく、言葉を続けるが、クラス委員は決まり悪そうにうつむいたままだし、転入生に至っては、
「わたしは、なにも間違ったことは言ってないし……」
といった表情で、全く意に介していないように振る舞っている。
さらに、白草四葉は、
「そんなことより~」
と、これまで、ほとんど聞いたことのない甘い声で、
「わたしの歌は、どうだったの、クロ?」
と、問い掛け、こちらに近づいて来たかと思うと、オレの腕にしがみついてきた。
「ちょっ……ナニやってんだよ!?」
動揺するオレに、紅野も意外そうな表情をしている。
「えっ!? 白草さん、クラブ紹介に出たの?」
会話の流れからして、当然、感じたであろう疑問を紅野アザミは口にした。
転入してきて、まだ一週間の白草が、何らかのクラブに所属し、なおかつ、クラブ紹介という各クラブの大役を任されるなど、考えられないことだ。
しかも、白草自身は、担任のユリちゃん先生に、「新入生と同じようにクラブ紹介を見学したい」と申し出ていたのだ。
クラス委員の紅野が、担任からそのことを聞いているなら、白草の言動が不可解に感じることは言うまでもないことだろう。
「うん! 黒田クンたち、広報部の活動をわかりやすく伝えるための特別ゲストとして、わたしのお気に入りの歌を歌わせてもらったんだ! 舞台の方からは、一年生の子たちに盛り上がってもらえたように感じたけど、クロの感想はどうだった?」
紅野とオレの方を交互に見ながら、白草四葉は、なぜか勝ち誇ったかのような笑みで問いかける。
呆然として言葉が出ないオレたちクラス委員の二名をよそに、テラス席の階下から、ちょうど、講堂の出入口付近に集まってきた新入生たちの賑やかな声が聞こえてきた。
「紅野……」
と、返事をすると、女子クラス委員は、穏やかな表情で、講堂に来訪した理由を告げた。
「そろそろ、クラブ紹介が終わる時間だから、放課後のSHRまでには戻ってくるように、って谷崎先生が……」
「あぁ、ありがとう。ちょうど、すべてのクラブ紹介が終わったところだ」
返事をすると、司会の生徒自治会からの閉会のあいさつが終わり、解散となったのか、階下のフロアが騒がしくなり、新入生が講堂の後方にある扉の方に歩いてくるようすが見えた。
自分たち広報部の活動も、これにて終了となる。
あとは、放課後に音響や映像機材の片付けを手伝うだけだ。
一仕事を終えて肩の荷が降りたためか、不意に「フ~」と息を漏らしてしまった。
「お疲れさま……昨日も遅くまで残って、私たちの演奏の映像を編集してくれてたんだね……ありがとう……」
紅野は、そんな風に感謝の言葉を口にし、続けて、少し不安げな面持ちでたずねる。
「それで、私たちの演奏は、どうだったかな……?一年生の子たちは、どんな反応だった?」
「あぁ、バッチリ新入生にアピールできていたと思うぜ! 特に、紅野のソロ・パートが終わった時は、客席から拍手が起こっていたからな!」
講堂全体からすれば、さほど大きな音ではなかったが、確実に彼女の演奏に心打たれたであろう新入生がいたことを伝えるために、吹奏楽部のクラブ紹介時のようすをそのように伝える。
「そっか……そうなんだ……良かった……」
はにかみながらも、嬉しそうな表情で答える彼女の姿を目にして、自分の鼓動が高鳴るのを感じる。
「あぁ、紅野の演奏のスゴさは、確実に一年の連中に伝わっていたと思うぞ……」
彼女の声に応じて、そう返答し、そして、「練習の成果が出て、良かったな……」と、紅野アザミに伝えようとしたとき、
「クロ~~~~~!!」
小学生時代のオレのあだ名を呼ぶ声がした。
今度の声の主は、確認するまでもない――――――。
今の時点で、オレの名前をそう呼ぶ人間に、心当たりは一人しかいない。
「あっ、白草さん……」
二階にあるテラス席の階段を登ってきた白草の姿を確認した紅野が、声を掛ける。
「あぁ、紅野サン……」
声を掛けられた白草は、そう返答したあと、「なんだ、あなたも居たの?」と、意外そうな表情を見せ、挑発的な態度で、問い掛ける。
「クラス委員の紅野サンが、どうして講堂に? クロ……じゃなかった、黒田クンのことが気になって、ここまで来たとか?」
「あ、あの……そうじゃなくて……そろそろ、クラブ紹介が終わる時間だから、谷崎先生が教室に戻って来てって……」
「そっかそっか……それは、ご親切に。あっ、紅野サンの吹奏楽の演奏、ホントに良かったよ! 一年生の子たちからも、拍手が起こってたし」
白草は、こちらの方に歩み寄りながら、見事にソロを務めあげた紅野の演奏を称賛したあと、
「さすが、委員の仕事を黒田クンに押し付けて練習してただけはあるね」
などと、笑みをたたえながら、とんでもないことを言い放った。
「えっ!?」
「おいっ!!」
紅野とオレの声が重なる。
「あの……私、そんなつもりじゃ……」
「いや、気にするな紅野! もともとは、オレが言い出したことだから……白草も、余計なことを言わなくてイイから!」
なんとか紅野をフォローしようと声を掛け、白草をたしなめるべく、言葉を続けるが、クラス委員は決まり悪そうにうつむいたままだし、転入生に至っては、
「わたしは、なにも間違ったことは言ってないし……」
といった表情で、全く意に介していないように振る舞っている。
さらに、白草四葉は、
「そんなことより~」
と、これまで、ほとんど聞いたことのない甘い声で、
「わたしの歌は、どうだったの、クロ?」
と、問い掛け、こちらに近づいて来たかと思うと、オレの腕にしがみついてきた。
「ちょっ……ナニやってんだよ!?」
動揺するオレに、紅野も意外そうな表情をしている。
「えっ!? 白草さん、クラブ紹介に出たの?」
会話の流れからして、当然、感じたであろう疑問を紅野アザミは口にした。
転入してきて、まだ一週間の白草が、何らかのクラブに所属し、なおかつ、クラブ紹介という各クラブの大役を任されるなど、考えられないことだ。
しかも、白草自身は、担任のユリちゃん先生に、「新入生と同じようにクラブ紹介を見学したい」と申し出ていたのだ。
クラス委員の紅野が、担任からそのことを聞いているなら、白草の言動が不可解に感じることは言うまでもないことだろう。
「うん! 黒田クンたち、広報部の活動をわかりやすく伝えるための特別ゲストとして、わたしのお気に入りの歌を歌わせてもらったんだ! 舞台の方からは、一年生の子たちに盛り上がってもらえたように感じたけど、クロの感想はどうだった?」
紅野とオレの方を交互に見ながら、白草四葉は、なぜか勝ち誇ったかのような笑みで問いかける。
呆然として言葉が出ないオレたちクラス委員の二名をよそに、テラス席の階下から、ちょうど、講堂の出入口付近に集まってきた新入生たちの賑やかな声が聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる