初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

文字の大きさ
上 下
49 / 331

第7章〜ライブがはねたら〜①

しおりを挟む
4月15日(金)

 この日は、新入生向けのクラブ紹介があるということで、通常授業は午前中で打ち切りとなり、五時限目と六時限目は、一年生全員とクラブ紹介を行う各クラブの代表数名ずつが講堂に集うことになっていた。
 昨今の情勢を鑑み、今年は、数年前まで盛んだった講堂舞台上での各クラブのパフォーマンスは実施されなくなり、我が広報部デジタル班のエースである壮馬が編集したプロモーション映像を超大型スクリーンに投影したあと、代表者数名が舞台に登壇して説明を行う、という形式で実施される。
 撮影された映像の編集は、広報部の権限で居残りをした壮馬とオレが、午後八時の最終下校時刻まで掛かって、なんとか納期に間に合わせるという綱渡りのスケジュールだった。
 もっとも、編集作業のほとんどは壮馬が行い、オレ自身は、アシスタント以上の作業はしていないのだが……。
 朝のSHRショート・ホーム・ルームの前に、吹奏楽部の早見部長と寿副部長に広報部の使用する放送室に来てもらい、編集した映像の最終確認を経て、すべての準備を終えたオレと壮馬は、昼休み中、一年生や各クラブ代表より少し先に講堂に入った。
 壮馬はプロジェクターとノートPCが並んだ映像配信用のブースに座り、オレの方は、講堂内の音声と映像のチェックを行うために、テラス状になっている後方の二階席に移動する。
 ここから、この時間限定で、校内での使用許可が下りたスマホの通話アプリで、音声や映像の配信に問題が出ていないかをお互いに確認し合うのだ。
 通話アプリのアイコンをタップして、壮馬のスマホを呼び出すと、数秒も経たずに応答があり、聞き慣れた声が返ってきた。

「は~い、コチラ映像送信ブース! こっちの準備はOKだよ! いつでも、テストを始められる」

「それじゃ、テスト配信はじめてくれ――――――」

 送信ブースの相棒に、そう返答しようとした瞬間、背後から、

「へぇ~、広報部の裏方の仕事って、大変なんだね~」

 不意に声を掛けられた。

「のわっ!?」

 虚をつかれるようなタイミングだったので、はからずも声を漏らしてしまったオレの姿を可笑しそうに見つめながら、クラスメートになったばかりの女子が語りかけてくる。

「なに~!? 真夜中の撮影スタジオに現れた女優の幽霊を目撃したみたいな表情で……そんなに驚くことないじゃない」

「誰もいないハズの背後から、声を掛けられたら、真っ昼間でも驚くわ! ってか、六時限目の講堂は、新入生以外、関係者以外立入禁止のハズだぞ!?」

「え~!? 『転入生の自分も、この学校のクラブ活動について知りたい』って、谷崎先生に言ったら、すぐに許可をくれたよ~」

「…………そっか。なら、下のフロアに行って、一年と一緒にクラブ紹介を見学すれば――――――」

 そう言って、舞台前のフロアへの移動をうながすと、同級生はニマニマと笑いながら、

「谷崎先生には、『』って言って来たから、それもどうかな~?」

と、わざとらしい表情で反論する。
 最初から、計画的な犯行(?)と言うわけか……。安易に許可を出す担任教師にも、コチラの仕事に配慮することなく付きまとう転入生にも言いたいことはあるが、反論するだけムダだと感じたので、

「わかったよ、白草……邪魔だけはするなよ」

 そう言って、渋々ながら、テラス席に座るように薦める。
 すると、スマホから、

「なに? 白草さん、そこにいるの?」

壮馬の声が聞こえてきた。

「あぁ、転入生はウチの学校のクラブ活動に興味津々だそうだ」

「なら、時間になるまで、白草さんには、そこで見学してもらおう。もうすぐ一年が講堂に入ってくるから、混乱するといけないしね」

 送信ブースの相方の提案もあり、白草は遠慮することなくオレの席の隣に腰掛ける。
 そして、コチラのようすには構うことなく、またすぐに、スマホから声がした。

「もう時間もないし、マイクと映像の確認、いくよ~!」

「りょ~かい! 音声と映像、出してくれ」

 壮馬の呼び掛けにすぐに応答すると、舞台に立っている野球部のキャプテンの

「テスト! テスト! コレで良いのか!?」

という声とともに、クラブ紹介のプロモーション映像が流れ始めた。
 講堂の二階にあたるテラス席でも、舞台上のマイクと映像の音声ともに問題なく聞こえている。

「音声も映像も問題ナシだ! テストは、クリアってことで良いだろう」

 スマホに向かって、そう返答すると、壮馬から舞台上にも指示が通ったようで、野球部キャプテンは、舞台袖に消えていく。
 そのようすを眺めながら、

「ふ~ん、こういう活動も面白そうね~」

 隣の席に座る白草四葉が感想を述べる。
 白草のようにに表舞台に立つ人間が、裏方の地味な仕事に興味を持つのは意外だと感じながら、そのことは、口に出さないでいると、彼女は、続けて、

「黒田クンは、クラブ紹介に出ないんだね」

と、確認するようにたずねてきた。

「あぁ、今日は、鳳花ほうか部長――――――三年の花金先輩が舞台に立ってくれるからな~」

 そう返答すると、白草は「あぁ、そっか……」と、納得したのか曖昧な返事を返す。

(わかっていたことをあえて聞いてきたのか?)

と、彼女の質問の意図を考えていると、ほどなくして、講堂の入口が騒がしくなり、一年の生徒たちがクラス順に講堂内に入館してくるのが確認できた。
 白草が問い掛けてきた理由を考察することは脇において、

「なんとか、映像と音声のチェックが間に合って良かったぜ……」

独り言のように、そう口にしたオレは、通話アプリの終話ボタンをタップして、クラブ紹介本番の舞台と映像の確認に集中することにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

処理中です...